the Half-Blood Prince
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「どうして、ハリーはホグズミードに行かないの?」
「イタチ野郎を追いかけるのに夢中だからさ」
フィルチに「詮索センサー」で突っつかれながら、ロンが呆れたように言った。
「イタチ野郎って、誰のこと?」
「マルフォイのことよ」
ラインの耳に顔を寄せて、ハーマイオニーが説明し始めた。
「今日は1日中、8階の廊下を監視するんですって。必要の部屋でマルフォイが何をやっているのか暴かないと、ハリーは気が済まないのよ」
「──へえ」
「ライン、ほら、あなたの番よ」
ハーマイオニーに小突かれたので、ラインは慌ててホグズミード許可証をフィルチに差し出した。
「でも、私、こう言ったの。マルフォイにちょっかいを出している暇があるのなら、スラグホーン先生を説得するべきだって」
残念なことに、ハーマイオニーの話はラインの頭に入ってこなかった。フィルチが眉間にしわを寄せて、ラインのホグズミード許可証を3回も名簿と照らし合わせたからだ。
「だって、ハリーが今やるべきことは、スラグホーン先生の本当の記憶を手に入れることなんですもの」
「まったく、ハーマイオニーの言うとおりだ」
へつらうように頷くロンを見た時、突然、ラインの頭は冴え渡った。先月の終わりにロンはラベンダーと別れた。そして、ハーマイオニーはもともとマクラーゲンなんか好きじゃなかった。つまり、自分はいま──おじゃま虫である。
無事に検閲をくぐり抜けて、3人でホグズミードの大通りに足を踏み入れたあと、ラインは友人たちの隣からフェードアウトした。今日はロンとハーマイオニーを2人きりにしてあげよう。ラインはキョロキョロと辺りを見回して身を隠す場所を探した。大通りに面した店はだめだ。すぐに2人に見つかってしまうだろう。裏の路地に入ると、途端に人気が無くなった。ラインは路地の突き当たりまで進んだ。そして、そこに小さなアンティークショップがあるのを見つけた。
「よし。ここで時間を潰そう」
扉を開けると、鈴がチリンと鳴った。奥のカウンターで魔法具を磨いていた初老の魔法使いが驚いたように顔を上げた。おそらく、彼が店主だろう。とりあえず、ラインは鼻から大きく息を吸った。
「プティングの匂いがする」
ラインは全神経を鼻に集中させた。そして、窓際にある木製の棚に狙いを定めた。
「あれだ」
ラインはつかつかと店内を進み、棚の真ん中の段に積み上げられている古びた羊皮紙を手に取った。
────────────────────
12月6日
今日はプチングを焦がした。どうやら、ドラゴンの心臓を裂いた直後に菓子を作ってはならぬ。それでも、甘いものは良い。心に嵐が起きた時、最も有効なのは「甘味」と「呼吸」である。
2月3日
今日はブリテン王よりチョコレイトなるものを頂いた。実に官能的な風味であった。まるで、地動を変化させた時の高揚のよう。つまり、「怒り」ではなく「感応」で変化させるということ。しかし、手は甚だしく汚れる。
9月17日
魔法とは蜜玉のようなもの。高ければ割れ、低ければ濁る。私がスフィンクスを眠らせた時、山脈を歩かせた時、鍵はいつも「適温」であった。それが舌に溶ける時、最も滑らかで強い力が生まれるであろう。
────────────────────
ラインはその場に呆然と立ち尽くした。まるで、雷に撃たれたような衝撃だった。
「それはね、マーリンの日記の一部だと言われているんだよ」
ふと、柔らかな煙草の匂いが鼻を掠めた。いつのまにか、店主が隣に立っていた。
「私なんかは、読んだって、まったく意味が分からないけどね」
ラインは口を半開きにしたまま、羊皮紙と店主を交互に見つめた。
「きっと、お嬢ちゃんには意味が分かったんだね」
ラインは頷いた。全てがしっくりきた。生まれてはじめて、自分にも分かるように、魔法の使い方を説明してもらった気がした。
「気に入ったのなら、差し上げよう。もう50年間、そこに置いてあったんだから」
ラインは感激して、手持ちのチョコレートを全て店主に押し付けてから店を後にした。おこがましいけれど、マーリンってちょっと自分に似ている気がする。例えば、面白いことが起きた時、それを日記に書き付けるところとか。でも、結局は食べ物のことばかり書いているところとか。
興奮冷めやらぬまま、ラインは大通りに戻った。そして、「グラドラグス魔法ファッション店」に入った。2ヶ月後には夏休みだ。絶対にジョージとデートしたい。とりあえず、新しい服を買っておこう。ラインはうきうきしながら店内を物色した。
「わあ、これ、大人っぽい」
ラインはつやつやした黒い生地のワンピースを手に取った。ウエストがキュッと絞られていて、スタイルがよく見えそうだ。しかし、ラインは唸った。黒いワンピースの隣に、同じ型の白いワンピースがあるのを見つけたからだ。
「どっちの色がいいかな」
2つのワンピースを持って、ラインは大きな鏡の前に移動した。白と黒のワンピースを交互に体に当ててみる。
「うーん、迷うなあ」
「白の方がいい。清潔感がある」
気取った声が聞こえたので、ラインはげっそりした。顔を上げると、案の定、ドラコ・マルフォイが鏡の中からこちらを覗いていた。今日はハリーと追いかけっこしているんじゃなかったっけ?
「気に入ったなら、僕が買ってやろう」
マルフォイは例のわざとらしい紳士的な微笑みを浮かべて、ラインの手からワンピースをもぎ取ろうとした。しかし、ラインはワンピースを渡さなかった。マルフォイを警戒していたからだ。いくらなんでも、いまだにラブ・ポーションの効果が切れていないのはおかしい。
「──ああ、そうか。サイズを確かめる必要があるな。着てみろ」
マルフォイはワンピースをもぎ取るのを諦めて、今度はラインのカバンに手を伸ばした。ラインはますます警戒して、胸の前でカバンを抱きしめた。
「お前が試着している間、カバンを持っていてやる──と言っているんだ」
ラインの血の巡りの悪さに、マルフォイはイライラしているようだった。マルフォイはラインのカバンを掴んで、自分の方に引っ張った。ラインは慌てた。カバンを乱雑に扱わないで欲しい。だって、カバンの中には、さっきアンティークショップで貰ったマーリンの日記が入っているんだもの。
「やめて、お願い」
ラインが懇願すると、マルフォイの顔にいやらしいニヤニヤ笑いが広がった。
「なんだ。杖なしだと、ずいぶんしおらしいじゃないか」
ラインは身をすくめた。マルフォイの手が、今度は自分の頬に向かって伸びてきたからだ。しかし、マルフォイは突然動きを止めた。見上げると、彼はラインの首元のネックレスを凝視している。
「さすがは坊ちゃんだな。本物が分かるのか」
その声を聞いて、ラインの心臓は飛び上がった。マルフォイの顔が悔しそうに歪んだ。振り向くと、マルフォイの胸に杖を突きつけて、ネックレスの贈り主が立っていた。
「離れろ」
ジョージが唸った。マルフォイはしぶしぶ後ろに下がった。ラインは目をパチパチさせた。マルフォイのシャツの胸の部分が黒く焼け焦げていたからだ。でも、そんなこと今はどうだっていい。
「ジョージ、どうしてホグズミードにいるの?」
ラインは急いで聞いた。目を閉じた瞬間にジョージの姿が消えてしまうと困るので、瞬きすることは我慢した。
「商談さ。ゾンコを買収するんだ」
「すごい……かっこいい……」
ラインはゾクゾクした。こんなに素敵な人が自分の恋人だなんて、バチが当たってしまうかもしれない。マルフォイの存在は頭の中から吹き飛んだ。
「ねえねえ、ジョージはどっちの色が私に似合うと思う?」
ラインは2つのワンピースをジョージに見せた。
「どっちの色だって、俺の恋人は素敵に着こなすに違いないさ。君の好きな色にしたらいい」
「うん。そうだよね。じゃあ、黒にする」
ラインは調子にのった。
「君が8月に17歳になったら、俺の行きつけの店に連れて行ってやるよ。そのワンピースがよく似合う雰囲気のバーだ」
「やったぁ」
ラインは舞い上がった。確か「バー」って、お酒を楽しむためのお店のことだった気がする。そんな大人っぽいお店にジョージと行くことができるなんて、夢みたいだ。
「まあ、その日のうちにワンピースは破いちまうだろうけど」
「私、そこまでおっちょこちょいじゃないよ」
ラインはケラケラ笑いながら、ジョージの顔を見上げた。しかし、ラインは度肝を抜かれた。ジョージはラインのことを見ていなかったし、彼がとんでもなく物騒な顔をしていたからだ。
「二度とこの子に近づくな」
ジョージが押し殺したような声で言った。
「次は焦げ穴じゃ済まないぞ」
ジョージの視線を追って、ラインはようやくマルフォイの存在を思い出した。マルフォイは鏡の前にぽつんと立ったまま、ジョージを睨みつけていた。マルフォイの顔があまりにも青白かったので、ラインは少しばかり同情した。きっと、彼はどこかしらの調子が悪いんだ。ちょっと、頭も混乱しているみたいだし。
「ライン、君の自由を制限するようなことは言いたくなかったけど──」
城までの帰り道を歩きながら、ジョージが深刻な顔で言った。
「今は一人で出歩かない方がいい。常に誰かと一緒にいるようにするんだ」
「うん。わかった」
ラインは素直に頷いた。それから、ここぞとばかりにジョージの腕にしがみついた。すると、ジョージは久しぶりにニヤニヤ顔を見せた。それを見て、ラインはこの上なく嬉しい気持ちになった。
「そうだ。今日ね、アンティークショップですごいものを見つけたんだよ──」
自分のとりとめのない話を聞く恋人の優しい目を眺めながら、ラインの心には「甘味」が広がっていった。今日はいろいろあったけれど、終わりよければ全てよしだ。寮に帰ったら、さっそく日記を書かないと。タイトルは何がいいかな。ラインは考えた。たとえば──
『魔術師のプティング』
……うーん。素敵な響きだけど、内容に対してタイトルが格好良すぎる気がする。
『忘れ去られたイタチ野郎』
……これはさすがに過度な悪口だ。やめておこう。
ラインは首を捻った。それから、ふと気になっていたことを思い出した。
「ねえ、ジョージ。さっき言ってた『本物』って、どういうこと?」
「ああ、なんてことないさ」
ラインの首元のネックレスを満足そうに撫でながら、ジョージが言った。
「ただ、この石に『ダイヤモンド』って名前がついてるだけだ」
それだ。ラインはにっこりした。
「イタチ野郎を追いかけるのに夢中だからさ」
フィルチに「詮索センサー」で突っつかれながら、ロンが呆れたように言った。
「イタチ野郎って、誰のこと?」
「マルフォイのことよ」
ラインの耳に顔を寄せて、ハーマイオニーが説明し始めた。
「今日は1日中、8階の廊下を監視するんですって。必要の部屋でマルフォイが何をやっているのか暴かないと、ハリーは気が済まないのよ」
「──へえ」
「ライン、ほら、あなたの番よ」
ハーマイオニーに小突かれたので、ラインは慌ててホグズミード許可証をフィルチに差し出した。
「でも、私、こう言ったの。マルフォイにちょっかいを出している暇があるのなら、スラグホーン先生を説得するべきだって」
残念なことに、ハーマイオニーの話はラインの頭に入ってこなかった。フィルチが眉間にしわを寄せて、ラインのホグズミード許可証を3回も名簿と照らし合わせたからだ。
「だって、ハリーが今やるべきことは、スラグホーン先生の本当の記憶を手に入れることなんですもの」
「まったく、ハーマイオニーの言うとおりだ」
へつらうように頷くロンを見た時、突然、ラインの頭は冴え渡った。先月の終わりにロンはラベンダーと別れた。そして、ハーマイオニーはもともとマクラーゲンなんか好きじゃなかった。つまり、自分はいま──おじゃま虫である。
無事に検閲をくぐり抜けて、3人でホグズミードの大通りに足を踏み入れたあと、ラインは友人たちの隣からフェードアウトした。今日はロンとハーマイオニーを2人きりにしてあげよう。ラインはキョロキョロと辺りを見回して身を隠す場所を探した。大通りに面した店はだめだ。すぐに2人に見つかってしまうだろう。裏の路地に入ると、途端に人気が無くなった。ラインは路地の突き当たりまで進んだ。そして、そこに小さなアンティークショップがあるのを見つけた。
「よし。ここで時間を潰そう」
扉を開けると、鈴がチリンと鳴った。奥のカウンターで魔法具を磨いていた初老の魔法使いが驚いたように顔を上げた。おそらく、彼が店主だろう。とりあえず、ラインは鼻から大きく息を吸った。
「プティングの匂いがする」
ラインは全神経を鼻に集中させた。そして、窓際にある木製の棚に狙いを定めた。
「あれだ」
ラインはつかつかと店内を進み、棚の真ん中の段に積み上げられている古びた羊皮紙を手に取った。
────────────────────
12月6日
今日はプチングを焦がした。どうやら、ドラゴンの心臓を裂いた直後に菓子を作ってはならぬ。それでも、甘いものは良い。心に嵐が起きた時、最も有効なのは「甘味」と「呼吸」である。
2月3日
今日はブリテン王よりチョコレイトなるものを頂いた。実に官能的な風味であった。まるで、地動を変化させた時の高揚のよう。つまり、「怒り」ではなく「感応」で変化させるということ。しかし、手は甚だしく汚れる。
9月17日
魔法とは蜜玉のようなもの。高ければ割れ、低ければ濁る。私がスフィンクスを眠らせた時、山脈を歩かせた時、鍵はいつも「適温」であった。それが舌に溶ける時、最も滑らかで強い力が生まれるであろう。
────────────────────
ラインはその場に呆然と立ち尽くした。まるで、雷に撃たれたような衝撃だった。
「それはね、マーリンの日記の一部だと言われているんだよ」
ふと、柔らかな煙草の匂いが鼻を掠めた。いつのまにか、店主が隣に立っていた。
「私なんかは、読んだって、まったく意味が分からないけどね」
ラインは口を半開きにしたまま、羊皮紙と店主を交互に見つめた。
「きっと、お嬢ちゃんには意味が分かったんだね」
ラインは頷いた。全てがしっくりきた。生まれてはじめて、自分にも分かるように、魔法の使い方を説明してもらった気がした。
「気に入ったのなら、差し上げよう。もう50年間、そこに置いてあったんだから」
ラインは感激して、手持ちのチョコレートを全て店主に押し付けてから店を後にした。おこがましいけれど、マーリンってちょっと自分に似ている気がする。例えば、面白いことが起きた時、それを日記に書き付けるところとか。でも、結局は食べ物のことばかり書いているところとか。
興奮冷めやらぬまま、ラインは大通りに戻った。そして、「グラドラグス魔法ファッション店」に入った。2ヶ月後には夏休みだ。絶対にジョージとデートしたい。とりあえず、新しい服を買っておこう。ラインはうきうきしながら店内を物色した。
「わあ、これ、大人っぽい」
ラインはつやつやした黒い生地のワンピースを手に取った。ウエストがキュッと絞られていて、スタイルがよく見えそうだ。しかし、ラインは唸った。黒いワンピースの隣に、同じ型の白いワンピースがあるのを見つけたからだ。
「どっちの色がいいかな」
2つのワンピースを持って、ラインは大きな鏡の前に移動した。白と黒のワンピースを交互に体に当ててみる。
「うーん、迷うなあ」
「白の方がいい。清潔感がある」
気取った声が聞こえたので、ラインはげっそりした。顔を上げると、案の定、ドラコ・マルフォイが鏡の中からこちらを覗いていた。今日はハリーと追いかけっこしているんじゃなかったっけ?
「気に入ったなら、僕が買ってやろう」
マルフォイは例のわざとらしい紳士的な微笑みを浮かべて、ラインの手からワンピースをもぎ取ろうとした。しかし、ラインはワンピースを渡さなかった。マルフォイを警戒していたからだ。いくらなんでも、いまだにラブ・ポーションの効果が切れていないのはおかしい。
「──ああ、そうか。サイズを確かめる必要があるな。着てみろ」
マルフォイはワンピースをもぎ取るのを諦めて、今度はラインのカバンに手を伸ばした。ラインはますます警戒して、胸の前でカバンを抱きしめた。
「お前が試着している間、カバンを持っていてやる──と言っているんだ」
ラインの血の巡りの悪さに、マルフォイはイライラしているようだった。マルフォイはラインのカバンを掴んで、自分の方に引っ張った。ラインは慌てた。カバンを乱雑に扱わないで欲しい。だって、カバンの中には、さっきアンティークショップで貰ったマーリンの日記が入っているんだもの。
「やめて、お願い」
ラインが懇願すると、マルフォイの顔にいやらしいニヤニヤ笑いが広がった。
「なんだ。杖なしだと、ずいぶんしおらしいじゃないか」
ラインは身をすくめた。マルフォイの手が、今度は自分の頬に向かって伸びてきたからだ。しかし、マルフォイは突然動きを止めた。見上げると、彼はラインの首元のネックレスを凝視している。
「さすがは坊ちゃんだな。本物が分かるのか」
その声を聞いて、ラインの心臓は飛び上がった。マルフォイの顔が悔しそうに歪んだ。振り向くと、マルフォイの胸に杖を突きつけて、ネックレスの贈り主が立っていた。
「離れろ」
ジョージが唸った。マルフォイはしぶしぶ後ろに下がった。ラインは目をパチパチさせた。マルフォイのシャツの胸の部分が黒く焼け焦げていたからだ。でも、そんなこと今はどうだっていい。
「ジョージ、どうしてホグズミードにいるの?」
ラインは急いで聞いた。目を閉じた瞬間にジョージの姿が消えてしまうと困るので、瞬きすることは我慢した。
「商談さ。ゾンコを買収するんだ」
「すごい……かっこいい……」
ラインはゾクゾクした。こんなに素敵な人が自分の恋人だなんて、バチが当たってしまうかもしれない。マルフォイの存在は頭の中から吹き飛んだ。
「ねえねえ、ジョージはどっちの色が私に似合うと思う?」
ラインは2つのワンピースをジョージに見せた。
「どっちの色だって、俺の恋人は素敵に着こなすに違いないさ。君の好きな色にしたらいい」
「うん。そうだよね。じゃあ、黒にする」
ラインは調子にのった。
「君が8月に17歳になったら、俺の行きつけの店に連れて行ってやるよ。そのワンピースがよく似合う雰囲気のバーだ」
「やったぁ」
ラインは舞い上がった。確か「バー」って、お酒を楽しむためのお店のことだった気がする。そんな大人っぽいお店にジョージと行くことができるなんて、夢みたいだ。
「まあ、その日のうちにワンピースは破いちまうだろうけど」
「私、そこまでおっちょこちょいじゃないよ」
ラインはケラケラ笑いながら、ジョージの顔を見上げた。しかし、ラインは度肝を抜かれた。ジョージはラインのことを見ていなかったし、彼がとんでもなく物騒な顔をしていたからだ。
「二度とこの子に近づくな」
ジョージが押し殺したような声で言った。
「次は焦げ穴じゃ済まないぞ」
ジョージの視線を追って、ラインはようやくマルフォイの存在を思い出した。マルフォイは鏡の前にぽつんと立ったまま、ジョージを睨みつけていた。マルフォイの顔があまりにも青白かったので、ラインは少しばかり同情した。きっと、彼はどこかしらの調子が悪いんだ。ちょっと、頭も混乱しているみたいだし。
「ライン、君の自由を制限するようなことは言いたくなかったけど──」
城までの帰り道を歩きながら、ジョージが深刻な顔で言った。
「今は一人で出歩かない方がいい。常に誰かと一緒にいるようにするんだ」
「うん。わかった」
ラインは素直に頷いた。それから、ここぞとばかりにジョージの腕にしがみついた。すると、ジョージは久しぶりにニヤニヤ顔を見せた。それを見て、ラインはこの上なく嬉しい気持ちになった。
「そうだ。今日ね、アンティークショップですごいものを見つけたんだよ──」
自分のとりとめのない話を聞く恋人の優しい目を眺めながら、ラインの心には「甘味」が広がっていった。今日はいろいろあったけれど、終わりよければ全てよしだ。寮に帰ったら、さっそく日記を書かないと。タイトルは何がいいかな。ラインは考えた。たとえば──
『魔術師のプティング』
……うーん。素敵な響きだけど、内容に対してタイトルが格好良すぎる気がする。
『忘れ去られたイタチ野郎』
……これはさすがに過度な悪口だ。やめておこう。
ラインは首を捻った。それから、ふと気になっていたことを思い出した。
「ねえ、ジョージ。さっき言ってた『本物』って、どういうこと?」
「ああ、なんてことないさ」
ラインの首元のネックレスを満足そうに撫でながら、ジョージが言った。
「ただ、この石に『ダイヤモンド』って名前がついてるだけだ」
それだ。ラインはにっこりした。