短編小説

 子供。子供。さっきまでいたのに見当たらない。見知らぬ子供。小さな子供。そこにいたのに。笑っていたのに。見知らぬ子供は見当たらない。それなら探そう。遡って遡って、突き当たるまで。見つからなくても忘れかけても、それだけなら身体も疲れないし。探そう。子供を、探そう。

 子供。子供は見つからない。遡って街を過ぎ、遡って山を越え、遡って遡って廃墟も森も草原も湖も探せるところは全部探した。
 だけど子供は見つからない。
 笑っていた。本当にそうだろうか。泣いていた。そうだろうか。後ろを向いていたからわからない。どんな顔をしていたかわからない。
 子供はどこにいるのだろうか。

 街に戻った。最初の街には良い思い出がないので間を取って三番目の街。街の人々には顔がない。あの子供には顔があった。それならすぐにわかる。雑踏を眺める。いない。顔がない。夜になっても流れは途切れない。顔がない。私にはある。
 あるのだろうか。
 わからなくなってきた。

 子供。見つけた、ような気がした。森の奥、木々の間、黄色いレインコートが見えたような気がした。
 視界がちらつく。木漏れ日が差し込む。見えたと思った子供は着いたらいなかった。

 岩に腰掛け釣りをした。魚はいない。子供を探すのはとうにやめてしまった。どこに行っても顔のない人たちの群れ。言葉は通じない。通じないのに声は聞こえる。ざわざわと、追ってくるのが嫌だから、こうして外れで釣りをする。
 顔がない。顔がある。顔がない。誰とも話せない。
 家に帰りたくなった。家のある場所を忘れていた。街には戻りたくない。

 声がした。黄色いレインコート。顔を上げるといなかった。
 水面に目を戻す。今日も釣れない。岩から下りて、竿を背負って、遡る。気のせいじゃない。確かにいた。それなら見つけられるはず。
 子供を探そう。いつまでも身体は疲れないし、子供を、探す。

 そして私は子供を、



『子供』──終
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