the Order of the Phoenix
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悪いことが立て続けに起こるのは、何か良いことが起こる前兆だろうか?いや──そうでなくては困る。だって楽しみの1つでも無いと、こんな学校生活には耐えられそうにないから。
まず手始めに起こった悪いことは、夏休み中にトンクスとショッピングへ行く予定が無くなったことだった。トンクスに言わせると「この情勢の中、貴方をダイアゴン横丁へ連れ出したりしたら、聖マンゴで頭の検査を受けることになる」そうだ。せっかく、フローリアン・フォーテスキューのテラス席でサンデーを食べようと楽しみにしていたのに……いつかコウモリ鼻糞の呪いを習得出来たら、必ず、ハリー(と、その従兄弟)を襲った吸魂鬼にお見舞いしてやろうと思う。奴らに食べ物の恨みの恐ろしさを思い知らせてやるのだ。
次に起きた悪いことは、新しい闇の魔術の防衛術の先生とソリが合わないことだった。その先生はずんぐりしたガマガエルのような外見をしているのに、可憐な少女のような口調で喋る。さらに口元はにっこりと笑っているのに、目が氷のように冷たい。それらの違和感はラインをひどく不安な気持ちにさせた。彼女が身に纏っているふんわりしたピンク色のカーディガンや、ベロア生地のリボンの髪飾りさえも、ラインには内面を隠蔽するための物のように見えてしまう。自分をストーカーしたり、殺そうとしたりする教師よりはましだけれど……きっと、彼女と良い関係を築くのは難しいだろう。
そして今のラインにとって最も悪いことは、グリフィンドール寮内の雰囲気がギスギスしていることだった。今まで誰かに悪口を言われたり、嫌なことが起きたりしても、寮へ帰ればホッと一息つくことができた。そこに自分を理解し、尊重してくれる友人達が居たからだ。しかし新学期が始まってから、その友人達のうちの何人かが、友人とは呼べない状態になってしまった。どうやら彼らは「日刊予言者新聞」に書かれていることを鵜呑みにして、ヴォルデモートが復活したと主張するハリーのことを"思い込みの激しい目立ちたがり屋"だと考えているようだった。ラインは新聞を読んでいる生徒を見る度に、それを取り上げて破り捨ててしまいたい衝動に駆られた。しかしそんなことをすれば、来週あたりの記事に「悲劇のヒロイン症候群の患者には、突発的な攻撃性が見られるようだ」とか、何とか書かれてしまうだろう。
そして今、朝食のパンケーキに通常の4倍の生クリームを盛り付けているラインの目の前で、またもや悪いことが起きようとしている。
「教えてくれ、ポッター。ウィーズリーの下につくというのは、どんな気分だ?」
光り輝くプラチナ・ブロンドと尖った顎を視界に入れないために、ラインは視線をテーブルの上に落とした。途端に鮮やかな赤色が目に飛び込んできた。いつのまにか、目の前に美味しそうなクランベリータルトが現れている。嬉しい。久しぶりに良いことがあった。
「失せろ、マルフォイ。邪魔するな」
「口のききかたに気を付けるんだな、ポッター。さもないと、罰則だぞ」
ドラコ・マルフォイが今どんな表情をしているのか、顔を上げなくたって分かる。どうして、彼が監督生なのだろう?人を嘲笑うためにわざわざ他の寮のテーブルまでやって来て、さらに職権を濫用するような人のどこが、模範的なのだろう?ラインは顔を顰めつつ、マルフォイの注意がこちらに向かないように息を潜めて、そろりそろりとクランベリータルトに手を伸ばした。
「お前のせいでハリーが罰則を受けることになったら、お前の子分どもにも同じ罰則を言い付けるぞ」
「あいつらがどうなろうと、どうだっていい」
胸に光る監督生バッジへの誇らしさを隠し切れていないロンの声を聞きながら、ラインはクランベリータルトをフォークで切り分けた。ぷるんとしたナパージュと、サクサクした生地が最高のコンビネーションだ。一口噛めばきっと、真っ赤に熟れたクランベリーの果汁がじゅわっと弾けて──
──あれ?タルトを口に入れた途端、ラインは異変に気が付いた。クランベリーが硬い。硬すぎる。とてもじゃないが、噛み砕けない。まだ、熟していなかったのだろうか?真っ赤だったのに……とにかく、これはラインの知っているクランベリーではない。ラインは口の中に小さな丸い果実を留めたまま、頭を捻った。うーん。皆が食事をしているこの状況で、口に入れたものを吐き出すのは気が引ける。だとしたら、選択肢は一つしかない。ラインはゴブレットをぐいとあおり、たっぷりの水とともにクランベリーを喉の奥に押し込もうとした。
「ライン、どうしたの?」
ラインは友人の質問に答えることが出来なかった。声が出せなかったからだ。食べかけのクランベリータルトを前に顔を歪めるラインを見て、ハーマイオニーはギリーウォーターの空き瓶でジャグリングをしている双子に咎めるような視線を投げかけた。ジョージはこちらの様子に気が付いたのか、手の動きを止めた。ガシャンという音とともに、宙を舞っていた空き瓶が床に落下した。彼らの表情を見なくとも、ラインには分かっていた。このタルトは決して、ズル休みスナックボックスの類ではない。あの2人が、誰かにこんな苦しい思いをさせるはずがない。気管と食道の手前に挟まって、みるみるうちに膨れ上がっていくクランベリーをなんとか吐き出そうと、ラインは自分の胸を拳で必死に叩いた。
「もしかして、何かが喉に詰まったの?」
苦しさのあまり喉を掻きむしりながら、ラインは首を縦に振った。ハーマイオニーは血相を変えて立ち上がり、ラインの背中をバンバンと叩き始めた。
「私、プライマリースクールの救命講習で習ったわ。背部叩打法を試しても、駄目な時は……指で……」
ハーマイオニーはぶつぶつ言いながら、ラインの口をこじ開けて、喉の奥にぐいと指を突っ込んだ。突然の異物感にラインは激しくえずき、ハーマイオニーの手から逃れようと身体を捩った。彼女は本当に賢い人だけれど、焦っている時に、自分が魔女だということを忘れてしまう癖があるようだ。
「貴方達も手伝ってよ!」
ハーマイオニーがいらいらしながら叫んだ。呆然としているロンの横でハリーが弾かれたように立ち上がり、暴れるラインの腕を押さえようとした。しかし次の瞬間、誰かがハリーの手を弾き飛ばし、背後からラインを羽交い締めにした。身体の自由を完全に奪われて、喉の奥を無理矢理こじ開けられながら、ラインはここが魔法学校であることを誰かが思い出してくれるように願った。もう気道は完全に塞がってしまって、息が出来ない。ひどく苦しい。視界もぼやけてきた。誰かが自分の名前を呼んでいる気がする。なんだか……微かに落ち着く匂いが漂ってきた。この匂いは良く知っている。クランベリーを喉に詰まらせて死ぬなんてあんまりだけれど、好きな人の香りに包まれて死ぬことが出来るのだから、これはこれで……幸せなのかもしれない……
「ェヘン、ェヘン」
誰かがラインの上で咳払いをした。甘ったるい香りが鼻腔を衝いて、ラインは再びえずきそうになった。甘いものは好きだけど、この香りはちょっと苦手だ。
「お嬢ちゃん、気分はどう?」
ガマガエルがこちらを覗き込んでいる。おかしい。ラインは何度か瞬きを繰り返した。違った。アンブリッジ先生だった。ラインは上体を起こして、辺りを見回した。どうやら自分は生きていて、医務室にいるらしい。
「……さっきより、随分良くなりました」
「それは良いことですね」
アンブリッジ先生がわざとらしいにっこり笑いをした。
「さて、わたくしは貴方に聞きたいことがあります。わたくしは貴方の先生です。ぜひ、素直な気持ちを教えて下さいね」
その優しい作り声を聞いて、ラインは背筋が冷たくなるのを感じた。
「どうして、食事中に倒れるような真似をしたの?男の子達の気を引きたかったの?」
アンブリッジ先生が何を言っているのか、ラインはしばらく理解出来なかった。先生は先程のあれを演技だと思ったのだろうか?だとしたら、ハリウッドにオーディションを受けに行くよう、今すぐ自分に勧めるべきだ。
「いいえ。食事中にクランベリーを喉に詰まらせてしまって──」
「ミス・マーリン、嘘をついてはなりませんよ」
アンブリッジ先生はラインの言葉を押さえ込むように、しかし自分では間違いなく母親らしいと思い込んでいる声で言った。
「貴方は少々、自己顕示欲を抑える練習をしないといけないようですね。個人授業では、その練習もいたしましょう」
ラインは呆気に取られて、それ以上言葉を発することが出来なくなってしまった。そんなラインの様子を見ながら、アンブリッジ先生は気味の悪い満足げな表情を浮かべた。
「失礼します、アンブリッジ先生」
ポカンと開いた口をラインがようやく閉じた頃、カーテンの外から高慢ちきな声が聞こえてきた。
「どうしましたか?ミスター・マルフォイ」
「スネイプ先生にアンブリッジ先生を呼んでくるよう言われました」
アンブリッジ先生がベッドの周りのカーテンを無遠慮に開けたため、ラインは現れた青白い顔とまともに目を合わせることになってしまった。なんだか、彼は少しやつれたように見える。いや、成長とともに輪郭がシャープになっただけかもしれないけれど……昨年ピクシーをけしかけられて以降、ラインは彼を視界に入れないようにして生活してきたため、真偽のほどは定かではない。彼は嫌な人だけれど、今だけは彼を褒め称えたい──素晴らしいタイミングだ。とにかく、2人とも早くここから居なくなって欲しい。
「分かりました。すぐに参りましょう。ミス・マーリン、貴方は授業へ戻るように。身体に問題は無いようですから」
せめてもの抵抗として、ラインはその言葉に頷かなかった。ずんぐりむっくりとした背中が遠ざかっていくのを見送りながら、ラインは今しがた起こった出来事を振り返った。おそらく、自分とアンブリッジ先生の間に起こった問題は、嘘か真かの問題ではなかった。自分がいかに自制心を保ち、付け入る隙を与えない態度を取れるかという問題だった。癇癪など起こそうものなら、彼女の思う壺だっただろう。自分は良くやった。しかしこれから先、彼女と会う度に、自分はずっと自制心を鍛え続けなければいけないのだろうか……ラインは深い溜め息をつき、再びベッドに寝転がりながら考えた。
ガマガエルの天敵って、何だったっけ……
まず手始めに起こった悪いことは、夏休み中にトンクスとショッピングへ行く予定が無くなったことだった。トンクスに言わせると「この情勢の中、貴方をダイアゴン横丁へ連れ出したりしたら、聖マンゴで頭の検査を受けることになる」そうだ。せっかく、フローリアン・フォーテスキューのテラス席でサンデーを食べようと楽しみにしていたのに……いつかコウモリ鼻糞の呪いを習得出来たら、必ず、ハリー(と、その従兄弟)を襲った吸魂鬼にお見舞いしてやろうと思う。奴らに食べ物の恨みの恐ろしさを思い知らせてやるのだ。
次に起きた悪いことは、新しい闇の魔術の防衛術の先生とソリが合わないことだった。その先生はずんぐりしたガマガエルのような外見をしているのに、可憐な少女のような口調で喋る。さらに口元はにっこりと笑っているのに、目が氷のように冷たい。それらの違和感はラインをひどく不安な気持ちにさせた。彼女が身に纏っているふんわりしたピンク色のカーディガンや、ベロア生地のリボンの髪飾りさえも、ラインには内面を隠蔽するための物のように見えてしまう。自分をストーカーしたり、殺そうとしたりする教師よりはましだけれど……きっと、彼女と良い関係を築くのは難しいだろう。
そして今のラインにとって最も悪いことは、グリフィンドール寮内の雰囲気がギスギスしていることだった。今まで誰かに悪口を言われたり、嫌なことが起きたりしても、寮へ帰ればホッと一息つくことができた。そこに自分を理解し、尊重してくれる友人達が居たからだ。しかし新学期が始まってから、その友人達のうちの何人かが、友人とは呼べない状態になってしまった。どうやら彼らは「日刊予言者新聞」に書かれていることを鵜呑みにして、ヴォルデモートが復活したと主張するハリーのことを"思い込みの激しい目立ちたがり屋"だと考えているようだった。ラインは新聞を読んでいる生徒を見る度に、それを取り上げて破り捨ててしまいたい衝動に駆られた。しかしそんなことをすれば、来週あたりの記事に「悲劇のヒロイン症候群の患者には、突発的な攻撃性が見られるようだ」とか、何とか書かれてしまうだろう。
そして今、朝食のパンケーキに通常の4倍の生クリームを盛り付けているラインの目の前で、またもや悪いことが起きようとしている。
「教えてくれ、ポッター。ウィーズリーの下につくというのは、どんな気分だ?」
光り輝くプラチナ・ブロンドと尖った顎を視界に入れないために、ラインは視線をテーブルの上に落とした。途端に鮮やかな赤色が目に飛び込んできた。いつのまにか、目の前に美味しそうなクランベリータルトが現れている。嬉しい。久しぶりに良いことがあった。
「失せろ、マルフォイ。邪魔するな」
「口のききかたに気を付けるんだな、ポッター。さもないと、罰則だぞ」
ドラコ・マルフォイが今どんな表情をしているのか、顔を上げなくたって分かる。どうして、彼が監督生なのだろう?人を嘲笑うためにわざわざ他の寮のテーブルまでやって来て、さらに職権を濫用するような人のどこが、模範的なのだろう?ラインは顔を顰めつつ、マルフォイの注意がこちらに向かないように息を潜めて、そろりそろりとクランベリータルトに手を伸ばした。
「お前のせいでハリーが罰則を受けることになったら、お前の子分どもにも同じ罰則を言い付けるぞ」
「あいつらがどうなろうと、どうだっていい」
胸に光る監督生バッジへの誇らしさを隠し切れていないロンの声を聞きながら、ラインはクランベリータルトをフォークで切り分けた。ぷるんとしたナパージュと、サクサクした生地が最高のコンビネーションだ。一口噛めばきっと、真っ赤に熟れたクランベリーの果汁がじゅわっと弾けて──
──あれ?タルトを口に入れた途端、ラインは異変に気が付いた。クランベリーが硬い。硬すぎる。とてもじゃないが、噛み砕けない。まだ、熟していなかったのだろうか?真っ赤だったのに……とにかく、これはラインの知っているクランベリーではない。ラインは口の中に小さな丸い果実を留めたまま、頭を捻った。うーん。皆が食事をしているこの状況で、口に入れたものを吐き出すのは気が引ける。だとしたら、選択肢は一つしかない。ラインはゴブレットをぐいとあおり、たっぷりの水とともにクランベリーを喉の奥に押し込もうとした。
「ライン、どうしたの?」
ラインは友人の質問に答えることが出来なかった。声が出せなかったからだ。食べかけのクランベリータルトを前に顔を歪めるラインを見て、ハーマイオニーはギリーウォーターの空き瓶でジャグリングをしている双子に咎めるような視線を投げかけた。ジョージはこちらの様子に気が付いたのか、手の動きを止めた。ガシャンという音とともに、宙を舞っていた空き瓶が床に落下した。彼らの表情を見なくとも、ラインには分かっていた。このタルトは決して、ズル休みスナックボックスの類ではない。あの2人が、誰かにこんな苦しい思いをさせるはずがない。気管と食道の手前に挟まって、みるみるうちに膨れ上がっていくクランベリーをなんとか吐き出そうと、ラインは自分の胸を拳で必死に叩いた。
「もしかして、何かが喉に詰まったの?」
苦しさのあまり喉を掻きむしりながら、ラインは首を縦に振った。ハーマイオニーは血相を変えて立ち上がり、ラインの背中をバンバンと叩き始めた。
「私、プライマリースクールの救命講習で習ったわ。背部叩打法を試しても、駄目な時は……指で……」
ハーマイオニーはぶつぶつ言いながら、ラインの口をこじ開けて、喉の奥にぐいと指を突っ込んだ。突然の異物感にラインは激しくえずき、ハーマイオニーの手から逃れようと身体を捩った。彼女は本当に賢い人だけれど、焦っている時に、自分が魔女だということを忘れてしまう癖があるようだ。
「貴方達も手伝ってよ!」
ハーマイオニーがいらいらしながら叫んだ。呆然としているロンの横でハリーが弾かれたように立ち上がり、暴れるラインの腕を押さえようとした。しかし次の瞬間、誰かがハリーの手を弾き飛ばし、背後からラインを羽交い締めにした。身体の自由を完全に奪われて、喉の奥を無理矢理こじ開けられながら、ラインはここが魔法学校であることを誰かが思い出してくれるように願った。もう気道は完全に塞がってしまって、息が出来ない。ひどく苦しい。視界もぼやけてきた。誰かが自分の名前を呼んでいる気がする。なんだか……微かに落ち着く匂いが漂ってきた。この匂いは良く知っている。クランベリーを喉に詰まらせて死ぬなんてあんまりだけれど、好きな人の香りに包まれて死ぬことが出来るのだから、これはこれで……幸せなのかもしれない……
「ェヘン、ェヘン」
誰かがラインの上で咳払いをした。甘ったるい香りが鼻腔を衝いて、ラインは再びえずきそうになった。甘いものは好きだけど、この香りはちょっと苦手だ。
「お嬢ちゃん、気分はどう?」
ガマガエルがこちらを覗き込んでいる。おかしい。ラインは何度か瞬きを繰り返した。違った。アンブリッジ先生だった。ラインは上体を起こして、辺りを見回した。どうやら自分は生きていて、医務室にいるらしい。
「……さっきより、随分良くなりました」
「それは良いことですね」
アンブリッジ先生がわざとらしいにっこり笑いをした。
「さて、わたくしは貴方に聞きたいことがあります。わたくしは貴方の先生です。ぜひ、素直な気持ちを教えて下さいね」
その優しい作り声を聞いて、ラインは背筋が冷たくなるのを感じた。
「どうして、食事中に倒れるような真似をしたの?男の子達の気を引きたかったの?」
アンブリッジ先生が何を言っているのか、ラインはしばらく理解出来なかった。先生は先程のあれを演技だと思ったのだろうか?だとしたら、ハリウッドにオーディションを受けに行くよう、今すぐ自分に勧めるべきだ。
「いいえ。食事中にクランベリーを喉に詰まらせてしまって──」
「ミス・マーリン、嘘をついてはなりませんよ」
アンブリッジ先生はラインの言葉を押さえ込むように、しかし自分では間違いなく母親らしいと思い込んでいる声で言った。
「貴方は少々、自己顕示欲を抑える練習をしないといけないようですね。個人授業では、その練習もいたしましょう」
ラインは呆気に取られて、それ以上言葉を発することが出来なくなってしまった。そんなラインの様子を見ながら、アンブリッジ先生は気味の悪い満足げな表情を浮かべた。
「失礼します、アンブリッジ先生」
ポカンと開いた口をラインがようやく閉じた頃、カーテンの外から高慢ちきな声が聞こえてきた。
「どうしましたか?ミスター・マルフォイ」
「スネイプ先生にアンブリッジ先生を呼んでくるよう言われました」
アンブリッジ先生がベッドの周りのカーテンを無遠慮に開けたため、ラインは現れた青白い顔とまともに目を合わせることになってしまった。なんだか、彼は少しやつれたように見える。いや、成長とともに輪郭がシャープになっただけかもしれないけれど……昨年ピクシーをけしかけられて以降、ラインは彼を視界に入れないようにして生活してきたため、真偽のほどは定かではない。彼は嫌な人だけれど、今だけは彼を褒め称えたい──素晴らしいタイミングだ。とにかく、2人とも早くここから居なくなって欲しい。
「分かりました。すぐに参りましょう。ミス・マーリン、貴方は授業へ戻るように。身体に問題は無いようですから」
せめてもの抵抗として、ラインはその言葉に頷かなかった。ずんぐりむっくりとした背中が遠ざかっていくのを見送りながら、ラインは今しがた起こった出来事を振り返った。おそらく、自分とアンブリッジ先生の間に起こった問題は、嘘か真かの問題ではなかった。自分がいかに自制心を保ち、付け入る隙を与えない態度を取れるかという問題だった。癇癪など起こそうものなら、彼女の思う壺だっただろう。自分は良くやった。しかしこれから先、彼女と会う度に、自分はずっと自制心を鍛え続けなければいけないのだろうか……ラインは深い溜め息をつき、再びベッドに寝転がりながら考えた。
ガマガエルの天敵って、何だったっけ……