the Goblet of Fire
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どうして怒ってるんだよ、ハーマイオニー」
岩だらけの山肌に、ロンの困り果てた声が響いた。
「貴方の配慮が足りないからよ」
「ラインはこの山を登るのが初めてだから、荷物を持った方がいいか聞いたんだ」
「もし、貴方が私のことも"女の子"に見えているのなら──」
「君は毎回、断るじゃないか」
石ころだらけの地面を睨み付けながら、ラインは必死に足を前へ進めた。太陽に照らされた首筋を、汗がじわじわと伝っていく。シャツが湿るのは不快だけれど、痴話喧嘩に巻き込まれるよりはずっと良い。やっとの思いで言い争っている2人を追い越すと、先を歩いていた友人がこちらを振り向いて、ニッコリした。
「ライン、もう少しで着くよ」
ラインは疑いの目を彼に向けた。
「貴方、さっきも……もう少しだって言った」
息を切らしながら不満を述べると、ハリーは苦笑いしながら前方を指差した。ラインは彼の指差した方を見て、納得した。前方にある一際大きな岩に、2本の前脚を載せて、4人を待っている大きな黒い犬の姿が見えたからだ。
黒い犬に先導されて、4人は山の麓の岩壁に辿り着いた。岩の隙間に身体を滑り込ませると、中は暗く涼しい洞窟だった。ラインは辺りをきょろきょろと見回して、何が起きたのか理解しようとした。おそらく、一番奥の大きな岩にロープを回して繋がれているのが、ヒッホグリフのバックビークだろう。そして、突然、目の前に現れたこの男性が──
「シリウス・ブラックだ」
外見にそぐわない優雅な仕草で、彼はラインに手を差し出した。痩せて頬のこけた顔で、ボロボロの灰色のローブを身に纏っているその姿は、まさに"逃亡中の殺人犯"だった。
「この場所に来てくれたということは、君は世間の言葉より、友人の言葉を信用したということだな?」
「もちろんです」
ラインが大きく頷いて、差し出された手をギュッと握ると、彼の目に何かがキラリと光った。
「シリウスはこの洞窟で、"名付け親としての役目"を果たしているんだ。いつもはネズミばかり食べているから──僕たちがここに来る時は、美味しいものを持ってきてあげるんだ」
ロンがカバンの中を覗き込みながら、ラインに説明した。
「私は現場にいたいのだ。ロン──ありがとう」
ロンが骨付き肉をカバンから取り出した途端、シリウスはそれをひったくり、洞窟の床に座り込んで、勢いよくかぶりつき始めた。どうやら、彼は本題に入る前にお腹を満たす必要があるようだ。ラインはシリウスが食べ残した鳥の骨をバリバリと噛んでいるバックビークを眺めながら、その時が来るのを待った。
「──ねぇ、本当にいいのかしら。やっぱり、ダンブルドア先生が話して下さるのを待った方がいいんじゃないかしら──」
「君が言い出したことだろ?ハーマイオニー。ラインをシリウスに会わせてあげたらどうかって」
「だって──だって、お母様の学生時代の話を聞くだけだと思ったんですもの。そんな話まで繋がることだなんて思わなくて──」
「ラインには真実を知る権利がある。それに、彼女が自分で決めたことだ」
シリウスがチキンを貪っている間、ハリー、ロン、ハーマイオニーがひそひそと話している声が聞こえてきた。しかし、誰に何を言われようと、ラインの決心が揺らぐことはなかった。今日はこのために、わざわざ山まで登ってきたのだ。
「私、自分に何が起きたのかを知りたいんです──」
ラインは急き込んで、かぼちゃジュースの瓶を開けている途中のシリウスに話しかけた。
「ホグワーツの入学許可証を貰った日、どうして自分に魔力が戻ってきたのか、ダンブルドア先生に聞きました。先生は『然るべき時に、真実は明らかになる』とおっしゃいました。でも……私は今すぐに知りたいんです。母がどんな人でどんな風に死んだのかも、もし貴方が知っているなら、教えて欲しい。だって──もう、守ってもらうだけの存在でいるのは嫌だから」
ラインは切実な思いで、シリウスを見つめた。ハリーの名付け親である彼が、自分のことも、母のことも知っているらしいと聞いた時から、ラインは居ても立っても居られなくなった。そんな想いが届いたのか、シリウスはかぼちゃジュースをぐいと飲み干すと、ニヤリと笑った。
「然るべき時──それはつまり、君が真実を受け入れる準備が出来た時だ」
いつのまにか、友人達はひそひそ話を止めて、こちらに耳をそば立てていた。シリウスはラインの顔をまじまじと見つめた後、懐かしそうに目を細めて、話し始めた。
「君のお母さん──サラ・マーリンは私達の4学年上の生徒だった。とても優しく、面倒見の良い人だった。マーリンの家に生まれたのに、ごくごく平凡な魔力しか持たなかったから、色々と言われることもあったように思う。それ故に、人の痛みが分かる人だった」
「ラインのお母さんも、グリフィンドールだったの?」
ハリーが小さな声で聞いた。
「そうだ。私達は全員、同じ寮だった。それが全ての発端だ」
シリウスは吐き捨てるように言うと、地面を睨み付けた。
「当時、私達の仲間にピーター・ペティグリューという男がいた。いつもおどおどしていて、私やジェームズの顔色を窺いながらどこにでもついて来る、金魚のフンのような奴だった。サラはそんなピーターのことを気にかけていたんだ。私達に合わせようとして、奴が無理をしているんじゃないかと心配していた。そして、実際のところ、それは事実だった」
ラインはシリウスの話を聞きながら、ひたすら、バックビークの首元を撫でさすっていた。温かくて柔らかいものに触れていると、気分が落ち着く気がした。
「いつも、優しく話しかけてやっていたよ。まるで、姉か母親のようだった。当然、ピーターもサラによく懐いていた──いつからか、彼女に向ける感情が別のものへと変わるくらいには」
ロンはそれを聞くと、何かおぞましいものを見るような顔をした。
「しかし、奴の恋慕など、到底叶うはずもない。サラが結婚したあと、すぐにピーターは悪の道に足を踏み入れた。そして、そのあとは、君たちの知る通り──」
シリウスの目に生気がなくなった。沈黙の重さが、ラインの肩にずっしりとのしかかった。
「──事態が急変したのは、昨年のことだ。ここにいる勇敢な子ども達のおかげで、長年隠されていた真実が明らかになった。ピーターの悪事が暴かれると、ダンブルドアはすぐに行動を起こした──奴の墓を調べに行ったんだ」
「ペティグリューは"裏切り者のシリウス・ブラックに立ち向かって殺された"後、マーリン勲章勲一等を授与され、故郷に立派なお墓が建てられたのよ」
ハーマイオニーがラインに説明すると、シリウスが自嘲するように笑った。
「ピーターの墓には奴の遺骸として、小指1本と使っていた杖が埋葬されていた。杖は嘘をつくことが出来ない。ダンブルドアがピーターの杖を調べると、奴の悪事の証拠がわんさかと出てきた。そして、ダンブルドアはすぐに気が付いた。杖の中に──何かが閉じ込められていることに」
ハーマイオニーが息を呑む音が聞こえた。
「ダンブルドアがそれを解放すると、それは真っ直ぐに、あるべき場所へと戻って行った。そう──君の身体の中へと」
シリウスはラインの目をじっと見据えた。ラインもシリウスを見つめ返したが、実は何も見てはいなかった。頭の中で、今の話が示す事実を考えていた。
「──その日、父が仕事から帰った時、母はリビングで倒れていたと聞きました。そして、母の杖はキッチンに置かれたままだったとも」
ラインは話しながら、今までに経験したことのない感情が、身体の底から湧き上がってくるのを感じた。
「そうだ、サラは私と同じ過ちを犯した──信用していたんだ、あんな奴のことを!」
シリウスの声が怒りに震えていた。ラインの身体も震えていた。ラインは歯を食いしばって、毒のように体中を回っていく憎しみに耐えた。
「サラを殺した後、ピーターは幼い君に杖を向けたはずだ。それが奴のご主人様の命令だからだ。しかし、奴は君を殺さなかった。代わりに──君から魔力を奪い、自分の杖に閉じ込めた」
シリウスは眉を顰めたまま、何かを考えるような奇妙な表情になった。
「ピーターが何故そんなことをしたのかは分からない。奴の心情など、理解したくもないが……」
シリウスは話し終えると、深い溜め息をついた。ラインはしばらく、何も喋ることが出来なかった。ただ、友人達が自分を見つめるのをやめてくれたらいいのにと思った。
そこからどうやって山を下って、城へ帰ったのか、ラインは覚えていない。聞いたばかりの話が頭の中を埋め尽くし、自分が何をしているのか、ほとんど意識がなかった。夕食の席でフルーツと生クリームたっぷりのパンケーキを口一杯に頬張った時、ラインはようやく、正常な意識を取り戻した。
「もう1枚、作ってやろうか?」
「うん──お願いします」
体中に回っている毒を打ち消すように、ラインは優しい甘さを求めた。ニヤリと笑うジョージと目が合うと、ラインの疑問はさらに深まった。ペティグリューもこんな風に優しくしてもらって、母に好意を抱いたのだろうか……彼が母に対して抱いた感情は、自分がジョージに対して抱く感情とは違ったのだろうか?
分からない。一度でも好きになった人を殺すことなんて、ラインには絶対に出来ない。
「ほら、出来たぞ」
「──ありがとう」
美味しいものでお腹と心が満たされると、ほんの少しだけ、気分が上向きになった。何もかも、悪いことばかりではない。今日は良いこともあった。シリウスに会って、彼の人柄を知ったことだ。たった数時間だったけれど、その短い間にラインは気が付いた。彼がハリーに向ける愛情は、父が自分に向ける愛情と同じだ。ハリーにもシリウスのような人がいて、本当に良かった。ハリーにとって、無条件に愛してくれる人の存在は、何者にも代え難いものだろうから。
シリウスのことを考えていると、ラインは自分の状況に罪悪感を抱き始めた。シリウスも、ご飯をお腹いっぱい食べたいだろうな……ネズミばかり食べているなんて、かわいそうだ……そうだ、彼にチョコレートを送ったらどうだろう?チョコレートなら保存が効くし、フクロウでも運べるし、良いアイデアかもしれない──ラインはハリーの肩を叩きながら、寝室にあるチョコレートのストックを頭の中で数え始めた。
岩だらけの山肌に、ロンの困り果てた声が響いた。
「貴方の配慮が足りないからよ」
「ラインはこの山を登るのが初めてだから、荷物を持った方がいいか聞いたんだ」
「もし、貴方が私のことも"女の子"に見えているのなら──」
「君は毎回、断るじゃないか」
石ころだらけの地面を睨み付けながら、ラインは必死に足を前へ進めた。太陽に照らされた首筋を、汗がじわじわと伝っていく。シャツが湿るのは不快だけれど、痴話喧嘩に巻き込まれるよりはずっと良い。やっとの思いで言い争っている2人を追い越すと、先を歩いていた友人がこちらを振り向いて、ニッコリした。
「ライン、もう少しで着くよ」
ラインは疑いの目を彼に向けた。
「貴方、さっきも……もう少しだって言った」
息を切らしながら不満を述べると、ハリーは苦笑いしながら前方を指差した。ラインは彼の指差した方を見て、納得した。前方にある一際大きな岩に、2本の前脚を載せて、4人を待っている大きな黒い犬の姿が見えたからだ。
黒い犬に先導されて、4人は山の麓の岩壁に辿り着いた。岩の隙間に身体を滑り込ませると、中は暗く涼しい洞窟だった。ラインは辺りをきょろきょろと見回して、何が起きたのか理解しようとした。おそらく、一番奥の大きな岩にロープを回して繋がれているのが、ヒッホグリフのバックビークだろう。そして、突然、目の前に現れたこの男性が──
「シリウス・ブラックだ」
外見にそぐわない優雅な仕草で、彼はラインに手を差し出した。痩せて頬のこけた顔で、ボロボロの灰色のローブを身に纏っているその姿は、まさに"逃亡中の殺人犯"だった。
「この場所に来てくれたということは、君は世間の言葉より、友人の言葉を信用したということだな?」
「もちろんです」
ラインが大きく頷いて、差し出された手をギュッと握ると、彼の目に何かがキラリと光った。
「シリウスはこの洞窟で、"名付け親としての役目"を果たしているんだ。いつもはネズミばかり食べているから──僕たちがここに来る時は、美味しいものを持ってきてあげるんだ」
ロンがカバンの中を覗き込みながら、ラインに説明した。
「私は現場にいたいのだ。ロン──ありがとう」
ロンが骨付き肉をカバンから取り出した途端、シリウスはそれをひったくり、洞窟の床に座り込んで、勢いよくかぶりつき始めた。どうやら、彼は本題に入る前にお腹を満たす必要があるようだ。ラインはシリウスが食べ残した鳥の骨をバリバリと噛んでいるバックビークを眺めながら、その時が来るのを待った。
「──ねぇ、本当にいいのかしら。やっぱり、ダンブルドア先生が話して下さるのを待った方がいいんじゃないかしら──」
「君が言い出したことだろ?ハーマイオニー。ラインをシリウスに会わせてあげたらどうかって」
「だって──だって、お母様の学生時代の話を聞くだけだと思ったんですもの。そんな話まで繋がることだなんて思わなくて──」
「ラインには真実を知る権利がある。それに、彼女が自分で決めたことだ」
シリウスがチキンを貪っている間、ハリー、ロン、ハーマイオニーがひそひそと話している声が聞こえてきた。しかし、誰に何を言われようと、ラインの決心が揺らぐことはなかった。今日はこのために、わざわざ山まで登ってきたのだ。
「私、自分に何が起きたのかを知りたいんです──」
ラインは急き込んで、かぼちゃジュースの瓶を開けている途中のシリウスに話しかけた。
「ホグワーツの入学許可証を貰った日、どうして自分に魔力が戻ってきたのか、ダンブルドア先生に聞きました。先生は『然るべき時に、真実は明らかになる』とおっしゃいました。でも……私は今すぐに知りたいんです。母がどんな人でどんな風に死んだのかも、もし貴方が知っているなら、教えて欲しい。だって──もう、守ってもらうだけの存在でいるのは嫌だから」
ラインは切実な思いで、シリウスを見つめた。ハリーの名付け親である彼が、自分のことも、母のことも知っているらしいと聞いた時から、ラインは居ても立っても居られなくなった。そんな想いが届いたのか、シリウスはかぼちゃジュースをぐいと飲み干すと、ニヤリと笑った。
「然るべき時──それはつまり、君が真実を受け入れる準備が出来た時だ」
いつのまにか、友人達はひそひそ話を止めて、こちらに耳をそば立てていた。シリウスはラインの顔をまじまじと見つめた後、懐かしそうに目を細めて、話し始めた。
「君のお母さん──サラ・マーリンは私達の4学年上の生徒だった。とても優しく、面倒見の良い人だった。マーリンの家に生まれたのに、ごくごく平凡な魔力しか持たなかったから、色々と言われることもあったように思う。それ故に、人の痛みが分かる人だった」
「ラインのお母さんも、グリフィンドールだったの?」
ハリーが小さな声で聞いた。
「そうだ。私達は全員、同じ寮だった。それが全ての発端だ」
シリウスは吐き捨てるように言うと、地面を睨み付けた。
「当時、私達の仲間にピーター・ペティグリューという男がいた。いつもおどおどしていて、私やジェームズの顔色を窺いながらどこにでもついて来る、金魚のフンのような奴だった。サラはそんなピーターのことを気にかけていたんだ。私達に合わせようとして、奴が無理をしているんじゃないかと心配していた。そして、実際のところ、それは事実だった」
ラインはシリウスの話を聞きながら、ひたすら、バックビークの首元を撫でさすっていた。温かくて柔らかいものに触れていると、気分が落ち着く気がした。
「いつも、優しく話しかけてやっていたよ。まるで、姉か母親のようだった。当然、ピーターもサラによく懐いていた──いつからか、彼女に向ける感情が別のものへと変わるくらいには」
ロンはそれを聞くと、何かおぞましいものを見るような顔をした。
「しかし、奴の恋慕など、到底叶うはずもない。サラが結婚したあと、すぐにピーターは悪の道に足を踏み入れた。そして、そのあとは、君たちの知る通り──」
シリウスの目に生気がなくなった。沈黙の重さが、ラインの肩にずっしりとのしかかった。
「──事態が急変したのは、昨年のことだ。ここにいる勇敢な子ども達のおかげで、長年隠されていた真実が明らかになった。ピーターの悪事が暴かれると、ダンブルドアはすぐに行動を起こした──奴の墓を調べに行ったんだ」
「ペティグリューは"裏切り者のシリウス・ブラックに立ち向かって殺された"後、マーリン勲章勲一等を授与され、故郷に立派なお墓が建てられたのよ」
ハーマイオニーがラインに説明すると、シリウスが自嘲するように笑った。
「ピーターの墓には奴の遺骸として、小指1本と使っていた杖が埋葬されていた。杖は嘘をつくことが出来ない。ダンブルドアがピーターの杖を調べると、奴の悪事の証拠がわんさかと出てきた。そして、ダンブルドアはすぐに気が付いた。杖の中に──何かが閉じ込められていることに」
ハーマイオニーが息を呑む音が聞こえた。
「ダンブルドアがそれを解放すると、それは真っ直ぐに、あるべき場所へと戻って行った。そう──君の身体の中へと」
シリウスはラインの目をじっと見据えた。ラインもシリウスを見つめ返したが、実は何も見てはいなかった。頭の中で、今の話が示す事実を考えていた。
「──その日、父が仕事から帰った時、母はリビングで倒れていたと聞きました。そして、母の杖はキッチンに置かれたままだったとも」
ラインは話しながら、今までに経験したことのない感情が、身体の底から湧き上がってくるのを感じた。
「そうだ、サラは私と同じ過ちを犯した──信用していたんだ、あんな奴のことを!」
シリウスの声が怒りに震えていた。ラインの身体も震えていた。ラインは歯を食いしばって、毒のように体中を回っていく憎しみに耐えた。
「サラを殺した後、ピーターは幼い君に杖を向けたはずだ。それが奴のご主人様の命令だからだ。しかし、奴は君を殺さなかった。代わりに──君から魔力を奪い、自分の杖に閉じ込めた」
シリウスは眉を顰めたまま、何かを考えるような奇妙な表情になった。
「ピーターが何故そんなことをしたのかは分からない。奴の心情など、理解したくもないが……」
シリウスは話し終えると、深い溜め息をついた。ラインはしばらく、何も喋ることが出来なかった。ただ、友人達が自分を見つめるのをやめてくれたらいいのにと思った。
そこからどうやって山を下って、城へ帰ったのか、ラインは覚えていない。聞いたばかりの話が頭の中を埋め尽くし、自分が何をしているのか、ほとんど意識がなかった。夕食の席でフルーツと生クリームたっぷりのパンケーキを口一杯に頬張った時、ラインはようやく、正常な意識を取り戻した。
「もう1枚、作ってやろうか?」
「うん──お願いします」
体中に回っている毒を打ち消すように、ラインは優しい甘さを求めた。ニヤリと笑うジョージと目が合うと、ラインの疑問はさらに深まった。ペティグリューもこんな風に優しくしてもらって、母に好意を抱いたのだろうか……彼が母に対して抱いた感情は、自分がジョージに対して抱く感情とは違ったのだろうか?
分からない。一度でも好きになった人を殺すことなんて、ラインには絶対に出来ない。
「ほら、出来たぞ」
「──ありがとう」
美味しいものでお腹と心が満たされると、ほんの少しだけ、気分が上向きになった。何もかも、悪いことばかりではない。今日は良いこともあった。シリウスに会って、彼の人柄を知ったことだ。たった数時間だったけれど、その短い間にラインは気が付いた。彼がハリーに向ける愛情は、父が自分に向ける愛情と同じだ。ハリーにもシリウスのような人がいて、本当に良かった。ハリーにとって、無条件に愛してくれる人の存在は、何者にも代え難いものだろうから。
シリウスのことを考えていると、ラインは自分の状況に罪悪感を抱き始めた。シリウスも、ご飯をお腹いっぱい食べたいだろうな……ネズミばかり食べているなんて、かわいそうだ……そうだ、彼にチョコレートを送ったらどうだろう?チョコレートなら保存が効くし、フクロウでも運べるし、良いアイデアかもしれない──ラインはハリーの肩を叩きながら、寝室にあるチョコレートのストックを頭の中で数え始めた。