the Goblet of Fire
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「ねぇ、僕達ちょうど良いじゃないか。2人ずつで。問題はどっちがどっちと行くかだけど……」
ロンがチラリとこちらの顔を窺った。しかし、ラインは双子が放り投げる火の玉の行方を見つめるのに忙しいふりをした。ハーマイオニーの機嫌が悪くなる予感がしたからだ。巻き込まれたくは無い。
先ほど、生徒達は寮監から予期せぬ課題を通達されたばかりだ。クリスマスの夜に、ダンスパーティーが開催される──それは三大魔法学校対抗試合の伝統行事らしい。そして何より大きな問題は、そのパーティーに一緒に参加するパートナーを2週間のうちに見つけなければならないということだった。
「私、もっとちゃんと誘ってくれる人と一緒に行きたいわ。お手頃だから、みたいな理由じゃなくって!」
ハーマイオニーがロンを睨みつけると、彼は何が何だか分からないという顔で友人に助けを求めた。しかし、ハリーは難しい顔で目の前のパンプキンパイをつついている。
「やだ、もうこんな時間。午後はマクゴナガル先生の個人授業があるの。3人ともまたあとでね」
まだ授業までは時間があるが、ラインは荷物をまとめて立ち上がった。ハーマイオニーはもっと自分の気持ちに素直になるべきだし、ロンはデリカシーを身に付けるべきだと思う。
――――
「アクシオ、ニンバス!」
城の方角から風を切り裂くような音が聞こえる。湖の上空に見える茶色の物体はあっという間に大きくなり、その輪郭を現した。ラインは目にも止まらぬ速度でこちらへ飛んでくる箒を命からがら受け止めた。危ない、あと一歩で串刺しにされるところだった──
マクゴナガル先生がこちらを向いて何かを言っているが、風と心臓の音が煩く、ラインは何と言われたのか分からなかった。
「──はい、先生?」
「見事だ、と申し上げました。3ヶ月でここまで出来れば大したものです。集中すれば、貴方は自身の魔力をコントロール出来るのです」
マクゴナガル先生の目は真剣だった。初めて褒められた気がして、ラインは嬉しかった。
「何事にも気を取られることなく、呪文に集中すればの話ですよ」
それを聞いた途端、先日破壊した岩山を思い出して苦い気持ちになる。
「しかしまだ実戦で役に立つレベルではありませんね。これからはより現実的な訓練をしていきます。手始めに貴方の自習室にかけられた保護呪文を解きます。今まで以上に緊張感を持ち、練習に取り組むように」
何ということだ、もう派手な失敗は出来ない。一瞬でも気を抜けば、壁は粉々になり、身体は吹き飛ばされ、医務室へ直行だ。しかしラインは"実戦"という単語を聞き逃さなかった。いずれ、その可能性があるということだろうか──
ーーーー
個人授業を終えて談話室へ向かっていると、授業終わりの生徒達とすれ違った。
「あ……ライン!」
その声に振り向くと、ディーンとシェーマスがおずおずと微笑みかけてきた。彼等と話すのは久しぶりだ。
「ごめん、俺達……あの、新聞のことだけど……君の尊厳を傷付けるような記事を回し読みするなんて、最低だった。どうかしてた」
ディーンはそう言うと、ラインに向かって頭を下げた。
「君が走って大広間を出て行く姿を見て、やっと自分のした事に気が付いた。救いようのない馬鹿だよ。本当にごめん」
シェーマスの切実な表情を見て、ラインは心の奥に引っかかっていたモヤモヤが消えていくのを感じた。
「ううん、気にしないで。ディーン、顔を上げて。私、もうあんな記事に負けたりしないから」
ラインが小さくファイティングポーズをとってみせると、2人はホッとしたように笑った。
「そうだ、その……君はダンスパーティーに行く相手はもう決まった?」
シェーマスに尋ねられて、ラインはその問題を思い出した。彼はしきりに目を瞬かせていて、なんとなく次に続く言葉が予想出来た。
「あー、私……ちょっと迷っているの」
必死に頭を回転させる。
「その、参加するかどうかを」
「絶対に参加すべきだよ。学生生活で一度きりだ」
ディーンは強くそう言った。ラインだって本当は参加してみたい。小さな頃に読んだおとぎ話に出てくるような、煌びやかな舞踏会をこの目で見てみたかった。
「僕、君を楽しませるよ。だから──良かったら、一緒に参加してくれないかな?」
シェーマスはラインの顔と床を交互に見ながらそう言い切り、窺うようにこちらを見つめた。
「誘ってくれてありがとう──嬉しい。でも……ラベンダーを誘ったら?彼女、貴方と行きたがってた」
ラインがそう言うと、シェーマスは驚きと落胆が入り混ざった表情をした。しかしラベンダーが談話室からこちらを見つめているのを視界に捉えると、わずかに微笑んで頷いた。
ハーマイオニーはまだ寮に帰ってきていないようだ。いつもならこの時間は談話室にいるのだけど、何かあったのだろうか──ラインは夕食の時間まで彼女を待とうと考えて、談話室の隅のソファに腰掛けた。基礎呪文集を睨みつけていると、ふいに隣に人が立つ気配がした。
「呼び寄せ呪文?君、もうそんな呪文を習っているのか?」
そう声をかけてきたのは、おそらく1学年上の男子生徒だ。しかし、彼とはあまり話したことが無く、名前が思い出せない。
「えぇ、使えるかと言われたら怪しいのだけど……」
そう言って苦笑いをすると、彼はラインの隣に腰を下ろし、ローブから杖を取り出した。柔らかいソファが深く沈んだため、ラインはバランスを崩しかけた。
「見本を見せてあげよう。何を呼び寄せて欲しい?」
「ありがとう──親切なのね。えっと……」
キョロキョロと談話室を見回していると、下級生に何かを配るフレッドの姿が目に入った。彼はニヤリと笑いながらこちらに歩み寄って来る。何かを食べた下級生の背中には羽が生えていた。
「ライン、見たかい?俺の勇姿」
「えぇ見たわよ。さすが、最高だった。アンジェリーナも貴方に誘われて嬉しそうだったわ」
彼は先程、パーティーに女性を誘うという偉業を公衆の面前でいとも簡単にやってのけた。
「よぉマクラーゲン!1ついる?」
「──いいや、遠慮しとくよ」
フレッドがラインと話していた男子生徒にビスケットを差し出すと、彼は迷惑そうな顔で去っていった。
「あいつは辞めとけ、手が早い」
「──ありがとう、そうする」
フレッドが顔を顰めてみせたので、ラインは笑った。
「そういえば、今日はジョージと一緒じゃないの?」
なんだか、彼等に毎回この質問をしている気がする。ラインが聞くと、フレッドはこれでもかという程ニヤついた。
「あいつは罰則を受けてる」
「え、罰則──?」
「この間、誰かさんのために薬草学をすっぽかしたからな」
ラインは息を呑んだ。
「どうしましょう、私のせいだわ」
「君のせいじゃないさ!食い物だけならドビーにでも持っていかせれば良かったのに、あいつは自分が行くって言ってきかなかったからな!」
その時だった。勢いよく扉が開き、談話室にハーマイオニーが飛び込んできた。
「ライン、ちょっと来て、寝室に!」
彼女はかなり興奮しているように見えた。ここまで走ってきたのか、髪の毛が広がっている。ラインはフレッドにお礼を言って、寝室へ上がった。
「さっき、ビクトールに誘われたの!彼、私にダンスパーティーに一緒に行って欲しいって!」
「──すごいわね!ほら、私、前に言ったじゃない。クラムの図書室通いは貴方目当てだって!」
彼女は好意を抱く男性から誘われて喜んでいるというより、周りの人に──主にデリカシーの無い人に──パートナーを披露出来ることに興奮しているようだった。ラインは友人達の仲がさらに拗れるような予感がしたが、今は彼女の気持ちを尊重することにした。その晩、ラインは友人とドレスの色やヘアスタイルなどを夢中で話し合い、久しぶりに楽しい気分で眠りにつくことが出来た。
ロンがチラリとこちらの顔を窺った。しかし、ラインは双子が放り投げる火の玉の行方を見つめるのに忙しいふりをした。ハーマイオニーの機嫌が悪くなる予感がしたからだ。巻き込まれたくは無い。
先ほど、生徒達は寮監から予期せぬ課題を通達されたばかりだ。クリスマスの夜に、ダンスパーティーが開催される──それは三大魔法学校対抗試合の伝統行事らしい。そして何より大きな問題は、そのパーティーに一緒に参加するパートナーを2週間のうちに見つけなければならないということだった。
「私、もっとちゃんと誘ってくれる人と一緒に行きたいわ。お手頃だから、みたいな理由じゃなくって!」
ハーマイオニーがロンを睨みつけると、彼は何が何だか分からないという顔で友人に助けを求めた。しかし、ハリーは難しい顔で目の前のパンプキンパイをつついている。
「やだ、もうこんな時間。午後はマクゴナガル先生の個人授業があるの。3人ともまたあとでね」
まだ授業までは時間があるが、ラインは荷物をまとめて立ち上がった。ハーマイオニーはもっと自分の気持ちに素直になるべきだし、ロンはデリカシーを身に付けるべきだと思う。
――――
「アクシオ、ニンバス!」
城の方角から風を切り裂くような音が聞こえる。湖の上空に見える茶色の物体はあっという間に大きくなり、その輪郭を現した。ラインは目にも止まらぬ速度でこちらへ飛んでくる箒を命からがら受け止めた。危ない、あと一歩で串刺しにされるところだった──
マクゴナガル先生がこちらを向いて何かを言っているが、風と心臓の音が煩く、ラインは何と言われたのか分からなかった。
「──はい、先生?」
「見事だ、と申し上げました。3ヶ月でここまで出来れば大したものです。集中すれば、貴方は自身の魔力をコントロール出来るのです」
マクゴナガル先生の目は真剣だった。初めて褒められた気がして、ラインは嬉しかった。
「何事にも気を取られることなく、呪文に集中すればの話ですよ」
それを聞いた途端、先日破壊した岩山を思い出して苦い気持ちになる。
「しかしまだ実戦で役に立つレベルではありませんね。これからはより現実的な訓練をしていきます。手始めに貴方の自習室にかけられた保護呪文を解きます。今まで以上に緊張感を持ち、練習に取り組むように」
何ということだ、もう派手な失敗は出来ない。一瞬でも気を抜けば、壁は粉々になり、身体は吹き飛ばされ、医務室へ直行だ。しかしラインは"実戦"という単語を聞き逃さなかった。いずれ、その可能性があるということだろうか──
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個人授業を終えて談話室へ向かっていると、授業終わりの生徒達とすれ違った。
「あ……ライン!」
その声に振り向くと、ディーンとシェーマスがおずおずと微笑みかけてきた。彼等と話すのは久しぶりだ。
「ごめん、俺達……あの、新聞のことだけど……君の尊厳を傷付けるような記事を回し読みするなんて、最低だった。どうかしてた」
ディーンはそう言うと、ラインに向かって頭を下げた。
「君が走って大広間を出て行く姿を見て、やっと自分のした事に気が付いた。救いようのない馬鹿だよ。本当にごめん」
シェーマスの切実な表情を見て、ラインは心の奥に引っかかっていたモヤモヤが消えていくのを感じた。
「ううん、気にしないで。ディーン、顔を上げて。私、もうあんな記事に負けたりしないから」
ラインが小さくファイティングポーズをとってみせると、2人はホッとしたように笑った。
「そうだ、その……君はダンスパーティーに行く相手はもう決まった?」
シェーマスに尋ねられて、ラインはその問題を思い出した。彼はしきりに目を瞬かせていて、なんとなく次に続く言葉が予想出来た。
「あー、私……ちょっと迷っているの」
必死に頭を回転させる。
「その、参加するかどうかを」
「絶対に参加すべきだよ。学生生活で一度きりだ」
ディーンは強くそう言った。ラインだって本当は参加してみたい。小さな頃に読んだおとぎ話に出てくるような、煌びやかな舞踏会をこの目で見てみたかった。
「僕、君を楽しませるよ。だから──良かったら、一緒に参加してくれないかな?」
シェーマスはラインの顔と床を交互に見ながらそう言い切り、窺うようにこちらを見つめた。
「誘ってくれてありがとう──嬉しい。でも……ラベンダーを誘ったら?彼女、貴方と行きたがってた」
ラインがそう言うと、シェーマスは驚きと落胆が入り混ざった表情をした。しかしラベンダーが談話室からこちらを見つめているのを視界に捉えると、わずかに微笑んで頷いた。
ハーマイオニーはまだ寮に帰ってきていないようだ。いつもならこの時間は談話室にいるのだけど、何かあったのだろうか──ラインは夕食の時間まで彼女を待とうと考えて、談話室の隅のソファに腰掛けた。基礎呪文集を睨みつけていると、ふいに隣に人が立つ気配がした。
「呼び寄せ呪文?君、もうそんな呪文を習っているのか?」
そう声をかけてきたのは、おそらく1学年上の男子生徒だ。しかし、彼とはあまり話したことが無く、名前が思い出せない。
「えぇ、使えるかと言われたら怪しいのだけど……」
そう言って苦笑いをすると、彼はラインの隣に腰を下ろし、ローブから杖を取り出した。柔らかいソファが深く沈んだため、ラインはバランスを崩しかけた。
「見本を見せてあげよう。何を呼び寄せて欲しい?」
「ありがとう──親切なのね。えっと……」
キョロキョロと談話室を見回していると、下級生に何かを配るフレッドの姿が目に入った。彼はニヤリと笑いながらこちらに歩み寄って来る。何かを食べた下級生の背中には羽が生えていた。
「ライン、見たかい?俺の勇姿」
「えぇ見たわよ。さすが、最高だった。アンジェリーナも貴方に誘われて嬉しそうだったわ」
彼は先程、パーティーに女性を誘うという偉業を公衆の面前でいとも簡単にやってのけた。
「よぉマクラーゲン!1ついる?」
「──いいや、遠慮しとくよ」
フレッドがラインと話していた男子生徒にビスケットを差し出すと、彼は迷惑そうな顔で去っていった。
「あいつは辞めとけ、手が早い」
「──ありがとう、そうする」
フレッドが顔を顰めてみせたので、ラインは笑った。
「そういえば、今日はジョージと一緒じゃないの?」
なんだか、彼等に毎回この質問をしている気がする。ラインが聞くと、フレッドはこれでもかという程ニヤついた。
「あいつは罰則を受けてる」
「え、罰則──?」
「この間、誰かさんのために薬草学をすっぽかしたからな」
ラインは息を呑んだ。
「どうしましょう、私のせいだわ」
「君のせいじゃないさ!食い物だけならドビーにでも持っていかせれば良かったのに、あいつは自分が行くって言ってきかなかったからな!」
その時だった。勢いよく扉が開き、談話室にハーマイオニーが飛び込んできた。
「ライン、ちょっと来て、寝室に!」
彼女はかなり興奮しているように見えた。ここまで走ってきたのか、髪の毛が広がっている。ラインはフレッドにお礼を言って、寝室へ上がった。
「さっき、ビクトールに誘われたの!彼、私にダンスパーティーに一緒に行って欲しいって!」
「──すごいわね!ほら、私、前に言ったじゃない。クラムの図書室通いは貴方目当てだって!」
彼女は好意を抱く男性から誘われて喜んでいるというより、周りの人に──主にデリカシーの無い人に──パートナーを披露出来ることに興奮しているようだった。ラインは友人達の仲がさらに拗れるような予感がしたが、今は彼女の気持ちを尊重することにした。その晩、ラインは友人とドレスの色やヘアスタイルなどを夢中で話し合い、久しぶりに楽しい気分で眠りにつくことが出来た。