the Deathly Hallows
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「ライン、頼みがある」
食堂に入ってくるなり、シリウスが苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「君の"頑固おやじ"を説得してくれ」
「シリウス、人様のご家族のことをそんな風に呼ぶべきではないよ」
たしなめるような声が聞こえた。シリウスに続いて食堂に入ってきたウィーズリーおじさんの声だった。
「しかし、ライン。たしかに君に口添えしてもらえたら、交渉は上手くいくかもしれない。残念ながら、私たちの話は聞き入れてもらえなくてね」
ウィーズリーおじさんはラインに向けて微笑んだ。しかし、彼の口角は疲労でピクピクと痙攣していた。ラインは生クリームをかき混ぜる手を止めて、張り切って頷いた。今こそ、未来の義父に恩を売るチャンスだ。
「また君たちか」
玄関の呼び鈴を鳴らすと、ドアの向こうで聞き慣れた声が答えた。
「何度来たって、私の考えは変わらないぞ」
「連日申し訳ありません、マーリンさん。しかし、今日は特別なゲストをお連れして──」
「パパ、私だよ!」
ラインは玄関の外階段の一番上でぴょんぴょんと飛び跳ねた。ドアの覗き穴からこちらの様子を伺っている父が、自分の姿を見つけられるようにするためだ。
「──ライン!」
玄関のドアが勢いよく開いた。父が飛び出してきて、ラインをきつく抱きしめた。父はラインの顔をまじまじと見つめたあと、確かめるようにほっぺの肉をつまんだ。それから、安心したようににっこりした。
「いいものを食わせてもらっているな」
「うん。パパにもおすそ分けするね。今朝、焼いたばかりのキャラメルスコーンだよ」
ラインはキャラメルスコーンの入った紙袋を父に差し出した。父の懐柔の仕方をラインはよく知っていた。父は嬉しそうに紙袋を受け取ると、ラインたちを家の中に招き入れた。
「ライン、パパのことは気にするな。パパは悪党なんて怖くないぞ」
人数分の紅茶カップをテーブルに置くや否や、父は自信満々に言った。
「でもね、パパ。悪党は魔法が使えるんだよ。死喰い人はパパを捕まえたら、私の居場所を見つけだそうとして、パパを痛めつけるよ」
「そのことなら問題ない」
角砂糖を紅茶に沈めながら、父は胸を張った。
「パパはどんなに痛めつけられたって、お前の居場所を吐いたりしない」
「私、パパが痛めつけられるのは嫌だよ。お願いだから、騎士団の警護を受けて、身を隠して」
ラインは懇願した。
「死喰い人は躊躇いなくあなたを殺すだろう。マグル殺しを娯楽にするような連中だ」
シリウスが低い声で言った。
「この残酷な殺人事件も──」
ウィーズリーおじさんがダイニングテーブルの上に置いてある新聞の一面記事を指差して畳みかけた。
「先週のハリケーンだって、裏では例のあの人が手を引いているに違いありません」
「それならなおさらだ」
父が決然とした声で言った。
「市民が危険に晒されているというのに、自分だけ隠れるというのは性に合わない。それに、私の仕事は──」
「仕事なんてどうでもいい。あなたは自分の命を守ることを優先するべきだ」
シリウスが語気を強めた。
「どうでもよくはない!あなたは仕事をしているのに、なぜ私は仕事をしてはいけない?」
父はシリウスを睨みつけた。
「パパ、これはチャンスだよ」
ラインは自分の役目を果たそうと躍起になった。
「ほら、前に『この勤務体制で働き続けるくらいなら、パリへ行ってパティシエの修行でもしてやる』って言ってたじゃない」
「それは一時の気の迷いだ」
父はピシャリと言った。それから、立ち上がって3人を見回した。
「誰に何を言われようと、私は逃げも隠れもしない。勇気や正義は魔法使いだけのものではない!」
ラインは父が正真正銘の頑固おやじであることを認めた。キャラメルスコーンの入った紙袋を大事そうに抱えながら、こちらに手を振る父の姿を見て、ラインはポロポロと泣いた。父のことが心配だった。姿くらましをして、グリモールド・プレイスの玄関の外階段の上に降り立ってから、シリウスがラインの頭をポンと撫でて言った。
「かっこいい"頑固おやじ"だな」
────
「あと10分……あと9分30秒……」
壁の時計をしきりに確認しながら、ウィーズリーおばさんは玄関ホールをぐるぐると歩き回っている。ラインとジニーは並んで窓にへばり付き、外の暗闇に目を凝らしていた。3人とも「7人のハリー・ポッター」の帰還を待っているのだ。
「ああ、あの子たち、無事に出発できたのかしら……」
ウィーズリーおばさんの顔は蒼白だった。当然のことだとラインは思った。プリペッド通りの家からハリーを連れ出すために、彼女の夫と息子たちが5人も命を危険に晒しているのだから。
「ねえねえ、ジニー」
緊張に耐え切れず、ラインは喋り始めた。いま、ロンドンの上空で起きていることを考えるのが怖かった。
「この前、ハリーの胸にハンガリー・ホーンテールの刺青があるって教えてくれたじゃない?」
「ええ、そうよ」
ジニーは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにニヤッとした。その顔がジョージにそっくりだったので、ラインは胸がドキドキした。
「それって、どういう時に見たの?」
「見て!」
ジニーが窓の外を指差して叫んだ。暗闇に青白い光が現れて、どんどん大きくなった。青白い光は人影になって、グリモールド・プレイスの玄関の外階段の上に降り立った。ラインとジニーは玄関ホールに駆け込んだ。ウィーズリーおばさんが玄関の扉を開けた。4人の仲間が玄関マットの上になだれ込んだ。髪の毛が途中でちぎれてボサボサになっているハーマイオニーを助け起こそうと、ラインは玄関マットにかがみ込んだ。
「飛び立った途端、敵に囲まれた」
キングズリーがいち早く立ち上がった。
「奴らは今夜だということを知っていた」
「誰かが裏切ったわ。次にここへ到着する人たちを尋問しなければならない」
トンクスは今までに見たことがない顔をしていた。ラインは彼女が闇払いであることを思い出した。
「大丈夫。すぐに元通りに伸びるさ。それに、どんな髪型だって──」
ロンがハーマイオニーの背中を優しく撫でて言った。
「君は素敵だ」
ハーマイオニーは嬉しそうにはにかんだ。しかし、ロン以外、誰もその笑顔を見ていなかった。窓の外に、再び青白い光が現れたからだ。
「ハリーだわ!」
ジニーが叫んで、外に飛び出そうとした。しかし、トンクスがジニーを押さえた。玄関の扉が開いて、ハグリッドとハリーが飛び込んできた。トンクスはハリーに杖を突き付けた。
「ハリー・ポッターが初めてニンファドーラ・トンクスに会った日、彼女の髪は何色だった?」
「ふ──風船ガムのピンク色」
ハリーが喘ぎながら答えた。トンクスは杖を下ろした。ジニーが飛びついて、ハリーをしっかりと抱きしめた。ラインはキッチンに走り、棚からブランデーの瓶を取って戻った。青い顔をしたハグリッドが受け取った。それから、ハグリッドは瓶の栓を開けてブランデーを一気に飲み干した。
「ふう……骨が折れた時はこれに限るわい」
ハグリッドの顔に赤みが戻った。
「なあ、ライン、ブランデーはもう一本ねえかな?」
「あるよ。いま取ってくるね」
そう言ってから、ラインはハッとして振り向いた。
「ねえ、ハグリッドは本物?」
「ええ、彼は間違いなく本人よ。だって、ポリジュース薬はヒトの使用に限定されているもの」
ハーマイオニーが苦々しい顔で言った。ラインは友人が猫になった事件を思い出した。ハグリッドは大笑いした。その時だった。窓の外に再び青白い光が現れた。キングズリーが杖を構えて、玄関の扉を開けた。ルーピンとジョージが寄り添うようにして現れた。ジョージに駆け寄ろうとして、ラインは固まった。彼の左半身が驚くほど真っ赤に染まっていたからだ。ハグリッドが立ち上がり、気を失っているジョージを抱えて居間へ運んだ。ジョージが怪我をした理由について、ルーピンが何か話していたけれど、ラインの頭には入ってこなかった。
「この子は運が良かったわ……命が助かったんですもの」
ウィーズリーおばさんが啜り泣きながら杖を振った。ジョージの頭の横から流れている血が止まり、傷口が綺麗になった。ラインはジョージが寝かされているソファの後ろに立ち、彼の左耳があった場所にぽっかりと開いた穴を見つめた。
「もちろん、この子は大丈夫よ。片耳がなくなったくらいで、へこたれるはずがないわ」
ウィーズリーおばさんは涙を拭い、気丈にもラインに笑いかけた。自分が大声を上げて泣いていることに、ラインはそのとき気がついた。それからしばらくして、再び玄関の扉が開く音が聞こえた。ウィーズリーおばさんは毒々しい色の軟膏をラインの手に握らせて、玄関ホールへ向けて駆け出した。
「アーサー!フレッド!」
家族が再会を喜ぶ声を聞きながら、ラインはソファの横に膝をついた。それから、ジョージの頭の上にかがみ込んで、傷口に軟膏を塗り始めた。傷口に涙が落ちたら痛いだろうと思ったので、泣くのはやめた。
「……いいねえ」
胸の下あたりから小さな声が聞こえた。ラインは息を詰めてジョージの顔を見た。ジョージの目が開いていた。
「ものすごくいい」
ジョージが今度ははっきりと言った。ラインはいったん唾を飲み込んでから、慎重に聞いた。
「ジョージ、何がいいの?」
「"眺め"がいいぜ」
ラインの襟元からブラウスの中を覗き込んで、ジョージはニヤニヤした。
「ピグミーパフの刺青でも入れておけばよかった」
恥ずかしさのあまり、ラインはわけのわからないことを口走った。ジョージはニヤニヤを口元に残したまま、再び目を閉じた。ラインはジョージの顔をまじまじと見つめた。血がほとんど残っていないのではないかと思うくらい、彼の顔は真っ白だった。
「かわいそうに」
ラインはジョージの頭をそっと撫でた。
「痛かったよね」
「……ああ、痛かったぜ」
ジョージが再び目を開けた。
「でも、耳を刈り取られたのが君じゃなくてよかった」
ジョージは手を伸ばしてラインの耳に触れた。
「耳は大事なところだからな」
「あっ」
ラインは肩を跳ねさせた。突然、ジョージの指が耳の中に入ってきたからだ。
「……いいねえ」
ジョージはそう言ったきり、目を閉じて何も喋らなくなった。ラインは深呼吸して呼吸を整えた。ジョージに触られた耳のあたりが、なんだか変な感じだった。
しばらくすると、玄関ホールから大きな歓声が聞こえてきた。おそらく、最後のグループが到着したのだろう。ラインは居間の扉を開けて、玄関ホールの様子が見えるようにした。仲間の人数を数えて、ラインはガッツポーズをした。全員が戻っている。
「こいつは骨のある奴だ!」
ムーディーがセドリックの背中をバンと叩いて吠えた。
「闇の帝王は真っ先に我々を追ってきた。もちろん、本物のポッターを護衛するのは、最もタフで熟練の闇払いだと考えたからだろう。テムズ川の上空で闇の帝王は我々の目前に迫った。しかし、この男は勇敢にも、杖を構えて戦った!」
「そんな、当たり前のことだ」
セドリックは謙遜した。
「当たり前のことではない!」
シリウスが嬉しそうに雄叫びを上げた。彼の体内ではまだアドレナリンが放出され続けているのだろうとラインは思った。
「普通の人間ならば、恐怖に駆られて逃げ出すだろう!」
ラインは想像した。もし、黒いフードを被った鼻のない化け物が目の前に現れたら……自分は失神してしまうかもしれない。
「やれやれ」
ラインはハッとして振り向いた。ジョージの目が開いていた。
「無事じゃないのは俺の耳だけかい?何よりだぜ」
ラインはジョージに駆け寄り、彼が体を起こすのを手伝った。彼の顔はまだ真っ青だった。ラインはたまらない気持ちになって、ジョージの手をぎゅっと握り締めた。
「私がずっと看病してあげるからね」
「看病っていうのは、たとえば、何をしてくれるんだい?」
ジョージが聞いた。ラインはちょっと考えた。
「うーん。たとえば、軟膏を塗ったり、プリンを食べさせたり。ジョージがして欲しいことは何でもしてあげるよ」
「へえ、何でも?」
ジョージはニヤニヤした。
「じゃあ、手始めにそこの扉を閉めてくれよ」
ジョージは玄関ホールに続く扉を指差した。ラインは不思議に思いながらも、扉を閉めようとドアノブに手をかけた。
「どれ!見せてみろ!」
大声に驚いて、ラインは飛び退いた。閉めかけた扉がバーンと開いて、ムーディーが部屋の中に突入してきた。
「わしならば、耳を蘇生できるかもしれん!しかし、荒治療になるぞ!」
「いまじゃなくていい!」
ジョージが叫んだ。
「せっかく、いいところだったのに!」
ムーディーは大声を上げて笑い、杖を取り出した。
「さあ、男ども!四肢を押さえろ!」
シリウスとフレッドがジョージの手足を嬉々として押さえつけた。ムーディーが杖を振るたびに、ジョージは喚き散らし、大声で悪態をついた。ラインは怯えて、壁に背中がくっつくまで後退りした。そしてふと、ハリーが隣に立っていることに気がついた。彼は申し訳なさそうな顔でジョージを見つめている。
「あなたが胸に刺青を入れた時も、あのくらい痛かった?」
ラインは薄目でジョージの様子を見守りながら聞いた。
「僕……刺青……えっ?」
ハリーはわけがわからないという顔をした。ラインは首を捻った。なぜかジニーが床に転がり、息もできないほど大笑いしていた。
食堂に入ってくるなり、シリウスが苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「君の"頑固おやじ"を説得してくれ」
「シリウス、人様のご家族のことをそんな風に呼ぶべきではないよ」
たしなめるような声が聞こえた。シリウスに続いて食堂に入ってきたウィーズリーおじさんの声だった。
「しかし、ライン。たしかに君に口添えしてもらえたら、交渉は上手くいくかもしれない。残念ながら、私たちの話は聞き入れてもらえなくてね」
ウィーズリーおじさんはラインに向けて微笑んだ。しかし、彼の口角は疲労でピクピクと痙攣していた。ラインは生クリームをかき混ぜる手を止めて、張り切って頷いた。今こそ、未来の義父に恩を売るチャンスだ。
「また君たちか」
玄関の呼び鈴を鳴らすと、ドアの向こうで聞き慣れた声が答えた。
「何度来たって、私の考えは変わらないぞ」
「連日申し訳ありません、マーリンさん。しかし、今日は特別なゲストをお連れして──」
「パパ、私だよ!」
ラインは玄関の外階段の一番上でぴょんぴょんと飛び跳ねた。ドアの覗き穴からこちらの様子を伺っている父が、自分の姿を見つけられるようにするためだ。
「──ライン!」
玄関のドアが勢いよく開いた。父が飛び出してきて、ラインをきつく抱きしめた。父はラインの顔をまじまじと見つめたあと、確かめるようにほっぺの肉をつまんだ。それから、安心したようににっこりした。
「いいものを食わせてもらっているな」
「うん。パパにもおすそ分けするね。今朝、焼いたばかりのキャラメルスコーンだよ」
ラインはキャラメルスコーンの入った紙袋を父に差し出した。父の懐柔の仕方をラインはよく知っていた。父は嬉しそうに紙袋を受け取ると、ラインたちを家の中に招き入れた。
「ライン、パパのことは気にするな。パパは悪党なんて怖くないぞ」
人数分の紅茶カップをテーブルに置くや否や、父は自信満々に言った。
「でもね、パパ。悪党は魔法が使えるんだよ。死喰い人はパパを捕まえたら、私の居場所を見つけだそうとして、パパを痛めつけるよ」
「そのことなら問題ない」
角砂糖を紅茶に沈めながら、父は胸を張った。
「パパはどんなに痛めつけられたって、お前の居場所を吐いたりしない」
「私、パパが痛めつけられるのは嫌だよ。お願いだから、騎士団の警護を受けて、身を隠して」
ラインは懇願した。
「死喰い人は躊躇いなくあなたを殺すだろう。マグル殺しを娯楽にするような連中だ」
シリウスが低い声で言った。
「この残酷な殺人事件も──」
ウィーズリーおじさんがダイニングテーブルの上に置いてある新聞の一面記事を指差して畳みかけた。
「先週のハリケーンだって、裏では例のあの人が手を引いているに違いありません」
「それならなおさらだ」
父が決然とした声で言った。
「市民が危険に晒されているというのに、自分だけ隠れるというのは性に合わない。それに、私の仕事は──」
「仕事なんてどうでもいい。あなたは自分の命を守ることを優先するべきだ」
シリウスが語気を強めた。
「どうでもよくはない!あなたは仕事をしているのに、なぜ私は仕事をしてはいけない?」
父はシリウスを睨みつけた。
「パパ、これはチャンスだよ」
ラインは自分の役目を果たそうと躍起になった。
「ほら、前に『この勤務体制で働き続けるくらいなら、パリへ行ってパティシエの修行でもしてやる』って言ってたじゃない」
「それは一時の気の迷いだ」
父はピシャリと言った。それから、立ち上がって3人を見回した。
「誰に何を言われようと、私は逃げも隠れもしない。勇気や正義は魔法使いだけのものではない!」
ラインは父が正真正銘の頑固おやじであることを認めた。キャラメルスコーンの入った紙袋を大事そうに抱えながら、こちらに手を振る父の姿を見て、ラインはポロポロと泣いた。父のことが心配だった。姿くらましをして、グリモールド・プレイスの玄関の外階段の上に降り立ってから、シリウスがラインの頭をポンと撫でて言った。
「かっこいい"頑固おやじ"だな」
────
「あと10分……あと9分30秒……」
壁の時計をしきりに確認しながら、ウィーズリーおばさんは玄関ホールをぐるぐると歩き回っている。ラインとジニーは並んで窓にへばり付き、外の暗闇に目を凝らしていた。3人とも「7人のハリー・ポッター」の帰還を待っているのだ。
「ああ、あの子たち、無事に出発できたのかしら……」
ウィーズリーおばさんの顔は蒼白だった。当然のことだとラインは思った。プリペッド通りの家からハリーを連れ出すために、彼女の夫と息子たちが5人も命を危険に晒しているのだから。
「ねえねえ、ジニー」
緊張に耐え切れず、ラインは喋り始めた。いま、ロンドンの上空で起きていることを考えるのが怖かった。
「この前、ハリーの胸にハンガリー・ホーンテールの刺青があるって教えてくれたじゃない?」
「ええ、そうよ」
ジニーは一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにニヤッとした。その顔がジョージにそっくりだったので、ラインは胸がドキドキした。
「それって、どういう時に見たの?」
「見て!」
ジニーが窓の外を指差して叫んだ。暗闇に青白い光が現れて、どんどん大きくなった。青白い光は人影になって、グリモールド・プレイスの玄関の外階段の上に降り立った。ラインとジニーは玄関ホールに駆け込んだ。ウィーズリーおばさんが玄関の扉を開けた。4人の仲間が玄関マットの上になだれ込んだ。髪の毛が途中でちぎれてボサボサになっているハーマイオニーを助け起こそうと、ラインは玄関マットにかがみ込んだ。
「飛び立った途端、敵に囲まれた」
キングズリーがいち早く立ち上がった。
「奴らは今夜だということを知っていた」
「誰かが裏切ったわ。次にここへ到着する人たちを尋問しなければならない」
トンクスは今までに見たことがない顔をしていた。ラインは彼女が闇払いであることを思い出した。
「大丈夫。すぐに元通りに伸びるさ。それに、どんな髪型だって──」
ロンがハーマイオニーの背中を優しく撫でて言った。
「君は素敵だ」
ハーマイオニーは嬉しそうにはにかんだ。しかし、ロン以外、誰もその笑顔を見ていなかった。窓の外に、再び青白い光が現れたからだ。
「ハリーだわ!」
ジニーが叫んで、外に飛び出そうとした。しかし、トンクスがジニーを押さえた。玄関の扉が開いて、ハグリッドとハリーが飛び込んできた。トンクスはハリーに杖を突き付けた。
「ハリー・ポッターが初めてニンファドーラ・トンクスに会った日、彼女の髪は何色だった?」
「ふ──風船ガムのピンク色」
ハリーが喘ぎながら答えた。トンクスは杖を下ろした。ジニーが飛びついて、ハリーをしっかりと抱きしめた。ラインはキッチンに走り、棚からブランデーの瓶を取って戻った。青い顔をしたハグリッドが受け取った。それから、ハグリッドは瓶の栓を開けてブランデーを一気に飲み干した。
「ふう……骨が折れた時はこれに限るわい」
ハグリッドの顔に赤みが戻った。
「なあ、ライン、ブランデーはもう一本ねえかな?」
「あるよ。いま取ってくるね」
そう言ってから、ラインはハッとして振り向いた。
「ねえ、ハグリッドは本物?」
「ええ、彼は間違いなく本人よ。だって、ポリジュース薬はヒトの使用に限定されているもの」
ハーマイオニーが苦々しい顔で言った。ラインは友人が猫になった事件を思い出した。ハグリッドは大笑いした。その時だった。窓の外に再び青白い光が現れた。キングズリーが杖を構えて、玄関の扉を開けた。ルーピンとジョージが寄り添うようにして現れた。ジョージに駆け寄ろうとして、ラインは固まった。彼の左半身が驚くほど真っ赤に染まっていたからだ。ハグリッドが立ち上がり、気を失っているジョージを抱えて居間へ運んだ。ジョージが怪我をした理由について、ルーピンが何か話していたけれど、ラインの頭には入ってこなかった。
「この子は運が良かったわ……命が助かったんですもの」
ウィーズリーおばさんが啜り泣きながら杖を振った。ジョージの頭の横から流れている血が止まり、傷口が綺麗になった。ラインはジョージが寝かされているソファの後ろに立ち、彼の左耳があった場所にぽっかりと開いた穴を見つめた。
「もちろん、この子は大丈夫よ。片耳がなくなったくらいで、へこたれるはずがないわ」
ウィーズリーおばさんは涙を拭い、気丈にもラインに笑いかけた。自分が大声を上げて泣いていることに、ラインはそのとき気がついた。それからしばらくして、再び玄関の扉が開く音が聞こえた。ウィーズリーおばさんは毒々しい色の軟膏をラインの手に握らせて、玄関ホールへ向けて駆け出した。
「アーサー!フレッド!」
家族が再会を喜ぶ声を聞きながら、ラインはソファの横に膝をついた。それから、ジョージの頭の上にかがみ込んで、傷口に軟膏を塗り始めた。傷口に涙が落ちたら痛いだろうと思ったので、泣くのはやめた。
「……いいねえ」
胸の下あたりから小さな声が聞こえた。ラインは息を詰めてジョージの顔を見た。ジョージの目が開いていた。
「ものすごくいい」
ジョージが今度ははっきりと言った。ラインはいったん唾を飲み込んでから、慎重に聞いた。
「ジョージ、何がいいの?」
「"眺め"がいいぜ」
ラインの襟元からブラウスの中を覗き込んで、ジョージはニヤニヤした。
「ピグミーパフの刺青でも入れておけばよかった」
恥ずかしさのあまり、ラインはわけのわからないことを口走った。ジョージはニヤニヤを口元に残したまま、再び目を閉じた。ラインはジョージの顔をまじまじと見つめた。血がほとんど残っていないのではないかと思うくらい、彼の顔は真っ白だった。
「かわいそうに」
ラインはジョージの頭をそっと撫でた。
「痛かったよね」
「……ああ、痛かったぜ」
ジョージが再び目を開けた。
「でも、耳を刈り取られたのが君じゃなくてよかった」
ジョージは手を伸ばしてラインの耳に触れた。
「耳は大事なところだからな」
「あっ」
ラインは肩を跳ねさせた。突然、ジョージの指が耳の中に入ってきたからだ。
「……いいねえ」
ジョージはそう言ったきり、目を閉じて何も喋らなくなった。ラインは深呼吸して呼吸を整えた。ジョージに触られた耳のあたりが、なんだか変な感じだった。
しばらくすると、玄関ホールから大きな歓声が聞こえてきた。おそらく、最後のグループが到着したのだろう。ラインは居間の扉を開けて、玄関ホールの様子が見えるようにした。仲間の人数を数えて、ラインはガッツポーズをした。全員が戻っている。
「こいつは骨のある奴だ!」
ムーディーがセドリックの背中をバンと叩いて吠えた。
「闇の帝王は真っ先に我々を追ってきた。もちろん、本物のポッターを護衛するのは、最もタフで熟練の闇払いだと考えたからだろう。テムズ川の上空で闇の帝王は我々の目前に迫った。しかし、この男は勇敢にも、杖を構えて戦った!」
「そんな、当たり前のことだ」
セドリックは謙遜した。
「当たり前のことではない!」
シリウスが嬉しそうに雄叫びを上げた。彼の体内ではまだアドレナリンが放出され続けているのだろうとラインは思った。
「普通の人間ならば、恐怖に駆られて逃げ出すだろう!」
ラインは想像した。もし、黒いフードを被った鼻のない化け物が目の前に現れたら……自分は失神してしまうかもしれない。
「やれやれ」
ラインはハッとして振り向いた。ジョージの目が開いていた。
「無事じゃないのは俺の耳だけかい?何よりだぜ」
ラインはジョージに駆け寄り、彼が体を起こすのを手伝った。彼の顔はまだ真っ青だった。ラインはたまらない気持ちになって、ジョージの手をぎゅっと握り締めた。
「私がずっと看病してあげるからね」
「看病っていうのは、たとえば、何をしてくれるんだい?」
ジョージが聞いた。ラインはちょっと考えた。
「うーん。たとえば、軟膏を塗ったり、プリンを食べさせたり。ジョージがして欲しいことは何でもしてあげるよ」
「へえ、何でも?」
ジョージはニヤニヤした。
「じゃあ、手始めにそこの扉を閉めてくれよ」
ジョージは玄関ホールに続く扉を指差した。ラインは不思議に思いながらも、扉を閉めようとドアノブに手をかけた。
「どれ!見せてみろ!」
大声に驚いて、ラインは飛び退いた。閉めかけた扉がバーンと開いて、ムーディーが部屋の中に突入してきた。
「わしならば、耳を蘇生できるかもしれん!しかし、荒治療になるぞ!」
「いまじゃなくていい!」
ジョージが叫んだ。
「せっかく、いいところだったのに!」
ムーディーは大声を上げて笑い、杖を取り出した。
「さあ、男ども!四肢を押さえろ!」
シリウスとフレッドがジョージの手足を嬉々として押さえつけた。ムーディーが杖を振るたびに、ジョージは喚き散らし、大声で悪態をついた。ラインは怯えて、壁に背中がくっつくまで後退りした。そしてふと、ハリーが隣に立っていることに気がついた。彼は申し訳なさそうな顔でジョージを見つめている。
「あなたが胸に刺青を入れた時も、あのくらい痛かった?」
ラインは薄目でジョージの様子を見守りながら聞いた。
「僕……刺青……えっ?」
ハリーはわけがわからないという顔をした。ラインは首を捻った。なぜかジニーが床に転がり、息もできないほど大笑いしていた。