the Goblet of Fire
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随分と日が暮れるのが早くなった。廊下に差し込む西日を見て、なんだか切ない気持ちになる。ラインは満身創痍の身体を引き摺り、今日は真っ直ぐに寮へ帰ろうと決めた。
先程、1年生と一緒に飛行訓練の授業を受けてきたばかりだ。ラインはまず、箒を手に取るのに大苦戦した。通常、魔法使いが魔法の箒の上に手をかざせば、箒はすっと浮き上がり、主人の手の中に納まる。しかしラインが箒の上に手をかざすと、箒はピクリとも反応しないか、離陸するジェット機の勢いで飛び上がるかのどちらかだった。箒の柄が顎に激突してから、口が大きく開かない気がする。フーチ先生曰く、"箒が飛ぶことを拒否している状態"だそうだ。ラインはその原因に心当たりがあった。ラインはどうしても、飛ぶことが怖かったのだ。飛びたくないと願う魔法使いに、箒が従うわけがない。
ーーーー
「眉間にしわが寄ってるわよ。せっかくの可愛い顔が台無し」
積み上げた本の隙間から、ハーマイオニーの顔が覗いた。ほんの少し、鼻の頭が赤くなっている。まだ10月なのに、夜の談話室は暖炉に火を焚べても良いくらいに肌寒かった。
「飛行訓練はどうだったの?」
「──いつも通りよ。全然だめ」
ホグワーツに入学してから1ヶ月、上手くいったことは何1つ無い。友人の顔を見て堰を切ったように、冷たい雫が頬に伝っていく。ハーマイオニーはそれを見て、焦ったようにハンカチを取り出した。
「私、箒に跨って浮くことさえ出来なかった。だって、怖いもの。もし魔力がコントロール出来なくて空高く飛ばされたり、地面に叩きつけられたりしたら──?」
友人のハンカチから微かに、日向ぼっこをした猫の匂いがした。優しく背中をさすられて、少し気分が落ち着いた頃、誰かがそっと隣に座った気配を感じた。顔を上げると目の前に、こちらを見つめる緑の目があった。
「ごめん──声が聞こえて」
ハリーはそう言うと、ラインに優しく笑いかけた。
「もし僕で良ければ、君の箒の練習をみようか?1年生と一緒より集中できるんじゃないかな」
とても嬉しい提案だった。苦手を克服するには練習するしかない。いつまでも下を向いているわけにはいかない。ラインは涙を拭いて、頷いた。
――――
「箒と仲良くなるには、恐怖心を取り除くことが大切なんだ」
友人の背中を追いかけて、禁じられた森近くの湖岸を歩く。開けた土地を風が通り抜けて、少し肌寒く感じる。箒を手にしたハリーは、いつもより生き生きとしているように見えた。
「じゃあ、僕の後ろに乗って。まずは飛ぶことに慣れよう」
ハリーはそう言うと、意気揚々と箒に跨った。彼に優しく手招きされても、ラインの足はなかなか前に進まなかった。
「本当に大丈夫かしら……もし、あなたまで巻き込んで落ちたりしたら──」
「大丈夫。少しでもおかしいと感じたら、すぐに降りるよ」
ハリーはラインの顔を覗き込み、僕を信じて、と付け足した。彼は史上最年少でシーカーに選ばれた飛行の名手だ。彼を信じずに誰を信じるのだろう。ラインは覚悟を決めて、ハリーの腰に手を回した。なんだか、彼の背中がピクリと動いた気がする。
「さぁ飛ぶよ──しっかり捕まって」
その言葉に頷く前に、全身に激しい重力を感じた。
「──もう少し、ゆっくり飛んで!」
自分の悲鳴が、山にこだましている。
ハリーはラインの言葉を完全に無視した。気持ちが良さそうでなりよりだ。でも時々、彼は後ろを振り向いてくれる。ラインの顔色を確認しているのだろうか?それとも、反応を楽しんでいるのだろうか?
「じゃあ降下するよ。頭を下げて。僕にしっかり掴まって」
「え、ちょっと待って──」
言葉を言い切る前に、上下が分からなくなった。目を閉じているのに、視界がぐるぐるしている。内臓、特に胃のあたりに不快感を感じる。昼食にミンス・パイを食べた事を後悔していると、こちらを覗き込む緑の目が見えた。いつのまにか、地上へ解放されていたようだ。
「ありがとう……素晴らしい体験だったわ」
「怖かった?ごめんね」
彼は謝りながらチョコレートを手渡してくれたが、その口元は笑っていた。ラインはチョコレートを口に放り込んだ。
「──美味しい」
「良かった。元気を出すにはチョコレートが一番なんだ。ある人からの受け取りだけどね」
その方の意見には完全に同意だ。ラインの寝室には、常にチョコレートがストックしてある。
「どうかな、少しは飛ぶことに慣れた?」
「えぇ、それはもう。あれだけ上下すれば」
視界はいまだにぐるぐるしていたが、ラインは懸命に笑顔を作って頷いた。
「最初、君が不安を感じてた時は、少し箒のコントロールが難しかったよ。でもすぐにいつも通り飛べるようになった。どうしてだと思う?」
そう質問されて、ラインは飛び立った瞬間から、地面に着地するまでを順番に振り返った。急降下を思い出したところで、再び胃のあたりに不快感を感じる。
「絶対に落ちないと信じることにしたから──だと思う。だって貴方と一緒なら、安全でしょう?」
そう答えると、ハリーは照れ臭そうに頷いた。
「そう、信じることが大切なんだ。たとえ自信が無くてもあるように振舞うことで、周囲が変わったりするよね?君が自分を信じることが出来れば、箒も君に従うはずだ」
そのアドバイスの効果は抜群で、ラインは箒に跨り、空中に浮かぶことが出来るようになった。湖に西日が差し込んで、キラキラと輝いて見える。それは、今まで見た中で1番綺麗なオレンジ色だった。ラインは胃の不快感を水に流し、ハリーにチョコレートのアソートパックを送ることを決めた。
先程、1年生と一緒に飛行訓練の授業を受けてきたばかりだ。ラインはまず、箒を手に取るのに大苦戦した。通常、魔法使いが魔法の箒の上に手をかざせば、箒はすっと浮き上がり、主人の手の中に納まる。しかしラインが箒の上に手をかざすと、箒はピクリとも反応しないか、離陸するジェット機の勢いで飛び上がるかのどちらかだった。箒の柄が顎に激突してから、口が大きく開かない気がする。フーチ先生曰く、"箒が飛ぶことを拒否している状態"だそうだ。ラインはその原因に心当たりがあった。ラインはどうしても、飛ぶことが怖かったのだ。飛びたくないと願う魔法使いに、箒が従うわけがない。
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「眉間にしわが寄ってるわよ。せっかくの可愛い顔が台無し」
積み上げた本の隙間から、ハーマイオニーの顔が覗いた。ほんの少し、鼻の頭が赤くなっている。まだ10月なのに、夜の談話室は暖炉に火を焚べても良いくらいに肌寒かった。
「飛行訓練はどうだったの?」
「──いつも通りよ。全然だめ」
ホグワーツに入学してから1ヶ月、上手くいったことは何1つ無い。友人の顔を見て堰を切ったように、冷たい雫が頬に伝っていく。ハーマイオニーはそれを見て、焦ったようにハンカチを取り出した。
「私、箒に跨って浮くことさえ出来なかった。だって、怖いもの。もし魔力がコントロール出来なくて空高く飛ばされたり、地面に叩きつけられたりしたら──?」
友人のハンカチから微かに、日向ぼっこをした猫の匂いがした。優しく背中をさすられて、少し気分が落ち着いた頃、誰かがそっと隣に座った気配を感じた。顔を上げると目の前に、こちらを見つめる緑の目があった。
「ごめん──声が聞こえて」
ハリーはそう言うと、ラインに優しく笑いかけた。
「もし僕で良ければ、君の箒の練習をみようか?1年生と一緒より集中できるんじゃないかな」
とても嬉しい提案だった。苦手を克服するには練習するしかない。いつまでも下を向いているわけにはいかない。ラインは涙を拭いて、頷いた。
――――
「箒と仲良くなるには、恐怖心を取り除くことが大切なんだ」
友人の背中を追いかけて、禁じられた森近くの湖岸を歩く。開けた土地を風が通り抜けて、少し肌寒く感じる。箒を手にしたハリーは、いつもより生き生きとしているように見えた。
「じゃあ、僕の後ろに乗って。まずは飛ぶことに慣れよう」
ハリーはそう言うと、意気揚々と箒に跨った。彼に優しく手招きされても、ラインの足はなかなか前に進まなかった。
「本当に大丈夫かしら……もし、あなたまで巻き込んで落ちたりしたら──」
「大丈夫。少しでもおかしいと感じたら、すぐに降りるよ」
ハリーはラインの顔を覗き込み、僕を信じて、と付け足した。彼は史上最年少でシーカーに選ばれた飛行の名手だ。彼を信じずに誰を信じるのだろう。ラインは覚悟を決めて、ハリーの腰に手を回した。なんだか、彼の背中がピクリと動いた気がする。
「さぁ飛ぶよ──しっかり捕まって」
その言葉に頷く前に、全身に激しい重力を感じた。
「──もう少し、ゆっくり飛んで!」
自分の悲鳴が、山にこだましている。
ハリーはラインの言葉を完全に無視した。気持ちが良さそうでなりよりだ。でも時々、彼は後ろを振り向いてくれる。ラインの顔色を確認しているのだろうか?それとも、反応を楽しんでいるのだろうか?
「じゃあ降下するよ。頭を下げて。僕にしっかり掴まって」
「え、ちょっと待って──」
言葉を言い切る前に、上下が分からなくなった。目を閉じているのに、視界がぐるぐるしている。内臓、特に胃のあたりに不快感を感じる。昼食にミンス・パイを食べた事を後悔していると、こちらを覗き込む緑の目が見えた。いつのまにか、地上へ解放されていたようだ。
「ありがとう……素晴らしい体験だったわ」
「怖かった?ごめんね」
彼は謝りながらチョコレートを手渡してくれたが、その口元は笑っていた。ラインはチョコレートを口に放り込んだ。
「──美味しい」
「良かった。元気を出すにはチョコレートが一番なんだ。ある人からの受け取りだけどね」
その方の意見には完全に同意だ。ラインの寝室には、常にチョコレートがストックしてある。
「どうかな、少しは飛ぶことに慣れた?」
「えぇ、それはもう。あれだけ上下すれば」
視界はいまだにぐるぐるしていたが、ラインは懸命に笑顔を作って頷いた。
「最初、君が不安を感じてた時は、少し箒のコントロールが難しかったよ。でもすぐにいつも通り飛べるようになった。どうしてだと思う?」
そう質問されて、ラインは飛び立った瞬間から、地面に着地するまでを順番に振り返った。急降下を思い出したところで、再び胃のあたりに不快感を感じる。
「絶対に落ちないと信じることにしたから──だと思う。だって貴方と一緒なら、安全でしょう?」
そう答えると、ハリーは照れ臭そうに頷いた。
「そう、信じることが大切なんだ。たとえ自信が無くてもあるように振舞うことで、周囲が変わったりするよね?君が自分を信じることが出来れば、箒も君に従うはずだ」
そのアドバイスの効果は抜群で、ラインは箒に跨り、空中に浮かぶことが出来るようになった。湖に西日が差し込んで、キラキラと輝いて見える。それは、今まで見た中で1番綺麗なオレンジ色だった。ラインは胃の不快感を水に流し、ハリーにチョコレートのアソートパックを送ることを決めた。