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リドルさんのお母様になりたい!

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夢主の名前です。デフォルトだとフランになります。



「ほんとに色々あったけど丸く収まってよかったじゃ〜ん!ねートレイくん、俺ら頑張った甲斐あったね!」

「ああ、そうだな」

「……でもまだ私、許してないですからね、ケイトくんが私のことを言ったの。誰にも言わないという約束で吐き出させて貰ったのに」

「こっわ……いや結果良ければ……とは行かないよね〜、うん!」

「ケイトくんが受けた去年の今の中間のテストの問題とかあれば許す気にもなるんですけど、そんなものはないですよね……」

フランちゃん実は全然気にしてなくね?も〜わかったよ、多分あるから探す!」

「やったー!」


無邪気に喜んでから、今日の朝のリドルさんとの会話を思い出す。もう一度咀嚼する。


「でも、フラれちゃったからなあ……」

「うーん……まあある意味ではそうだろうけど」

「ママになりたかったな、リドルさんの」


ふん、と鼻を鳴らして水を口に含む。


「あくまでフランちゃんはフランちゃんのままで、リドルくんはフランちゃんのことが好きだよって話をしたんでしょ?」

「……そうなんだけど、ママとしてリドルさんのお母様に勝ちたかったなって」

「あー……」

「私の敗けです。お母様には敵いませんでした」


トレイさんもケイトくんも苦笑しながら難しい顔をしている。

リドルさんが食事を取って戻ってきたので私は静かに姿勢を正す。


「……なんの話をしていたんだい?」

「ケイトくんが去年のテストの問題を見せてくれるって言うので、ありがとうございますと」

「……そうかい」


リドルさんはなんだか牙の抜けた様子で私のことをちらちら横目で見ながら黙々と食事を始めた。


「……どうするトレイくん、オレら行く?」

「あ、ああ、そうだな。行くか」

「……次の授業BとE合同なんですか?」

「うん、まあそんな感じ!じゃあね〜」

「頑張れよー」


以前はリドルさんと二人きりになると何をしようかと浮き足立ったものだが、色々過ぎ去った後の今はなんというか、気恥ずかしさがあるだけだった。

リドルさんもそうみたいで、先程よりほの赤い顔をしながら食事をしている。


「今日の勉強会、楽しみですね」

「……うん」

「そろそろそんなにテストも遠くないし、私も本腰入れないと」

「そ、……そうだね、うん」


なんだか歯切れが悪い。リドルさんの方を見ると、赤い顔をしながらこちらをちらと見つめてくるものだから、今朝のことが今更になって恥ずかしいのかと合点が行った。


「……ケイトくんたちに、どこまでバレているのやら」


大食堂で座る場所を探しているとケイトくんに声を掛けられ、第一声が「フランちゃんやったじゃん!」だったので、うんまあやりましたが、と思い、しかしどこまで知っているのかを追及するのも、もはや面倒くさくて。


「……あ、す、すまない。言ってしまったよ、全部」

「え?……全部ってその……全部ですか?」

「ああ。……秘密にしたかった、かな」

「……いえ、いいんですが、リドルさんの方が言ってよかったのですか?」


友達同士がお互いの部屋に泊まることはNRCではよくあることだけれど、リドルさんはそれをあまり良い行為だとは見做していなかったから、それを自分がやったと言ってしまってもよかったのだろうか。


「ボクは……いいよ。勿論だ。隠す必要も無いだろう、おかしなことをする訳でもない」

「まあ確かに、私たち真面目だからそうですね。ふふ」


ゲームをした挙句乱闘騒ぎを起こし窓を割った生徒たちは夜に集まるのを禁止されていたが、それは当然といえば当然だ。

やっぱりリドルさんは丸くなったな、とにこにこしてしまう。彼の丸いところは全部好きだ。後頭部もほっぺたも態度も、丸い方がいい。


「そういえば、昨日リドルさんにいただいたあの薔薇の砂糖漬け、本当に素敵な贈り物だったので自慢しても宜しいですか?チョーカーはもちろん内緒ですけど……」

「あ、ああ。少し恥ずかしいけれど……いいよ」

「ふふ、あんなに素敵なものをリドルさんが作れると知ったら、寮生たちが自分にもくれと駄々をこねそうだなと思って」

「その生徒にはフランと同じくらいの点数をテストで取れたらね、と返してあげよう」

「あら、それは尚更頑張らなくちゃいけないですね。あれを私だけのものにする為に」

「ふふふ」


リドルさんが本当に楽しそうに笑うものだから、私もつられて笑った。













「……お久しぶりっス、フラン先輩」

「……お、お久しぶりです」

「なんで敬語なんスか」

「……」

「……オレは先輩が何考えてるかわかんねーっスけど、デュースに散々勉強会に誘われっからまあ寮生として一回は参加しとくかって来たんで、オレと居るの嫌でも外面は保ってください。アンタ次期副寮長とかって言われてんだから」

「……はい。わかりました」

「だからなんで敬語なんだって」


エースくんは溜め息を吐いて、お手上げだと言うふうに手をひらひらとさせる。まだ誰もいない時でよかった。


フラン先輩、知らない間にすげー寮長と仲良くなりましたね。あんなにオレと一緒に悪口言ってたのに」

「言ってたかな、そんなに」

「言ってたっスよ!……まー良いですけど、なんでも」


呆れたような、疲れたような表情をしてエースくんは私と一つあけた席に座る。

微妙に近くて、怖い。


「……なんなんスか、その態度」

「……」

「前普通だったでしょ、オレ、アンタになんかした?」

「してない、ごめん、してない、大丈夫」


怯えているのに気付かれ、指摘される。彼は目敏い。ちゃんとしないと、ちゃんと。


「……なんかあんなら言えっての」


小声で呟かれるそれも、本当に恐ろしくて堪らない。

下級生にどうしてそんなに怯えている。しっかりしろ、私。流石に情けないぞ。

呼吸を落ち着けて、よし、もう大丈夫だ、とエースくんの方へ視線をやると、思ったより近くにエースくんの顔があって、驚く。私が呼吸を落ち着けている間に隣へ移動していたみたいだった。


「へー、すげー、首輪こんなオシャレにして貰って」


そんな言葉と同時に、チョーカーに指を掛けられ顔を近付けられる。情けない声が出そうになったが、なんとか我慢した。


「へー、てことは籠の中の鳥になったってことスか?寮長の」

「……籠の中の鳥って言うには、大きすぎるよ」

「大きさとか関係ないっしょ。……すげー似合ってますよ、チョーカー」

「あ、ありがとう……」


その言葉を最後に指を離して貰えて安心する。私はチョーカーに手をやり、アクセサリーの位置を整える。


「相変わらずすげー可愛いっスよね、フラン先輩」


びく、と背筋が震えた。反射的に彼と少しだけ距離をとろうとして、しかし腕を掴まれ阻止された。


「その態度、ほんとなんなんスか?」

「……ごめん、ごめん、離して」


「でもなんか、ちょっとカワイーかも」


エースくんは口角を上げ、私の腕を尚も強く掴んで引っ張り、自らの方へ寄せる。私は彼とぴったりくっついて座る姿勢になり、かあっと顔が熱くなるのがわかった。

自由な方の手で顔を隠す。


「あはは、照れてんスか?可愛い」

「やめ、やめて」

「なんで?先輩、カワイーって言われんの大好きでしょ?」

「……やだ」

「あは、やだって、辞めさせる気あるんスか?」


彼のペースに呑まれると、頭が回らなくなる。悪意のある褒め言葉に、脳が誤作動を起こしているのがわかる。

顔が真っ赤になっているのもわかるし、ちゃんと抵抗をしなければいけないのもわかっているのに、何もできない。何もできないから、自分が本当に辞めて欲しいのかがわからなくなってくる。


「オレのこと好きになったから避けてんでしょ?先輩」

「……ち、違」

「違わねーっつーの。……他のやつに腕触られたくらいでそんな顔しねーだろ、アンタ」


わからない。わからないことを聞かないで欲しい。そんな、私自身にだってわからないのに、そんな証拠まで出して、断定したみたいな言い方をしないでほしい。


「……ね、先輩。オレさ、アンタの可愛いトコ、もっと見たかったんだけど」

「……」

「一方的に避けられてるオレの気持ちにもなってよ」


エースくんとは、ほんの一時だけ仲が良かったと思う。

エースくんは私が照れるのを面白がって、私の変化に逐一気が付いてくれて、可愛い可愛いと言って頭を撫でてきたりして、私は後輩のくせになまいきだ、と思いながら、しかし確かに最初はすごく嬉しかったのだった。本当に嬉しくて、毎日髪型を変えたりしていた。エースくんはその度に褒めてくれた。

でも、ある日、三つ編みのハーフアップに髪型を変えたのにエースくんが可愛いと言ってくれなかった。私は不安になって、トイレでメイクを確認し、身だしなみを確認し、やっぱり私にはこれは似合っていなかったのかなと怖くなってゴムを解いて櫛を入れ、いつもの髪型に戻した。それを見たエースくんは、「あれ、ハーフアップ、可愛かったのにやめちゃったんスか」と言った。その声の裏に、歓喜が混ざっているのに気付いて、私は彼に一方的に絶縁を宣言したのだった。



舐めるな。






彼は私というおもちゃで遊んでいた。私は彼のおもちゃになってやる気は、そんなにはなかった。それだけの話だった。私に絶縁されたのは、エースくんの過失だ。だって、私におもちゃ扱いされていることを気付かせなければよかったんだから。そうしたらいつまでも私で遊べただろうに、隙を見せてしまったのだから。

責めるなら自分を責めて欲しい。


「……でも、オレ本気でフラン先輩のこと可愛いって思ってましたよ」


うるさい、どの口が、と思う。


「外見もそうだけど、オレに可愛いって言われたくって髪型変えたりとかメイク変えたりとかして、すげー物欲しげな顔してオレの事ちらちら見てんの、めちゃくちゃ可愛かった」

「……もういいよ」


遊ばれていることには最初から薄々気付いていた。

でも、彼に可愛いと言われるのは、本当に嬉しかったから。

……それでも、遊ばれていただけだという事実を突き付けられた時は、それなりにショックだった。


「……ねえ先輩」

「まだ話すことがあるの?」

「……美人が凄むのって迫力あるから怖えーんすけど。やめて」

「きみのそれにはいい加減うんざりしてるんだよ。ただの上級生と下級生に戻ろう」

「……一回戻ったら、またカワイーって言わせてくれる?」

「……」


可愛い、と思ってしまい、いけない、流されるな、と思う。


「オレ、可愛いって言われてすげえ嬉しそうにしてる先輩が一番可愛いと思うし、……だから言いたいし、なんで突然嫌がりだしたのかわかんねーし」

「……まさか本当に解らないの?」

「……いや、わかってっすけど」

「……わかってると思ってたよ。きみのおもちゃになってあげるのはもう終わり。言わなくてもわかってると思うけど、悪いのはきみだからね。私に遊んでることを気付かせなきゃよかっただけの話なんだから」

「……先輩のそういうとこ、めっちゃ好き」


エースくんは私の肩に頭を預ける。びくっと飛び退こうとするが、エースくんに掴まれている腕がそれを許さない。


「先輩すげー優しいし、でもすげー寂しがり屋で、可愛いって言われるだけですげー照れて、スキンシップ好きで、雑に扱われても笑って許して……でも馬鹿じゃねーから、一線超えて雑に扱うとすぐ飛んでっちゃうのめちゃくちゃ好き。あとオレの性格めっちゃわかってるのも好き」

「……」

「ねえ先輩、もう一回だけチャンスちょーだい。お願い!もう二度と先輩に意地悪しねーから」

「……私に何を求めているの」

「オレはただ先輩とまた仲良くしてーなって思ってるだけ。先輩に可愛いって言って、先輩の喜んでる顔見たいだけ」


そんな訳がない。この彼が、そんな可愛らしい願いのみを抱いてここまで執拗に何かを言ってくる筈がない。

何を狙っている?──次期副寮長の座か?私を誑し込んで私からエースくんへと──いや、次期寮長の座かもしれない。副寮長から推薦があれば、それは大きなアドバンテージだから、私が四年になるまでに信頼を得ようとしている……?

どちらにせよ次期副寮長だと噂されている私とは関係を良くしておいた方が良いのだろう。ああ、面倒だ。


「……好きにすれば良いよ、もう」

「え!?マジ!?やーりぃ」


何がやーりぃだよ、と思っていると、エースくんは突然立ち上がり私の背後に立ち、私の髪を手で纏める。


「え、ちょ……何」

「いーからいーから、動かないで」


暫くじっとしていると、よし、という声と共に目の前に魔法で鏡が作られる。


「じゃーん!どう?可愛いっしょ!」


目前に作られた大きな鏡には、髪の毛を纏め上げた私とエースくんが映っている。しかしこれはただ纏め上げているだけではない。鏡に顔を近付け、左右を向いて自分の髪型をよく見てみる。


「わ、すごい。器用だね」


左右に編み込みを入れて、後ろでお団子にしてあった。可愛い。思わず素で反応してしまった。

でも、わかりやすく機嫌をとろうとするな。


フラン先輩、あんま髪あげねーからさ。顔の輪郭キレーなんだから上げればいいのに」

「……」


だから、機嫌をとろうとするな。

私ははあ、と溜め息を吐いて、彼に対する諸々の全てを一度飲み込んで、諦めてやることにした。

はやく誰か来てくれ。目下の願いはそれだけだった。










私の隣はデュースくんとリドルさんで埋まってるから座れないよ、と本当のことを言うとエースくんはちぇーと唇を尖らせた。何がちぇーなんだ。

ちらほらと生徒が来始めた頃に、リドルさんは来た。エースくんも流石に寮長の前で何か目につくような言動は控える筈だから、私はリドルさんが私の隣に座ってくれて、今日ここに来てから初めて肩の力を抜けた。溜め息を吐く。


フラン、疲れているのかい」

「ああ、いや、大丈夫です」

「……その髪、どうしたんだい。似合っているね」

「あー……そうですか?よかった」

「うん、なんだかどこかの貴い身分の御令嬢みたいだ」


リドルさんは鞄から教科書を出しながら言う。

この人のなんというか、こう言うナチュラルに女性として扱ってくるやり方は、後からじわじわと照れが来るので良くない。いや、すごくすごく嬉しいのだけれど。


「さっすが寮長!似合ってるっしょ?絶対フラン先輩に似合うと思って、練習したんっスよね〜」

「エースが、フランにこれを?」

「へえ、すげえなエース!フラン先輩、その髪型だといつもより動きやすそうっスね!」


エースくんが会話に入ってきて背に力を入れたものの、デュースくんの着眼点に和んで力が抜けた。


「……ふーん」


リドルさんは腕を組み私の髪を見つめ、〝自分はそういうことが出来ないから悔しい、後でこっそり練習しよう〟と書いてある顔をするから吹き出してしまいそうになる。が、なんとか堪えた。可愛すぎる。私の頭で練習してぐちゃぐちゃにしてほしい。その髪で一日過ごして、色々な人にことの顛末を説明して、リドルさんが焦ったりむくれたり照れたりするのが見たい。


「じゃあデュースくん、テストも少し近づいてきたことだし、今日も頑張ろうね」

「押忍!宜しくお願いします!……ほらエース、お前もだよ!」

「え、お、オレも!?……いいんスか?」


恐る恐る、と言った感じで聞いてくるエースくんに忍びなくなってしまう。流石にそんな意地悪はできないよ。


「うん、エースくんもわからないところがあったらなんでも聞いて。毎年情報が更新されてる分野もあるから私も勉強しなおせてありがたいなあ」

「……え、じゃあ宜しくお願いします……」


エースくんは私が諾々と頷いたことが予想外だったみたいで、なんだか可哀想になってくる。そこまでの意地悪が出来る人間だと思われていたのか、私は。


「エースもデュースも、フランが優しいからと言って、これを普通だと思わないことだね。フランは、勉強会が終わった後も一人で勉学に励んでいるんだよ」

「えっ……そ、そうだったんですか……あ、そりゃそうか、俺にずっと教えてくれてるから……」

「いやいや、気にしないで。ぼーっとしてる時間を勉強会に充ててるだけだから、なんでもないよ」


私がそう言うと、デュースくんの後ろのエースくんが〝う そ つ き〟と口パクで糾弾してくるものだから苦笑する。そんな努力をしようとしてやっている訳じゃなくて──勉強していない時間が不安と言うのもあるけれど──趣味がないから、暇潰しにずっと勉強しているだけだ。可愛い後輩に罪悪感なんて抱かせたくない。


(……というか私もそろそろ)


今日は昨日徹夜してしまったから早めに寝るとしても、本腰を入れて勉強しなければならないな、と胎を括った。

幸い、私は睡眠時間を多く必要とする方ではないから、計画を立ててやればなんとかなるだろう。──最新の論文を読んでいなくては解けないみたいな、変な問題が出されない限りは。














(魔法道具に対する各種保存液の使用に関しては凍結保護剤として一般的なPBSを使用する場合また例外的に──)


フランさん、ご熱心ですねぇ」


ぶち、とこめかみに青筋が立つのがわかる。どこからどう見たってすごく集中している人間に──しかもテスト期間二日前の自習授業中に──その上っ面だけの声と顔で話し掛けるんじゃない。

と、一瞬苛立ってから深呼吸をし、心を鎮める。毎回テスト前は気が立つが、今回のテストは私の中で過去最大の意味を持つから、過去の比ではないくらい気が立っている。デュースくんはじめ他の一年二年の勉強を見ながら、しかし絶対に成績を落とさない覚悟でやっているのだから、1秒も無駄にできない。


「なんですかアズールさん」

「お考えの方、定まりましたでしょうか?と」

「ああ、はい。テストが終わったら、お話に行くつもりでした。契約の方、取付させていただく方向で、詳しいお話をお伺いに」

「あら、ご決断なされたのですね!それはどうも。フランさんのユニーク魔法には一年生の頃より大変注目しておりまして」

「すみません、テスト後にしていただけますか」


それ以上の長話に耐えられないです!と私が肩を竦めると、アズールさんはこれは失敬、と胸から空の小瓶を取り出した。


「……なんですか、これ」

「ラウンジにお客様が来られまして、あなたのユニーク魔法の、原液……深紅のミルクが欲しいと仰るのですよ。あなたのユニーク魔法をいただいた後なら僕が出せるのですが、テスト前日前までと言われましてね」

「ああ、はい……別に良いですよ」


早く終わってくれ、勉強に集中したい、の思いでその瓶の蓋を開け、口をそこに向ける。今の気分ではちょっと時間が掛かりそうだ。リドルさんの笑顔を、体温を思い浮かべる。


「えっあ……あ、ありがとうございます。あの……対価は」

「別に寮生には紅茶に入れて配ってますし大丈夫です。……いや口から吐いたのは勿論入れてないですけど」

「え、いや、あの……ですが何かして欲しいこととか」

「ええ……?うーん、リドルさん連れてきて欲しいですかね」


わかりました、とアズールさんは言う。右手で問題を解きながら今はリドルさんも自習かなぁ、と考えているとすぐにアズールさんが困惑した顔のリドルさんを連れて来るものだからありがたく彼を受け取り、膝の上に置き、彼の頭を撫でて背を撫でて、顔を見て、可愛いなあと思う。

愛しているなあと思い、その勢いで瓶の中にミルクを吐き満たして、右手で蓋をつけてアズールさんに返してやる。そしてすぐに右手を勉強の方へ戻す。


「え、何……」

「ああ、そういう……感情がファクターになっているのですね」

「そうです」

「でもこの色だと、病気などで吐血した時に、最初はミルクだと思われてしまいそうですねえ」

「そうですね」


もう右手で勉強を再開させながらアズールさんの話に適当に相槌を打つ。左手でリドルさんの背を撫で──なんでリドルさんがここに?


「ちょっと!?なんでリドルさん連れて来てるんですか!?」

「は!?あなたが言ったんじゃないですか!」

「いや何かして欲しい事があるかって聞かれたからこれ吐くのにリドルさん居たら早いだろうなって思っただけで……え、なんて言って連れて来たんですか」

フランさんが呼んでいると」

「違いますよ!魔法を使うのに何か手伝える事があるかって聞くからリドルさんを連れて来るくらいしか無いっていうことで……!すみませんリドルさん、私が呼んでいると言って焦りましたか?すみませんこの忙しい時に」

「驚いたけれど、ちょうど休憩していたから……それにしても、根を詰めすぎだよ、フラン。何日寝てないんだい」

「大丈夫です。ただ焦っているだけで、今日もちゃんと寝てます。徹夜は勉強をする習慣のない人間のすることです」

「……それは何よりだけれど。……アズール、何にそれが必要なんだい」

「ああ、いえ。リドルさんはお構いなく。僕とフランさんとのお話ですので」

「それのせいでフランの誘拐未遂があったと言うのは知っているかな?ああ、このボクがなんとか未遂で止めたのだけれど」


リドルさんを撫でていると、何故か2人の会話を思考からシャットアウトすることに成功し、勉強の方へ意識が逸らせて来た。私は続きを解き始める。


(魔素懸濁液に添加する前に、規定濃度に希釈する必要があって、これにより、凍結保護剤が惹起する反応や発熱による……)

……ふと、気になった。


「お二方とも、焦りませんか?テスト前なのに」

「……僕は焦りません」

「……ボクはまあ、少しは」

「すごいなあ、私なんてテスト前と後は食事が喉を通らないし寝たって悪夢ですぐ目が覚めるし、……格と器の違いかしら」


あはは、と乾いた笑いを残して勉強に意識を戻す。頭を止めるな、私。手を止めるな。頑張れ。















テストの結果発表が張り出される日。がやがやとした広間で生徒を避けながら紙の方へ赴く。

順位の張り出されている紙の隣で、もう順位を見たらしいリドルさんが心配そうに私の方を見やるものだから、背筋にぞっと悪寒が走った。いや、いや、いや。大丈夫だと思うけれど……



1 アズール•アーシェングロット
1 リドル•ローズハート
3 フラン•フォエニコプテルス



「あら、これはこれはフランさん。惜しかったですねえ!最後の適応する魔術式を当てる問題、引っ掛け問題でしたよ。一見して適応する魔術式を書いても三角は付きますが、古代呪文形式を用いる方がずっとロスが少ない!
いやはや、意地悪な問題を出しますねえ。実践魔法の筆記に古代呪文を用いらせるなんて……先生同士が示し合わせたのでしょうか?普通は解けません!普通は!」

「アズール……!」

「リドルさん、デュースくんは!?」

「し、知らないよ」


私は一年生のテストの結果の方へ早歩きで行き、デュースくんの名前を探す。50名までだから無いかもしれないけれど、彼があれだけ頑張った時間は……


42 デュース•スペード


フランせんぱぁああああい!」


どん、と後ろから衝撃が来る。手を肩に回され──私は彼に向き直り肩に手をやり返してやる。


「デュースくん……!」

フラン先輩……僕……」

「よく頑張ったねえ……!!!」「先輩、せんぱぁい…!全部先輩のおかげっす……僕、ぼく……」

「勉強会一回も休まず来てたもんね、ずっと頑張ってたもんね!天才だよ、デュースくんは!ほんっとによく頑張った!」

「で、でも、先輩にあんな優しく教わってたのに、俺忘れて違うこと書いたりしてるのが何箇所もあって……!情けねぇっス……!」

「人間なんだから当たり前だよ!それでも、本当によく頑張ったよ……!」

「先輩、俺、テストで時間が足りねぇって初めて思いました……!それに、テキトーに回答用紙埋めるんじゃなくて、ちゃんと考えて全部書いたのも、初めてでした……!」


ぐうっ、と喉が詰まる。そして罪悪感に襲われる。私が彼の方にもっとついてやれたら、ちゃんと頑張れるかわいいこの子だったらもっと上を目指せた。そしてこの子は、いつも私や他の生徒のことを気にして勉強会を少し早めに抜けていた。まだやりたいという顔をしながら。

本当に優しい子だ。


「頑張ったよデュースくん、よかったねえ、このまま勉強頑張ってたら、絶対魔法執行官になれるよ!あ、テストの結果送った?お母さん大喜びだよ!」


「も゛う゛送りましたぁ……そんでさっき電話かかってきて、母さん泣いてて、頑張ったねえって、全部先輩のおかげっス……」

「あはは、やめて。貰い泣きしちゃうよぅ。……よかった、本当によかった……」


デュースくんと抱き合って泣いていると、「もしもーし」と声を掛けられる。

そちらへ視線をやると、エースくんが返却されたテストをひらひらさせながら。


フラン先輩、オレ38位なんですけど」

「ああ、エースくんも凄いや……よかったねえ、よかったよ、私も。本当によかった」


エースくんの背中をさすると、唇を尖らせて少しだけ満足げな表情をするので──私は一番大切なことを思い出した。


「リドルさんっ!」

「!」


私が彼の名前を呼びながら後ろを振り返ると、リドルさんは腕組みをしながら肩を跳ねさせる。

私はデュースくんから手を離し彼の方へ早足で歩み寄り──ぐーっと手の下から手を回し胸を抱き、頭を撫でる。


「あなたも、本当に頑張りました。寮生の面倒を見ながらこんな……あなたは本当に素晴らしい、あなたみたいな人が居なければ世界が回らない」

「……う、あ、ありがとう……でもボクはフランが一番頑張って居たと思うんだ。寮生の面倒をボクの3倍は見ていたし」

「……いえ、でも……それなら……アズールさんじゃないですか?」

「はっ……ぼ、僕!?」


少し離れた場所から静観していたアズールさんが突然名前を出され、自らに人差し指を向け、そのアズールは自分かと問う。


「ラウンジを経営しながらテスト一位……うーん、敵わないですね」

「……労力がどのようなものかは深く知らないけれど……確かに凄いね」

「ははは、頑張ったアズールさんも私たちとハグしましょう」

「嫌ですよ!」

「ふふふ」


冗談で誘うと冗談だとわかって断ってくる。おちょくられたことがわかって顔がほの赤くなっているが、別に乗って来ても大笑いして受け入れてあげたのに。


「ああ、よかった……本当によかった」


リドルさんの頭に顔を埋めて呟く。本当に、よかった。勉強会をやってよかったと、──恐らく──深く関わった全員が思える結果でよかった。他寮の生徒からはずるいと思われていそうで、少し可哀想だけれど。

リドルさんの頭がシャンプーのいいにおいで、眠気を誘う。今日は久しぶりにゆっくり眠れる、と思うと嬉しくて涙が出そうになってくる。ああ、よかった。今日の夜寝たらもう起きたくない。ここでハッピーエンドにしたい。……ああ。またそんなことを考えている自分に、少しだけ嫌気が差した。
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