the Half-Blood Prince
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「パパは17時半に帰ってくるぞ」
父がきっぱりと言った。その目は電子レンジの前に立つジョージを睨めつけている。
「帰りにポップコーンとプリンとキャラメル味のマカロンを買ってきてやるからな」
父の顔がラインの方を向いた。2ヶ月ほど喉のあたりに留まっていたラインの溜飲は下がった。
「くれぐれも、部屋に2人きりなんてことは──」
「パパ、遅刻しちゃうよ」
ラインは壁にかかっている時計を指差して言った。父は時計を見て片眉を吊り上げると、しぶしぶ玄関の扉を押し開けた。
「私はお前を信用している」
父はジョージに向けて一言一言はっきりと言ってから、ようやく仕事に出かけて行った。
「つまり、俺はまだ君のパパの信用を勝ち得ていないってわけだ」
バタンと閉まった扉を見つめながら、ジョージが大まじめな顔で言った。
「さあ、俺らも出発しよう。10時までに行かないと、チョコ・ナッツ・サンデーは売り切れちまうぞ」
それは大変だ。急がなければ。ラインは2階の自室に駆け上がって最低限の荷物をカバンの中に放り込み、それを担いで大急ぎで1階へ戻った。リビングへ戻ると、ジョージは電子レンジのダイヤルを"チン"と鳴らして遊んでいた。ジョージが自分の家にいるのって、ちょっとくすぐったくて変な感じだ。
「扉を開けて玄関ポーチに出たら、俺の左腕に掴まってくれよ」
ジョージは嬉しそうにニヤニヤしながら説明した。
「最初はちょっと変な感じがするかもしれないけど、心配いらないさ。ほら、君は初めてだろ?『姿あらわし』するの──」
「ううん。初めてじゃないよ。この前、シリウスと一緒にした」
ラインが伝えると、ジョージはなぜかショックを受けたような顔をした。夏休みの初日、ジョージと付き合っていることを伝えた時の父の顔にちょっと似ていた。彼らはどういう感情なんだろう?
それから数分後、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズの店舗の入り口の前で、ラインはぐわんぐわんする頭を抱えて座り込んでいた。
「ごめん、大丈夫か?」
ジョージはショックを受けたような顔のまま、ラインの背中をさすった。
「シリウスの方が上手かっただろ」
その通りだった。しかし、ラインは首を横に振った。なんとなく、そうするべきだと思った。ジョージはラインの肩を抱きかかえて立ち上がらせると、扉を開けて店の中に入った。
「2階に俺らのアパートがあるんだ。ベッドで横になるかい?」
しかし、ラインは首を横に振った。ラインはもう、横になる必要など感じなかった。店の中に足を踏み入れた途端、アドレナリンが全身を駆け巡ったからだ。
「わあ──アンブリッジ先生だ!」
ラインは頭上を指差した。ピンク色のスーツを着たずんぐりした人形が、天井に張り巡らされたロープの上を一輪車で綱渡りしている。
『私は嘘をついてはいけません!』
人形がキンキン声で叫んだので、ラインはニヤニヤした。それから目線を下に向けると、ラインは目当てのコーナーを見つけた。ラインは人を押し分けてずんずん進んだ。
「とりあえず、これを10個買おう」
ラインはしつこい花柄のパッケージの『ガマガエルチョコ』を棚から取った。両手がいっぱいになった。カゴを取ってくればよかった。
「食べられる闇の印、これもおいしそう」
ラインは毒々しい黄緑色のパッケージを手に取った。裏面に「食べると誰でも吐き気がします!」と書いてある。ラインはパッケージを棚に戻した。
「昨日、再入荷したばかりなんだぜ」
振り向くと、ジョージが誇らしげな顔で食べられる闇の印を指差していた。そうなんだ。じゃあ、1つ買っておこう。ラインが再びパッケージを手に取ると、ジョージは満足そうににっこりした。それから、ラインは店内を見回してみた。例のあの人の復活が公になったにも関わらず、お客で満員だった。
「まいどあり」
ラインの視界にもう1つ、赤色が飛び込んできた。ニヤニヤしているフレッドだった。
「あとで2階に持って行ってやるよ」
フレッドはラインの腕から『ガマガエルチョコ』と『食べられる闇の印』を取り上げると、「早く行けよ」というように店舗の奥の階段を指差した。
「フレッド、1人で大丈夫かな?」
ラインは芋洗い状態の店内を振り返りながら言った。
「まったく問題ない」
3段下の階段から、ラインを見上げてジョージがニヤッとした。
「この時間はバイトを雇ってるからな」
「さすが」
ラインは感心した。開店2か月目にして、彼らは従業員にお給料を払えるくらいの利益を上げているらしい。
2階にたどり着くと、ジョージは床に積み上げられている段ボールをどかして足の踏み場を作り、部屋の中央にあるダイニングテーブルへラインを案内した。ラインはそわそわしながら椅子に腰かけた。恋人の家に遊びに来るのは生まれて初めてだった。午前中にフローリアン・フォーテスキューのチョコ・ナッツ・サンデーをテイクアウトすることと、お昼にピザをデリバリーして食べることは決まっているけれど、あとの時間は何をするんだろう?
「ねえ、ジョージ」
振り返った途端、ラインの鼻腔は暖炉のような匂いで満たされた。ジョージがラインを抱きしめたからだ。
「──ごめん」
「ううん。いいよ」
ラインは鼻の下を伸ばした。2人きりになった途端にたまらず抱きしめるなんて、情熱的だ。そんなに愛してもらえて、自分はなんて幸せ者なんだろう。
「鼻、痛かっただろ」
ラインの鼻の下は急激に元の長さに戻った。おまけに、古傷がズキズキと痛み始めた気がする。
「俺の詰めが甘かった。まさか、モンタギューが君に仕返しするなんて思わなかった」
ラインの背中に回っているジョージの腕に力がこもった。
「でも、もう心配しなくていい。しばらくの間、あいつは君の前に姿を現さない。もっとしっかりと"詰めておいた"からな」
ラインはモンタギューの身を案じた。しかし、ジョージがモンタギューに何をしたのか聞くことはしなかった。なんとなく、チョコ・ナッツ・サンデーをおいしく食べることができなくなりそうだと思ったからだ。
「私、本当に馬鹿だったの」
モンタギューにキャビネットに突っ込まれた日から、ラインはめずらしく落ち込んでいた。あの日、自分はハリーたちが神秘部に行かなくて済むように、シリウスと連絡をとるはずだった。しかし、そのことをすっかり忘れてダイアゴン横丁でショッピングを楽しんでいたのだ。そのせいでハリーたちは神秘部に行き、死喰い人に襲われた。ダンブルドア先生と騎士団の大人たちが駆けつけてくれたからよかったものの、彼らの到着があと少しでも遅かったら、どうなっていたか分からない。最後には、例のあの人まで魔法省に姿を現したというのだから。
「いつもみんなに『ぽけっとしてる』って言われる意味が分かった。私、もっとしっかりしないといけない」
ラインは最後の言葉を自分に言い聞かせるように言った。ジョージはラインを腕の中から解放すると、ラインの顔を真正面から見つめて、励ますようににっこりした。
「みんなが君をからかうのは、みんなが君のことを好きだからだ」
ジョージはラインの頭をポンポンと撫でて言った。
「君には人をリラックスさせる才能がある。君はそのままでいい」
「そのとおり」
階段からフレッドが顔を出した。
「ちなみに、俺らには商才がある」
フレッドは杖を振って床に積み上がっている段ボールを浮かせると、後ろに段ボールを従わせながら、矢のように階段を駆け下りていった。どうやら、1階の陳列棚の商品が足りなくなったらしい。
「よし、そろそろ行ってくるぞ」
ジョージがニヤッとしながら立ち上がった。
「チョコ・ナッツ・サンデーを一口食べれば、君の憂鬱はひょいと吹き飛んじまうに違いない」
ラインは興奮した。ついにハリー・ポッター御用達の例のサンデーに相見える時が来たのだ。
「待ってろよ。5分もかからないぜ」
ラインは窓に張り付いて、ダイアゴン横丁を駆けていくジョージの姿を目で追った。夏休みだというのに、通りの人影はまばらだった。なんだか全員、手に杖を握りしめているように見える。ジョージが角を曲がってしまったので、ラインはダイニングテーブルの上に目を移した。朝食の残りと思われるパンや商品の試作品のゴタゴタの下に、紫色のパンフレットが敷かれている。
─────────────────────
魔法省公報
「死喰い人」の脅威から、あなたと大切な家族を守るための10個のヒント
1、不要不急の外出を控えましょう。
2、外出する際は、明るい内に複数人で行動しましょう。
3、家族全員が「目くらまし呪文」、「盾の呪文」を使えるように練習しましょう。
4、未成年の家族の場合、「付き添い姿くらまし」術の練習をしましょう。
5、ポリジュース薬などの──
─────────────────────
5つ目のヒントの続きは透明なガラスの瓶の下に隠れて読めなかった。夕食後にアイスを買いに行けないなんて、嫌な時代だ。ラインはため息をついて、ガラスの瓶を手に取った。それから、食器棚から適当なマグカップを取り出した。水を注いで飲むと、やけに甘くておいしく感じた。喉が渇いていたからだろうか?ラインが首を傾げていると、階段を上ってくる足音が聞こえた。
「なあ、あいつの部屋で待っててもいいぞ。むしろ、そのほうが喜ぶだろ」
再び2階に顔を出したフレッドが、ニヤニヤしながら『G』と描かれたプレートの飾られたドアを指差した。ラインの心臓は大きく飛び跳ねた。甘くておいしいものが、まるで毒のようにラインの体中を回っていった。ラインは衝動を我慢できずに抱きついた。
「フレッド、会いたかった」
フレッドは驚いたような顔をして静止したあと、かつてないほどニヤニヤした。
「ありがとよ。俺もだぜ。そんで、何を企んでるんだ?」
ラインはど派手な紫色のシャツの胸元に顔を埋めた。火薬の匂いがする。なんだか脳みそがとろけそうな気分だ。
「はあ……とってもいい匂い……」
ラインが胸元に顔を埋めたまま大きく息を吸い込んだり吐き出したりすると、フレッドは爆笑した。
「おいおい、なんだよ。ついに、気がついたのか?俺の方がハンサムだってことに」
「うん……世界一かっこいい……」
「いいぞ。もっと言ってくれ」
フレッドは笑い過ぎて涙を流していた。彼が無抵抗なのを良いことに、ラインは彼の首に両腕を絡ませた。
「フレッドは私のこと、どう思ってる?」
「どうって──」
フレッドは目をパチパチさせたあと、辺りをぐるりと見回した。そして、ダイニングテーブルの上のガラスの瓶に目を留めた。
「──そりゃ、かわいいと思ってるさ。なんてったって、俺とあいつの遺伝子は99.9%同じだからな」
「じゃあ、キスしてくれる?」
「キスはしない」
フレッドがきっぱりと首を振ったので、ラインはショックを受けた。
「どうして?」
「俺の場合、残り0.01%の遺伝子がパートナーに色気を求めているからだ」
「色気?」
「そうさ。食い気とは正反対だ」
ラインは絶望に打ちひしがれながらも、フレッドの顔を至近距離で見つめるチャンスを逃さなかった。よく見ると、目元に何かが足りない気がする。
「つまり、私は恋愛対象じゃないってこと?」
「そのとおり。俺にとって、君は恋愛対象じゃない。だから、これからも安心して頼ってくれよ」
フレッドはにっこり笑って、ラインの頭をポンポンと撫でた。ラインもつられてにっこりした。そして、ラインは気がついた。彼の目元にはほくろが足りない。いつも優しく細められる目元には、ほくろがあるのに──
その時、階段から物音が聞こえた。首を回すと、両手にチョコ・ナッツ・サンデーを持ったジョージが、フレッドに絡みついているラインを唖然とした顔で見つめていた。
「悪いな。こういうわけだ」
フレッドはニヤッとしながら──ガラスの瓶を持ち上げた。よく見ると、ガラスの瓶はピンク色だった。貼り付けられた小さな付箋に『ラブ・ポーション・試作品』と書いてある。
「ごめんね、フレッド」
正気に戻ったラインは手を合わせて平謝りした。
「魔法省のパンフレットの上に瓶が置いてあったから、透明な水が入っているように見えちゃって──」
「気にするな。君はいつまでも、そのままぽけっとしててくれ」
フレッドは心底楽しそうにニヤニヤした。
「じゃあ、俺はそろそろ下に戻るぜ。ベリティがくたばっちまうからな」
ラインは今年度の目標を「しっかりする」に決めた。まず、目の前の快楽に気を取られて、目的を忘れないようにしよう。あと、何かを口にする時は、それに魔法がかかっていないか確認してから食べたり飲んだりしよう。ラインが眉間にしわを寄せている間に、フレッドは杖を振り、段ボールを後ろに従わせて歩き始めた。そして、すれ違いざまにジョージに耳打ちした。
「意外だぜ。着痩せするタイプなんだな」
ジョージが投げつけたマグカップの割れる音で、ラインは意識を取り戻した。フレッドのゲラゲラ笑いが階段の下に消えていく。ジョージは杖を振り、マグカップを元通りに片付けた。ラインはジョージをまじまじと見つめた。たぶん、彼は怒っている。ジョージの機嫌を直すにはどうしたらいいか、ラインは考えた。
「俺にもしてくれよ」
ジョージがボソッと言った。
「何を?」
「さっき、あいつにしてたこと」
ラインは赤くなった。あんなことをジョージにするなんて恥ずかしい。でも、このままだとチョコ・ナッツ・サンデーを楽しく食べることができないかもしれない。ラインは勇気を振り絞って立ち上がり、ジョージの首に腕を絡ませた。ジョージの口角がほんのり上がった。
「さっきはもっと顔が近かっただろ」
彼の目元のほくろが見える距離まで、ラインは顔を近づけた。今にも互いの鼻がくっつきそうだったので、ラインはたまらず目を閉じた。
「もっと近かった」
ジョージはラインの後頭部に手を回して、自分の方へ引き寄せた。ラインはますます赤くなった。彼はまだ怒ったふりをしていたのに、ラインに触れた唇が、信じられないくらい優しかったからだ。
父がきっぱりと言った。その目は電子レンジの前に立つジョージを睨めつけている。
「帰りにポップコーンとプリンとキャラメル味のマカロンを買ってきてやるからな」
父の顔がラインの方を向いた。2ヶ月ほど喉のあたりに留まっていたラインの溜飲は下がった。
「くれぐれも、部屋に2人きりなんてことは──」
「パパ、遅刻しちゃうよ」
ラインは壁にかかっている時計を指差して言った。父は時計を見て片眉を吊り上げると、しぶしぶ玄関の扉を押し開けた。
「私はお前を信用している」
父はジョージに向けて一言一言はっきりと言ってから、ようやく仕事に出かけて行った。
「つまり、俺はまだ君のパパの信用を勝ち得ていないってわけだ」
バタンと閉まった扉を見つめながら、ジョージが大まじめな顔で言った。
「さあ、俺らも出発しよう。10時までに行かないと、チョコ・ナッツ・サンデーは売り切れちまうぞ」
それは大変だ。急がなければ。ラインは2階の自室に駆け上がって最低限の荷物をカバンの中に放り込み、それを担いで大急ぎで1階へ戻った。リビングへ戻ると、ジョージは電子レンジのダイヤルを"チン"と鳴らして遊んでいた。ジョージが自分の家にいるのって、ちょっとくすぐったくて変な感じだ。
「扉を開けて玄関ポーチに出たら、俺の左腕に掴まってくれよ」
ジョージは嬉しそうにニヤニヤしながら説明した。
「最初はちょっと変な感じがするかもしれないけど、心配いらないさ。ほら、君は初めてだろ?『姿あらわし』するの──」
「ううん。初めてじゃないよ。この前、シリウスと一緒にした」
ラインが伝えると、ジョージはなぜかショックを受けたような顔をした。夏休みの初日、ジョージと付き合っていることを伝えた時の父の顔にちょっと似ていた。彼らはどういう感情なんだろう?
それから数分後、ウィーズリー・ウィザード・ウィーズの店舗の入り口の前で、ラインはぐわんぐわんする頭を抱えて座り込んでいた。
「ごめん、大丈夫か?」
ジョージはショックを受けたような顔のまま、ラインの背中をさすった。
「シリウスの方が上手かっただろ」
その通りだった。しかし、ラインは首を横に振った。なんとなく、そうするべきだと思った。ジョージはラインの肩を抱きかかえて立ち上がらせると、扉を開けて店の中に入った。
「2階に俺らのアパートがあるんだ。ベッドで横になるかい?」
しかし、ラインは首を横に振った。ラインはもう、横になる必要など感じなかった。店の中に足を踏み入れた途端、アドレナリンが全身を駆け巡ったからだ。
「わあ──アンブリッジ先生だ!」
ラインは頭上を指差した。ピンク色のスーツを着たずんぐりした人形が、天井に張り巡らされたロープの上を一輪車で綱渡りしている。
『私は嘘をついてはいけません!』
人形がキンキン声で叫んだので、ラインはニヤニヤした。それから目線を下に向けると、ラインは目当てのコーナーを見つけた。ラインは人を押し分けてずんずん進んだ。
「とりあえず、これを10個買おう」
ラインはしつこい花柄のパッケージの『ガマガエルチョコ』を棚から取った。両手がいっぱいになった。カゴを取ってくればよかった。
「食べられる闇の印、これもおいしそう」
ラインは毒々しい黄緑色のパッケージを手に取った。裏面に「食べると誰でも吐き気がします!」と書いてある。ラインはパッケージを棚に戻した。
「昨日、再入荷したばかりなんだぜ」
振り向くと、ジョージが誇らしげな顔で食べられる闇の印を指差していた。そうなんだ。じゃあ、1つ買っておこう。ラインが再びパッケージを手に取ると、ジョージは満足そうににっこりした。それから、ラインは店内を見回してみた。例のあの人の復活が公になったにも関わらず、お客で満員だった。
「まいどあり」
ラインの視界にもう1つ、赤色が飛び込んできた。ニヤニヤしているフレッドだった。
「あとで2階に持って行ってやるよ」
フレッドはラインの腕から『ガマガエルチョコ』と『食べられる闇の印』を取り上げると、「早く行けよ」というように店舗の奥の階段を指差した。
「フレッド、1人で大丈夫かな?」
ラインは芋洗い状態の店内を振り返りながら言った。
「まったく問題ない」
3段下の階段から、ラインを見上げてジョージがニヤッとした。
「この時間はバイトを雇ってるからな」
「さすが」
ラインは感心した。開店2か月目にして、彼らは従業員にお給料を払えるくらいの利益を上げているらしい。
2階にたどり着くと、ジョージは床に積み上げられている段ボールをどかして足の踏み場を作り、部屋の中央にあるダイニングテーブルへラインを案内した。ラインはそわそわしながら椅子に腰かけた。恋人の家に遊びに来るのは生まれて初めてだった。午前中にフローリアン・フォーテスキューのチョコ・ナッツ・サンデーをテイクアウトすることと、お昼にピザをデリバリーして食べることは決まっているけれど、あとの時間は何をするんだろう?
「ねえ、ジョージ」
振り返った途端、ラインの鼻腔は暖炉のような匂いで満たされた。ジョージがラインを抱きしめたからだ。
「──ごめん」
「ううん。いいよ」
ラインは鼻の下を伸ばした。2人きりになった途端にたまらず抱きしめるなんて、情熱的だ。そんなに愛してもらえて、自分はなんて幸せ者なんだろう。
「鼻、痛かっただろ」
ラインの鼻の下は急激に元の長さに戻った。おまけに、古傷がズキズキと痛み始めた気がする。
「俺の詰めが甘かった。まさか、モンタギューが君に仕返しするなんて思わなかった」
ラインの背中に回っているジョージの腕に力がこもった。
「でも、もう心配しなくていい。しばらくの間、あいつは君の前に姿を現さない。もっとしっかりと"詰めておいた"からな」
ラインはモンタギューの身を案じた。しかし、ジョージがモンタギューに何をしたのか聞くことはしなかった。なんとなく、チョコ・ナッツ・サンデーをおいしく食べることができなくなりそうだと思ったからだ。
「私、本当に馬鹿だったの」
モンタギューにキャビネットに突っ込まれた日から、ラインはめずらしく落ち込んでいた。あの日、自分はハリーたちが神秘部に行かなくて済むように、シリウスと連絡をとるはずだった。しかし、そのことをすっかり忘れてダイアゴン横丁でショッピングを楽しんでいたのだ。そのせいでハリーたちは神秘部に行き、死喰い人に襲われた。ダンブルドア先生と騎士団の大人たちが駆けつけてくれたからよかったものの、彼らの到着があと少しでも遅かったら、どうなっていたか分からない。最後には、例のあの人まで魔法省に姿を現したというのだから。
「いつもみんなに『ぽけっとしてる』って言われる意味が分かった。私、もっとしっかりしないといけない」
ラインは最後の言葉を自分に言い聞かせるように言った。ジョージはラインを腕の中から解放すると、ラインの顔を真正面から見つめて、励ますようににっこりした。
「みんなが君をからかうのは、みんなが君のことを好きだからだ」
ジョージはラインの頭をポンポンと撫でて言った。
「君には人をリラックスさせる才能がある。君はそのままでいい」
「そのとおり」
階段からフレッドが顔を出した。
「ちなみに、俺らには商才がある」
フレッドは杖を振って床に積み上がっている段ボールを浮かせると、後ろに段ボールを従わせながら、矢のように階段を駆け下りていった。どうやら、1階の陳列棚の商品が足りなくなったらしい。
「よし、そろそろ行ってくるぞ」
ジョージがニヤッとしながら立ち上がった。
「チョコ・ナッツ・サンデーを一口食べれば、君の憂鬱はひょいと吹き飛んじまうに違いない」
ラインは興奮した。ついにハリー・ポッター御用達の例のサンデーに相見える時が来たのだ。
「待ってろよ。5分もかからないぜ」
ラインは窓に張り付いて、ダイアゴン横丁を駆けていくジョージの姿を目で追った。夏休みだというのに、通りの人影はまばらだった。なんだか全員、手に杖を握りしめているように見える。ジョージが角を曲がってしまったので、ラインはダイニングテーブルの上に目を移した。朝食の残りと思われるパンや商品の試作品のゴタゴタの下に、紫色のパンフレットが敷かれている。
─────────────────────
魔法省公報
「死喰い人」の脅威から、あなたと大切な家族を守るための10個のヒント
1、不要不急の外出を控えましょう。
2、外出する際は、明るい内に複数人で行動しましょう。
3、家族全員が「目くらまし呪文」、「盾の呪文」を使えるように練習しましょう。
4、未成年の家族の場合、「付き添い姿くらまし」術の練習をしましょう。
5、ポリジュース薬などの──
─────────────────────
5つ目のヒントの続きは透明なガラスの瓶の下に隠れて読めなかった。夕食後にアイスを買いに行けないなんて、嫌な時代だ。ラインはため息をついて、ガラスの瓶を手に取った。それから、食器棚から適当なマグカップを取り出した。水を注いで飲むと、やけに甘くておいしく感じた。喉が渇いていたからだろうか?ラインが首を傾げていると、階段を上ってくる足音が聞こえた。
「なあ、あいつの部屋で待っててもいいぞ。むしろ、そのほうが喜ぶだろ」
再び2階に顔を出したフレッドが、ニヤニヤしながら『G』と描かれたプレートの飾られたドアを指差した。ラインの心臓は大きく飛び跳ねた。甘くておいしいものが、まるで毒のようにラインの体中を回っていった。ラインは衝動を我慢できずに抱きついた。
「フレッド、会いたかった」
フレッドは驚いたような顔をして静止したあと、かつてないほどニヤニヤした。
「ありがとよ。俺もだぜ。そんで、何を企んでるんだ?」
ラインはど派手な紫色のシャツの胸元に顔を埋めた。火薬の匂いがする。なんだか脳みそがとろけそうな気分だ。
「はあ……とってもいい匂い……」
ラインが胸元に顔を埋めたまま大きく息を吸い込んだり吐き出したりすると、フレッドは爆笑した。
「おいおい、なんだよ。ついに、気がついたのか?俺の方がハンサムだってことに」
「うん……世界一かっこいい……」
「いいぞ。もっと言ってくれ」
フレッドは笑い過ぎて涙を流していた。彼が無抵抗なのを良いことに、ラインは彼の首に両腕を絡ませた。
「フレッドは私のこと、どう思ってる?」
「どうって──」
フレッドは目をパチパチさせたあと、辺りをぐるりと見回した。そして、ダイニングテーブルの上のガラスの瓶に目を留めた。
「──そりゃ、かわいいと思ってるさ。なんてったって、俺とあいつの遺伝子は99.9%同じだからな」
「じゃあ、キスしてくれる?」
「キスはしない」
フレッドがきっぱりと首を振ったので、ラインはショックを受けた。
「どうして?」
「俺の場合、残り0.01%の遺伝子がパートナーに色気を求めているからだ」
「色気?」
「そうさ。食い気とは正反対だ」
ラインは絶望に打ちひしがれながらも、フレッドの顔を至近距離で見つめるチャンスを逃さなかった。よく見ると、目元に何かが足りない気がする。
「つまり、私は恋愛対象じゃないってこと?」
「そのとおり。俺にとって、君は恋愛対象じゃない。だから、これからも安心して頼ってくれよ」
フレッドはにっこり笑って、ラインの頭をポンポンと撫でた。ラインもつられてにっこりした。そして、ラインは気がついた。彼の目元にはほくろが足りない。いつも優しく細められる目元には、ほくろがあるのに──
その時、階段から物音が聞こえた。首を回すと、両手にチョコ・ナッツ・サンデーを持ったジョージが、フレッドに絡みついているラインを唖然とした顔で見つめていた。
「悪いな。こういうわけだ」
フレッドはニヤッとしながら──ガラスの瓶を持ち上げた。よく見ると、ガラスの瓶はピンク色だった。貼り付けられた小さな付箋に『ラブ・ポーション・試作品』と書いてある。
「ごめんね、フレッド」
正気に戻ったラインは手を合わせて平謝りした。
「魔法省のパンフレットの上に瓶が置いてあったから、透明な水が入っているように見えちゃって──」
「気にするな。君はいつまでも、そのままぽけっとしててくれ」
フレッドは心底楽しそうにニヤニヤした。
「じゃあ、俺はそろそろ下に戻るぜ。ベリティがくたばっちまうからな」
ラインは今年度の目標を「しっかりする」に決めた。まず、目の前の快楽に気を取られて、目的を忘れないようにしよう。あと、何かを口にする時は、それに魔法がかかっていないか確認してから食べたり飲んだりしよう。ラインが眉間にしわを寄せている間に、フレッドは杖を振り、段ボールを後ろに従わせて歩き始めた。そして、すれ違いざまにジョージに耳打ちした。
「意外だぜ。着痩せするタイプなんだな」
ジョージが投げつけたマグカップの割れる音で、ラインは意識を取り戻した。フレッドのゲラゲラ笑いが階段の下に消えていく。ジョージは杖を振り、マグカップを元通りに片付けた。ラインはジョージをまじまじと見つめた。たぶん、彼は怒っている。ジョージの機嫌を直すにはどうしたらいいか、ラインは考えた。
「俺にもしてくれよ」
ジョージがボソッと言った。
「何を?」
「さっき、あいつにしてたこと」
ラインは赤くなった。あんなことをジョージにするなんて恥ずかしい。でも、このままだとチョコ・ナッツ・サンデーを楽しく食べることができないかもしれない。ラインは勇気を振り絞って立ち上がり、ジョージの首に腕を絡ませた。ジョージの口角がほんのり上がった。
「さっきはもっと顔が近かっただろ」
彼の目元のほくろが見える距離まで、ラインは顔を近づけた。今にも互いの鼻がくっつきそうだったので、ラインはたまらず目を閉じた。
「もっと近かった」
ジョージはラインの後頭部に手を回して、自分の方へ引き寄せた。ラインはますます赤くなった。彼はまだ怒ったふりをしていたのに、ラインに触れた唇が、信じられないくらい優しかったからだ。