the Deathly Hallows
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「病める時も健やかなる時も、共に愛し、支え合うことを誓いますか?」
髪の毛がふさふさした小柄な牧師が言った。ラインはうっとりしながら新郎新婦を見つめた。ウェディングドレスを着たフラーは銀色の光を放っていて、その光に当たったもの全てをキラキラと輝かせていた。
「誓います」
「わあ」
ラインは歓声を上げた。ビルとフラーがキスをしたからだ。天井から白い羽根がふわふわと舞い降りてきて、抱き合う2人を取り囲んだ。ラインは感極まって、ハンカチで目頭を押さえた。それから、隣に座る友人を見た。ハーマイオニーの目も涙で一杯だった。ハーマイオニーはラインの視線に気がつくと、ラインを見てくすくす笑った。それから、彼女はラインの頭についた羽根を払ってくれた。白色の羽根に混ざって、赤色の大きな羽根が一枚、ラインの目の前をひらひらと漂って落ちた。
「結婚式って素敵だね」
ラインは夢見心地のまま言った。
「私もいつか、キラキラの宝石が飾られたウェディングドレスを着て、三段重ねのケーキを食べて、ジョージと愛を誓い合いたいなあ」
「あなたって煩悩まみれね」
ハーマイオニーはおかしそうに笑った。
「でも、きっとすぐに叶うわ」
「えへへ。そうかな」
ラインは照れ笑いした。
「じゃあ、その時は、友人代表のスピーチをしてくれる?」
ハーマイオニーは嬉しそうに微笑んだ。しかし、彼女はラインの質問に答えなかった。
「私、あなたが隣のベッドにきてくれてよかった」
「──え?」
「だって、あなただけよ。私のこと、一度も『知ったかぶり』って言わなかった人」
ラインは話について行けず、目をぱちぱちさせた。
「私たち、きっと、相性がよかったのよ。知ったかぶり』と『知らなさすぎ』で──」
「『知らなさすぎ』って、私の悪口?」
ラインの脳みそはようやくハーマイオニーに追いついた。ハーマイオニーは笑ったが、首を横に振った。
「ハーマイオニー、来いよ。踊ろうぜ」
いつのまにか、2人の前にロンが立っていた。ハーマイオニーはちょっとびっくりしたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに立ち上がり、差し出された手を取った。辺りを見回して、ラインは驚いた。ラインとハーマイオニーがお喋りに夢中になっている間に、会場の様子が一変していたからだ。花道があった場所にはダンスフロアが出現していて、ビルとフラー、それに彼らの両親たちがダンスを踊っている。
「行ってらっしゃい。ハーマイオニー」
ラインは友人に手を振った。ハーマイオニーが振り向いてにっこりした。なぜか彼女の目に再び涙が浮かんでいたので、ラインは不思議に思った。しかし、すぐに他のことに気を取られた。ロンとハーマイオニーがダンスフロアに足を踏み入れた途端、それまで演奏されていたワルツのような調べが「ウィーズリーは我が王者」に変わったからだ。ロンは辺りを睨めつけて犯人を探している。しかし、バンドマンたちはそしらぬ顔で演奏を続けていた。
「ドレスコードなんてクソくらえだ」
ラインの隣の席に、フレッドがどかっと腰を下ろして言った。ラインは彼のネクタイの結び目が、本来の位置よりも20センチほど下にあることに気が付いた。
「俺の結婚式には、パジャマでも着てきてくれよ」
「フレッドは誰と結婚するの?」
「ウィーズリーは我が王者」が元のワルツに戻ったことに気を取られながら、ラインはなんとなく質問した。
「アンジェリーナ」
フレッドはきっぱりと言った。ラインはフレッドの顔を見た。それから、彼がここ一年でデートした女の子たちの中に「アンジェリーナ」がいたかどうかを考えた。まず、マグルの雑貨屋の女の子は名前が違ったはず。あと、聖マンゴの受付のお姉さんの名前も違った気がする。それから、酒屋のお嬢さんは──
「俺は自由恋愛主義者なんでね」
ラインの考えを見透かしたように、フレッドがニヤッとした。
「もちろん、俺がこれまでにデートした女の子たちはみんなかわいいぜ。でも、俺のブラッジャーを打ち返せる女はあいつだけだ。人生という試合において──」
ラインは立ち上がった。ラインはもう、フレッドの話など聞いていなかった。恋人の姿を見つけたからだ。ジョージは壁際のテーブルでスイーツを物色しながら、シルバーブロンドを腰まで伸ばした綺麗な女の子──おそらく、フラーのいとこだろう──と楽しそうに喋っている。ラインは首を限界まで伸ばして2人を見つめた。初対面とは思えないくらい、話は盛り上がっているようだった。次の瞬間、ラインは息を呑んだ。ジョージが女の子の髪を触ったからだ。
「とんだ浮気野郎だな」
フレッドが言った。
「フレッドもでしょ!」
ラインは八つ当たりした。そして、ぷいとそっぽを向いた。今にも涙が溢れてしまいそうだった。
「あなたには、この人と踊る権利がありまーす」
突如、視界に銀色の光が差し込んだ。顔を上げると、目の前にフラーが立っていた。
「私の完璧なアズバンドに、小さな女の子みーんなが憧れていること、私は知っていまーす」
ラインはフラーを見つめた。彼女はお色直しをして、すっきりとした水色のドレスを見に纏っていた。彼女の姿があまりにも美しかったので、ラインの涙は引っ込んだ。フラーの隣に立っているビルが、おかしそうに笑いながらラインに手を差し出した。
「さあ、小さなプリンセス。お手をどうぞ」
ラインは立ち上がり、ビルの手を取った。
「心の広ーい花嫁に、彼は惚れ直すでしょーう」
フラーはラインに耳打ちしてにっこりした。ビルに手を引かれて、ラインはダンスフロアに出て行った。ワルツの調べに合わせて、ラインは揺れ始めた。しかし、すぐに誰かが、ラインの腰からビルの手を引き剥がした。
「自分の結婚式で、弟の恋人をたぶらかすなよ」
ジョージだった。彼は兄を睨みつけた。しかし、ビルは余裕そうに笑った。
「カリカリするなよ。もう義妹みたいなものだろ」
「そうだ!カリカリするな!」
突然、すさまじい浮遊感がラインを襲った。フレッドがラインの腰を掴んで高く持ち上げたからだった。彼が音楽に合わせてぐるぐると回転し始めたので、ラインはぎゃあぎゃあ言った。
「いくぞ、受け取れ!」
ターンした勢いのまま、フレッドはラインを放り投げた。ジョージは両手をのばして、ラインを抱き止めた。
「どいつもこいつもベタベタ触りやがって」
ジョージが恨めしげに言った。
「ジョージもあの子の髪を触ってた」
ラインは目を回しながらボソボソ言った。ジョージはわけが分からないという顔をした。ラインは壁際の席に座っているフラーのいとこを指差した。
「ほら──あの綺麗な子」
「君、お菓子だけじゃなくて餅も焼けるんだな」
ジョージは嬉しそうにニヤニヤした。
「おーい、ハリエット!ちょっと来いよ」
ジョージがフラーのいとこに呼びかけた。フラーのいとこは顔を上げると、ハイヒールをグラグラさせながらこちらに歩いてきた。ジョージはますますニヤニヤしながら彼女を待ち受けた。
「君のせいで、俺の恋人がやきもちを焼いてるんだ。説明してくれよ」
「──ごめん。僕、君を傷つけるつもりはなかったんだ」
フラーのいとこが言った。ラインは目をぱちぱちさせた。
「ライン、ほら、僕だよ。ハリーだ」
ラインはあんぐりと口を開けた。
「誤解しないで。僕、好きで女装してるわけじゃないんだ」
ハリーはきっぱりと言った。
「ムーディにやられたんだ。『敵を欺くには、まず味方から』とか何とか言われて──」
ハリーの顔がみるみるうちに情けない顔になったので、ラインは気の毒に思った。よく見ると、ハリエットのロングヘアにはパン屑が付いているし、ドレスの肩紐のリボンは今にも解けてしまいそうだった。ラインはリボンを結び直してあげようとした。しかし、その時、会場がどよめいた。ダンスフロアの真ん中に、銀色のオオヤマネコが現れたからだ。守護霊は縦に大きく口を開き、キングズリー・シャックルボルトの声で言った。
「魔法省が襲撃された。次はそちらだ」
ラインは状況を理解しようとして、辺りを見回した。ハリーが杖を抜き、ハイヒールを脱ぎ捨てたのが見えた。
「これは、これは──運命の導きに違いあるまい」
バシッという音がして、ラインの目の前にシルバーブロンドの死喰い人が現れた。
「我が息子の花嫁を見つけたぞ!」
ルシウス・マルフォイが叫んだ。
「──違う!」
誰かが負けじと怒鳴った。
「その子は私の息子の花嫁だ!」
ウィーズリーおじさんがルシウス・マルフォイの前に躍り出た。2人の杖先から閃光が飛び出してぶつかり合った。
「ジョージ、ラインを連れて本部に戻れ!」
ウィーズリーおじさんが叫んだ。ジョージはラインの腕を掴んで走り始めた。ラインはジョージに引き摺られながら、銀色の仮面を付けた死喰い人たちが、混乱した招待客の中に続々と「姿あらわし」するのを見た。
「プロテゴ、護れ!」
ジョージが杖を振った。ラインに向かって飛んできた赤い閃光が、ジョージの作り出した盾にぶつかって跳ね返った。息をつく間もなく、今度は黒く光る縄がラインの頭上に飛んできた。ラインはそれを避けようとして地面に突っ伏した。繋いでいたジョージの手が離れた。顔を上げると、目の前に銀色の仮面が現れた。ラインは条件反射で杖を振った。死喰い人の髪の毛が吹き飛んで、死喰い人がツルツル頭になった。死喰い人は怒りの叫び声を上げて、ラインに掴みかかろうとした。
「こっちだ!禿げ頭!」
誰かが叫んだ。ツルツル頭の死喰い人が鬼の形相で振り向いた。次の瞬間、ゴキっという鈍い音が響いた。シリウスが死喰い人の横っ面を殴り付けた音だった。死喰い人と取っ組み合っているシリウスの横を抜けて、ラインは会場の外に飛び出した。
「ライン、頑張れ。あと少しだ」
足をもつれされているラインの手を引っ張り、ジョージは会場の奥にある果樹園を突っ切った。それから、背の高い下草が生えている森の中へ入っていった。木々のあいだをしばらく走ってから、2人は立ち止まった。
「さあ、俺の腕に掴まるんだ」
ジョージはラインに左腕を差し出した。ラインはジョージの腕を掴んで「姿くらまし」しようとした。その時だった。
「動くな」
しわがれた男の声が言った。ラインは固まった。見回すと、木々の隙間から6本の杖が自分たちを狙っていた。
「お嬢ちゃん、こっちにおいで」
今度はぞっとするような猫撫で声が言った。
「いい子にしていれば、なーんにもしないよ」
木の陰から女の死喰い人が現れた。ラインは思わずジョージの背中に隠れた。女の顔と、その残酷な罪状が日刊予言者新聞に載っているのを見たことがあったからだ。
「一緒にお家へ帰ろう。ドラコが待ってるよ」
ベラトリックス・レストレンジが血走った目で薄ら笑い、ラインを手招きした。
「おいおい、市場調査が足りてないぞ」
ジョージは動じなかった。
「この子をおびき寄せたいなら、甘いものを使うべきだ」
「黙れ、赤毛」
ベラトリックスの薄ら笑いが消えて、眉が吊り上がった。
「どうして、マルフォイは私と結婚したいの?」
ラインは震える声で質問した。話し続けることしか、他に方法を思い付かなかった。誰かがこの状況に気がついて、助けに来てくれますようにとラインは願った。
「そりゃあ、もちろん、闇の帝王のお役に立ちたいからさ」
ベラトリックスの目が狂信的な熱っぽさに輝いた。
「どうして、マルフォイと私が結婚することが、闇の帝王の役に立つの?」
ラインは再び質問した。
「まさか、お嬢ちゃん、自分の血の価値が分からないのかい?」
ベラトリックスは信じられないという顔をした。それから、隣の死喰い人にコソコソと何か言った。ラインには、彼女の唇が「想像以上のアホ」と動いたように見えた。しかし、ラインはさほどアホではなかった。ヴォルデモートが自分の血を手に入れたがっていることを理解できた。ラインはジョージに聞いた。
「私、この人たちに捕まったら、血を抜かれるのかな?」
「違う。こいつらは君にもっと酷いことをする」
ジョージの手は怒りに震えていた。
「黙れ、赤毛」
ベラトリックスが唸り、血走った目でジョージを睨み付けた。
「次に口をきいたら、命はないと思え」
「嫌だね。俺はおまえの命令には従わない。それに、この子を連れて行きたいのなら、どのみち俺を殺すことになるぞ」
ジョージがベラトリックスを睨み返した。ベラトリックスは杖を振り上げた。
「もちろんそうしてやるさ」
「やめて!彼を傷つけないで!」
ラインはジョージの前に飛び出した。ベラトリックスは高笑いし、ラインの声色を真似した。
「『やめて!彼を傷つけないで!』だとよ。泣かせるねえ」
死喰い人たちが声を上げて笑った。
「ジョージ、逃げて」
ラインは懇願した。ジョージの命を危険に晒すくらいなら、ヴォルデモートに自ら捕まるほうがましだと思った。しかし、ジョージは動かなかった。覚悟を決めたような顔で、彼はラインにキスした。
「お嬢ちゃん、時間切れだよ」
ベラトリックスがぞっとするような声で言った。ベラトリックスの杖から赤い閃光が放たれるのを、ラインは視界に捉えた。しかし、ベラトリックスの呪文は2人に届かなかった。半透明の膜が、ラインとジョージを取り囲むように覆ったからだ。ベラトリックスが絶叫した。死喰い人たちは次々と呪文を放った。半透明の膜は死喰い人たちの放った色とりどりの閃光を取り込み、虹色に輝き始めた。
ラインがイルミネーションを呆然と見上げていると、ジョージがラインの腕を掴んだ。それから、ラインは彼がその場で回転するのを感じた。ラインは空間の狭間に押し込まれた。次に目を開けた時、ラインが見上げていたのは、グリモールド・プレイスの玄関のドアだった。ドアを開けて、2人は玄関ホールのマットの上になだれ込んだ。
「なかなかスリリングだったぜ」
ジョージが掠れた声で言った。ラインは全身から力が抜けて、声が出せなかった。その代わり、ラインのお腹がかすかに、ぐぅーと情けない返事をした。
「まさか、君、腹が減ったのか?」
ジョージはニヤニヤを取り戻した。どうして自分のお腹が鳴ったのか、ラインは考えた。それから、ジョージの胸に顔をうずめて、小さな声で言った。
「だって──レモン・キャンディの匂いがしたんだもの」
髪の毛がふさふさした小柄な牧師が言った。ラインはうっとりしながら新郎新婦を見つめた。ウェディングドレスを着たフラーは銀色の光を放っていて、その光に当たったもの全てをキラキラと輝かせていた。
「誓います」
「わあ」
ラインは歓声を上げた。ビルとフラーがキスをしたからだ。天井から白い羽根がふわふわと舞い降りてきて、抱き合う2人を取り囲んだ。ラインは感極まって、ハンカチで目頭を押さえた。それから、隣に座る友人を見た。ハーマイオニーの目も涙で一杯だった。ハーマイオニーはラインの視線に気がつくと、ラインを見てくすくす笑った。それから、彼女はラインの頭についた羽根を払ってくれた。白色の羽根に混ざって、赤色の大きな羽根が一枚、ラインの目の前をひらひらと漂って落ちた。
「結婚式って素敵だね」
ラインは夢見心地のまま言った。
「私もいつか、キラキラの宝石が飾られたウェディングドレスを着て、三段重ねのケーキを食べて、ジョージと愛を誓い合いたいなあ」
「あなたって煩悩まみれね」
ハーマイオニーはおかしそうに笑った。
「でも、きっとすぐに叶うわ」
「えへへ。そうかな」
ラインは照れ笑いした。
「じゃあ、その時は、友人代表のスピーチをしてくれる?」
ハーマイオニーは嬉しそうに微笑んだ。しかし、彼女はラインの質問に答えなかった。
「私、あなたが隣のベッドにきてくれてよかった」
「──え?」
「だって、あなただけよ。私のこと、一度も『知ったかぶり』って言わなかった人」
ラインは話について行けず、目をぱちぱちさせた。
「私たち、きっと、相性がよかったのよ。知ったかぶり』と『知らなさすぎ』で──」
「『知らなさすぎ』って、私の悪口?」
ラインの脳みそはようやくハーマイオニーに追いついた。ハーマイオニーは笑ったが、首を横に振った。
「ハーマイオニー、来いよ。踊ろうぜ」
いつのまにか、2人の前にロンが立っていた。ハーマイオニーはちょっとびっくりしたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに立ち上がり、差し出された手を取った。辺りを見回して、ラインは驚いた。ラインとハーマイオニーがお喋りに夢中になっている間に、会場の様子が一変していたからだ。花道があった場所にはダンスフロアが出現していて、ビルとフラー、それに彼らの両親たちがダンスを踊っている。
「行ってらっしゃい。ハーマイオニー」
ラインは友人に手を振った。ハーマイオニーが振り向いてにっこりした。なぜか彼女の目に再び涙が浮かんでいたので、ラインは不思議に思った。しかし、すぐに他のことに気を取られた。ロンとハーマイオニーがダンスフロアに足を踏み入れた途端、それまで演奏されていたワルツのような調べが「ウィーズリーは我が王者」に変わったからだ。ロンは辺りを睨めつけて犯人を探している。しかし、バンドマンたちはそしらぬ顔で演奏を続けていた。
「ドレスコードなんてクソくらえだ」
ラインの隣の席に、フレッドがどかっと腰を下ろして言った。ラインは彼のネクタイの結び目が、本来の位置よりも20センチほど下にあることに気が付いた。
「俺の結婚式には、パジャマでも着てきてくれよ」
「フレッドは誰と結婚するの?」
「ウィーズリーは我が王者」が元のワルツに戻ったことに気を取られながら、ラインはなんとなく質問した。
「アンジェリーナ」
フレッドはきっぱりと言った。ラインはフレッドの顔を見た。それから、彼がここ一年でデートした女の子たちの中に「アンジェリーナ」がいたかどうかを考えた。まず、マグルの雑貨屋の女の子は名前が違ったはず。あと、聖マンゴの受付のお姉さんの名前も違った気がする。それから、酒屋のお嬢さんは──
「俺は自由恋愛主義者なんでね」
ラインの考えを見透かしたように、フレッドがニヤッとした。
「もちろん、俺がこれまでにデートした女の子たちはみんなかわいいぜ。でも、俺のブラッジャーを打ち返せる女はあいつだけだ。人生という試合において──」
ラインは立ち上がった。ラインはもう、フレッドの話など聞いていなかった。恋人の姿を見つけたからだ。ジョージは壁際のテーブルでスイーツを物色しながら、シルバーブロンドを腰まで伸ばした綺麗な女の子──おそらく、フラーのいとこだろう──と楽しそうに喋っている。ラインは首を限界まで伸ばして2人を見つめた。初対面とは思えないくらい、話は盛り上がっているようだった。次の瞬間、ラインは息を呑んだ。ジョージが女の子の髪を触ったからだ。
「とんだ浮気野郎だな」
フレッドが言った。
「フレッドもでしょ!」
ラインは八つ当たりした。そして、ぷいとそっぽを向いた。今にも涙が溢れてしまいそうだった。
「あなたには、この人と踊る権利がありまーす」
突如、視界に銀色の光が差し込んだ。顔を上げると、目の前にフラーが立っていた。
「私の完璧なアズバンドに、小さな女の子みーんなが憧れていること、私は知っていまーす」
ラインはフラーを見つめた。彼女はお色直しをして、すっきりとした水色のドレスを見に纏っていた。彼女の姿があまりにも美しかったので、ラインの涙は引っ込んだ。フラーの隣に立っているビルが、おかしそうに笑いながらラインに手を差し出した。
「さあ、小さなプリンセス。お手をどうぞ」
ラインは立ち上がり、ビルの手を取った。
「心の広ーい花嫁に、彼は惚れ直すでしょーう」
フラーはラインに耳打ちしてにっこりした。ビルに手を引かれて、ラインはダンスフロアに出て行った。ワルツの調べに合わせて、ラインは揺れ始めた。しかし、すぐに誰かが、ラインの腰からビルの手を引き剥がした。
「自分の結婚式で、弟の恋人をたぶらかすなよ」
ジョージだった。彼は兄を睨みつけた。しかし、ビルは余裕そうに笑った。
「カリカリするなよ。もう義妹みたいなものだろ」
「そうだ!カリカリするな!」
突然、すさまじい浮遊感がラインを襲った。フレッドがラインの腰を掴んで高く持ち上げたからだった。彼が音楽に合わせてぐるぐると回転し始めたので、ラインはぎゃあぎゃあ言った。
「いくぞ、受け取れ!」
ターンした勢いのまま、フレッドはラインを放り投げた。ジョージは両手をのばして、ラインを抱き止めた。
「どいつもこいつもベタベタ触りやがって」
ジョージが恨めしげに言った。
「ジョージもあの子の髪を触ってた」
ラインは目を回しながらボソボソ言った。ジョージはわけが分からないという顔をした。ラインは壁際の席に座っているフラーのいとこを指差した。
「ほら──あの綺麗な子」
「君、お菓子だけじゃなくて餅も焼けるんだな」
ジョージは嬉しそうにニヤニヤした。
「おーい、ハリエット!ちょっと来いよ」
ジョージがフラーのいとこに呼びかけた。フラーのいとこは顔を上げると、ハイヒールをグラグラさせながらこちらに歩いてきた。ジョージはますますニヤニヤしながら彼女を待ち受けた。
「君のせいで、俺の恋人がやきもちを焼いてるんだ。説明してくれよ」
「──ごめん。僕、君を傷つけるつもりはなかったんだ」
フラーのいとこが言った。ラインは目をぱちぱちさせた。
「ライン、ほら、僕だよ。ハリーだ」
ラインはあんぐりと口を開けた。
「誤解しないで。僕、好きで女装してるわけじゃないんだ」
ハリーはきっぱりと言った。
「ムーディにやられたんだ。『敵を欺くには、まず味方から』とか何とか言われて──」
ハリーの顔がみるみるうちに情けない顔になったので、ラインは気の毒に思った。よく見ると、ハリエットのロングヘアにはパン屑が付いているし、ドレスの肩紐のリボンは今にも解けてしまいそうだった。ラインはリボンを結び直してあげようとした。しかし、その時、会場がどよめいた。ダンスフロアの真ん中に、銀色のオオヤマネコが現れたからだ。守護霊は縦に大きく口を開き、キングズリー・シャックルボルトの声で言った。
「魔法省が襲撃された。次はそちらだ」
ラインは状況を理解しようとして、辺りを見回した。ハリーが杖を抜き、ハイヒールを脱ぎ捨てたのが見えた。
「これは、これは──運命の導きに違いあるまい」
バシッという音がして、ラインの目の前にシルバーブロンドの死喰い人が現れた。
「我が息子の花嫁を見つけたぞ!」
ルシウス・マルフォイが叫んだ。
「──違う!」
誰かが負けじと怒鳴った。
「その子は私の息子の花嫁だ!」
ウィーズリーおじさんがルシウス・マルフォイの前に躍り出た。2人の杖先から閃光が飛び出してぶつかり合った。
「ジョージ、ラインを連れて本部に戻れ!」
ウィーズリーおじさんが叫んだ。ジョージはラインの腕を掴んで走り始めた。ラインはジョージに引き摺られながら、銀色の仮面を付けた死喰い人たちが、混乱した招待客の中に続々と「姿あらわし」するのを見た。
「プロテゴ、護れ!」
ジョージが杖を振った。ラインに向かって飛んできた赤い閃光が、ジョージの作り出した盾にぶつかって跳ね返った。息をつく間もなく、今度は黒く光る縄がラインの頭上に飛んできた。ラインはそれを避けようとして地面に突っ伏した。繋いでいたジョージの手が離れた。顔を上げると、目の前に銀色の仮面が現れた。ラインは条件反射で杖を振った。死喰い人の髪の毛が吹き飛んで、死喰い人がツルツル頭になった。死喰い人は怒りの叫び声を上げて、ラインに掴みかかろうとした。
「こっちだ!禿げ頭!」
誰かが叫んだ。ツルツル頭の死喰い人が鬼の形相で振り向いた。次の瞬間、ゴキっという鈍い音が響いた。シリウスが死喰い人の横っ面を殴り付けた音だった。死喰い人と取っ組み合っているシリウスの横を抜けて、ラインは会場の外に飛び出した。
「ライン、頑張れ。あと少しだ」
足をもつれされているラインの手を引っ張り、ジョージは会場の奥にある果樹園を突っ切った。それから、背の高い下草が生えている森の中へ入っていった。木々のあいだをしばらく走ってから、2人は立ち止まった。
「さあ、俺の腕に掴まるんだ」
ジョージはラインに左腕を差し出した。ラインはジョージの腕を掴んで「姿くらまし」しようとした。その時だった。
「動くな」
しわがれた男の声が言った。ラインは固まった。見回すと、木々の隙間から6本の杖が自分たちを狙っていた。
「お嬢ちゃん、こっちにおいで」
今度はぞっとするような猫撫で声が言った。
「いい子にしていれば、なーんにもしないよ」
木の陰から女の死喰い人が現れた。ラインは思わずジョージの背中に隠れた。女の顔と、その残酷な罪状が日刊予言者新聞に載っているのを見たことがあったからだ。
「一緒にお家へ帰ろう。ドラコが待ってるよ」
ベラトリックス・レストレンジが血走った目で薄ら笑い、ラインを手招きした。
「おいおい、市場調査が足りてないぞ」
ジョージは動じなかった。
「この子をおびき寄せたいなら、甘いものを使うべきだ」
「黙れ、赤毛」
ベラトリックスの薄ら笑いが消えて、眉が吊り上がった。
「どうして、マルフォイは私と結婚したいの?」
ラインは震える声で質問した。話し続けることしか、他に方法を思い付かなかった。誰かがこの状況に気がついて、助けに来てくれますようにとラインは願った。
「そりゃあ、もちろん、闇の帝王のお役に立ちたいからさ」
ベラトリックスの目が狂信的な熱っぽさに輝いた。
「どうして、マルフォイと私が結婚することが、闇の帝王の役に立つの?」
ラインは再び質問した。
「まさか、お嬢ちゃん、自分の血の価値が分からないのかい?」
ベラトリックスは信じられないという顔をした。それから、隣の死喰い人にコソコソと何か言った。ラインには、彼女の唇が「想像以上のアホ」と動いたように見えた。しかし、ラインはさほどアホではなかった。ヴォルデモートが自分の血を手に入れたがっていることを理解できた。ラインはジョージに聞いた。
「私、この人たちに捕まったら、血を抜かれるのかな?」
「違う。こいつらは君にもっと酷いことをする」
ジョージの手は怒りに震えていた。
「黙れ、赤毛」
ベラトリックスが唸り、血走った目でジョージを睨み付けた。
「次に口をきいたら、命はないと思え」
「嫌だね。俺はおまえの命令には従わない。それに、この子を連れて行きたいのなら、どのみち俺を殺すことになるぞ」
ジョージがベラトリックスを睨み返した。ベラトリックスは杖を振り上げた。
「もちろんそうしてやるさ」
「やめて!彼を傷つけないで!」
ラインはジョージの前に飛び出した。ベラトリックスは高笑いし、ラインの声色を真似した。
「『やめて!彼を傷つけないで!』だとよ。泣かせるねえ」
死喰い人たちが声を上げて笑った。
「ジョージ、逃げて」
ラインは懇願した。ジョージの命を危険に晒すくらいなら、ヴォルデモートに自ら捕まるほうがましだと思った。しかし、ジョージは動かなかった。覚悟を決めたような顔で、彼はラインにキスした。
「お嬢ちゃん、時間切れだよ」
ベラトリックスがぞっとするような声で言った。ベラトリックスの杖から赤い閃光が放たれるのを、ラインは視界に捉えた。しかし、ベラトリックスの呪文は2人に届かなかった。半透明の膜が、ラインとジョージを取り囲むように覆ったからだ。ベラトリックスが絶叫した。死喰い人たちは次々と呪文を放った。半透明の膜は死喰い人たちの放った色とりどりの閃光を取り込み、虹色に輝き始めた。
ラインがイルミネーションを呆然と見上げていると、ジョージがラインの腕を掴んだ。それから、ラインは彼がその場で回転するのを感じた。ラインは空間の狭間に押し込まれた。次に目を開けた時、ラインが見上げていたのは、グリモールド・プレイスの玄関のドアだった。ドアを開けて、2人は玄関ホールのマットの上になだれ込んだ。
「なかなかスリリングだったぜ」
ジョージが掠れた声で言った。ラインは全身から力が抜けて、声が出せなかった。その代わり、ラインのお腹がかすかに、ぐぅーと情けない返事をした。
「まさか、君、腹が減ったのか?」
ジョージはニヤニヤを取り戻した。どうして自分のお腹が鳴ったのか、ラインは考えた。それから、ジョージの胸に顔をうずめて、小さな声で言った。
「だって──レモン・キャンディの匂いがしたんだもの」