the Order of the Phoenix
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「ほら、あの時、モンタギューがゴールに向かってきてただろ?だから、北塔で何が起きているのか、正確には分からなかったんだ。だけど、何でかなあ、これは直感なんだけど──危険だ!そう感じたんだ。そしたら、考える前に身体が動いてた。僕はモンタギューをかわして、北塔へ向けて飛んだ。おかげで奴に10点取られたけど、そんなことはどうだっていいさ。だって、命より大切なものなんてないからね。そして──ほら──結果はこの通りだ」
ロンは満足げにラインの腕をポンと叩き、語り終えた。それからステーキ・キドニーパイをかき込むと、ハーマイオニーをチラッと見て、彼女がどんな顔をしているか確認した。ハーマイオニーは瞬時にクスクス笑いを止めて、感心したような表情になった。
「考えてみれば、最初にモンタギューが攻めてきた時──」
ラインはもう十数回目になるだろうロンの話を聞きながら、ジョージの姿を盗み見た。先程ふらりと大広間に現れた彼は、扉に1番近い席に陣取り、ひたすら皿に骨付き肉を盛り付けている。周りの生徒たちの会話にも参加していない。やっぱり彼はあれ以降、ちょっと様子がおかしい。
遡ること、2時間前。北塔から落下したところをロンに救われ、無事に地上に降り立ったラインは、すぐにジョージの安否を確認しようとした。塔を見上げると、彼はひょいと壁をよじ登り、窓から城の中へ戻るところだった。彼を危険に巻き込んでしまったことを謝りたいし、自分を励まし、支えてくれたお礼も言いたい。ラインはすぐに城へ戻り、彼に会おうとした。しかしどこを探しても、彼の姿は見つからなかった。彼の友人たちに訊ねてみたけれど、夕食までの間、ジョージは誰の前にも姿を現さなかったようだった。
2時間ぶりのジョージを眺めるのに熱中するあまり、ラインはしばらく瞬きをしていないことを思い出した。ぎゅっと目を瞑ると、カピカピの目が潤った。次に目を開けた時には、テーブルの上に豪勢なデザートが現れていた。ラインは血眼になって、食後のデザートを選別した。今日は特別に甘いものが食べたい気分だ。どれにしようかな、糖蜜プディングか、それとも──
「ライン、見て。キャラメルのカヌレがあるよ」
ネビルがはしゃぎながら、カヌレの載った皿をラインに差し出した。
「わあ──ありがとう」
ラインは満面の笑みで皿を受け取った。すると、どこからか突き刺さるような視線を感じた。顔を上げて周囲を見回したけれど、誰もこちらを見ていない。ラインは再びジョージを眺めた。彼はひたすら骨付き肉に喰らい付いている。まるで、怒りをぶつけるみたいに。いつもより荒々しい彼の姿から、ラインは目が離せなくなった。なんだか、生き物としての強さを感じる。すごくワイルドで、かっこいい……
────
夕食を食べ終えると、ラインはすぐに談話室へ戻り、窓際のソファーに沈み込んだ。今日は北塔から落ちて大変だったし、カヌレを食べ過ぎたので眠い。それなのに、やるべきことがたくさんある。まず、変身術のレポート。これは明日までだから今すぐに取りかかる。それとボウトラックルの模写。これは楽しいから最後に取っておく。あとは占い学の夢日記。これは適当でいい。明日、授業の前にでっち上げよう。ラインは景気付けにビスケットを齧った。ちょっと塩味が強い。こういう時はビスケットにヌガーを挟んで食べるといい。なぜならば、甘いものとしょっぱいものを交互に食べるのが1番おいしいから。カバンからヌガーの瓶を取り出そうとすると、談話室の扉が開いた。中に入ってきた人物を一目見るなり、ラインは立ち上がった。
「あの、ジョージ、さっきは──」
あ、違った。ラインは肩を落とし、再びソファに沈み込んだ。これでもかと言うほどニヤつきながら、フレッドがこちらに向かって歩いてくる。これはちょっと面倒くさそうだ。
「フレッド、ヌガーサンドビスケットを食べる?」
ラインは先手を打った。ヌガーの瓶の蓋を回す……あれ、回らない。蓋にヌガーがくっついて固まってしまっている。
「貸してみろよ、ほら」
フレッドがこちらに手を差し出した。ラインは彼の好意に甘えた。瓶の蓋が開くと、ねっとりした甘い香りが漂ってきた。これこそ幸せの香りだ。
「ありがとう、フレッド」
ラインはにっこりした。すると、フレッドの肩越しに、談話室の入り口を登ってきたジョージとばっちり目が合った。彼は片手に何かの瓶を握っている(治安の悪い持ち方だった)。彼はすぐさま目を逸らし、まずフレッドに何らかの(下品な)ジェスチャーをしたあと、周囲を誰彼なしに睨みつけながら寝室へと去っていった。ラインはジョージの消えた方向を呆然と見つめた。なんだか、悪い男の人に惹かれる女の子の気持ちが分かった気がする。危なげな雰囲気が、とってもセクシーだ……
────
翌日の放課後、好機は訪れた。北塔の7階のトイレの前で、ラインはジョージと鉢合わせた。
「あ、ジョージ、昨日は……」
ラインの声は尻すぼみになって消えた。ジョージがラインの腕をむんずと掴み、歩き出したからだ。彼はいつものように歩くペースを合わせてはくれなかった。ラインは必死に足を動かした。鍵のかかっていない最初の教室を見つけると、ジョージはそこにラインを押し込んで、バタンと扉を閉めた。ちょっとドキドキしてきた。
「……どうしてあの時、『もう手を離して』なんて言ったんだ?」
必死に感情を抑えつけているような声で、ジョージが唐突に聞いた。"あの時"がいつのことか、ラインはすぐに分かった。
「あのままだと、貴方まで落ちてしまうかと思って」
「自分を犠牲にして、俺を助けようとしたってことか?」
ラインはおずおずと頷いた。
「……はどうなる?」
ジョージがぼそっと言った。
「え?」
「俺の気持ちはどうなる?」
ジョージは声を荒げた。
「もし君が死んだら──俺は一生、後悔しながら生きていくことになる」
ラインはジョージの剣幕に圧倒されつつ、頭の中に邪なイメージがむくむくと湧くのを感じた。自分の写真の前で男泣きするジョージの姿だ。すごく、いや、ものすごくいい。
「2人とも助かる可能性だって充分にあった。君は最後まで諦めるべきじゃなかった。それに、もっと俺を信じて欲しかった」
全く、彼の言う通りだ。ラインは後悔した。彼の気持ちを考えず、独りよがりな行動を取ってしまった。
「もう二度と、命を粗末にしないと誓ってくれ」
ジョージはラインに詰め寄った。
「誓うまで……君をこの部屋から出してやらない」
肩をぐいと掴まれて、ラインは息を呑んだ。彼はいつもと別人のような顔をしている。耳にかかる吐息が熱い。ゴツゴツした指が皮膚に食い込んでいる。これはちょっといけない感じがする。興奮が顔に現れないよう、ラインは下唇をぎゅっと噛んだ。すると突然、ジョージが驚いたように目を見開いた。
「……ごめん」
髪をぐしゃぐしゃにして、彼はうなだれた。
「俺、最低だ。君を泣かせるなんて」
いつのまにか、涙が頬を伝っていた。しかし、ジョージは勘違いしている。これは興奮の涙だ。
「ジョージ、違うの、ごめんね──」
「いいや、君は悪くない」
ジョージはうなだれたまま、きっぱりと言った。
「俺が勝手に──」
「あれ?キャラメルの匂いがする」
ラインの口が唐突に動いた。今の言葉は脳みそを経由していない。たぶん、自分には鼻と口を直で繋ぐ神経経路がある。
「──さすがの嗅覚だな。シリウスも驚くぜ」
ジョージは呆気に取られたようだったが、すぐにポケットをゴソゴソと探り始めた。
「君にあげようと思って──ほら」
ジョージは薄紙に包まれたキャラメルをラインに差し出した。
「もしかして、このキャラメル……昨日からポケットに入ってた?」
ラインが聞くと、ジョージは不思議そうな顔で頷いた。
「じゃあ残念だけど、受け取れない。すごく食べたいけど、我慢する。もしこれが腐っていて、変な病気にかかってしまったら大変だから」
ラインは肩を落として落胆してみせた。たまにはこうして、ジョージをからかうのも悪くない。
「命を粗末にすると、私……狭い部屋に閉じ込められて、ひどいお説教をされちゃうの」
「おいおい……人聞きが悪すぎるぞ。勘弁してくれよ」
ジョージは困ったような声を出したが、口元がニヤニヤ笑っていた。
「これで機嫌を直してくれるかい?」
ジョージはさっきと反対側のポケットに手を突っ込み、キラキラした包みを取り出した。
「ハニーデュークスの新作キャンディ、なかなか手に入らないって言ってただろ」
ワイルドな彼も素敵だけれど、やっぱり、いつものジョージが一番素敵だ。キラキラしたキャンディの奥に浮かぶ優しい笑顔を眺めながら、ラインはにんまりした。
ロンは満足げにラインの腕をポンと叩き、語り終えた。それからステーキ・キドニーパイをかき込むと、ハーマイオニーをチラッと見て、彼女がどんな顔をしているか確認した。ハーマイオニーは瞬時にクスクス笑いを止めて、感心したような表情になった。
「考えてみれば、最初にモンタギューが攻めてきた時──」
ラインはもう十数回目になるだろうロンの話を聞きながら、ジョージの姿を盗み見た。先程ふらりと大広間に現れた彼は、扉に1番近い席に陣取り、ひたすら皿に骨付き肉を盛り付けている。周りの生徒たちの会話にも参加していない。やっぱり彼はあれ以降、ちょっと様子がおかしい。
遡ること、2時間前。北塔から落下したところをロンに救われ、無事に地上に降り立ったラインは、すぐにジョージの安否を確認しようとした。塔を見上げると、彼はひょいと壁をよじ登り、窓から城の中へ戻るところだった。彼を危険に巻き込んでしまったことを謝りたいし、自分を励まし、支えてくれたお礼も言いたい。ラインはすぐに城へ戻り、彼に会おうとした。しかしどこを探しても、彼の姿は見つからなかった。彼の友人たちに訊ねてみたけれど、夕食までの間、ジョージは誰の前にも姿を現さなかったようだった。
2時間ぶりのジョージを眺めるのに熱中するあまり、ラインはしばらく瞬きをしていないことを思い出した。ぎゅっと目を瞑ると、カピカピの目が潤った。次に目を開けた時には、テーブルの上に豪勢なデザートが現れていた。ラインは血眼になって、食後のデザートを選別した。今日は特別に甘いものが食べたい気分だ。どれにしようかな、糖蜜プディングか、それとも──
「ライン、見て。キャラメルのカヌレがあるよ」
ネビルがはしゃぎながら、カヌレの載った皿をラインに差し出した。
「わあ──ありがとう」
ラインは満面の笑みで皿を受け取った。すると、どこからか突き刺さるような視線を感じた。顔を上げて周囲を見回したけれど、誰もこちらを見ていない。ラインは再びジョージを眺めた。彼はひたすら骨付き肉に喰らい付いている。まるで、怒りをぶつけるみたいに。いつもより荒々しい彼の姿から、ラインは目が離せなくなった。なんだか、生き物としての強さを感じる。すごくワイルドで、かっこいい……
────
夕食を食べ終えると、ラインはすぐに談話室へ戻り、窓際のソファーに沈み込んだ。今日は北塔から落ちて大変だったし、カヌレを食べ過ぎたので眠い。それなのに、やるべきことがたくさんある。まず、変身術のレポート。これは明日までだから今すぐに取りかかる。それとボウトラックルの模写。これは楽しいから最後に取っておく。あとは占い学の夢日記。これは適当でいい。明日、授業の前にでっち上げよう。ラインは景気付けにビスケットを齧った。ちょっと塩味が強い。こういう時はビスケットにヌガーを挟んで食べるといい。なぜならば、甘いものとしょっぱいものを交互に食べるのが1番おいしいから。カバンからヌガーの瓶を取り出そうとすると、談話室の扉が開いた。中に入ってきた人物を一目見るなり、ラインは立ち上がった。
「あの、ジョージ、さっきは──」
あ、違った。ラインは肩を落とし、再びソファに沈み込んだ。これでもかと言うほどニヤつきながら、フレッドがこちらに向かって歩いてくる。これはちょっと面倒くさそうだ。
「フレッド、ヌガーサンドビスケットを食べる?」
ラインは先手を打った。ヌガーの瓶の蓋を回す……あれ、回らない。蓋にヌガーがくっついて固まってしまっている。
「貸してみろよ、ほら」
フレッドがこちらに手を差し出した。ラインは彼の好意に甘えた。瓶の蓋が開くと、ねっとりした甘い香りが漂ってきた。これこそ幸せの香りだ。
「ありがとう、フレッド」
ラインはにっこりした。すると、フレッドの肩越しに、談話室の入り口を登ってきたジョージとばっちり目が合った。彼は片手に何かの瓶を握っている(治安の悪い持ち方だった)。彼はすぐさま目を逸らし、まずフレッドに何らかの(下品な)ジェスチャーをしたあと、周囲を誰彼なしに睨みつけながら寝室へと去っていった。ラインはジョージの消えた方向を呆然と見つめた。なんだか、悪い男の人に惹かれる女の子の気持ちが分かった気がする。危なげな雰囲気が、とってもセクシーだ……
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翌日の放課後、好機は訪れた。北塔の7階のトイレの前で、ラインはジョージと鉢合わせた。
「あ、ジョージ、昨日は……」
ラインの声は尻すぼみになって消えた。ジョージがラインの腕をむんずと掴み、歩き出したからだ。彼はいつものように歩くペースを合わせてはくれなかった。ラインは必死に足を動かした。鍵のかかっていない最初の教室を見つけると、ジョージはそこにラインを押し込んで、バタンと扉を閉めた。ちょっとドキドキしてきた。
「……どうしてあの時、『もう手を離して』なんて言ったんだ?」
必死に感情を抑えつけているような声で、ジョージが唐突に聞いた。"あの時"がいつのことか、ラインはすぐに分かった。
「あのままだと、貴方まで落ちてしまうかと思って」
「自分を犠牲にして、俺を助けようとしたってことか?」
ラインはおずおずと頷いた。
「……はどうなる?」
ジョージがぼそっと言った。
「え?」
「俺の気持ちはどうなる?」
ジョージは声を荒げた。
「もし君が死んだら──俺は一生、後悔しながら生きていくことになる」
ラインはジョージの剣幕に圧倒されつつ、頭の中に邪なイメージがむくむくと湧くのを感じた。自分の写真の前で男泣きするジョージの姿だ。すごく、いや、ものすごくいい。
「2人とも助かる可能性だって充分にあった。君は最後まで諦めるべきじゃなかった。それに、もっと俺を信じて欲しかった」
全く、彼の言う通りだ。ラインは後悔した。彼の気持ちを考えず、独りよがりな行動を取ってしまった。
「もう二度と、命を粗末にしないと誓ってくれ」
ジョージはラインに詰め寄った。
「誓うまで……君をこの部屋から出してやらない」
肩をぐいと掴まれて、ラインは息を呑んだ。彼はいつもと別人のような顔をしている。耳にかかる吐息が熱い。ゴツゴツした指が皮膚に食い込んでいる。これはちょっといけない感じがする。興奮が顔に現れないよう、ラインは下唇をぎゅっと噛んだ。すると突然、ジョージが驚いたように目を見開いた。
「……ごめん」
髪をぐしゃぐしゃにして、彼はうなだれた。
「俺、最低だ。君を泣かせるなんて」
いつのまにか、涙が頬を伝っていた。しかし、ジョージは勘違いしている。これは興奮の涙だ。
「ジョージ、違うの、ごめんね──」
「いいや、君は悪くない」
ジョージはうなだれたまま、きっぱりと言った。
「俺が勝手に──」
「あれ?キャラメルの匂いがする」
ラインの口が唐突に動いた。今の言葉は脳みそを経由していない。たぶん、自分には鼻と口を直で繋ぐ神経経路がある。
「──さすがの嗅覚だな。シリウスも驚くぜ」
ジョージは呆気に取られたようだったが、すぐにポケットをゴソゴソと探り始めた。
「君にあげようと思って──ほら」
ジョージは薄紙に包まれたキャラメルをラインに差し出した。
「もしかして、このキャラメル……昨日からポケットに入ってた?」
ラインが聞くと、ジョージは不思議そうな顔で頷いた。
「じゃあ残念だけど、受け取れない。すごく食べたいけど、我慢する。もしこれが腐っていて、変な病気にかかってしまったら大変だから」
ラインは肩を落として落胆してみせた。たまにはこうして、ジョージをからかうのも悪くない。
「命を粗末にすると、私……狭い部屋に閉じ込められて、ひどいお説教をされちゃうの」
「おいおい……人聞きが悪すぎるぞ。勘弁してくれよ」
ジョージは困ったような声を出したが、口元がニヤニヤ笑っていた。
「これで機嫌を直してくれるかい?」
ジョージはさっきと反対側のポケットに手を突っ込み、キラキラした包みを取り出した。
「ハニーデュークスの新作キャンディ、なかなか手に入らないって言ってただろ」
ワイルドな彼も素敵だけれど、やっぱり、いつものジョージが一番素敵だ。キラキラしたキャンディの奥に浮かぶ優しい笑顔を眺めながら、ラインはにんまりした。