the Order of the Phoenix
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「僕──君を信じる」
メープルシロップの瓶に手を伸ばしながら、ラインはテーブルの向こうの2人の会話に耳をそば立てた。
「本当はずっと分かっていたんだ。君が本当のことを話しているって。でも、それを認める勇気がなかった」
覚悟を決めたような真剣な表情で、シェーマスが言った。ハリーは朝食を食べる手を止めて彼と向き合っていたが、彼が話し終えると、気恥ずかしげにニヤッとした。
「ついに、君もママ離れしたのかい?」
「そういうこと。それで、ママにも一部、あの雑誌を送ったよ」
友人たちの仲直りを見てほっこりしながら、ラインはフレンチトーストにメープルシロップをたっぷりと回しかけた。それからテーブルの中央に目を向けて、好きな人の姿を眺めた。ジョージはもう朝食を食べ終えたようだ。彼は軽食用のバスケットからキャンディーをいくつか取り出し、それをローブのポケットに突っ込んで立ち上がった。彼が視線をこちらに向けたので、ラインは慌ててそっぽを向いた。すると、ふわふわと揺れる白いものが視界に飛び込んできた。教職員テーブルに座っている校長先生のひげだ。ダンブルドア先生はバスケットの中からキャンディーを取り出して、嬉しそうににっこりした。お気に入りの味なのかもしれない。
「パパはすっごく驚いてるんだ。だって、みんなが『しわしわ角スノーカック』より、ハリーのインタビュー記事の方に興味を持っているんだモン」
いつのまにかグリフィンドールのテーブルにやって来て、ラインとハーマイオニーの向かい側に座っていたルーナが言った。彼女の手元にある雑誌──ザ・クィブラー3月号を何気なく覗き込んで、ラインは仰天した。思いがけない人物の名前が大見出しに載っていたからだ。
『あの日、僕は見た──ハリー・ポッター、ついに「名前を呼んではいけないあの人」復活の真相を語る』
取材:リータ・スキーター
「どうして急に、リータはジャーナリズムに目覚めたの?」
目を見張ったまま、ラインが聞いた。
「それはね、彼女がいま、執行猶予期間中だからよ」
ハーマイオニーは落ち着き払って答えた。
「どういうこと?」
「他人の周りを"ブンブン飛び回って"嘘八百を書く癖が治るように、私が彼女にアドバイスしてあげているの」
友人の勝ち誇ったような笑みを見て、ラインは察した。詳しいことは分からないけれど、たぶん、ハーマイオニーはリータの弱みでも握っているのだろう。つまり、今回のことは全てハーマイオニーの思惑通りというわけだ。死喰い人の集団脱走があったこのタイミングでハリーが雑誌のインタビューを受けたことも、それによって彼の話を信用する人が増えたことも。見事な政治手腕だ。ラインが恐れ慄いていると、突然、生ぬるい何かが首元をかすめた。
「今日はピクルスなし」
ラインはバッと後ろを振り向き、声の主を睨み付けた。ラインの反応を見てゲラゲラ笑いながら、ジョージは悠々とした足取りで扉へ向けて歩いていった。全く、「急に匂いを嗅ぐのはやめて」とあれほど言ったのに。もし、汗臭いタイミングだったらどうしてくれるんだ。ラインは憤慨して、残りのフレンチトーストをむしゃむしゃと口の中へ押し込んだ。
────
1日の全ての予定を終えて、ラインは満身創痍で談話室のソファに沈み込んでいた。今日はひどかった。特に、4時間目の変身術の授業。今週からラインは5年生のクラスに放り込まれた。まだ編入して2年目だし、先週までは3年生と一緒のクラスだったというのに。いったい、4年生のクラスはどこへいったんだ?
「いいですか、ミス・マーリン。時に、大は小を兼ねます」
マクゴナガル先生はにべもなく説明した。ラインはなんとなく納得した。もちろん、授業にはついていけない。唯一の救いは友人たちと同じクラスであることだった。ラインがこそこそ聞くと、ハーマイオニーは意気揚々と解説してくれた。
「ねえ、ハーマイオニー。非存在に入るってどういうこと?」
「つまり、それが全てになるという意味よ」
ラインは訳が分からないまま杖を振った。案の定、呪文は失敗した。机の上のナメクジを消失させるはずだった呪文は暴発して、教室の壁の半分とラインの右肘から先を消失させた。ハーマイオニーは悲鳴を上げたが、痛みは感じなかった。マクゴナガル先生が間髪を入れずに杖を振り、右肘から先を元通りに生やしてくれたからだ。
「君って、痛覚もぽけっとしてるんだね」
半ば呆れ、半ば同情するような顔でロンが言った。そのあとしばらくの間、ハーマイオニーは気分が悪そうだった。あれは申し訳なかった……ラインが今日1日の出来事を振り返っていた時、どこからか甘い香りが漂ってきた。
「右腕、大丈夫?」
振り向くと、シェーマスがぎこちなく笑いかけていた。彼は手に持ったマグカップをこちらに差し出しながら、ラインに聞いた。
「隣に座ってもいい?」
「うん」
湯気が立ち上るココアを受け取って、ラインはにっこりした。シェーマスと話すのは久しぶりだ。なんだか彼は顔つきが変わった気がする。自らを顧みて、少し大人になったのだろうか。
「実は、僕もダンブルドア軍団に参加することになったんだ。それで、明日が初めての会合だよ」
「そうなんだ」
「ところで、ジョージと喧嘩中?」
シェーマスは部屋の向こうを指差して、ニヤッと笑った。友人たちと連れ立って、ジョージが談話室に入ってきたところだった。
「ううん。ただ、私がからかわれてるだけ」
暖炉の前のソファを陣取り、ポケットから取り出したキャンディーをぼりぼりと噛んでいるジョージを眺めながら、ラインは説明した。
「最近、怪我したところにマートラップの触手液を塗っているんだけどね、あれってピクルスみたいな匂いがするでしょ?それをジョージが面白がっちゃって」
「なるほど。それなら、ゾンコの証拠隠滅スプレーがおすすめだよ」
シェーマスが笑いながら言った。
「どんなにひどい匂いでも、ひと吹きで無臭にしてくれるんだ」
「すごい。それ、欲しいなあ」
ラインが切実な思いで言うと、シェーマスはなぜか自分のココアを一気飲みした。
「もしよかったら、今度一緒に買いに行く?」
なるほど──それはいい考えかもしれない。なぜなら、自分はゾンコのいたずら専門店がホグズミードのどこにあるのか知らないから。ラインが頷こうとした時、突然、手元に衝撃が走った。
「わっ」
陶器の割れる音とともにココア色の飛沫が噴き上がり、ラインのブラウスとスカートをびしょびしょに濡らした。お腹のあたりにじめじめした温かさが広がっていく。見下ろすと、割れたマグカップの破片が絨毯の上に散らばっている。
「あれ?確か、ここにハンカチが──」
シェーマスは焦ったようにポケットを探っている。ラインは辺りをキョロキョロ見回して、突然ココアが爆発した理由を探ろうとした。しかし、濡れた生地が肌にペタペタと張りつく不快感が勝った。
「私、着替えてくるね」
ラインは立ち上がり、女子寮へ向けて歩き出した。スカートに染み込んだココアが足を伝って垂れてきて気持ちが悪い。ラインは部屋の中ほどに座り込んでいる上級生のグループを迂回して、壁際のソファで百味ビーンズの試食会を開いている1年生たちの横を通り過ぎた。そして、もうすぐ女子寮へ続く階段に辿り着くというところで、突然、誰かに行手を阻まれた。
「ライン、こっちだ」
有無を言わせない力強さで、彼はラインの腕を引っ張った。ラインは足をもつれさせながら連れて行かれた。ちょっと強引だ。ひとこと言わせてもらいたい。しかし、彼はラインに隙を与えなかった。太った婦人の肖像画を押し開けて、外の廊下へ出てからようやく、ラインは発言することを許された。
「ちょっと、私、着替えるところだったのに──」
「スコージファイ、清めよ!」
ジョージは素早く杖を振った。ココアの染み込んだブラウスとスカート、それに足や靴下までもがあっという間に綺麗になった。
「わあ──すごい。ありがとう」
やっぱり、ジョージってすごく器用だ。ラインが感心している間に、ジョージは再びラインの腕を引っ張って歩き出した。鍵のかかっていない最初の教室を見つけると、ジョージはそこにラインを押し込んで、バタンと扉を閉めた。
「あいつがどういうつもりで誘ったか、分かってるのか?」
ジョージが唐突に聞いた。
「……あいつって?」
「シェーマス」
「えっと……私にゾンコのいたずら専門店の場所を教えるため?」
「違う」
ジョージがピシャリと言ったので、ラインは面食らった。なんだか、ジョージにはいつもの余裕がないように見える。
「あいつは君と友達以上の関係になりたいんだ」
「そうなの?」
またもやラインは面食らった。そうだったんだ……全然気が付かなかった。
「そうに決まってる。君と2人でホグズミードに行きたい理由なんてそれしかない。誰にも邪魔されずに話したいし、手も繋ぎたい。あわよくば、それ以上のことだってしたい。間違いなく、あいつはそう思ってるね」
ジョージは断言した。
「どうして分かるの?」
「俺もそう思ってるからさ」
ラインはその言葉の意味が理解できなかった。ラインが宙を見つめて考え込んでいるうちに、ジョージはたたみかけた。
「君を好いてる奴と2人きりになんてなってみろ。そうやって君がぽけっとしてるうちに、全部相手の思い通りだ」
次の瞬間、後頭部にごつごつした手が差し込まれて、唇に熱いものが触れた。
「ほら見ろ。言わんこっちゃない」
ラインは目をぱちぱちさせた。相変わらず、ラインの脳みそはのんびりと動いている。次にジョージと目が合った時、ラインはようやく何が起きたのかを理解した。
「他の男とホグズミードなんか行くなよ」
誤解しようのない眼差しだった。ジョージって──私のことが好きだったんだ。驚きと感激が入り混じり、ラインの口はぽかんと開いた。再び近付いてきた彼の瞳にずいぶんと間抜けな顔の自分が映っている。たぶん、口は閉じた方がいい。だって、ジョージが笑っているから。
ラインの思考は再び、燃えるような赤に呑み込まれた。今度は触れるだけじゃなかった。ぞくぞくした感覚が体中に広がっていく。ラインの脳みそは人生で初めての情報を処理しきれず、得意分野に集中し始めた。
「……初めてのキスって、本当にレモンの味なんだ」
ラインが呟くと、ジョージは満足げにニヤニヤした。
メープルシロップの瓶に手を伸ばしながら、ラインはテーブルの向こうの2人の会話に耳をそば立てた。
「本当はずっと分かっていたんだ。君が本当のことを話しているって。でも、それを認める勇気がなかった」
覚悟を決めたような真剣な表情で、シェーマスが言った。ハリーは朝食を食べる手を止めて彼と向き合っていたが、彼が話し終えると、気恥ずかしげにニヤッとした。
「ついに、君もママ離れしたのかい?」
「そういうこと。それで、ママにも一部、あの雑誌を送ったよ」
友人たちの仲直りを見てほっこりしながら、ラインはフレンチトーストにメープルシロップをたっぷりと回しかけた。それからテーブルの中央に目を向けて、好きな人の姿を眺めた。ジョージはもう朝食を食べ終えたようだ。彼は軽食用のバスケットからキャンディーをいくつか取り出し、それをローブのポケットに突っ込んで立ち上がった。彼が視線をこちらに向けたので、ラインは慌ててそっぽを向いた。すると、ふわふわと揺れる白いものが視界に飛び込んできた。教職員テーブルに座っている校長先生のひげだ。ダンブルドア先生はバスケットの中からキャンディーを取り出して、嬉しそうににっこりした。お気に入りの味なのかもしれない。
「パパはすっごく驚いてるんだ。だって、みんなが『しわしわ角スノーカック』より、ハリーのインタビュー記事の方に興味を持っているんだモン」
いつのまにかグリフィンドールのテーブルにやって来て、ラインとハーマイオニーの向かい側に座っていたルーナが言った。彼女の手元にある雑誌──ザ・クィブラー3月号を何気なく覗き込んで、ラインは仰天した。思いがけない人物の名前が大見出しに載っていたからだ。
『あの日、僕は見た──ハリー・ポッター、ついに「名前を呼んではいけないあの人」復活の真相を語る』
取材:リータ・スキーター
「どうして急に、リータはジャーナリズムに目覚めたの?」
目を見張ったまま、ラインが聞いた。
「それはね、彼女がいま、執行猶予期間中だからよ」
ハーマイオニーは落ち着き払って答えた。
「どういうこと?」
「他人の周りを"ブンブン飛び回って"嘘八百を書く癖が治るように、私が彼女にアドバイスしてあげているの」
友人の勝ち誇ったような笑みを見て、ラインは察した。詳しいことは分からないけれど、たぶん、ハーマイオニーはリータの弱みでも握っているのだろう。つまり、今回のことは全てハーマイオニーの思惑通りというわけだ。死喰い人の集団脱走があったこのタイミングでハリーが雑誌のインタビューを受けたことも、それによって彼の話を信用する人が増えたことも。見事な政治手腕だ。ラインが恐れ慄いていると、突然、生ぬるい何かが首元をかすめた。
「今日はピクルスなし」
ラインはバッと後ろを振り向き、声の主を睨み付けた。ラインの反応を見てゲラゲラ笑いながら、ジョージは悠々とした足取りで扉へ向けて歩いていった。全く、「急に匂いを嗅ぐのはやめて」とあれほど言ったのに。もし、汗臭いタイミングだったらどうしてくれるんだ。ラインは憤慨して、残りのフレンチトーストをむしゃむしゃと口の中へ押し込んだ。
────
1日の全ての予定を終えて、ラインは満身創痍で談話室のソファに沈み込んでいた。今日はひどかった。特に、4時間目の変身術の授業。今週からラインは5年生のクラスに放り込まれた。まだ編入して2年目だし、先週までは3年生と一緒のクラスだったというのに。いったい、4年生のクラスはどこへいったんだ?
「いいですか、ミス・マーリン。時に、大は小を兼ねます」
マクゴナガル先生はにべもなく説明した。ラインはなんとなく納得した。もちろん、授業にはついていけない。唯一の救いは友人たちと同じクラスであることだった。ラインがこそこそ聞くと、ハーマイオニーは意気揚々と解説してくれた。
「ねえ、ハーマイオニー。非存在に入るってどういうこと?」
「つまり、それが全てになるという意味よ」
ラインは訳が分からないまま杖を振った。案の定、呪文は失敗した。机の上のナメクジを消失させるはずだった呪文は暴発して、教室の壁の半分とラインの右肘から先を消失させた。ハーマイオニーは悲鳴を上げたが、痛みは感じなかった。マクゴナガル先生が間髪を入れずに杖を振り、右肘から先を元通りに生やしてくれたからだ。
「君って、痛覚もぽけっとしてるんだね」
半ば呆れ、半ば同情するような顔でロンが言った。そのあとしばらくの間、ハーマイオニーは気分が悪そうだった。あれは申し訳なかった……ラインが今日1日の出来事を振り返っていた時、どこからか甘い香りが漂ってきた。
「右腕、大丈夫?」
振り向くと、シェーマスがぎこちなく笑いかけていた。彼は手に持ったマグカップをこちらに差し出しながら、ラインに聞いた。
「隣に座ってもいい?」
「うん」
湯気が立ち上るココアを受け取って、ラインはにっこりした。シェーマスと話すのは久しぶりだ。なんだか彼は顔つきが変わった気がする。自らを顧みて、少し大人になったのだろうか。
「実は、僕もダンブルドア軍団に参加することになったんだ。それで、明日が初めての会合だよ」
「そうなんだ」
「ところで、ジョージと喧嘩中?」
シェーマスは部屋の向こうを指差して、ニヤッと笑った。友人たちと連れ立って、ジョージが談話室に入ってきたところだった。
「ううん。ただ、私がからかわれてるだけ」
暖炉の前のソファを陣取り、ポケットから取り出したキャンディーをぼりぼりと噛んでいるジョージを眺めながら、ラインは説明した。
「最近、怪我したところにマートラップの触手液を塗っているんだけどね、あれってピクルスみたいな匂いがするでしょ?それをジョージが面白がっちゃって」
「なるほど。それなら、ゾンコの証拠隠滅スプレーがおすすめだよ」
シェーマスが笑いながら言った。
「どんなにひどい匂いでも、ひと吹きで無臭にしてくれるんだ」
「すごい。それ、欲しいなあ」
ラインが切実な思いで言うと、シェーマスはなぜか自分のココアを一気飲みした。
「もしよかったら、今度一緒に買いに行く?」
なるほど──それはいい考えかもしれない。なぜなら、自分はゾンコのいたずら専門店がホグズミードのどこにあるのか知らないから。ラインが頷こうとした時、突然、手元に衝撃が走った。
「わっ」
陶器の割れる音とともにココア色の飛沫が噴き上がり、ラインのブラウスとスカートをびしょびしょに濡らした。お腹のあたりにじめじめした温かさが広がっていく。見下ろすと、割れたマグカップの破片が絨毯の上に散らばっている。
「あれ?確か、ここにハンカチが──」
シェーマスは焦ったようにポケットを探っている。ラインは辺りをキョロキョロ見回して、突然ココアが爆発した理由を探ろうとした。しかし、濡れた生地が肌にペタペタと張りつく不快感が勝った。
「私、着替えてくるね」
ラインは立ち上がり、女子寮へ向けて歩き出した。スカートに染み込んだココアが足を伝って垂れてきて気持ちが悪い。ラインは部屋の中ほどに座り込んでいる上級生のグループを迂回して、壁際のソファで百味ビーンズの試食会を開いている1年生たちの横を通り過ぎた。そして、もうすぐ女子寮へ続く階段に辿り着くというところで、突然、誰かに行手を阻まれた。
「ライン、こっちだ」
有無を言わせない力強さで、彼はラインの腕を引っ張った。ラインは足をもつれさせながら連れて行かれた。ちょっと強引だ。ひとこと言わせてもらいたい。しかし、彼はラインに隙を与えなかった。太った婦人の肖像画を押し開けて、外の廊下へ出てからようやく、ラインは発言することを許された。
「ちょっと、私、着替えるところだったのに──」
「スコージファイ、清めよ!」
ジョージは素早く杖を振った。ココアの染み込んだブラウスとスカート、それに足や靴下までもがあっという間に綺麗になった。
「わあ──すごい。ありがとう」
やっぱり、ジョージってすごく器用だ。ラインが感心している間に、ジョージは再びラインの腕を引っ張って歩き出した。鍵のかかっていない最初の教室を見つけると、ジョージはそこにラインを押し込んで、バタンと扉を閉めた。
「あいつがどういうつもりで誘ったか、分かってるのか?」
ジョージが唐突に聞いた。
「……あいつって?」
「シェーマス」
「えっと……私にゾンコのいたずら専門店の場所を教えるため?」
「違う」
ジョージがピシャリと言ったので、ラインは面食らった。なんだか、ジョージにはいつもの余裕がないように見える。
「あいつは君と友達以上の関係になりたいんだ」
「そうなの?」
またもやラインは面食らった。そうだったんだ……全然気が付かなかった。
「そうに決まってる。君と2人でホグズミードに行きたい理由なんてそれしかない。誰にも邪魔されずに話したいし、手も繋ぎたい。あわよくば、それ以上のことだってしたい。間違いなく、あいつはそう思ってるね」
ジョージは断言した。
「どうして分かるの?」
「俺もそう思ってるからさ」
ラインはその言葉の意味が理解できなかった。ラインが宙を見つめて考え込んでいるうちに、ジョージはたたみかけた。
「君を好いてる奴と2人きりになんてなってみろ。そうやって君がぽけっとしてるうちに、全部相手の思い通りだ」
次の瞬間、後頭部にごつごつした手が差し込まれて、唇に熱いものが触れた。
「ほら見ろ。言わんこっちゃない」
ラインは目をぱちぱちさせた。相変わらず、ラインの脳みそはのんびりと動いている。次にジョージと目が合った時、ラインはようやく何が起きたのかを理解した。
「他の男とホグズミードなんか行くなよ」
誤解しようのない眼差しだった。ジョージって──私のことが好きだったんだ。驚きと感激が入り混じり、ラインの口はぽかんと開いた。再び近付いてきた彼の瞳にずいぶんと間抜けな顔の自分が映っている。たぶん、口は閉じた方がいい。だって、ジョージが笑っているから。
ラインの思考は再び、燃えるような赤に呑み込まれた。今度は触れるだけじゃなかった。ぞくぞくした感覚が体中に広がっていく。ラインの脳みそは人生で初めての情報を処理しきれず、得意分野に集中し始めた。
「……初めてのキスって、本当にレモンの味なんだ」
ラインが呟くと、ジョージは満足げにニヤニヤした。
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