即興小説まとめ(全37作品)

 お入んなさい、と回るのは大縄跳びの縄だ。
 三人は大縄跳びをするのが好きだった。放課後になると大縄跳びを持って広場に集まる。
 二人が大縄を回し、一人が跳ぶ。ある程度跳んだら一旦大縄を止めて地面に置き、素早く交代するのだ。
 今日も三人は広場で大縄跳びをしていた。
「そういえば、今日のテスト、空の青さを説明できなかったよ」
「またいつものように、慌てすぎて、しまったの?」
「そうかもね、悪い癖、直しておきたいところだよ。次」
「今日の空、雲一つ無い、日中とても暑いよね」
「その通り、暑いのは困る、水分補給を忘れずに」
 跳ぶリズムに合わせて三人はお喋りをする。満足するころには夕方になっており、その頃には皆ほどよく疲れ、自然と解散になるという流れである。
「そういえば、友人が、大縄をしたいと言ってたよ」
「あら偶然、こちらもよ、大縄したいと言ってたな」
「二人だけじゃないよ、こっちもね、跳びたい友がいるんだな」
「それじゃあ」
 おーい、と三人が声を揃えて呼ぶ。すると、広場の端や木の陰、塀の横など様々な場所から人々がかけてきた。
 人々は、大縄跳びの周りに集合する。三人は大縄跳びを回したまま、人々に呼びかける。
「さあ並んで」
「お入んなさい」
「遠慮はなしよ、一、二、三、四、」
 人々は一人ずつ大縄に入り、一回跳んで出ていき、列に戻る。数回か回しているうちに、複数人で跳んだり複数回跳んだりという動きも追加されていった。

 日が暮れるころ、人々と三人は大縄跳びをおしまいにした。帰路につく三人を人々が見送る。
「案外、すぐ終わっちゃったね」
「そうだね」
「あんまりみんなとお喋りできなかったね」
「残念」
「それじゃあ」
「また明日ね」
 三人は三方向に分かれ、手を振った。去ってゆく三人。
 人々は三人のいなくなった広場に佇んでいる。夕方の風が広場を撫で、砂を巻き上げた。
 砂が晴れたとき、広場にはもう誰もいなかった。
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