リドルさんのお母様になりたい!
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母は私を産んですぐに死んだ。
父は私を母に似ていると言って喜んだ。
母親になりたかった。
なれると思っていた。
でも。
生まれて来なければよかった。
幼い頃から、自然に、自分のことを本当は女性だと思っていた。
男子のふりをしながら、大人になれば自然に女性らしい身体つきになり、女性らしい容姿になるものだと思っていた。
身長が170cmを越えたとき、腕に血管が浮き出てきたとき、おかしいなと思うきっかけは色々あったけれど、気付いたのはある日突然だった。
その時の気持ちが悪い気持ちが悪い気持ちが悪い嫌悪感嫌悪感嫌悪感。うそだ、一生このまま?え?え?お母さんになりたかったのに。消えたい消えたい消えたい消えたい、嫌だ嫌だ嫌だ。なんで?私の胸は?あるはずなのに、あなたを胸で抱きたかったのに。
私は、違う。怖い怖い怖い。嫌だ嫌だ嫌だ。
気持ちが悪い。
すごくすごく気持ちが悪かった。
それに、自分の身体が気持ちが悪いだけではない。自分が男性のふりをしていると思っていたからどうとも思わなかったのに、気付いた時にある日突然、男として扱われるのが耐えられなくなってしまった。
その時の恐怖といったら。
見ないで見ないで見ないで見ないで。
1秒だって耐えられない。耐えたくない。消えさせてください。
嫌だ。
(……一生分の嫌な夢を見た気がする)
私が身体を起こすと、なんとか部屋には戻って来ていたらしい、自室のベッドの上だった。
マジカルペンを見ると、まだほの黒いが、先ほどよりは随分マシだ。
(……怠い、まだ眠れる)
時計が午前5時半を指しているのを見て、気絶するように二度寝をした。
「フラン・フォエニコプテルス!」
「うわああああ!?」
突然大声が聞こえて、びくりとベッドから飛び起きる。
慌てて声のするドアを開けると、そこにはリドル寮長が怒りを露わにした表情で腕を組んでいた。
「このボクの呼びかけを再三無視するとは……良い度胸がおありだね」
「すみません、寝ていました。すみません、リドル寮長」
「……まあ良い、今回は別件だよ。この液体はなんなのか聞きにきたのさ」
ちゃぷちゃぷ、とリドル寮長が振るフラスコに入れられているのは、私の魔力が入った薄紅色の水だ。
「ああ……それは、ブロットを身体から排出するのを扶ける為に、私が用意させていただいたものです」
「ふぅん……飲んでも身体に異常は無いのだよね」
「ブロットの身体に及ぼす効果を相殺する効果を込めましたので少し楽になるかと思いますが、それ以外には何も無いかと」
「……そうかい」
「はい。おやすみになられている時に脱水対策も兼ねて吸飲みでお口の方へ失礼させていただきましたが、美味しそうに飲まれていて安心しました」
「……キミは」
「はい」
「キミは、お母様に似ているね」
唐突に、気づいた様に言われる。
……うーん。
これは悪口なのだろうか。いや、本人に悪口のつもりは絶対ないのだろうが。
「ぁ、い、いや、違う!……と言うか、別に似ていないよ。……ボクはどうしてお母様に似ていると思ったんだ……?」
なるほど。夢の中のお母様役が私であったから、目が覚めてすぐの今だからそう思っただけだ。
「でも、少し嬉しいです。私、親になるのが、小さい頃からの夢で」
あれ。
そんなことを言うつもりは無かったのに、つい口を滑らせてしまった。
お母さんごっこの気分がまだ抜けていないのかもしれない。
「とても良いお母さんになりそうだね、キミは」
「……」
予想外の言葉すぎて、絶句してしまう。
「キミはなんというか、人を落ち着かせる才能がある気がするよ。……、あれ、いや……母親……?」
首を傾げられる。
「……あれボク、今お母さんって言ったかい」
「言ってましたね」
「……?何故だ……?親と言われて、自然に母親だと……話の流れのせいか……?ああ、失礼したね」
「失礼してないです、私がなりたかったのは……ぼかしましたが、親ではなくお母さんなので」
私は首を振って、笑みを作る。
一つ呼吸を置いて。
「リドルさん。私、寝ているあなたに『お母様、お母様』と抱き着かれました」
私の言葉に、リドルさんはあんぐりと口を開け、一瞬怒りに塗れた顔をして、しかし思い当たる節があったのだろう怒りを鎮めてぐっと目を瞑った。
「……すまなかった」
「いえ、いえ。私は、嬉しかったんです。あなたが『お母様ごめんなさい』と言って泣いているので、頭を撫でたら、本当に幸せそうな顔をしていて」
「き、キミ、本当に申し訳ないが、それを他の寮生に言ったら」
「言いません。代わりに、私と取引をしてください」
「……なんだって?」
リドルさんは赤い顔をさっと普段の色に戻し、一気にきぃっと瞳孔を狭める。
寮長になってから、こう言ったことで悪意に晒されるのは日常茶飯事だったのだろう。
「……はぁ、……キミがそう言った人物だとは……何だい?寮長の座を譲れと?それとも何か辱めを望むのかい?」
「あ、いえ、時々、ハグしていただけたらなと」
「……は?」
「お母様って呼ばれてハグされるの、すごく素敵な体験だったので」
「……」
「二人きりの時に、お忙しいでしょうし本当に時々、少しだけでいいので」
「……」
「あ、その際頭を撫でさせていただく許可も──」
「
がちゃん、と首に枷が嵌る。
リドルさんはしかし、顔を赤くしたり青くしたり忙しい様子で、こちらの言葉に反応は難しそうだ。
「……絶対、お母さんにはなれないんです、私」
自分でもわかっていたことを口に出すと、自然と涙が出てくる。
リドルさんの顔が肌色寄りの青で止まるのがわかった。
「お母さんになりたかった」
ああ。欲望というのは、口に出すと形を持ってしまっていけない。
いつまでも、いつまでも私がはらはらと涙を流すところをリドルさんは見ていた。
ぐす、と鼻の方まで来てしまった時に、急に自分が惨めになった。
何をしているのだろうか、私は。
「すみません、今のは無かったことにしてください」
自分への嘲笑で笑顔を作る。
「……ね、ねえ……」
「大丈夫、言いません。絶対に、あなたを辱める様な真似はしません」
「あの……」
「変な話聞かせて申し訳ありませんでした。全部忘れていただけると、それが何よりの助けです」
「……お母様とキミを呼ぶのは、断るが」
「……え?」
彼は、真っ赤な顔で、回らない舌で、それでも言葉を紡ぐ。
「ハグくらいなら……時々なら……」
「……頭を撫でるのは?」
「キ、キミ図々しいね……!」
「いえ、ハグしたら頭を撫でたくなってしまうので……」
「……そ、それなら……仕方がない、じゃないか」
口をへの字に曲げて、真っ赤になりながら。
なんて。
なんて愛おしいのだろうか。
私は彼の許しの通りに彼を強く抱き竦め、半ば無理矢理部屋の中へ入れて扉を閉める。
「ちょ、ちょ、な、何を……!」
「見られたら困るのはリドルでしょう?」
「……ぅ」
かわいい、と言いそうになるがそれをなんとか我慢する。まだ、まだだ。まだその段階じゃない。
リドル、と呼び捨てにしまったけれど、それはあまりにも口馴染みが良かった。本人も気付いていないくらいに。
「リドルはとっても優しい子ですね」
「……!く、」
リドルは子呼ばわりされたからか一瞬背中に力を入れるが、優しく頭から背までを撫でていると少しずつ硬さが抜けていく。
幸せで涙が出てきた。
「ああ……幸せです。愛おしいです。ありがとうございます」
リドルは、私が彼を離すまでずっとじっとしていた。
首輪は気付いたら無くなっていたし、離した時に、彼は目元が赤いのを隠そうとしていた。
すごく幸せな気分になった。その瞬間の私は、この世の中の全員の幸せを心から願えた。