the Deathly Hallows
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「ジョージ、おはよう!」
ラインは恋人の背中に抱きついた。
「今日は何の日でしょう?」
「君がちぐはぐファッションを生み出した記念日」
ジョージは振り向いてニヤニヤした。彼の視線を辿って、ラインは自分の靴下が左右バラバラであることに気がついた。
「それとも、シリウスとクリーチャーが仲良くなった記念日かい?」
ジョージは部屋の中央を指差した。ラインは振り向いた。ダイニングテーブルで朝食を食べているシリウスの皿を、クリーチャーが覗き込んでいる。
「シリウス坊ちゃまは、小さな頃から『人参さん』がお嫌いでいらっしゃいます」
「主人を子供扱いするな」
シリウスが不貞腐れたように言った。ラインは首を傾げた。
「2人は本当に仲良しになったの?」
「『仲良し』の定義によるな。だけど、憎み合っていた以前に比べたら飛躍的な進歩さ」
ジョージはにっこりした。ラインもつられてにっこりした。しかし、ラインはすぐに本題を思い出した。ラインは恋人を見つめて圧力をかけた。
「分かってるって」
ジョージはおかしそうに笑った。
「2年前の今日こそ、俺の人生で一番運がよかった日だ。つまり、今日は俺たちの記念日だ」
「当たり!」
ラインは大はしゃぎして、ジョージの腕に絡み付いた。自分たちが恋人になった日を、ジョージが覚えていてくれたことが嬉しかった。
「実は、君に渡したいものがあるんだ」
ジョージがいつもと少し違う声色で言った。ラインは顔を上げた。ジョージはラインの目を真っ直ぐに見つめた。
「今夜、夕食を食べ終わったら、俺の部屋に来てくれよ。星空でも眺めながら、2人でのんびりしよう」
ロマンティックな提案にラインはうっとりした。「君のために、キルフェ・ボンバーのタルトを仕入れておいたぞ」とジョージが付け加えたので、ラインはもうメロメロになってしまった。彼の恋人になることが出来て、自分は幸せだ。出来ることなら、この先の人生もずっと、ジョージと一緒にいたい。そんなことを考えながら、ラインはその日の午前中を過ごした。しかし、ルンルン気分はそう長くは続かなかった。
「昨日、帰宅途中に襲われたようだ」
玄関ホールから、ひそひそ声が聞こえてきた。内緒話の最中に登場するのは気が引けたので、ラインは洗濯物の山に埋もれながら、洗面室でじっとしていた。
「被害者が監禁されている場所は?」
「マルフォイの館の可能性が高い。あそこは連中の拠点だ」
聞き覚えのある深い声が言った。内緒話をしているのが、キングズリーとトンクスの闇払いコンビであることに、ラインはすぐに気がついた。
「彼女にはもう伝えた?」
「いや、まだ伝えていない。父親が死喰い人に囚われたと知ったら、あの子は気が動転して、向こう見ずな行動を取る可能性が高い」
「そのとおりね。でも、ラインには真実を知る権利があるわ」
いきなり自分の名前が登場したので、ラインは固まった。洗い立てのシーツと同じくらい、ラインの頭は真っ白になった。
「お夕食には、人参のグラッセを作りましょう。なんとしても、ご主人様に『人参さん』を克服して頂かなければ──」
闇払いコンビの声が遠のき、食用ガエルの声が近づいてきた。職務に燃える屋敷しもべ妖精は、洗面所に入ってくるなりピタリと立ち止まった。それから、立ち尽くしているラインをじっと見つめた。
「お嬢様、お顔のお色がカリフラワーのようでございます」
クリーチャーが唐突に言った。ラインはクリーチャーの豚鼻を見つめながら、カリフラワーが何色だったかを思い出そうとした。
「もしかすると、お嬢さまは、クリーチャーめの手助けが必要でいらっしゃいますか?」
クリーチャーが聞いた。考えるまでもなかった。ラインは力強く頷いた。
「お願い、クリーチャー。私をマルフォイの館へ連れて行って」
──
「クリーチャーは、姿くらましがとっても上手なんだね。まさか、マルフォイの館の中に姿あらわし出来るとは思わなかった」
身を縮めて、暗闇に目を凝らしながら、ラインは囁いた。
「屋敷しもべ妖精には、たいていの魔法使いより上手に出来ることが沢山あります」
クリーチャーは誇らしげに言った。ラインは目が慣れてきて、目の前に急な階段があることに気が付いた。クリーチャーはその階段を軽快なステップで下り始めた。
「足元に気を付けて下さいませ。地下牢はこちらでございます」
「どうして、地下牢の場所を知ってるの?」
ラインは手すりを握り締めて、慎重に階段を下りながら聞いた。
「クリーチャーめは、このお屋敷に来たことがあるからです。昨年、シリウス様に『出ていけ』と言われた時、クリーチャーめはナルシッサ様の元へ身を寄せておりました。ナルシッサ様はブラック家のご出身でいらっしゃいます」
「えっ」
クリーチャーが悪びれる様子もなく言ったので、ラインは面食らった。
「それって、いいのかな?だって、クリーチャーは騎士団の情報をたくさん知っているわけでしょ?」
「クリーチャーめは、騎士団の所在や機密情報について、何ひとつナルシッサ様に教えることはできませんでした。シリウス様に禁じられていたからです」
「へえ」
ラインは間抜けな顔で相槌を打った。
「そのかわり、クリーチャーめは、ドラコ様から与えられた任務を遂行しました」
「それって、どんな任務だったの?」
「『あなた様を階段から突き落とす』という任務でございます」
驚きのあまり、ラインは階段を踏み外した。クリーチャーが間髪入れずにパチンと指を鳴らした。ラインの身体はふわりと浮いて、元の階段へ舞い戻った。
「あ──ありがとう」
「とんでもございません」
満足そうににっこりする屋敷しもべ妖精を眺めながら、ラインは思い出した。そういえば、一昨年のクリスマス休暇に、グリモールドプレイスの階段から転がり落ちたことがあった気がする。
「クリーチャーめには、お嬢さまを殺すつもりはございませんでした」
クリーチャーはさらりと言った。
「ドラコ様から『学校に戻れない程度の怪我をさせるように』と命じられていたからでございます」
「へえ」
ラインはまたもや気の抜けた相槌を打った。しかし、ラインはなんとなく理解した。屋敷しもべ妖精というのは、たぶん、とっても忠実な生き物なのだ。
「97──98──」
ラインはハッと息を呑んだ。階段の下にある扉の奥から、聞き覚えのある声が聞こえてきたからだ。
「パ──」
「シッ!見張りがいます」
クリーチャーがラインを黙らせた。ラインはクリーチャーの肩越しに、格子窓から独房の中を覗いた。案の定、天井の梁に掴まって、父が懸垂をしていた。
「──99──100!」
100回目を終えると、父は満足そうに床へ着地した。それから、テーブルの上に置いてある皿から何かを摘み上げ、床にかがみ込んだ。
「おーい、チビ!今日はご馳走だぞ」
父の声に応えるように、独房の隅の暗がりから、小さなネズミが出てきた。ネズミは父の手に顔を寄せて、乾燥したぶどうをムシャムシャと食べ始めた。父は満足そうな顔でネズミを眺めている。
「おまえ、食べっぷりがラインにそっくりだな」
「そっくりじゃないもん」
ラインは唇を尖らせた。
「ねえ、クリーチャー。独房の鍵って──」
ラインは振り向いた。しかし、隣に立っていたのはクリーチャーではなかった。黒く光る縄が頭上に飛んできて、ラインの手足をぐるぐる巻きにした。杖を取り上げられて、声を出すことも封じられた状態で、ラインは急な階段をズルズルと引っ張り上げられた。
「重い……しかし、これもすべて……あの方の寵愛を受けるため……」
ベラトリックス・レストレンジは、ぶつぶつ言いながら客間にたどり着くと、見事な装飾の大理石の暖炉の前にラインを放り投げた。それから、ラインには見えない何かをうっとりと見つめた。ラインはもぞもぞ動いた。ベラトリックスが振り向き、杖を振った。ラインは声を出せるようになった。
「久しぶりだねえ、お嬢ちゃん」
ベラトリックスがぞっとするような猫撫で声で言った。
「来てくれると思っていたよ。さあ、さあ──女同士で、じっくりと話をしようじゃないか。おまえがドラコと結婚したくなるように」
その言葉を聞いて、ラインはピンときた。不本意だけど、こればかりは仕方がない。ラインはペルシャ絨毯の上で、自由の効かない腕を踏ん張り、なんとか上体を起こした。
「いいよ、話そう。あなただって、たまには恋バナしたいよね」
ベラトリックスは動きを止めた。しばらく彼女が黙ったまま目を瞬かせていたので、ラインは話題を振ってあげることにした。
「ねえ、その髪型って、彼の好みに寄せてるの?」
「──彼?」
ベラトリックスが掠れた声で聞いた。
「ほら、『例のあの人』のことよ。彼のことが好きなんでしょう?」
ラインはひそひそと言った。部屋には自分と彼女の2人しかいないと分かっていたけれど、寮の小さなベッドで親友と恋バナする時の癖が抜けないままだった。ベラトリックスは何か言おうと口をパクパクさせたが、結局何も言えずに口を閉じた。
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ」
ラインはにっこりした。友人に好きな人の名前を告白する時の気恥ずかしい気持ちを、ラインはよく知っていた。いまだに衝撃から立ち直れずにいるベラトリックスをゆったりと眺めながら、ラインはとんでもない事実に気がついた。なんと、ベラトリックスの左手の薬指に、きらりと光る指輪が嵌まっている。ラインはおそるおそる聞いた。
「ねえ、もしかして……不倫なの?」
ガチャリ
客間の扉が開いた。ラインは振り向いた。見覚えのある人物がそこに立っていた。
「お呼びでしょうか、マダム」
「いいところに来た。グレイバック。この娘をドラコの部屋に連れて行け」
覇気を取り戻したベラトリックスは、そそくさとラインから距離をとって言った。
「ほら、さっさと行くんだ。これ以上こいつと話していたら、頭がおかしくなる」
まったくもう。せっかく恋バナに付き合ってあげたのに。ラインは顔をしかめながら、グレイバックに引き摺られて客間を出た。グレイバックは肖像画の並ぶ玄関ホールを抜けて、薄暗い廊下を進んだ。
「どこかで見た顔だと思ったら、しょっぱい嬢ちゃんじゃないか」
黄ばんだ鋭い爪でラインの二の腕を撫でながら、狼人間はうす気味の悪い笑みを浮かべた。
「まさか、足がしょっぱ過ぎて、赤毛に振られたのか?」
「あの時は海で遊んだ後だったから、足に塩が残っていたの」
ラインはムッとして言い返した。
「じゃあ、今はしょっぱくないのか?」
「うん。しょっぱくないよ」
「そうか。じゃあ──確かめてみないとな」
グレイバックが立ち止まり、舌なめずりした。ラインはぞっとした。両端が裂けた口の中に、黄色く汚れて尖った歯が見えたからだ。グレイバックが杖を振ると、ラインの足をぐるぐる巻きにしていた縄が解けた。ラインはよろよろと後退りした。狼が狩りを楽しむには、弱すぎる獲物だった。ラインはあっけなく床に引き倒された。血と汗と泥の匂いが近づいてきたので、ラインはぎゅっと目を瞑った。
「触るな」
その時、冷たい声が廊下に響いた。
「それは僕のものだ」
ラインは目を開けた。いやというほど見覚えのあるプラチナブロンドが、ラインの目に飛び込んできた。グレイバックはよだれまみれの口をしぶしぶ閉じた。それから、狼人間はラインに向けてせせら笑った。
「せいぜい、ご主人様に媚びを売るんだな。さもなければ、俺のデザートだ」
──
「どうせ、のこのこ乗り込んできたんだろう」
ドラコ・マルフォイが呆れたように言った。ラインは自分が連れて来られた部屋の中を見回した。黒いマホガニーの机と、上質なサテンのシーツが敷かれた四本柱の大きなベッド、それにベルベットのソファが置いてある。
「うん。私、パパを助けるためにここに来たの」
ラインはマルフォイの目を真っ直ぐに見て言った。
「ねえ、これを解いてくれない?そうしたら、ハニーデュークスの期間限定品──『ヘリウム・バリウム・キャンディ』を分けてあげるから」
ラインは縄でぐるぐる巻きにされた手首をマルフォイに向けて差し出した。彼がハニーデュークスの期間限定キャンディの価値を理解しているかは分からないけれど、ものは試しだ。ラインは頭の中でキャンディの在庫を数えながら、マルフォイの返答を待った。
「おまえのことが、心底羨ましい」
ため息とともに意外な言葉が聞こえたので、ラインは目を瞬かせた。
「おまえはいつも自由だ」
マルフォイは遠い目をしていた。ラインは縄でぐるぐる巻きにされている自分の手首を見つめて首を傾げた。
「心の在り方の話をしている」
マルフォイがピシャリと言った。ラインはますます首を傾げた。そして、正直に言った。
「私、そういう難しいことをあんまり考えたことがない」
「フン、馬鹿が秘訣か」
マルフォイはせせら笑った。しかし、彼はすぐに笑うのをやめて、ラインの手元をじっと見た。彼の視線を追って、ラインは自分の手首に血が滲んでいることにようやく気がついた。
「……どうせ、この家からは逃げられない」
マルフォイがぽつりと呟いた。それから、彼はラインに手を伸ばした。ラインは目を丸くしながら、マルフォイが自分の手首を拘束している縄を解くのを見ていた。
「──ありがとう。あとで、キャンディをあげるね」
ラインは生まれて初めて、マルフォイに感謝を述べた。
「ねえ、もしかして、冷え性?」
「……いや。そのように診断されたことはない」
「そっか」
ラインは自由になった両手を見つめながら言った。
「男の人の手って、もっと温かいものだと思っていたから」
ラインは自分の頭をくしゃくしゃと撫でる父の手の温度を思い出した。たぶん、父は平熱が37度台だ。それから、ラインは自分の身体を抱き締める恋人の手を思い出した。心まで温めてくれる優しい手を。そういえば……今夜は彼と会う約束をしていたんだった。自分が約束を破ったら、ジョージはどう思うだろう。ラインは急に心細くなった。
「今日の夕食後のデザートは、ザッハトルテだ」
チョコレートケーキの名前が聞こえたので、ラインは条件反射で顔を上げた。マルフォイが奇妙な表情でラインを見つめていた。
「もしかして、いま、私のことを励まそうとしたの?」
ラインは信じられない気持ちで聞いた。マルフォイはラインの質問を無視して、大理石の暖炉に向けて杖を振った。暖炉の薪がパチパチと音を立てて燃え上がり、マルフォイの寝室が、ラインにとってほんの少しだけ居心地のいい空間になった。
──
「ねえ、私、どこで寝ればいい?」
ラインはマルフォイに気安く話しかけた。ザッハトルテをたらふく食べたおかげで、ラインはポジティブな気持ちを完璧に取り戻していた。
「ベッドを使え」
マルフォイはこちらを見ずに言った。彼はベッドから毛布を一枚だけ抜き取り、ソファに向けて歩いていった。この数時間で、ラインはマルフォイに対する認識を少し改めた。案外、彼には紳士的なところがある。ラインは彼のその性質に付け込むことにした。申し訳ないけれど、背に腹はかえられない。
「ベッドを譲ってくれてありがとう。じゃあ、おやすみ」
ラインが言うと、マルフォイはボソッと返事らしきものをした。ラインはベッドに潜りこみ、目を閉じて眠ったふりをした。本当に眠ってしまわないようにするのに、大変な精神力が必要だった。しばらくすると、ソファからは寝返りの音が聞こえなくなった。念のためにもう2、3分待ってから、ラインはむくりと起き上がった。なんとしても、今夜中に父を助け出して、グリモールド・プレイスへ戻るのだ。だって、ジョージと約束をしているもの。ラインは足音を立てないように、つま先歩きで扉に近づいた。そして、ドアノブに手をかけた。
「命が惜しければ、大人しくしろ」
耳元で声がした。声を出す間もなかった。ラインは口を塞がれて、ベッドに引きずり込まれた。窓から差し込む月明かりが、頭上のプラチナブロンドを照らした。ラインは何が起きたのか分からなかった。マルフォイがラインのシャツの襟元をぐいと引っ張った。むき出しになったラインの肩に、彼は噛みついた。痛みのあまり、ラインは「うっ」と呻き声を上げた。その時だった。
シューッシューッ
空気が漏れるような音が聞こえた。マルフォイの背中に爪を立てたまま、ラインはわずかに首を動かした。扉の隙間から、大蛇のギラリとした目がこちらを見ていた。ラインと目が合うと、大蛇はズルズルと音を立てて廊下の向こうへ去っていった。
「……なかなか良い演技だったじゃないか」
なんとも気まずそうな声が聞こえた。ラインは頭上を見た。どうして、マルフォイが自分の上に乗っているのだろう?ラインは気が動転して、マルフォイを力いっぱい蹴り飛ばした。