リドルさんのお母様になりたい!
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「リドルさん」
「……何だい、フラン」
リドルさんがお昼ご飯をトレイさんとケイトくんと一緒に食べているところ、後ろから声を掛けた。
ケイトくんとリドルさんの緊張する気配がする。トレイさんも私を気にしてはいるのだろうが、驚くほど感情を隠すのが上手い。食えない男だ。
「また、空いている日があれば勉強会をしたくて」
「ああ、良いよ。……明日はどうだろう」
「ふふ、楽しみにしていますね。では」
「フラン、席も空いているし、ここで食って行ったらどうだ?」
顔見知り程度のクラスメイトが一人で食べているのを視認したが故にそちらへ行こうとすると、トレイさんから予想外の提案が出る。
「え、あ、良いのですか?」
「リドル、良いよな?」
「ああ、勿論。構わないよ」
「では失礼させていただきますね」
リドルさんのランチの横にランチを置かせていただき座る。トレイは恐らくなんらかの牽制をしてくるつもりだろうが、リドルさんの隣でランチを食べられるのが嬉しいので、甘んじて受けよう。
「ってかさぁ……トレイくんとフランちゃん、似た者同士なんだから仲良くなれば良いのに」
「トレイさんと仲、悪くないよ?」「はは、俺とフラン、似てるか?」
「似てるよ〜!オレにだけ本心話すとことか〜!けーくん板挟みでたいへーん!」
トレイさんと私は、流石にぎくりと肩を揺らし、アイコンタクトをとる。
(嘘だろトレイさん、ケイトくんに何話したんだよ)
(フランとケイトが仲良いのは知ってたが……相談する相手が他に居るだろ、他にしろ)
(他は口の堅さというか……事なかれ主義さに信用ができないので相談できません)
(だよなぁ……わかるぞ)
「もー!仲良くしなって疲れるからー!」
そう言ってスマホに視線を戻してしまったケイトくんに溜め息を吐く。
「……フランとトレイは似ている、のかな」
「似て……ますかね?」「似てるか?」
リドルさんの言葉に首を傾げる。わからない。
「いやめっちゃ似てるって!トレイくんが三つ葉だったらフランちゃんが五つ葉ってくらいの違いはあるけどさぁ」
「どうせなら四つ葉が良かったですけど……。トレイさんの1.7倍が私……?」
「あー、ちょうどそのくらい。トレイくんの1.7倍くらい」
「なんの尺度なんだ……」
「何が1.7倍なんでしょうねぇ」
ケイトくんの言葉にトレイさんと肩を竦める。
「もう二人でリドルくんのパパとマっ」「おいおいケイト、まだ人参が残ってるじゃないか。ちゃんと食え」
とんでもないことを言おうとしていたケイトくんを阻止するトレイさんに机の下でグッジョブを贈る。多分伝わっている筈だ。
「……フランとケイトとトレイは、交友関係があったのか」
「同じ寮ですからね。ケイトくんには一年生の頃から相談に乗って貰っていましたが」
「うんうん、一応先輩だし?的な!」
「ケイトは意外と、後輩への面倒見が良いよな」
「……」
リドルさんがどこか除け者にされている気配を感じている気がして、私は彼へ微笑みかけた。
「ここにいる全員、リドルさんのことが大好きなのが共通点なのですよ」
「なっ……」
「フランちゃん良いこと言うー!オレらの女王様、今日も超カワイー!」
「はは、否定はしないよ」
何か幼児に対する扱いを受けている気がしたのかリドルさんは一瞬ぶすくれるが、すぐに戻った。
可愛い。
トレイ・クローバー。トレイ先輩のお菓子作りの腕は良い。それは寮生全員の知っている通りだ。
しかし、〝良い〟はまだ直接的ではない。良いお菓子に求めるもの、それは味覚の快楽だ。
それならば結局、快楽をそのまま流し込んでやる方が──なんて対抗心をむん!と燃やして。
「デュースくん、ちょっと良い?」
授業が早めに終わってしまったので、薔薇の庭園にある大きなテーブルとチェアで、たった一人お茶を飲みながら薔薇を見ながら時々手を動かしていると、かわいい後輩が角を曲がっていくのが見えたものだから声を掛ける。
「あっはい!どうしましたかフラン先輩!」
慌ててこちらに向き直るデュースくんに苦笑する。噛んでしまっているので私を家名で呼ぶことをやめさせると、〝先輩の名前もまともに呼べないなんて……僕はなんて不甲斐ないんだ……!〟と早口言葉の練習をしていたのは少し前の出来事だが、未だ記憶に新しい。
「今日リドルさんと勉強会を開くんだ。参加者は二年生中心なのだけれど、テストも遠いしつまづいてる所があれば私とかの二年が教えられるし、どうかなって」
「!助かります!是非参加させていただきます!」
かわいくて、思わずふふふと笑みが溢れた。
「デュースくんは良い子だね。デュースくんも私と同じで、もう授業は終わったのかな」
「あっ……はい!終わりました!」
「じゃあリドルさんたち待ちだね。私はお茶を淹れるから、デュースくんは自分のつまづいている章のページを開いておいて貰えるかな?」
「はい!ありがとうございます!」
なんとも素直で可愛い。
私の魔法をもう込めている茶葉でデュースくんの分のお茶を淹れて、ふと思い付く。そうだ、ちょうどいい実験台だ。
デュースくんの分の紅茶に、〝リラックスができますように〟〝ストレスのない時間を過ごせますように〟〝頭がすっきりとしますように〟と強く祈る──祈って祈って祈り続け、過剰なくらいに。かなり強く魔法が掛かっているのだろう、デュースくんの為に淹れた紅茶はまるで血のように真っ赤になっていた。
この色が私の魔力の本来のいろで、愛情で、イマジネーションで。
ちょっと毒々しいのが、悲しいような。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございますフラン先輩!……えっ!?すごい色ですね!?」
「色がね……ちょっと」
「めちゃくちゃ綺麗っスね!?」
「えぇ……?綺麗……かぁ?」
「匂いも良いし……なんか高級なやつとかっスか?」
デュースくんの顔色を一応伺うが、彼はなんだか顔をキラキラさせていて、本当にそう感じているみたいだ。私には毒々しい、魔女の家で出るスープみたいに見えるけれど。
この後輩が嘘を吐いたとは思っていなくとも──それでも自分の感想と彼の感想に差がありすぎて、嘘でなくとも忖度を言っているのではと疑ってしまった。
匂いは……私には、普通に紅茶の匂いしか感じないのだけれど、デュースくんには別の匂いに感じているのかもしれない。
「……どんな匂いに感じる?デュースくん」
「ん……難しいっスけど……なんか、柔軟剤みたいな……」
「柔軟剤……?」
「いや、なんか、ウチ……実家で使ってた柔軟剤に、どっか似てるような……」
なるほど、と納得する。彼にとってのリラックスの匂いがそれだったから、そう感じる訳だ。
と言うことは、もしや視覚的にも違いがあるのだろうか。
「……あの、もう飲んで良いっスか?」
「ええっ……良いけど……」
「いただきます!」
ばちっと勢い良く手を合わせ半分くらい一気に行くデュースくんに、あぁああ、と心の中の自分が何故か少しだけまずいことをしてしまった気分になっていて面白い。
半分くらい一気に行って一度口を離し、もう半分も一気に行くものだからもう驚くのにも疲れる。
「悪くはないみたいだけど……どういう」
「え、な……っ!?」
「ええっ!?」
デュースくんが突然ぼたぼたと涙を流すので、私はびくっと身体を震わせる。
何が起きているんだ。
「だ、大丈夫かなデュースくん……?何、どした……?」
「え、わ、わかんな……はは、僕ダッセー……」
拭っても拭っても落ちてくる涙にデュースくんは困惑しているが、私もしている。
恐る恐る彼の背中に手を当てさすると、デュースくんの涙の量が増えたので、びくっと手を止める。
しかしデュースくんは何かを悟った様子で、私の瞳を真正面から見つめてくる。
「……しばらくしたら、止まるんで」
「そう……なんだ」
「……あの、サーセン、……そのままで」
一瞬意味がわからなかったが、手を止めるな、ということだと気付いて再度背中を撫でる手を動かす。
なんだか可哀想になってきてしまってそっと手を握ってやると、デュースくんはびくっと震える。がしかし、しっかりと握り返してきて。
背中を撫でていた手で彼の頭を抱き寄せ、私の肩に乗せてやると、鼻をすする音がする。
「よく頑張ってたんだね?」
「……っ」
「大丈夫、大丈夫」
なんだかそういった言葉を求められている気がするので言ってやると、肩に顔を埋められた。
デュースくんは1分ほどそのままで居たかと思うと、突然私の肩から顔をどかして、どこか振り切れた様子で。
「ありがとうございます、フラン先輩。もう大丈夫っス」
「あ、そう……?」
「勉強します!」
押忍!といったポーズをしてがりがりと勉強をはじめたデュースくんを恐る恐る見ていると、彼が眉を下げてわからない部分を聞いてくるので教えてやる。
少しするとちらほらと寮生が来はじめ、リドルさんも私が座っているのを見てこちらの方に来て、私の隣に座った。
「リドルさん、お疲れ様です」
「ああ、お疲れフラン」
「フラン先輩、ここの魔術式ではどれを……」
「ああ、それはね……ほら、これは初級の解析魔法を応用して」
「おあ、なるほど!」
「え、それでわかる……?……あ、そうそうそうそう!合ってるよデュースくん!すごいすごい!」
デュースくんは元々勉強に苦手意識があって上手く集中出来ていなかったのだろう。魔法で少し集中を向けてやると、いつもが信じられないほど、時折つまづきながらもしっかり、歩んで進むことができている。
「フラン先輩、勉強って、楽しいっスね……!」
頬を紅潮させたデュースくんからそんな言葉が出たのは、空が夕に染まりはじめた頃だった。
結局その日はずっとデュースくんに付き添って勉強を教えてしまっていた私は、デュースくんの言葉に感動してしまい、思わず彼の手を握って振る。
「わぁあああー!デュースくん!頑張ったねー!」
「フラン先輩のおかげっス!ありがとうございます!俺、こんなに勉強できたの、はじめてっス……!」
「うんうんうん、すごく集中できてたね」
「ま、また勉強、教えてください……!俺、このままフラン先輩に勉強教えて貰えれば、本当に魔法執行官になれるかもしれない……!」
「ま、魔法執行官になりたいのか……頑張らないとだ……うん、私に出来ることなら協力する」
「フラン先輩、本当にありがとうございます!本当……あっ」
デュースくんの瞳から再度ぽろりと涙が溢れる。私は彼の背中をぽんぽんと叩き、さすった。
「な、なんっ……今日なんで……クソダセェ……!」
「いいんだよデュースくん。ダサくないよ。泣けるのは偉いんだよ。泣けるのは、ストレスを発散できてるってことなんだから。溜め込まないのは良いことだよ。デュースくんは泣けて偉いよ」
「ちょっと!」
突然響く凛とした声に、私は後ろを向く。リドルさんが顔を顰めて立ち上がっているものだから、反射的に肩を小さくした。
「りょ、寮長……!すみません!うるさかったっスよね……俺居るの気付かな」「ちょあー!?いや……リドルさんすみませんうるさくして……」
リドルさんの神経を逆撫でする言葉を吐きそうになっていたデュースくんの口を自分の声で無理矢理止めて、私も謝罪する。
しかしリドルさんは二の句を継がず、そのまま溜め息を吐いて口を閉じ、椅子に座った。
「気付いたならいいよ」
そう一言言ってリドルさんは座る。デュースくん含めて、周囲の寮生たちがほっと胸を撫で下ろす気配がする。
──私は。