リドルさんのお母様になりたい!
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──リドルさんは、お母様……ほんとうのお母様のことが、好きですか?
──……どうあれ、尊敬しているよ
──……そうですか
「ケイトくん、ダメだ、私、本気で寮長のママになりたい」
「はは〜、ウケる」
スマホを弄りながら、しかし私の話に耳を傾けてくれているケイト・ダイヤモンドの口ぶりは軽い。
大食堂では、私のあまり通らない声は喧騒に紛れ、たった数十センチの距離にしか届かない。
「出来るなら育て直したいけど今からでもいい……どうしたら寮長のママになれるんだろ」
「えー、フランちゃんが元々子ども好きなのは知ってたけど、別にリドル君キミと同い年だよ〜?それってリドル君のこと結構馬鹿にしてない?」
「リドルさんが年上でも同じこと思ってた」
「ん〜ま〜、庇護欲そそられるのはちょっとわかるけど……あんま他人の家庭に深入りしないようにした方が良いんじゃね?」
「でも、今まで誰も深入りしなかったからああなっちゃってんじゃん」
「確かにね〜、でも、リドル君ただでさえ今不安定だし、あんまり揺らしてあげない方がいいんじゃない?」
その意見も一理あるが、逆に、もしも──もしも、根本的な治療が適うとしたら、不安定な今しかないとも、思った。
誰も根本的な治療なんか望んじゃいないけれど、それでも。
そこまで考えて、ふと気付いた。
ああ、これは。
「……私、リドルさんのお母さんより、リドルさんのお母さんを上手くやれると思ってるんだ」
「うわ〜、ヤバーい!何がヤバいってさ、リドル君がママのこと嫌いだったらまだ良いよ?彼、自分のママのことすごい好きだからね?フランちゃんがどう頑張ろうとさぁ、二人の間に入ることもできないよ?」
「……どう、なんだろう」
「まさかのチャンスあると思ってる系!?ヤバいヤバいって、やめときなって流石のけーくんも助言〜!
ってかさ、それゴールどこなの!?無くね!?」
ゴールは明確に存在する。私は、彼を呪縛から解き放ちたいだけだ。
彼を母親の呪縛から解き放つ方法は、やはり時間と距離と愛情だろうと、思う。
NRCに居る今だからこそ、それを三つ揃えられれば。
あるいは。
「……やば、マジの顔じゃん」
ケイトくんは私の顔を見て片眉を上げ額に汗を浮かべる。私は唇を尖らせた。
「えー……うーん……っと……けーくん退散!」
彼はそう言って、言葉通り食べ終わった食器のプレートを持って行ってしまった。
──勝算が──ある、とは、思うのだ。
「ねえ、リドルさん」
「な、……何だい」
魔法史の授業。
私に隣に座られた時点で何やら警戒体制に入っていたリドル寮長は、しかし、授業中はしっかり授業に集中していた。
だから授業が終わってから、そっと話し掛けたのだが、一瞬で警戒体制に入られてしまって苦笑する。
無理もないけれど。
「……実を言うと、私も、お母様が魔法医術士だったのですよ。私を産んで、すぐお亡くなりになられてしまいましたが」
「!……そ、そうだったのか」
リドルさんは目を見開く。これは本当だ。非常に優秀で美しかった夕焼けの草原生まれの母を、輝石の国出身の父が必死に口説き落とし、私が生まれたという。
……まあ、語弊は多少どころではなくあるけれど、嘘は言ってない。
「リドルさんのように両親共に、とはいきませんが」
「……そういえばキミは、特に薬学や医術の成績が良かったね」
「……実を言うと、私も、魔法医術士になれたらいいなと考えておりますので」
「へえ!そうなのかい!ボクもだよ!」
リドルさんはぱあっと顔を明るくする。ライバルを見つけ蹴落さねばという考えの前に、同類を見つけて純粋な喜びが出てくる辺りは流石だった。かわいらしくて顔が綻ぶ。
「私も、今よりもっとお勉強を頑張らないといけませんね。リドルさんの努力は、見ていましたので」
「……キミのその頭の良さは、お母様譲りかもしれないね」
勉強を頑張っていてよかった、と思った。頑張っていた、と言うよりは、成績が落ちるのが怖かったから頑張らざるを得なかっただけだけれど。
だからこそ、私は彼をとても尊敬していた。
私如きにすら恐怖感があるのに、彼が抱えるそれはどれ程のものだろうか、と、いつも思っていた。
「……ボクは、キミは魔法医術士に向いていると思うよ」
「ありがとうございます。何故ですか?」
「……実際、ボクもキミのお陰で助かったからさ。同じ志を持つ者としては、先を越されたようで癪だけれど」
リドルさんにそう言っていただけたのがとっても嬉しくて、思わず破顔する。
「なら、私が体調を崩した時には、治療をリドルさんにお願いしますね」
「いや、普通に医者に掛かりなよ」
「もー、なんでそんなこと言うんですか。リドルさんの患者の第一号にならせてくださいよ」
「……、ボクの患者の第一号……いや、まだボクは何の資格も持っていないし……」
「私だって持っていないですよ。これから何に罹るかわからないので何も言えませんが、……もちろん応急処置程度でいいので」
「……そこまで言うのなら、良いけれど……」
「やった。お互いに初めて診た患者がお互いというの、素敵です」
「……お互い……か」
唇を尖らせ釈然としないと言った表情をしながら、しかし嬉しそうなリドルさんの表情を見て、私は静かに、確かに愛おしさで胸が温かくなるのを感じる。
彼の頭を撫でて頬にキスを落としてやりたくなるのをなんとか我慢し、教科書を集めてとんとんと整えた。
オーバーブロットを経たリドル寮長は、少し性格が変わった、と寮の皆に言われていた。
確かに、彼に首をはねられる生徒は減った。激減した、と言ってもいい。
「リドルさん」
「……何だい?」
「一緒に勉強をしませんか、庭園ででも。寮生なら自由参加で」
「……良いけれど」
「やった。何時にしましょうか」
「別に……勉強をしない日なんて無いだろう。何時でも良い」
「あ、じゃあ、いっそ今日にしますか?」
「きょ、今日の今日……突然だね。まあ良いけれど……」
「じゃあ、話を流しておきますね。勉強会をするから寮生は自由参加だと」
「ああ、わかった」
リドルさんが頷いたのを確認し、マジカメに薔薇の写真と共にリドルさんと勉強会をする旨、ハーツラビュル寮生は自由参加な旨、授業で躓いている部分があるなら参加することを勧める旨を投稿する。二人きりでやりたい気持ちはあるが、まずは私と一緒に居ることに慣れて貰ってからだ。
すぐに2ついいねが付くのを見て一度更新をすると、ケイトくんがいいねを付けていた。反応早いなぁ、と思いながら──ケイトくんも私に対して行動早いなあと思っていることを予想し──スマホの画面を切る。
「では、また授業が終わった後に。リドルさん」
「……ああ」
違うクラスである為にそのまま角を曲がり、少し行ってから振り返り、まだリドルさんがこちらに瞳を向けていることを確認し、ひらひらと手を振ると、少しだけ微笑まれ。
ぐ、と胸が苦しくなった。
──私のに、したい
その瞬間──ああ!確かな欲求が芽生えてしまったのを感じ、私は震える喉から熱い吐息を吐いた。