the Goblet of Fire
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人影のなくなった談話室には、暖炉の薪がパチパチとはぜる音だけが響いている。ラインは頭上を鳥が旋回するのを感じながら、この時間にキャラメルパイを食べても良いものか悩んでいた──最近、制服のウエストがきつくなった気がする。いつも手の届くところに好物があるというのはありがたいけれど、体型維持という点においては少々考えものだ──そんな考え事に気を取られていると、突然、バチっという音とともに火花が散った。何かが焦げるような匂いが鼻をつく。ラインは机の上に転がる黒い塊を見て、溜め息をついた。丸い金属が原型を留めないほどに変形している。やはり集中が途切れると、簡単な刻印呪文でも失敗してしまう──
「ねぇ──君たちって、眠くならないの?毎日毎日、1番最後までそこに座ってるじゃないか」
その声に顔を上げると、寝室に続く階段をロンが降りてくるところだった。顔をくしゃくしゃにして、欠伸を噛み殺している。
「あらロン、まだ起きていたの?」
「ハリーが帰ってこないんだ。かなり前に、お風呂がどうとか言って出て行ったんだけど──」
ロンはそう言いながら、ラインの目の前の机を見て、ものすごく気の毒そうな顔になった──そんな顔をしないで欲しい。そちらは成功品なのだから──彼の視線の先には、『S・P・E・W』と刻印された色とりどりのバッジが散らばっている。
「就寝前30分間の単純作業が睡眠の質を38パーセント向上させる──と言われているの」
向かいに腰掛けているハーマイオニーが、声色に諦めを滲ませた。彼女の表情は"決して、自分がこの作業をやらせているわけではない"と言いたげだった。
「私、しもべ妖精福祉振興協会の活動理念に感銘を受けたのよ。それで、バッジ作りを手伝わせて貰っていたの」
ラインがそう言うと、ロンは何か恐ろしいものでも見るような顔をした。失礼な男である。実際のところ、寝る前にこの単純作業をしたところで、悪夢を見ることに変わりはない。しかしラインにとって、眠るのを少しでも先延ばしに出来るのは有り難いことだった。
「──ねぇ、その鳥、また進化してない?」
ロンは恐ろしげな表情を保ったまま、ラインの頭上を見つめた。彼の視線の先にはオレンジと紫のマーブル模様の鳥が飛んでいる。この鳥は廊下でセドリックと会った翌日に現れた個体で、日々その形態や機能を変化させていた。鳥がこの色になってからというもの、すれ違う人の多くが自身を遠巻きにするため、ラインは複雑な気持ちだった。
「なんだか趣味が悪い色だな───うわっ!」
ロンは小さく叫ぶと、顔を押さえてその場にくずおれた。鳥が口から吐き出した液体が、彼の目に命中したのだ。
「大変、目を擦らないで!それ、涙が止まらなくなるの」
「僕、何もしてないじゃないか!」
ロンは悪態をつきながら涙を流している。実は先程、シェーマスにキャラメルパイを渡した時にも同じ現象が起こった。縋るようにハーマイオニーを見ると、彼女はシェーマスにしたのと同じように、ロンへ向けて杖を一振りした。
「──ありがとう、君ってやっぱり天才だ」
ロンは不思議な顔をして、パチパチと目を瞬かせた。どうやら痛みはなくなったようだ。ハーマイオニーはそれを見て満足気に微笑んだ。ラインは、優秀な友人を持つことができて本当に良かったと思った。彼女の助けが無ければ、今ごろ傷害罪で訴えられているかもしれない。
ロンへハンカチを手渡すためにポケットの中を探っていると、突然、談話室の入口の扉が勢いよく開いた。飛び込んできた人物はフラフラとした足取りで暖炉の側まで歩くと、膝に手を付いて立ち止まった。
「ハリー!遅かったじゃないか!君──本当に風呂に入ってきたの?」
ロンは訝しげな顔でハリーを見つめた。彼はパジャマの色が変わるほど汗をかいている。もう一度、シャワーを浴びた方が良さそうだ。
「うん、風呂にも入ってきた。それと、ちょっと気になることがあって──調べて来たんだ」
ハリーは肩で息をしながら、途切れ途切れにそう言った。彼の目は爛々と光っており、かなり興奮しているように見える。
「──スネイプの研究室にクラウチ氏がいた?」
ロンとハーマイオニーの声が重なった。ハリーは部屋中をぐるぐると歩き回り、考えを整理しているようだった。
「うん、忍びの地図に名前が書いてあったから間違いない」
「まさか、貴方──確かめに行ったの?」
ハーマイオニーが信じられないといった様子で聞くと、ハリーはこくりと頷いた。ラインは彼の行動力に感心していた。しかし、それがいつも面倒事に巻き込まれる原因なのでは──
「それで、スネイプに見つかりそうになったところを、ムーディが助けてくれた」
ハリーはそう言うと立ち止まり、おもむろにラインの隣に腰を下ろした。途端に、頭上の鳥が低空飛行を初めたのを感じる。彼を攻撃するのはやめてあげて欲しい。今度こそ彼は本当に、2度目のシャワーを浴びなければいけなくなってしまう。
「つまり、ムーディとクラウチ氏は、スネイプを死喰い人だと疑ってるってこと?」
ロンがそう聞くと、ハリーは大きく頷いた。
「でも、ダンブルドア先生はスネイプを信じているわ」
「それじゃあどうして、"闇の魔法使い捕獲人"たちが、揃ってスネイプの研究室を調べたりするんだ?」
ハリーが厳しい口調で言った。しかしラインはハーマイオニーの意見の方が的を得ていると思った。ダンブルドア先生は馬鹿ではない。もしかしたらダンブルドア先生だけが知っている、スネイプ先生の秘密があるのかもしれないし──
「そうだ──ハリー、きっと、お風呂で卵の謎が解けたんでしょう?」
ラインはそう言うとハリーに笑いかけた。セドリックもお風呂に入ってきたと言って、嬉しそうにしていたし──きっと、卵の謎を解くためのヒントがお風呂にあったのだろう。この場の空気を和らげるのに最適な話題だと思った。しかしハーマイオニーの表情を見た瞬間、ラインは自分が失言したことを理解した。
「──貴方、卵の謎はもう解けたって言ったじゃない!」
その後、ハリーの話を聞いて、ハーマイオニーの顔色は赤色から青色になった。なんと彼は残り1週間のうちに、水の中で呼吸する方法を見つけて、さらに習得しなければいけないらしい。物凄いスピードで本をめくりだしたハーマイオニーを横目に、ラインはこっそりと胸を撫で下ろした──良かった、しばらくの間、正当な理由で夜更かしすることが出来そうだ──
ーーーー
「俺は"シェーマス・フィネガンが石畳に変身する"に10ガリオン賭けた」
中庭沿いの廊下を歩いている時だった。突然聞こえてきたその声に、ラインは足を止めた。思わず緩んでしまう頬を隠し、平静を装って答える。
「どうして彼は、石畳になりたいの?」
「常に君の視界に入っていたいからさ」
辺りを見回すと、燃えるような赤毛が、石像の陰からひょっこりと顔を出しているのが見えた。言われてみれば、下を向いて歩くのが癖になってしまっている。これはあまり褒められない習慣だろう。ラインは少々反省した。
「──最近、君の自習室で新製品の開発をしてる」
なんとなく拗ねたような声色で、ジョージがそう言った。新製品とは悪戯グッズのことだろうか。しばらく、彼等から渡される物には用心しなければ──
「そうなの?知らなかった」
「近頃、君は忙しそうだからね。あそこは爆発にも慣れっこだし」
そう言った彼の顔を見て、ふいに、ラインは彼が16歳であることを思い出した。いつもはもっと大人びて見えるような気がする。何故だろう?クリスマスパーティーの時はどうだったっけ──記憶を掘り起こしていた時、予鈴が鳴った。大変だ、5分後にはマンドレイクの前に着席していなければならない。
「ごめんなさい──私、もう行かなきゃ。このあと薬草学の授業なの」
「来週はホグズミードに行くのかい?」
ジョージはラインの言葉をまるきり無視してそう聞いた。来週の土曜日は生徒達がホグズミードへ出掛けることを許可された日だ。ホグワーツに編入してから、何回かその機会があったにも関わらず、ラインは1度もホグズミードに行ったことが無かった。彼はどうしてそれを聞くのだろう?小さな期待に胸を躍らせていた時、突然、頭の中にムーディ先生の顔がよぎった──そうだった……浮かれている場合ではない。自分は休日など返上して、とにかく魔法の練習をしなければならないのだ。油断大敵!──ジョージはしばらくの間、百面相するラインを面白そうに眺めていたが、おもむろにニヤリとすると口を開いた。
「君は俺に1つ借りがある」
次の瞬間、ラインの頭上を旋回していた鳥が引き寄せられるように、彼の肩に止まった。
「しかし改善点が山程あるな、肝心な時に役に立たないんじゃ、意味ないぜ」
「──やっぱり、貴方だったのね!」
ラインは鳥がオレンジと紫のマーブル模様に姿を変えた頃から、なんとなくその正体に気が付いていた。突拍子も無い行動を取るのに、繊細な優しさも併せ持っているところが、誰かさんにそっくりだったから。
「でも、キャラメルパイは美味かっただろ?ドビーの特製なんだ」
「本当に美味しかったわ。おかげで太っちゃったくらい」
ラインの頭の中からムーディ先生が消えて、代わりにハーマイオニーが現れた──いつでも焼き立てのパイが提供されるのが屋敷しもべ妖精のおかげだったなんて!とんでもない仕打ちだわ!過重労働!──ラインは頭に響くその声を聞きながら、ハーマイオニーにはこのことを隠し通そうと決意した。
「とにかく、1日俺に付き合ってくれ」
ジョージはそう言うと、ラインの返事を待たずにスタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。彼の誘いを断るなんて、出来るはずが無い。彼には借りがある。練習も大切だけど、借りたものを返さないのは、人としてどうかしているし──ホグズミードに出掛ける理由をなんとかこじつけようとしていた時、授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。ラインはハッとして、温室へ向かって走り出した。なんだかいつもより周りの景色が鮮やかに見える。足元の石畳さえも愛おしい。授業には完全に遅刻してしまったし、もうピンクのふわふわした耳当てしか残っていないだろうけれど、そんなことは気にならないくらい、幸せな気持ちだった。
「ねぇ──君たちって、眠くならないの?毎日毎日、1番最後までそこに座ってるじゃないか」
その声に顔を上げると、寝室に続く階段をロンが降りてくるところだった。顔をくしゃくしゃにして、欠伸を噛み殺している。
「あらロン、まだ起きていたの?」
「ハリーが帰ってこないんだ。かなり前に、お風呂がどうとか言って出て行ったんだけど──」
ロンはそう言いながら、ラインの目の前の机を見て、ものすごく気の毒そうな顔になった──そんな顔をしないで欲しい。そちらは成功品なのだから──彼の視線の先には、『S・P・E・W』と刻印された色とりどりのバッジが散らばっている。
「就寝前30分間の単純作業が睡眠の質を38パーセント向上させる──と言われているの」
向かいに腰掛けているハーマイオニーが、声色に諦めを滲ませた。彼女の表情は"決して、自分がこの作業をやらせているわけではない"と言いたげだった。
「私、しもべ妖精福祉振興協会の活動理念に感銘を受けたのよ。それで、バッジ作りを手伝わせて貰っていたの」
ラインがそう言うと、ロンは何か恐ろしいものでも見るような顔をした。失礼な男である。実際のところ、寝る前にこの単純作業をしたところで、悪夢を見ることに変わりはない。しかしラインにとって、眠るのを少しでも先延ばしに出来るのは有り難いことだった。
「──ねぇ、その鳥、また進化してない?」
ロンは恐ろしげな表情を保ったまま、ラインの頭上を見つめた。彼の視線の先にはオレンジと紫のマーブル模様の鳥が飛んでいる。この鳥は廊下でセドリックと会った翌日に現れた個体で、日々その形態や機能を変化させていた。鳥がこの色になってからというもの、すれ違う人の多くが自身を遠巻きにするため、ラインは複雑な気持ちだった。
「なんだか趣味が悪い色だな───うわっ!」
ロンは小さく叫ぶと、顔を押さえてその場にくずおれた。鳥が口から吐き出した液体が、彼の目に命中したのだ。
「大変、目を擦らないで!それ、涙が止まらなくなるの」
「僕、何もしてないじゃないか!」
ロンは悪態をつきながら涙を流している。実は先程、シェーマスにキャラメルパイを渡した時にも同じ現象が起こった。縋るようにハーマイオニーを見ると、彼女はシェーマスにしたのと同じように、ロンへ向けて杖を一振りした。
「──ありがとう、君ってやっぱり天才だ」
ロンは不思議な顔をして、パチパチと目を瞬かせた。どうやら痛みはなくなったようだ。ハーマイオニーはそれを見て満足気に微笑んだ。ラインは、優秀な友人を持つことができて本当に良かったと思った。彼女の助けが無ければ、今ごろ傷害罪で訴えられているかもしれない。
ロンへハンカチを手渡すためにポケットの中を探っていると、突然、談話室の入口の扉が勢いよく開いた。飛び込んできた人物はフラフラとした足取りで暖炉の側まで歩くと、膝に手を付いて立ち止まった。
「ハリー!遅かったじゃないか!君──本当に風呂に入ってきたの?」
ロンは訝しげな顔でハリーを見つめた。彼はパジャマの色が変わるほど汗をかいている。もう一度、シャワーを浴びた方が良さそうだ。
「うん、風呂にも入ってきた。それと、ちょっと気になることがあって──調べて来たんだ」
ハリーは肩で息をしながら、途切れ途切れにそう言った。彼の目は爛々と光っており、かなり興奮しているように見える。
「──スネイプの研究室にクラウチ氏がいた?」
ロンとハーマイオニーの声が重なった。ハリーは部屋中をぐるぐると歩き回り、考えを整理しているようだった。
「うん、忍びの地図に名前が書いてあったから間違いない」
「まさか、貴方──確かめに行ったの?」
ハーマイオニーが信じられないといった様子で聞くと、ハリーはこくりと頷いた。ラインは彼の行動力に感心していた。しかし、それがいつも面倒事に巻き込まれる原因なのでは──
「それで、スネイプに見つかりそうになったところを、ムーディが助けてくれた」
ハリーはそう言うと立ち止まり、おもむろにラインの隣に腰を下ろした。途端に、頭上の鳥が低空飛行を初めたのを感じる。彼を攻撃するのはやめてあげて欲しい。今度こそ彼は本当に、2度目のシャワーを浴びなければいけなくなってしまう。
「つまり、ムーディとクラウチ氏は、スネイプを死喰い人だと疑ってるってこと?」
ロンがそう聞くと、ハリーは大きく頷いた。
「でも、ダンブルドア先生はスネイプを信じているわ」
「それじゃあどうして、"闇の魔法使い捕獲人"たちが、揃ってスネイプの研究室を調べたりするんだ?」
ハリーが厳しい口調で言った。しかしラインはハーマイオニーの意見の方が的を得ていると思った。ダンブルドア先生は馬鹿ではない。もしかしたらダンブルドア先生だけが知っている、スネイプ先生の秘密があるのかもしれないし──
「そうだ──ハリー、きっと、お風呂で卵の謎が解けたんでしょう?」
ラインはそう言うとハリーに笑いかけた。セドリックもお風呂に入ってきたと言って、嬉しそうにしていたし──きっと、卵の謎を解くためのヒントがお風呂にあったのだろう。この場の空気を和らげるのに最適な話題だと思った。しかしハーマイオニーの表情を見た瞬間、ラインは自分が失言したことを理解した。
「──貴方、卵の謎はもう解けたって言ったじゃない!」
その後、ハリーの話を聞いて、ハーマイオニーの顔色は赤色から青色になった。なんと彼は残り1週間のうちに、水の中で呼吸する方法を見つけて、さらに習得しなければいけないらしい。物凄いスピードで本をめくりだしたハーマイオニーを横目に、ラインはこっそりと胸を撫で下ろした──良かった、しばらくの間、正当な理由で夜更かしすることが出来そうだ──
ーーーー
「俺は"シェーマス・フィネガンが石畳に変身する"に10ガリオン賭けた」
中庭沿いの廊下を歩いている時だった。突然聞こえてきたその声に、ラインは足を止めた。思わず緩んでしまう頬を隠し、平静を装って答える。
「どうして彼は、石畳になりたいの?」
「常に君の視界に入っていたいからさ」
辺りを見回すと、燃えるような赤毛が、石像の陰からひょっこりと顔を出しているのが見えた。言われてみれば、下を向いて歩くのが癖になってしまっている。これはあまり褒められない習慣だろう。ラインは少々反省した。
「──最近、君の自習室で新製品の開発をしてる」
なんとなく拗ねたような声色で、ジョージがそう言った。新製品とは悪戯グッズのことだろうか。しばらく、彼等から渡される物には用心しなければ──
「そうなの?知らなかった」
「近頃、君は忙しそうだからね。あそこは爆発にも慣れっこだし」
そう言った彼の顔を見て、ふいに、ラインは彼が16歳であることを思い出した。いつもはもっと大人びて見えるような気がする。何故だろう?クリスマスパーティーの時はどうだったっけ──記憶を掘り起こしていた時、予鈴が鳴った。大変だ、5分後にはマンドレイクの前に着席していなければならない。
「ごめんなさい──私、もう行かなきゃ。このあと薬草学の授業なの」
「来週はホグズミードに行くのかい?」
ジョージはラインの言葉をまるきり無視してそう聞いた。来週の土曜日は生徒達がホグズミードへ出掛けることを許可された日だ。ホグワーツに編入してから、何回かその機会があったにも関わらず、ラインは1度もホグズミードに行ったことが無かった。彼はどうしてそれを聞くのだろう?小さな期待に胸を躍らせていた時、突然、頭の中にムーディ先生の顔がよぎった──そうだった……浮かれている場合ではない。自分は休日など返上して、とにかく魔法の練習をしなければならないのだ。油断大敵!──ジョージはしばらくの間、百面相するラインを面白そうに眺めていたが、おもむろにニヤリとすると口を開いた。
「君は俺に1つ借りがある」
次の瞬間、ラインの頭上を旋回していた鳥が引き寄せられるように、彼の肩に止まった。
「しかし改善点が山程あるな、肝心な時に役に立たないんじゃ、意味ないぜ」
「──やっぱり、貴方だったのね!」
ラインは鳥がオレンジと紫のマーブル模様に姿を変えた頃から、なんとなくその正体に気が付いていた。突拍子も無い行動を取るのに、繊細な優しさも併せ持っているところが、誰かさんにそっくりだったから。
「でも、キャラメルパイは美味かっただろ?ドビーの特製なんだ」
「本当に美味しかったわ。おかげで太っちゃったくらい」
ラインの頭の中からムーディ先生が消えて、代わりにハーマイオニーが現れた──いつでも焼き立てのパイが提供されるのが屋敷しもべ妖精のおかげだったなんて!とんでもない仕打ちだわ!過重労働!──ラインは頭に響くその声を聞きながら、ハーマイオニーにはこのことを隠し通そうと決意した。
「とにかく、1日俺に付き合ってくれ」
ジョージはそう言うと、ラインの返事を待たずにスタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。彼の誘いを断るなんて、出来るはずが無い。彼には借りがある。練習も大切だけど、借りたものを返さないのは、人としてどうかしているし──ホグズミードに出掛ける理由をなんとかこじつけようとしていた時、授業開始を告げるチャイムが鳴り響いた。ラインはハッとして、温室へ向かって走り出した。なんだかいつもより周りの景色が鮮やかに見える。足元の石畳さえも愛おしい。授業には完全に遅刻してしまったし、もうピンクのふわふわした耳当てしか残っていないだろうけれど、そんなことは気にならないくらい、幸せな気持ちだった。