the Goblet of Fire
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「見ろよ、マーリンだ。またポッターの隣に座ってる」
「ペニーが別れたのも、あの子のせいなんだって」
どこにいても、ヒソヒソ声が纏わりついてくる。ラインは足早に大広間を通り抜けて、木枯らしが吹き荒む庭に出た。手頃な段差に腰を下ろすと、思わず溜め息が漏れる。根も葉もない噂はすぐに消えるだろうし、堂々としているべきなのだろう。しかしラインにとって、注目を浴びながら朝食を食べるのはとても難しいことだった。
「はい、貴方の分。まだ全然食べてなかったでしょ?」
顔を上げると、優しい友人がキャラメルパイを差し出していた。それを見た途端、目の奥がツンとする。
「──ありがとう、ハーマイオニー」
「これも食べる?」
ハーマイオニーの後ろからハリーが顔を出した。彼は2日前にドラゴンとの死戦を切り抜けたばかりだ。ラインは彼の肩がハンガリーホーンテールの尻尾に切り裂かれた瞬間から目を瞑っていたため、彼が生きていることが信じられなかった。でもマフィンを差し出してくれた手は暖かかったので、彼がゴーストではないと認めることにした。
「貴方って、すごいのね」
「仲間が出来て心強いよ」
ハリーは苦笑した。有ること無いこと噂されて大勢の注目の的になるのは、たった1週間でさえこんなに辛い。ハリーは3年間もこれに耐えてきたのだ。
「おーい、3人とも!食べながらやろうぜ!」
その声に振り向くと、ロンが両腕いっぱいにトーストやらサンドウィッチやらを抱えて、城の入り口から顔を出していた。今日は土曜日のため、ラインの自主練習に3人が付き合ってくれる予定だ。
ラインはハリーとロンが一瞬で仲直りしたことを不思議に思いつつも、ちょっぴり感動していた。男の子って、すっごく単純──
――――
「貴方、もう粉砕呪文は完璧だわ……飲み込みがすごく早い。素晴らしいわ」
ハーマイオニーは机の上に散らばる石の破片を見つめて、ラインを褒め上げた。しかし、それはひとえにハーマイオニーのお陰だった。彼女は指導者として素晴らしく、多忙な教授陣の代わりとして充分すぎる役割を果たしてくれていた。
「でもね──それはこの教室にかけられている呪文のおかげだと思うの」
その言葉を聞いて事実を思い出し、ラインはがっくりと肩を落とした。彼女の言う通りだ。呪文の効果を小さくする細工がしてあるこの教室だからこそ、自分は上手に魔法が使えるのだ。
「外でやってみましょう」
ハーマイオニーがさも当たり前のような口調で言ったので、ラインは目を白黒させた。
「私、地面を吹き飛ばしちゃうかもしれないのよ……?」
「さすがマーリン卿だぜ」
ロンは完全に面白がっている。
「でも、外で練習するなとは言われて無いでしょう?」
ラインは懸命に記憶を辿った。フリットウィック先生方には"この教室で呪文の練習をしても構わない"と言われた。確かに、それ以外の場所で練習するなとは言われていない。
ーーーー
ラインは3人の背中を追いかけて、湖のほとりを歩いていた。風の冷たさが身に染みる。
「本当に大丈夫かしら。もし、貴方達を怪我させてしまったりしたら──」
「ハンガリーホーンテールに比べたら、まだ君の方が可愛げがあるよ」
ラインの不安などどこ吹く風のように、ハリーが楽しげに言った。彼は第一の課題が終わり、気が抜けたようだ。
「だからここでやるのよ。周りに何もないから安心でしょう?」
ラインは辺りを見回して、彼女の言う通りだと思った。湖畔は開けた土地になっていて、湖の向こうの山の麓まで良く見える。
「ちょっと地面が抉れるくらい、大した事ないわ。大丈夫よ」
自分を安心させようと微笑む友人に対して、ラインは引き攣った笑みを返すことしか出来なかった。確かに、大蛇に追いかけ回されたり、後頭部に闇の帝王をくっつけた人間と戦うことに比べたら大した事ないのかもしれない。でもそれを経験をしていないラインにとっては、充分"大した事"なのだ──
ついこの間まで、ラインはマグルのセカンダリースクールに通っていた。国語や算数を勉強して、放課後は友達と笑い合い、そこそこ楽しい学生生活を送っていた。でも小さな頃から、自分が普通の女の子ではないことは知っていた。時々、マグルの父と暮らしていた家に母の親族が訪ねて来ていたからだ。明らかに"普通でない"彼らは、ラインに会う度に魔法界の事を教えてくれた。母の家系には、稀に強い魔力を持つ子供が生まれること、例のあの人と呼ばれる恐ろしい闇の魔法使いがいて、その魔法使いの手下が母を殺し、幼い自分の魔力を奪ったこと。どうやら同い年らしい、生き残った男の子のこと。しかし当時のラインにとってその話はおとぎ話のようで、まるで現実味が無かった。母がいないのは寂しかったけれど、大好きな父と優しい祖父母に見守られて、平和な日常を送っていたからだ。
しかしある日を境に、その生活は一変してしまった。蒸し暑い夏の夜だった。自室のベッドに寝転がって本を読んでいたラインは、突然、激しい動悸を感じて上体を起こした。何が起きたのか分からずに胸を押さえていると、自分の身体の中にドンっと何かが入ってくるのを感じた。その瞬間、息が止まり、鼓動さえも止まったように思う。それほど大きな衝撃だった。しかし不思議な事に恐怖は感じなかった。身体がほかほかと暖かくなり、満たされた気分になった。
その翌日から、ラインの身の回りでは不可解な出来事が頻発するようになった。入れたての紅茶はいつまでも適温を保ち、シュートしたボールはあり得ない軌跡を描いてネットに入った。しかし平和ボケしていたラインは、しつこかった同級生が風船のように膨らみ、魔法事故惨事部の役人が現れてから、ようやく己の身体に魔力が戻ってきたことを悟ったのだった。
ラインは以前の穏やかな日常に想いを馳せて溜め息をついた。しかし、過去を懐かしんでばかりいても仕方がない。より良い未来にするためには、目の前のことを頑張るしかないのだ。
ラインは気を取り直して、湖岸に置かれた石に向けて杖を構えた。目の前の石だけに意識を集中させようとする。しかし、隣から聞こえてくるムシャムシャという音が気になった。
「──ロン、もう少し離れて見ていて。お願い」
ロンはサンドウィッチを口一杯に頬張ったまま、ハリーに引き摺られていった。
「いいわよ。やってみて」
ハーマイオニーの声を合図に、ラインは再び石に意識を集中させた──あの石を砕くんだ。教室でやったのと同じように。ただ、もう少し力を抑えて──
「──レダク」
「お前さん達!何してるんだ?」
突然聞こえた大声に驚き、息が止まった。最後まで詠唱はしなかったが、驚いた勢いで呪文を放ってしまった気がする。辺りを見回すと、こちらに向けて手を振る大男の姿が見えた。
「ハグリッド!」
ハーマイオニーが叫ぶと同時に、湖の向こうの山が音を立てて震え始めた。地鳴りのような低い音が辺りに轟く。大きな岩が斜面をゴロゴロと落ちていくのが見える。やがて、凄まじい破壊音が聞こえた──
ラインはハーマイオニーの呪文に庇われながら、土埃をあげて崩壊していく山を呆然と見つめていた。岩の破片が飛んできたけれど、頭を庇う為に手を上げることすらしなかった。
誰も、何も喋らなかった。全員が金縛りにあったようだった。
「──俺のせいだ。すまん」
暫くすると、ハグリッドが口を開いた。ラインは我に返り、ぶんぶんと首を振った。彼のせいじゃない。ここにいる全員が、誰のせいか分かっている。たまらずに天を仰ぐと、燃えるような赤色の美しい鳥が空を飛んでいることに気がついた。
「──幸運なことに、あの山に人はおらんかったようじゃの」
いつから居たのか、どうやって現れたのか分からない。きらきらとしたブルーの瞳が山を見つめていた。
「大丈夫じゃよ。今のところ、君は何者も殺めておらん」
その言葉を聞いて、ラインの視界はじわりと滲んだ。自分のした事の重大性を理解したからだ。もし、あの山に人がいたらとんでもない事になっていた……動物はいたのだろうか……
しゃくり上げるラインの肩に、ダンブルドア先生はそっと手を置いてくれた。
ーーーー
ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は、マクゴナガル先生の許可が降りるまで、ラインの自主練習に同行することを禁止された。ラインはハーマイオニーの落ち込んだ顔を思い出して、さらに気落ちした。
とてもじゃないけれど、自分はあんな力を使いこなせる器じゃない。この魔力があったから、例のあの人は自分を狙ったのだ。魔力が戻ったことは、もうあの人に知られただろうか。ダンブルドア先生がいる限り、ホグワーツは安全だと聞いたけれど、本当にそうだろうか……
ラインはこの先の人生が真っ暗に見えて、どう気持ちを立て直せば良いのかが分からなかった。
「ペニーが別れたのも、あの子のせいなんだって」
どこにいても、ヒソヒソ声が纏わりついてくる。ラインは足早に大広間を通り抜けて、木枯らしが吹き荒む庭に出た。手頃な段差に腰を下ろすと、思わず溜め息が漏れる。根も葉もない噂はすぐに消えるだろうし、堂々としているべきなのだろう。しかしラインにとって、注目を浴びながら朝食を食べるのはとても難しいことだった。
「はい、貴方の分。まだ全然食べてなかったでしょ?」
顔を上げると、優しい友人がキャラメルパイを差し出していた。それを見た途端、目の奥がツンとする。
「──ありがとう、ハーマイオニー」
「これも食べる?」
ハーマイオニーの後ろからハリーが顔を出した。彼は2日前にドラゴンとの死戦を切り抜けたばかりだ。ラインは彼の肩がハンガリーホーンテールの尻尾に切り裂かれた瞬間から目を瞑っていたため、彼が生きていることが信じられなかった。でもマフィンを差し出してくれた手は暖かかったので、彼がゴーストではないと認めることにした。
「貴方って、すごいのね」
「仲間が出来て心強いよ」
ハリーは苦笑した。有ること無いこと噂されて大勢の注目の的になるのは、たった1週間でさえこんなに辛い。ハリーは3年間もこれに耐えてきたのだ。
「おーい、3人とも!食べながらやろうぜ!」
その声に振り向くと、ロンが両腕いっぱいにトーストやらサンドウィッチやらを抱えて、城の入り口から顔を出していた。今日は土曜日のため、ラインの自主練習に3人が付き合ってくれる予定だ。
ラインはハリーとロンが一瞬で仲直りしたことを不思議に思いつつも、ちょっぴり感動していた。男の子って、すっごく単純──
――――
「貴方、もう粉砕呪文は完璧だわ……飲み込みがすごく早い。素晴らしいわ」
ハーマイオニーは机の上に散らばる石の破片を見つめて、ラインを褒め上げた。しかし、それはひとえにハーマイオニーのお陰だった。彼女は指導者として素晴らしく、多忙な教授陣の代わりとして充分すぎる役割を果たしてくれていた。
「でもね──それはこの教室にかけられている呪文のおかげだと思うの」
その言葉を聞いて事実を思い出し、ラインはがっくりと肩を落とした。彼女の言う通りだ。呪文の効果を小さくする細工がしてあるこの教室だからこそ、自分は上手に魔法が使えるのだ。
「外でやってみましょう」
ハーマイオニーがさも当たり前のような口調で言ったので、ラインは目を白黒させた。
「私、地面を吹き飛ばしちゃうかもしれないのよ……?」
「さすがマーリン卿だぜ」
ロンは完全に面白がっている。
「でも、外で練習するなとは言われて無いでしょう?」
ラインは懸命に記憶を辿った。フリットウィック先生方には"この教室で呪文の練習をしても構わない"と言われた。確かに、それ以外の場所で練習するなとは言われていない。
ーーーー
ラインは3人の背中を追いかけて、湖のほとりを歩いていた。風の冷たさが身に染みる。
「本当に大丈夫かしら。もし、貴方達を怪我させてしまったりしたら──」
「ハンガリーホーンテールに比べたら、まだ君の方が可愛げがあるよ」
ラインの不安などどこ吹く風のように、ハリーが楽しげに言った。彼は第一の課題が終わり、気が抜けたようだ。
「だからここでやるのよ。周りに何もないから安心でしょう?」
ラインは辺りを見回して、彼女の言う通りだと思った。湖畔は開けた土地になっていて、湖の向こうの山の麓まで良く見える。
「ちょっと地面が抉れるくらい、大した事ないわ。大丈夫よ」
自分を安心させようと微笑む友人に対して、ラインは引き攣った笑みを返すことしか出来なかった。確かに、大蛇に追いかけ回されたり、後頭部に闇の帝王をくっつけた人間と戦うことに比べたら大した事ないのかもしれない。でもそれを経験をしていないラインにとっては、充分"大した事"なのだ──
ついこの間まで、ラインはマグルのセカンダリースクールに通っていた。国語や算数を勉強して、放課後は友達と笑い合い、そこそこ楽しい学生生活を送っていた。でも小さな頃から、自分が普通の女の子ではないことは知っていた。時々、マグルの父と暮らしていた家に母の親族が訪ねて来ていたからだ。明らかに"普通でない"彼らは、ラインに会う度に魔法界の事を教えてくれた。母の家系には、稀に強い魔力を持つ子供が生まれること、例のあの人と呼ばれる恐ろしい闇の魔法使いがいて、その魔法使いの手下が母を殺し、幼い自分の魔力を奪ったこと。どうやら同い年らしい、生き残った男の子のこと。しかし当時のラインにとってその話はおとぎ話のようで、まるで現実味が無かった。母がいないのは寂しかったけれど、大好きな父と優しい祖父母に見守られて、平和な日常を送っていたからだ。
しかしある日を境に、その生活は一変してしまった。蒸し暑い夏の夜だった。自室のベッドに寝転がって本を読んでいたラインは、突然、激しい動悸を感じて上体を起こした。何が起きたのか分からずに胸を押さえていると、自分の身体の中にドンっと何かが入ってくるのを感じた。その瞬間、息が止まり、鼓動さえも止まったように思う。それほど大きな衝撃だった。しかし不思議な事に恐怖は感じなかった。身体がほかほかと暖かくなり、満たされた気分になった。
その翌日から、ラインの身の回りでは不可解な出来事が頻発するようになった。入れたての紅茶はいつまでも適温を保ち、シュートしたボールはあり得ない軌跡を描いてネットに入った。しかし平和ボケしていたラインは、しつこかった同級生が風船のように膨らみ、魔法事故惨事部の役人が現れてから、ようやく己の身体に魔力が戻ってきたことを悟ったのだった。
ラインは以前の穏やかな日常に想いを馳せて溜め息をついた。しかし、過去を懐かしんでばかりいても仕方がない。より良い未来にするためには、目の前のことを頑張るしかないのだ。
ラインは気を取り直して、湖岸に置かれた石に向けて杖を構えた。目の前の石だけに意識を集中させようとする。しかし、隣から聞こえてくるムシャムシャという音が気になった。
「──ロン、もう少し離れて見ていて。お願い」
ロンはサンドウィッチを口一杯に頬張ったまま、ハリーに引き摺られていった。
「いいわよ。やってみて」
ハーマイオニーの声を合図に、ラインは再び石に意識を集中させた──あの石を砕くんだ。教室でやったのと同じように。ただ、もう少し力を抑えて──
「──レダク」
「お前さん達!何してるんだ?」
突然聞こえた大声に驚き、息が止まった。最後まで詠唱はしなかったが、驚いた勢いで呪文を放ってしまった気がする。辺りを見回すと、こちらに向けて手を振る大男の姿が見えた。
「ハグリッド!」
ハーマイオニーが叫ぶと同時に、湖の向こうの山が音を立てて震え始めた。地鳴りのような低い音が辺りに轟く。大きな岩が斜面をゴロゴロと落ちていくのが見える。やがて、凄まじい破壊音が聞こえた──
ラインはハーマイオニーの呪文に庇われながら、土埃をあげて崩壊していく山を呆然と見つめていた。岩の破片が飛んできたけれど、頭を庇う為に手を上げることすらしなかった。
誰も、何も喋らなかった。全員が金縛りにあったようだった。
「──俺のせいだ。すまん」
暫くすると、ハグリッドが口を開いた。ラインは我に返り、ぶんぶんと首を振った。彼のせいじゃない。ここにいる全員が、誰のせいか分かっている。たまらずに天を仰ぐと、燃えるような赤色の美しい鳥が空を飛んでいることに気がついた。
「──幸運なことに、あの山に人はおらんかったようじゃの」
いつから居たのか、どうやって現れたのか分からない。きらきらとしたブルーの瞳が山を見つめていた。
「大丈夫じゃよ。今のところ、君は何者も殺めておらん」
その言葉を聞いて、ラインの視界はじわりと滲んだ。自分のした事の重大性を理解したからだ。もし、あの山に人がいたらとんでもない事になっていた……動物はいたのだろうか……
しゃくり上げるラインの肩に、ダンブルドア先生はそっと手を置いてくれた。
ーーーー
ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人は、マクゴナガル先生の許可が降りるまで、ラインの自主練習に同行することを禁止された。ラインはハーマイオニーの落ち込んだ顔を思い出して、さらに気落ちした。
とてもじゃないけれど、自分はあんな力を使いこなせる器じゃない。この魔力があったから、例のあの人は自分を狙ったのだ。魔力が戻ったことは、もうあの人に知られただろうか。ダンブルドア先生がいる限り、ホグワーツは安全だと聞いたけれど、本当にそうだろうか……
ラインはこの先の人生が真っ暗に見えて、どう気持ちを立て直せば良いのかが分からなかった。