the Goblet of Fire
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ミスマーリン、分かっていると思いますが──まず何よりも貴方がすべき事は、3年分の遅れを取り戻すことです」
フリットウィック先生の目がキラリと光った。
「そしてなるべく早く、自らを守る術を身に付けられるよう、私達が全力でお手伝いしましょう」
「ありがとうございます、先生」
1限は呪文学の個人授業だ。なぜ1年生と一緒に授業を受けないのかというと、率直に言って"危険"だからだ。
「そこに立って──そうです。そうしたら、杖を構えて」
ラインは心を落ち着けるため、大きく息を吸って吐き出した。先ほど動く階段を全力で駆け上がったために息が上がっている。一刻も早くこの城に慣れなくては──今日遅刻せずにこの教室に辿り着いたことで、今までの人生で積んだ徳を全て使い果たしてしまった気がする。
なんとか呼吸を整えて杖を構えると、先端から火花が噴き出した。フリットウィック先生はそれを見て顔を顰めた。
「──では、私の真似をして下さい。そう、おそらく大丈夫──ウィンガーディアム、レビオーサ」
先生が杖を振ると、机の上から白い羽がふわりと浮き上がった。まるで指揮棒のように滑らかな杖の動きを見て、頭の中に統一性の無いメロディーが流れ始めた──聞いた事がある、何の歌だろう──あ、分かった、始業式の日に聞いた校歌だ──ラインはその雑念と不協和音を頭から追い出し、目の前の羽に意識を集中させた。
「ウィンガーディアム──」
突然、わなわなと杖が震え始めた。頭の中に危険信号が鳴り響く。しかし、やるしかない。何故かフリットウィック先生はラインに杖を向けている。
「──ウィンガーディアム、レビオーサ!」
その瞬間、爆発音とともに、ラインは後ろへ吹き飛ばされた。壁に身体を打ちつける前に、何か柔らかいものに包まれる感覚があった。それのおかげか、痛みは感じない。次に目を開けた時には、視界に半壊した天井と青空が広がっていた。
「少々、派手なことになりましたね。やはりまずは、その強い魔力をコントロールする訓練をしなければならないようです」
こちらを見下ろしている先生は埃一つ被っていない。
「この教室に、呪文の効果を小さくする細工をしました。さぁ立つのです──蹲っている時間はありませんよ」
骨は折れていなくても、心はしっかりと折れていた。よろよろと立ち上がる。
「さぁ、もう一度やってみてください」
正直に言うと、一刻も早くベッドに潜り込みたい。
「──ウィンガーディアム、レビオーサ」
呪文を囁き、杖を小さく振ってみる。しかし今度は何事も起こらない。羽は机の上から1ミリも浮き上がっていない。
「杖の動きや声を小さくするだけではいけません。ミスマーリン、これは大切な事なのです。魔力に振り回されるのではなく、貴方自身が魔力を従え、利用するのです。自信を持つことが大切です。根拠のない自信で構いません」
なるほど──魔法を使うには、精神力が重要なようだ。心を落ち着けて、目の前の羽だけに意識を集中する。心なしか杖の震えが小さくなった気がする。
「ウィンガーディアム、レビオーサ!」
その瞬間、杖が手元から吹き飛び、背中を再び壁に打ち付けた。しかし、恐る恐る目を開けると、白い羽が天井に押し付けられるように浮かんでいるのが見えた。
「素晴らしい。しばらくはこの教室を使いましょう。貴方が命を落とさぬように最大限の配慮をします」
フリットウィック先生はにっこりと微笑み、
空き時間に自主練習をしても構いません──と付け加えた。ラインはお礼を言おうと口を開いたが、顔が引き攣っていたため、モゴモゴとした音を発することしか出来なかった。
――――
「貴方──顔色が悪いわ。今日はランプを消してしっかり寝るべきよ」
その声に顔を上げると、心配そうに顔を覗き込むハーマイオニーと目が合った。昨日も教科書を枕代わりにしてしまったようだ。連日の疲労と寝不足が重なり、ラインは自分が何を口に入れたかも分からないまま、食事を進めていた。
今のところ、実技は散々な結果だった。とにかく、全ての呪文が"最大限に大袈裟な効果"を発揮しようとするのだ。先生方がいなければ、とっくに死んでいるだろう。せめて、座学だけでも及第点を取りたい──ラインはそのために、空き時間の全てを勉強に費やしていた。
「貴方、すごく努力家なのね」
ハーマイオニーが微笑んだ。
「ハーマイオニーこそ、どの科目でも学年で1番だって聞いたわ。それって本当に凄いことよ」
彼女に微笑み返して、手元のコップを傾ける。しかし、口の中には何の液体も流れてこない。ラインはコップをまじまじと見つめると、今日何度目かの溜め息をついた。
「なんてことないのよ。私はただ、きっちりと課題をこなしたいタイプの人間なの」
ハーマイオニーは誇らしげに言うと、ラインのコップにかぼちゃジュースを注いでくれた。
「ライン、それ食べない方が良いよ。フレッドとジョージの新作だ」
その警告を聞いた途端、意識がしゃっきりとした。ラインは美味しそうなキャンディに伸ばしていた手を引っ込め、ロンにありがとうとジェスチャーを送った。
「どうしたロニー坊や、やけに紳士的じゃないか」
「なるほど、なるほど。坊やの好みは清純派か」
彼の双子の兄達が、心底面白そうに弟を小突いている。
「うるさいなぁ。だって可哀想だろ、編入したばかりで不安なところに、さらに舌が伸びたり、尻尾が生えたりするなんて」
ラインは言い争う3人をしげしげと眺めた。兄弟でも、性格は全く違うようだ。
「僕、先に寮へ戻るよ。みんなはゆっくり食べてて」
ハリーはそう言うと、難しい顔で立ち上がった。彼は早々に食事を終えたらしい。
「私も行くわ──彼、ちょっと心配なのよ。なんだかよく眠れないみたい」
ハーマイオニーはそう言うと、糖蜜タルトを急いで口に詰め込んだ。大変だ、置いて行かれるわけにはいかない。1人で寮まで辿り着ける自信が無い。ラインはデザートの皿に伸ばしかけた手をしぶしぶ引っ込めた。
「ライン、君、食事くらいゆっくり食べなよ。そんなに生き急いでたら、進級する前に死んじゃうよ。僕が一緒に帰るからさ」
ロンがそう言うと、誰かが冷やかすように口笛を吹いた。しかし彼の言う通りだ。今、この学校生活の楽しみは、食事だけだ。ラインはロンにお礼を言うと、腕捲りをしてデザートに取り掛かった。
フリットウィック先生の目がキラリと光った。
「そしてなるべく早く、自らを守る術を身に付けられるよう、私達が全力でお手伝いしましょう」
「ありがとうございます、先生」
1限は呪文学の個人授業だ。なぜ1年生と一緒に授業を受けないのかというと、率直に言って"危険"だからだ。
「そこに立って──そうです。そうしたら、杖を構えて」
ラインは心を落ち着けるため、大きく息を吸って吐き出した。先ほど動く階段を全力で駆け上がったために息が上がっている。一刻も早くこの城に慣れなくては──今日遅刻せずにこの教室に辿り着いたことで、今までの人生で積んだ徳を全て使い果たしてしまった気がする。
なんとか呼吸を整えて杖を構えると、先端から火花が噴き出した。フリットウィック先生はそれを見て顔を顰めた。
「──では、私の真似をして下さい。そう、おそらく大丈夫──ウィンガーディアム、レビオーサ」
先生が杖を振ると、机の上から白い羽がふわりと浮き上がった。まるで指揮棒のように滑らかな杖の動きを見て、頭の中に統一性の無いメロディーが流れ始めた──聞いた事がある、何の歌だろう──あ、分かった、始業式の日に聞いた校歌だ──ラインはその雑念と不協和音を頭から追い出し、目の前の羽に意識を集中させた。
「ウィンガーディアム──」
突然、わなわなと杖が震え始めた。頭の中に危険信号が鳴り響く。しかし、やるしかない。何故かフリットウィック先生はラインに杖を向けている。
「──ウィンガーディアム、レビオーサ!」
その瞬間、爆発音とともに、ラインは後ろへ吹き飛ばされた。壁に身体を打ちつける前に、何か柔らかいものに包まれる感覚があった。それのおかげか、痛みは感じない。次に目を開けた時には、視界に半壊した天井と青空が広がっていた。
「少々、派手なことになりましたね。やはりまずは、その強い魔力をコントロールする訓練をしなければならないようです」
こちらを見下ろしている先生は埃一つ被っていない。
「この教室に、呪文の効果を小さくする細工をしました。さぁ立つのです──蹲っている時間はありませんよ」
骨は折れていなくても、心はしっかりと折れていた。よろよろと立ち上がる。
「さぁ、もう一度やってみてください」
正直に言うと、一刻も早くベッドに潜り込みたい。
「──ウィンガーディアム、レビオーサ」
呪文を囁き、杖を小さく振ってみる。しかし今度は何事も起こらない。羽は机の上から1ミリも浮き上がっていない。
「杖の動きや声を小さくするだけではいけません。ミスマーリン、これは大切な事なのです。魔力に振り回されるのではなく、貴方自身が魔力を従え、利用するのです。自信を持つことが大切です。根拠のない自信で構いません」
なるほど──魔法を使うには、精神力が重要なようだ。心を落ち着けて、目の前の羽だけに意識を集中する。心なしか杖の震えが小さくなった気がする。
「ウィンガーディアム、レビオーサ!」
その瞬間、杖が手元から吹き飛び、背中を再び壁に打ち付けた。しかし、恐る恐る目を開けると、白い羽が天井に押し付けられるように浮かんでいるのが見えた。
「素晴らしい。しばらくはこの教室を使いましょう。貴方が命を落とさぬように最大限の配慮をします」
フリットウィック先生はにっこりと微笑み、
空き時間に自主練習をしても構いません──と付け加えた。ラインはお礼を言おうと口を開いたが、顔が引き攣っていたため、モゴモゴとした音を発することしか出来なかった。
――――
「貴方──顔色が悪いわ。今日はランプを消してしっかり寝るべきよ」
その声に顔を上げると、心配そうに顔を覗き込むハーマイオニーと目が合った。昨日も教科書を枕代わりにしてしまったようだ。連日の疲労と寝不足が重なり、ラインは自分が何を口に入れたかも分からないまま、食事を進めていた。
今のところ、実技は散々な結果だった。とにかく、全ての呪文が"最大限に大袈裟な効果"を発揮しようとするのだ。先生方がいなければ、とっくに死んでいるだろう。せめて、座学だけでも及第点を取りたい──ラインはそのために、空き時間の全てを勉強に費やしていた。
「貴方、すごく努力家なのね」
ハーマイオニーが微笑んだ。
「ハーマイオニーこそ、どの科目でも学年で1番だって聞いたわ。それって本当に凄いことよ」
彼女に微笑み返して、手元のコップを傾ける。しかし、口の中には何の液体も流れてこない。ラインはコップをまじまじと見つめると、今日何度目かの溜め息をついた。
「なんてことないのよ。私はただ、きっちりと課題をこなしたいタイプの人間なの」
ハーマイオニーは誇らしげに言うと、ラインのコップにかぼちゃジュースを注いでくれた。
「ライン、それ食べない方が良いよ。フレッドとジョージの新作だ」
その警告を聞いた途端、意識がしゃっきりとした。ラインは美味しそうなキャンディに伸ばしていた手を引っ込め、ロンにありがとうとジェスチャーを送った。
「どうしたロニー坊や、やけに紳士的じゃないか」
「なるほど、なるほど。坊やの好みは清純派か」
彼の双子の兄達が、心底面白そうに弟を小突いている。
「うるさいなぁ。だって可哀想だろ、編入したばかりで不安なところに、さらに舌が伸びたり、尻尾が生えたりするなんて」
ラインは言い争う3人をしげしげと眺めた。兄弟でも、性格は全く違うようだ。
「僕、先に寮へ戻るよ。みんなはゆっくり食べてて」
ハリーはそう言うと、難しい顔で立ち上がった。彼は早々に食事を終えたらしい。
「私も行くわ──彼、ちょっと心配なのよ。なんだかよく眠れないみたい」
ハーマイオニーはそう言うと、糖蜜タルトを急いで口に詰め込んだ。大変だ、置いて行かれるわけにはいかない。1人で寮まで辿り着ける自信が無い。ラインはデザートの皿に伸ばしかけた手をしぶしぶ引っ込めた。
「ライン、君、食事くらいゆっくり食べなよ。そんなに生き急いでたら、進級する前に死んじゃうよ。僕が一緒に帰るからさ」
ロンがそう言うと、誰かが冷やかすように口笛を吹いた。しかし彼の言う通りだ。今、この学校生活の楽しみは、食事だけだ。ラインはロンにお礼を言うと、腕捲りをしてデザートに取り掛かった。