長編・番外編
僕の名前はシェーマス・フィネガン。特技は何でもかんでも爆発させること──え?そんなの特技じゃないって?舐めてもらっちゃ困るよ。いつか役に立つかもしれないだろ。それに、今、そんな事はどうだっていいんだ。これから、僕の好きな子の話をするんだから。
初めて彼女に会った時、僕はすごく驚いた。だってマーリンの末裔だって聞いていたから、もっと強そうな子を想像してたんだ。でも、組分け帽子に向かって歩く女の子は想像と全然違って、目が離せなくなった。
さらに、彼女はグリフィンドールに組分けされた。僕と同じ寮だよ。こんなにラッキーな事ってある?おおよそ、僕が一生分の運を使い果たしたか、同じような事を願ってた奴がこの寮に沢山いたかのどちらかだね。
「これからよろしく」とか「プリンを取ろうか?」とか話しかけたかったけど、珍しく緊張した僕は、夕食のあいだ中、ただ彼女を見つめることしか出来なかった。正直、三大魔法学校対抗試合なんてどうでも良かった。そして、僕がしどろもどろしてるうちに、彼女はハリー達と仲良くなったんだ。あの3人はいつも美味しいところを持っていくんだよね。なんでだろ。まるで物語の主人公みたいだ。
そして、例の事件だ。全部、あのコガネムシばばあ──いや、僕のせいだ。でも、好きな子が新聞に載ってるなんて聞いたら読んでみたくなるだろ?それに、その記事がどんな内容なのか、誰も教えてくれなかったんだ。だから写真を見て驚いた。正直、文章なんて頭に入ってこなかった。僕の目は彼女の素肌に釘付けになってしまったんだ。あの子の気持ちなんて考えもせずに。
彼女は本当に優しい子だ。必死に謝る僕を笑顔で許してくれた。もしかしたら、我慢してただけかもしれないけど。当然の如く、ダンスパーティーの誘いは断られたよ。でもその時に気が付いたんだ。彼女と釣り合うようになるには、もうちょっと自分を磨かなきゃいけないって。
ダンスパーティーが終わった後も、僕はめげなかった。彼女の事をどう思ってるのか、直接、ジョージに聞いてやったんだ。そしたら奴、なんて言ったと思う?
「なんだよ、惚れちまったのか?」
「……たぶん」
「分かるぜ、たまんないよな。俺もたまに、パクッと食っちまいたくなる」
「真面目に答えて。頼むよ」
「分かったよ──可愛い妹分さ」
嘘つけ、騙されないぞ。お前がジニーと話す時、あんな腑抜けた顔しないことくらい知ってる。どうしてそんなこと言うんだ?なおさら諦めがつかないじゃないか。
だけどある日、僕にも神様が微笑んでくれた。その日はグレンジャーが風邪気味だって聞いてたから、正直チャンスだとは思ってたんだ。皆が寝静まった後、僕はこっそりとベッドを抜け出した。談話室を覗くと、そこには思惑通り、1人で勉強する彼女の姿があった。
「あれ、まだ起きてたの?」
僕はあたかも偶然のように装った。
「うん。昨日たくさん寝たから、まだ眠くないの」
彼女はそう言って笑ってみせた。でも、僕は知ってる。近頃、君が眠れていないこと。いつからか、目の下に隈が出来るようになっていたから。
「僕、ココアを飲もうと思って。君も飲む?」
「うん、飲みたい」
彼女が嬉しそうにココアを受け取ってくれて、僕は死ぬほど幸せな気持ちになった。そして彼女の向かい側に腰を下ろすと、さらに幸せな気持ちになった。なんと、彼女のパジャマがいつもより薄手だったんだ!
「この席、すきま風が入ってくるよね。寒くない?」
「確かに、ちょっと冷えてきたみたい」
そうだよね!そうこないと!すかさず、僕は杖を取り出した。あぁ……僕、魔法使いに生まれて良かったよ……
「アクシオ、ブランケット!」
瞬く間に、寝室からブランケットが飛んできた。勿論、洗い立てのやつね。
「これ、良かったら使って」
「わぁ、ありがとう」
彼女は僕のブランケットを広げて、膝の上にかけた。僕はその一挙一動を見逃さないように、瞬きさえしなかった。ブランケットになりたいと思ったのは、人生で初めてだった。(石畳なんかにはならない。ざまあみろ)そしてそのあとは、彼女が教科書に目を落とした時だけ、こっそりと顔を見つめることを繰り返した。
そろそろココアも飲み終わりそうな頃、彼女との話題を探していた僕は、机の上にキラキラした小瓶があることに気がついた。
「その瓶、綺麗な色してるね」
「マニキュアって言うの。これから、爪に塗ろうと思って」
ほんのりと頬を染めた彼女を見て、僕は奈落の底に突き落とされたような気分になった。彼女が爪をピンク色に塗りたい理由に気が付いたから。僕って本当に冴えてるよ。こんな事に関してだけ。
「もしかして、明日はホグズミードに行くの?」
それを聞いて、彼女は驚いたような顔をした。僕は最後の気力を振り絞って、精一杯、ニヤニヤしてみせた。
「可愛いじゃん。気付いて貰えるといいね」
最初の言葉だけが本心だった。もちろんピンク色も可愛かったけれど、デートのためにお洒落をしようと思った気持ちが何よりも可愛かった。
「じゃあ、僕はそろそろ寝ようかな。ブランケットはそのまま使ってていいよ」
僕はそう言うと、彼女の返事を待たずに階段を駆け上がった。
振り向かなくったって分かるよ。今、君が火照った顔を仰いでること。それに、君がジョージに恋してることも知ってる。だって、ずっと君を見てきたから。
でも、僕が君を好きでいることだけは許して欲しい。
いつかきっと、君に釣り合うような人間になるから。そして、君を堂々とデートに誘うから。そうしたら、また塗ってくれるかな。そのピンク色。
初めて彼女に会った時、僕はすごく驚いた。だってマーリンの末裔だって聞いていたから、もっと強そうな子を想像してたんだ。でも、組分け帽子に向かって歩く女の子は想像と全然違って、目が離せなくなった。
さらに、彼女はグリフィンドールに組分けされた。僕と同じ寮だよ。こんなにラッキーな事ってある?おおよそ、僕が一生分の運を使い果たしたか、同じような事を願ってた奴がこの寮に沢山いたかのどちらかだね。
「これからよろしく」とか「プリンを取ろうか?」とか話しかけたかったけど、珍しく緊張した僕は、夕食のあいだ中、ただ彼女を見つめることしか出来なかった。正直、三大魔法学校対抗試合なんてどうでも良かった。そして、僕がしどろもどろしてるうちに、彼女はハリー達と仲良くなったんだ。あの3人はいつも美味しいところを持っていくんだよね。なんでだろ。まるで物語の主人公みたいだ。
そして、例の事件だ。全部、あのコガネムシばばあ──いや、僕のせいだ。でも、好きな子が新聞に載ってるなんて聞いたら読んでみたくなるだろ?それに、その記事がどんな内容なのか、誰も教えてくれなかったんだ。だから写真を見て驚いた。正直、文章なんて頭に入ってこなかった。僕の目は彼女の素肌に釘付けになってしまったんだ。あの子の気持ちなんて考えもせずに。
彼女は本当に優しい子だ。必死に謝る僕を笑顔で許してくれた。もしかしたら、我慢してただけかもしれないけど。当然の如く、ダンスパーティーの誘いは断られたよ。でもその時に気が付いたんだ。彼女と釣り合うようになるには、もうちょっと自分を磨かなきゃいけないって。
ダンスパーティーが終わった後も、僕はめげなかった。彼女の事をどう思ってるのか、直接、ジョージに聞いてやったんだ。そしたら奴、なんて言ったと思う?
「なんだよ、惚れちまったのか?」
「……たぶん」
「分かるぜ、たまんないよな。俺もたまに、パクッと食っちまいたくなる」
「真面目に答えて。頼むよ」
「分かったよ──可愛い妹分さ」
嘘つけ、騙されないぞ。お前がジニーと話す時、あんな腑抜けた顔しないことくらい知ってる。どうしてそんなこと言うんだ?なおさら諦めがつかないじゃないか。
だけどある日、僕にも神様が微笑んでくれた。その日はグレンジャーが風邪気味だって聞いてたから、正直チャンスだとは思ってたんだ。皆が寝静まった後、僕はこっそりとベッドを抜け出した。談話室を覗くと、そこには思惑通り、1人で勉強する彼女の姿があった。
「あれ、まだ起きてたの?」
僕はあたかも偶然のように装った。
「うん。昨日たくさん寝たから、まだ眠くないの」
彼女はそう言って笑ってみせた。でも、僕は知ってる。近頃、君が眠れていないこと。いつからか、目の下に隈が出来るようになっていたから。
「僕、ココアを飲もうと思って。君も飲む?」
「うん、飲みたい」
彼女が嬉しそうにココアを受け取ってくれて、僕は死ぬほど幸せな気持ちになった。そして彼女の向かい側に腰を下ろすと、さらに幸せな気持ちになった。なんと、彼女のパジャマがいつもより薄手だったんだ!
「この席、すきま風が入ってくるよね。寒くない?」
「確かに、ちょっと冷えてきたみたい」
そうだよね!そうこないと!すかさず、僕は杖を取り出した。あぁ……僕、魔法使いに生まれて良かったよ……
「アクシオ、ブランケット!」
瞬く間に、寝室からブランケットが飛んできた。勿論、洗い立てのやつね。
「これ、良かったら使って」
「わぁ、ありがとう」
彼女は僕のブランケットを広げて、膝の上にかけた。僕はその一挙一動を見逃さないように、瞬きさえしなかった。ブランケットになりたいと思ったのは、人生で初めてだった。(石畳なんかにはならない。ざまあみろ)そしてそのあとは、彼女が教科書に目を落とした時だけ、こっそりと顔を見つめることを繰り返した。
そろそろココアも飲み終わりそうな頃、彼女との話題を探していた僕は、机の上にキラキラした小瓶があることに気がついた。
「その瓶、綺麗な色してるね」
「マニキュアって言うの。これから、爪に塗ろうと思って」
ほんのりと頬を染めた彼女を見て、僕は奈落の底に突き落とされたような気分になった。彼女が爪をピンク色に塗りたい理由に気が付いたから。僕って本当に冴えてるよ。こんな事に関してだけ。
「もしかして、明日はホグズミードに行くの?」
それを聞いて、彼女は驚いたような顔をした。僕は最後の気力を振り絞って、精一杯、ニヤニヤしてみせた。
「可愛いじゃん。気付いて貰えるといいね」
最初の言葉だけが本心だった。もちろんピンク色も可愛かったけれど、デートのためにお洒落をしようと思った気持ちが何よりも可愛かった。
「じゃあ、僕はそろそろ寝ようかな。ブランケットはそのまま使ってていいよ」
僕はそう言うと、彼女の返事を待たずに階段を駆け上がった。
振り向かなくったって分かるよ。今、君が火照った顔を仰いでること。それに、君がジョージに恋してることも知ってる。だって、ずっと君を見てきたから。
でも、僕が君を好きでいることだけは許して欲しい。
いつかきっと、君に釣り合うような人間になるから。そして、君を堂々とデートに誘うから。そうしたら、また塗ってくれるかな。そのピンク色。
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