リドルさんのお母様になりたい!
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私がいつも通り備品保管室から紅茶の茶葉を魔法を掛けながら持ってくると、庭園の大きな机に所狭しと生徒たちが肩を並べていた。それでも足りなかったのか、どこからか持ってきた大机も椅子も増えていて、そのどれもに生徒が座っている。席がないのにどうするつもりなのか、立ちんぼの生徒まで存在する始末だ。
少なくとも、ぱっと見でいつもの3倍くらいの人数が居る。
「……なんか、多い、ですね?」
「あ、お前!」
腕を組んでその様子を眺めていたトレイさんに正直な感想を伝えると、トレイさんが汗の滲んだ顔に何故か笑みを浮かべて、私の肩を掴んで庭園の奥へ引き摺り込む。
「な、なんっ、なん!?ですか!?」
「お前、デュースにユニーク魔法使ったな」
「つ、使いましたけど……?」
「どうして口止めしなかった」
「……え?あ……」
言われて初めて気付く。あのデュースくんが勉強ができるようになっていると知れば、誰だってその方法を知りたがるだろう。
「他寮の生徒まで理由を探りに来てやがるぞ」
「……別に種明かしをしてもいいですけど」
あれは結局元からデュースくんにやる気があったから、そのやる気の矢印の形を整えてあげたというだけで、別に飲んで問題が解ける様になる訳ではないんだから。
「種明かしをして、お前は望む生徒全員に毎日毎日魔法を掛け続けるのか?テスト前になれば、焦った生徒に脅されて無理矢理魔法を使うよう迫られるかもしれないぞ」
「……」
そうか、と思う。
面倒臭いことになった、と思った。ただでさえ私は物事の優先順位をつけるのが下手なのに。
しかし、ぴーんと解決策を思い付く。
「あ、いいこと思い付きました」
「……なんだ?」
「ふふ、見ていてください」
トレイさんにウインクをして見せて、一番人が集まっている所へ行き、「ごきげんよう、フランです」と普通に挨拶をし、注目を集めてからもう一度茶葉へ魔法を掛ける。隠す必要がないので、普通に。
「何の魔法だ!?」「何の魔法を掛けた!?」「あのピンク髪のユニーク魔法が頭を良くする魔法だ!」
人がどやどやと私の元へ訪れ、もみくちゃにされそうになるが、そのまま風魔法を使い人を押し除け、腕を組み顰めっ面をしているリドルさんの元へ跪いた。
リドルさんは騒ぎの台風の目がこちらへ来たので頬に汗を浮かべ目を見開き、私の方を見つめる。
「首をはねてください」
私が自らの首に手を当ててにこにことそう言うと、リドルさんははっと目を見開き、私の背後で展開を伺っていた生徒の誰かが私の言葉を聞き、「捕まえろ!」と叫ぶのを聞いて。
「
がちゃん、と首に枷が嵌った。背後を振り返ると、もう何をしても無駄なことに全員が気付いており、痛快だった。
遠くから見ていたトレイさんが目を見開き、それから苦笑を浮かべて頭を振ってどこかに行ってしまったのは、彼から見てもこれは解決の策だったのだろう。どこかで安心した。
「捕まえろと言う声が聞こえたね。心当たりのある者は居るかい」
──静寂。
「今なら首をはねるだけで済ませてやると、ボクはそう言っているんだよ」
──静寂。
「オーケイオーケイ、ではここに居た全員から情報を洗い出して特定することにするよ。ボクにその手間をとらせたツケは払って貰うからね」
「……お、俺だ、リドル・ローズハート」
サバナクローの三年が名乗り出たのを見て、やっぱりサバナクローか、とどこからか聞こえる。あまりレッテルというものは貼りたくないが、サバナクローの生徒はこう言う件に関わっていることが多く感じる。
「
がちゃん、と三年の首に枷が嵌ると、サバナクローの生徒が何人か動揺するのが見えた。なるほど、この三年が責任を取ったのだろう。考えてみると、捕まえろと叫んだ声とこの三年の声は質が違う気がする。
「リドルさん、紅茶を振る舞っても?」
「……キミねぇ、お転婆が過ぎやしないかい」
じろりと私の方へ胡乱げな視線をやるリドルさんがあまりにも自然に私のことを女の子かのように扱うので、かあっと首筋が熱くなるのを感じた。
しかしリドルさんは顔を背ける私を不思議そうに見ていて、私は溜め息を吐いて無理矢理身体の温度を冷まし、心なしか赤く染まっている茶葉で大きなティーポットにいっぱい紅茶を淹れ、ティーカップに注いでいく。
血のように赤いが、もちろん昨日よりは薄い雰囲気がある。
「昨日デュースくんに振る舞ったのはこれですね。今は人数が多いので、デュースくんに振舞ったものよりは魔法の掛かり方が薄いと思いますが」
おお、とどこからか感嘆の声が上がる。
なんか恥ずかしくなってきた。大した魔法ではなくて申し訳がない。
「一杯だけなら、全員に振る舞えるかもしれません」
「……キミの好きにすればいいよ」
「大したことのない魔法だとわかって貰えれば、騒ぎも収まるでしょうし……1人一杯、どうぞ皆さん」
私が首輪のお揃いのサバナクロー生へ視線を向けティーカップの取手を向けてやると、困惑しながらそれを受け取るので、幾人かが紅茶の入ったティーカップを取る。
「……美味しい」「これで頭が良くなるのか?」
ぼやく声に私は肩を竦め、苦笑を浮かべて真実を告げる。
「残念ながら、多少リラックス効果のある紅茶でしかありません。結局のところ、どれだけ頑張るかです」
私がそう言うと、遠くにいた何人かが帰って行くのが見える。なんだか期待を裏切ってしまったようで申し訳がない。
「ティーカップの使い回しが嫌な方は自分で水魔法を使ってください。飲み終わったティーカップは他に試飲なされたい方に渡してください。ティーカップを持ってきてくださったら、一杯だけ注いで差し上げます」
私がにこにことそう言うと、リドルさんが「ハーツラビュル寮生以外は一杯飲んだらさっさと帰って勉強するんだね」と言い放つ。
私はしばらく、お茶を注ぐだけの機械となった。
「すみません、本当にすみません、僕、お世話になった先輩に迷惑掛けて、情けねえ……!」
「デュースくん、私が言っちゃダメって言ってないんだから、デュースくんなんにも悪いことしてないんだよ」
「フラン先輩……いや、甘えさせないでください!世話になった人に迷惑掛けるようなら、ハナっから世話んなんねぇ方がいい」
「いいんだよデュースくん。本当に気にしないで?迷惑なんてどこにも掛かってないんだよ?」
「……クソ、すんません、甘えてばっかで」
「私はむしろ甘えられると嬉しい方だからなー。もっといっぱい甘えてほしいよ」
「フラン先輩みてぇな優しい人、見たことねぇっス……!」
赤くなった鼻を袖で拭うデュースくんが可愛くて仕方がない。これでお母さんっ子なのだから、お母さんからしたらどれだけ可愛い子だろうか。
出来れば本当にもっとでろでろに甘やかしてしまいたいくらいだ。彼の為にならなそうだし、彼がそれを受け入れられるようになるまでに少し時間が掛かりそうだからやらないけれど。
「……で、フラン、今後はどうするんだい」
リドルさんが呆れた様子で聞いてくる。
「今後……はじめてこの首輪つけましたけど、寝る時とかちょっとしんどそうですね」
「元々それも含めた罰の魔法なんだ、今回のような使用の仕方は初めてだよ。まったく」
「なるほど。……まあ別にそこまでではないですし、しばらくはこのままで居ますよ」
今回のことの責任も結局私だしなあ、しばらく魔法使えないのか、勉強会開く意味がちょっと少なくなっちゃったな、と考えていると、デュースくんが私とリドルさんの間に割り込んでくる。
「りょ……寮長。僕が代わりに首をはねられるので、フラン先輩を、解放してやってください」
「あーあーすみませんリドルさん、この子すごく良い子なんですけど……」
「ああ、真面目なのは長所だよ……」
「え?フラン先輩?」
遅れてきたせいで状況を全く理解していないデュースくんの肩を掴んで向き直させ、前から彼の手を握る。
「デュースくん、私、これ、自分から頼んだの」
「え!?」
「ほら、勉強ができるようになる魔法を使えるって勘違いされてるから、無理矢理、誰がどう見ても魔法が使えない状況にしないと、脅されて無理矢理魔法を使わされるかもしれないから」
「な、なるほど……はは、結局僕のせいか……」
「もー!違うって言ってるでしょ!デュースくんの馬鹿!言うこと聞いて!」
私がそう言い放つと、デュースくんはむにむにと口を動かすが止める。
「な、なんか、手伝えることあったらなんでも言ってください、パシリとかでも……」
「うんうん、ありがとう。デュースくんは本当に良い子だね」
デュースくんの背中を撫でてやると、リドルさんがそれに視線をやり一瞬だけ羨ましそうな目をするものだから、鳥肌が立つくらいきゅんとしてしまった。
が、それを表現する訳にもいかないので、私は大きく溜め息を吐いた。
なんか、すごく幸せだ。
こんこん、と扉が叩かれたのは夜が更けた頃、私がちょうど枕を高めにして仰向けになれば体制がマシだと、首輪の地味な攻略法に気付いた時だった。
「はい、開いていますよ」
私がそう言うと、数秒あけて、ゆっくりと扉が、数センチだけ開く。
隙間からは、視線を下にしたリドルさんが覗いていた。
「こんな時間にどうしましたか?リドルさん。……添い寝でもしに来てくれたんですか?」
「……ち、違……入るよ、いいね?」
「どうぞ」
私がにこにこして頷くと、リドルさんは心配げな表情で扉を後ろ手に閉め、やっと私の方に視線をくれる。
私と視線が合うと、首輪に視線を向けるのがわかった。
「心配で来てくださったのですか?」
「……」
「リドルさんは優しいですね」
そう言って微笑むと、リドルさんがマジカルペンをこちらへ向けぼそりと何かを呟くのが聞こえる。
「チェンジ……」
そこまでしか聞き取れなかったが、リドルさんのそんなはっきりしない魔法詠唱ははじめて聞いたなあ、なんて思っていると、ボンっと言う音と共に首輪がなくなってい──いや、
チョーカーに、なっていた。
「じゃあ、ボクは」
「待ってリドルさん、待って、デザインが見たい」
私は慌てて鏡の前に立ち、チョーカーを引っ張ってデザインを見る。
ハートと薔薇のアクセサリーのついた赤と黒のチョーカーは、一目でリドルさんとリドルさんのユニーク魔法──オフ・ウィズ・ユアヘッド──と、見慣れたハートの首枷を連想させる。
しかし布製のそれは首輪といった雰囲気はなく、肌触りもいい。
お洒落だ。ワンポイントとしてとっても可愛いデザインだと、忌憚なくそう言える。
「……すごい可愛い」
思わず呟いてリドルさんを振り返ると、彼の顔がさっと紅潮する。
「これすごい可愛いです、リドルさん」
「……そ、そうかい……」
「デザインはリドルさんが考えたのですか」
「……」
「もしかして、私の為に」
「……!」
リドルさんがそのまま扉を開けて出て行こうとするものだから、思わず彼の手をとって再度部屋の中に引き摺り込み、彼の手と手を絡ませ彼を抱き締める。
「あはは、リドルさん、だぁいすき」
「う、か、帰るんだよボクは……」
リドルさんの顔は赤いし視線は逸れているが、しかし口を尖らせていて、どこか私を許容する雰囲気があった。
キスは許されるだろうか。どうしたらこのあまりにも大きな大きな愛おしさが彼に伝わってくれるだろうか。キス以外で伝わる気がしないから、仕方ないんじゃないか。
「リドルさん、愛していますよ」
額をこつんとぶつけて、彼の瞳を見る。
リドルさんと絡ませている手に力を込める。少しでも握り返してくれたら、唇にキスをするつもりで。
ゆっくりと瞬きをしながらにこにことリドルさんの様子を伺っていると、リドルさんがどこか観念したように、手に、そっと力を入れてくれるから
私の足に扉がぶつかって、ふと振り返ると。
「あっ、ごっめ〜ん☆」
てへ、ぺろ、だなんて顔をしながらしかし大量の汗が彼の心情を表している。
「いやフランちゃんちょっと噂になってたから一応大丈夫かなって見回り来てたら半開きだったからさ〜閉めようとしたんだけどさ〜マジめんご!って感じ!」
あ、それは、私こそすみません!リドルさんが一回帰ろうとしてそれを引き摺り込んだからか。開けっ放しでしたか!ヤバ!足で閉めておけばよかった。すみません。見付かったのがケイトくんで本当に良かったです。すみません。本当に。あなた本当に意外と面倒見良いですよね。
リドルさんの方へ視線だけやると、未だ赤い顔で半ば放心して、顔にはてなを浮かべている、あまりにも無防備なリドルさんが見えて、あ、これ、完全にリドルさんも今キス待ってたなと思って。
私がそんなことを考えている顔をしていたのか、リドルさんが私の顔を見て真っ赤になり、私とケイトくんを擦り抜けて走って行ってしまう。
「〜〜ッ!」
「っ……リドルさん!」「リドルくん!」
彼の走り去る音を聞き終わってから、私とケイトくんは同時にその場で頭を抱えた。
「でもさぁ、フランちゃん、リドルくんの攻略めちゃくちゃ順調じゃね!?けーくんびっくり」
「……これをいただいたのが、正直予想外すぎて」
私は可愛いチョーカーと首の間に指を通してチョーカーを示す。
「……そ……それ、リドルくんからのプレゼント?」
「ついさっきリドルさんがお部屋に訪ねてきて下さって」
「……わー、すご……ええ、リドルくんそういう……」
「ああ、いや、違う違う」
私は笑って、ことの顛末を説明する。突然なんの意味もなくリドルさんがチョーカーをプレゼントに選ぶ訳がないだろう。
「あーなるほどぉ……ってことは今も魔法使えないのか」
「使えないんだよね。首をはねられてるのと効果は同じ」
「へー、でも良いセンスしてるねリドルくん。それだったら邪魔じゃないし、可愛いしお洒落だしね!」
「いや、本当に良いセンスしてるよねリドルさん。魔法を使えなくなるデメリットがなければずっとつけてたいくらい」
「目的逆になっててウケる〜」
ケイトくんがインカメにして、ツーショットを無言でせがむのでケイトくんに近寄って、チョーカーのアクセサリー部分が見えやすいように引っ張って、嬉しそうな表情をしておく。多分、このチョーカーの意味と顛末を周知させておいてくれるつもりなのだろう。
「助かるなぁケイトくん。購買でなんか奢るよ」
「あは、ほんと〜?オレいいね欲しいだけなんだけど。なんかありがとー、フランちゃん。あ、もういいねついた〜」
「やった〜私もいいねつけちゃお」
そう言ってスマホを取り出しマジカメを開くと、ケイトくんの投稿に、見覚えのある名前がいいねしたと表示されているから。
「……エースくんと、知り合いなの」
「ん〜……知り合いって言われればそーかなーってくらい。……なんかあったの?」
〝フラン先輩、すげー可愛くてすげー優しいから、なんか悪いヤツに目付けられそうで不安なんだよな〟
〝おはよーフラン先輩!あ、今日メイク違う!それもすげー可愛いじゃん!先輩の可愛い顔がもっと可愛くなってる!〟
〝フラン先輩、いい匂いするし……髪も長いのにサラサラでほんと綺麗っすよね〟
〝ってかフラン先輩みたいな可愛いカノジョ欲しー……あー、フラン先輩が彼女になってくれねーかなー〟
「……何が、あったんだろう、ね」
傷口を抉られて、蜜を流し込まれた。それがあんまりにも気持ちいいので、私はエースくんを止めることができなかった。
やっと冷静になって、彼の手を払った頃には、甘く爛れた傷口は以前より酷く痛む様になってしまっていて。
恨んではいないけれど、感謝すら言いたい気持ちもあるけれど。
少しだけ、辛い。