リドルさんのお母様になりたい!
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監督生とやらが好き勝手に暴れてくれた後。
医術魔法にハーツラビュル内で比較的長けている私は、オーバーブロット後に昏睡状態に陥ったリドル寮長の容体を確認する係に、理事長から任命されていた。
──専門の人間を呼ぶと、オーバーブロットについて話さなければいけないからって!
私は苛々と足を組み替える。この学園の事なかれ主義さは嫌いではないけれど、人の命が関わっているのに──いや、ある程度容体が安定してから私に回ってきたのだから、殆ど心配はないのだろうけれど。おまけに私の方に生活指導の方で得点が入る約束をしたから、文句はないのだけれど──というか、私だってそれだから受けたのだけれど。その上でだって、違和感が残る対応であることは変わらないから。
未だブロットが身体中を巡っているのだろう、眠りながらも、酷く苦しげな様子でぜえぜえと息をしているリドル寮長の苦しみを少し拭ってやることは──恐らく、そんなに難しいことではない。
けれど。オーバーブロットについて解明されていないことが多いのも事実で。善意がどう裏目になるかも、わからないし。
万が一のことがあった際に責められたら──と考えると、伸ばしかけた手を自らの身体の方へ戻しそうになるが。
(……でも)
ハーツラビュルは、リドル寮長の親の話題で持ちきりになっていた。当然私も色々な噂を聞かされた。
〝とんでもねー毒親だよ、聞く限り〟
〝その親にして寮長ありって感じ〟
この年齢でこの性格となれば、人格形成にどれほど親が関わっているのだろうかと、前々から思っていたけれど。
話を聞く限り、実態は予想していたよりも酷くて。
母親に囚われている姿を、少しだけ、自分に重ね合わせてしまったのも事実で。
(……苦しそう)
時折零す涙はブロットに塗れ真っ黒だ。
(……多少は、助けになるだろうから)
私はリドル寮長の頬へ手を添え涙を親指で拭ってやってから立ち上がり、水差しに水を入れ、そこにマジカルペンを向けて魔法をかけてやる。
私のユニーク魔法だ。水はぽん、と軽快な音を立て、「多少は助けになると良い」という私の気持ちと魔力を込めた、薄紅色の液体へ変わる。
薄紅色に濁った水を水差しから吸飲みに移し、リドル寮長の頭を持ち上げ、口許に吸飲みを持っていってやる。
「リドル寮長……リドルさん、飲んでください。楽になりますよ」
身体の中に魔力を流し込めば、身体の中に存在するブロットの割合が減り楽になるし、排出もしやすくなる。
新しく魔力を作ることと、大量のブロットを排出することに大忙しなリドル寮長の身体の仕事の一つを、私が担ってあげられる。おまけに少しリドル寮長が安心できるように、と願いを込めているから、ブロットでの不安感も少しはマシになるだろうから。
頭を持ち上げられても冷や汗をかいて苦しそうにしているリドル寮長の口に吸飲みを当て、傾ける。本人に意識はないので、口の端からぼたぼたとそのまま溢れるがしかし、身体は必要なものがわかっていて。
ごくり、と一口飲んでからは速かった。
リドル寮長は虚な瞳を開け、ごくごくごくごくと喉を鳴らして必死に吸飲みから魔力を吸い取ろうとする。手まで上がってきて、私の吸飲みを支える手を掴んだ。
「リドルさん、ゆっくりで大丈夫ですよ。お代わりはいっぱいありますから」
あっという間に吸飲みを空にするリドル寮長を少しだけ可愛く思って、彼の口から吸飲みを外しお代わりを注いでやろうとすると、彼は抵抗をする。もう空なのに必死に吸おうとしているリドル寮長の仕草に笑い、離すのを待っていると。
私の腕を掴む手の握力が増し、ベッドに引き摺り込まれた。
引き摺り込んだ割に、リドル寮長は不思議そうに私の方を見て、何をどうしたらいいのかわかっていない様子で。
(ああ、今飲んだ魔力のにおいが私からするから……)
優秀な魔法士であるリドルさんだからこそそれに気付いて、もっと飲もうと近くに寄せたは良いものの、どう飲むのかがわからなくて困惑しているのだろう。
かわいらしくて、くすくす笑ってしまった。私は彼の頬へ手を添え唇を親指で割り先端を入れ、そこから続きを出してやる。リドルさんはすぐに私の手首を掴み、私の親指をちゅうちゅうと音を立てて吸って。
先ほどのように水で薄まっていないから、尚更美味しく感じるらしい。必死な様子がとってもかわいらしくて──普段とのギャップに、ぞくぞくしないかと言ったら、嘘になり。
「……っ、ふ、ぅ」
ブロットの排出の方に身体が専念できるようになったからだろう。瞳から垂れる黒い涙が量を増した。飲み込みきれなかった分の真っ赤な私の魔力がリドルさんの顎を伝い落ち、ベッドのシーツに染み込み、空中に溶けて無色透明になる。黒、黒、黒赤──ぽたぽたと。全部落ちては透明に。
私の指を音を立てて吸いながらぼたぼたと膝立ちで泣いているリドルさんの背にもう一方の手をやり、壁に背をつけさせてやる。
私の手を決して離すまいと必死に掴みながら私の魔力を舐めとっているリドルさんの手にそっと触れると──リドルさんの肩が、びくりと震えた。
「おかあさま、ごめんなさい」
魘されている最中にも断片的に似たようなことを言っていたけれど、直接それを突きつけられると。
「ご、ごめんなさい、ボクは、また、勝手に、タルトを」
ブロットは魔法士の心身を不安定にさせる。逆に言えば、魔力でブロットを薄めてやる行為は、人の心身を安定させる。
だから一般的に魔力を注ぎ込んだ食べ物の味は美味しく感じるし、水のように無味なものであれば本人が好きな食べ物の味に錯覚することがある。
だから寮長は、タルトを食べてしまったと錯覚したのだろう。
ふと、私は。
エレメンタリースクールの頃に、将来の夢を〝お母さん〟と書いたことを思い出した。
書いて、笑われて、書き直したことも思い出した。
だから、少しくらい。
遊んでも良いだろう。許されるはずだ。
彼の為にも、きっとなる。
「……良いんですよ、今日はあなたの誕生日ではないですか」
「え……?誕生日……」
「誕生日には好きなものを食べて自由にお喋りしてもいいのですから」
「そ、そうですね……!」
今も魔力を注ぎ込んであげているから私のことは味方にしか見えないだろうし、おまけに楽しい気持ちになっている。それ故になんの疑いもなく私を母親だと思い込み、今日が自分の誕生日だと信じ込んでいる。
リドルさんの身体の中に入っている私の魔力が、私の味方をしてくれている気配を感じる。イマジネーション頼りの原始的な魔法は、非常に自由度が高くて。
ああ──可哀想で、可愛い子。
「リドル、お母さまはね、リドルのお母さまになれたのが本当に嬉しいのよ」
それは、私のずっと言いたかった言葉だった。
リドルさんに対して言うとはまさか思っていなかったけれど、いつか我が子を胸に抱いてそれを言えたら、どれほど素敵だろうと思っていた。
「愛していますよ、リドル。生まれてきてくれて、本当にありがとう」
「……ぇぐ、お、お母さまぁ……」
「リドル、おいで」
腕を広げてやると、リドルさんは困惑した顔をするので。
私は泣きそうになりながら、その手でリドルさんを抱き締め、頭と背を撫でた。
リドルさんの身体は緊張していて硬かった。けれど、撫でていると、少しずつ力が抜けてくる。
愛おしい。小さくて、すっぽりで。
「リドル、今日は誕生日なのですから、思い切り甘えていいのですよ」
「お、おかあさま……」
「はい、リドル?」
「尊敬しています……!ボクも、お母様のような、立派な魔法医術士になりたいです!」
リドルさんの顔には、魔法医術士になりたいとは書いていなかった。
ただ、ただ、ただ、愛されたいとだけ、書かれていて。
愛される為ならなんでもすると、お母様に気に入られる為ならなんでもしますと、書かれていて。
ああ。
苦しい。
ごめんなさい。
私には何もしてやれない。
それでも、愛おしかった。
「……良い子ですね、リドル」
「お母様、ボク、この前のテストでも全ての教科で一番だったのです!……まあそれはお母さまの息子である以上当然ですが、それに加えハートの女王の法律を守らない輩には鉄槌を下していますし、誰よりも長い時間勉強していますし、この前だって、上級生にだって引けをとらないと、理事長先生が直々にボクに」
「……良い子ですね、リドルは」
「全てはお母さまのような、立派な魔法医術士になる為です!」
何も言えない。
「……お母様?あまり、お喜ばれになっていないのですか?」
その言葉に、さっと顔から血の気が引くのがわかる。
頭がまともに働いていなくたって、気になる相手の反応には敏感で居てしまうのが生き物だ。
「あの……魔法医術士を目指して頑張りなさいと、言われるに、ボクは値しないですか……?」
言える訳がない!
ああ、ああ、あれだけ頑張っている、この小さな背中の細い足の彼の、良い背筋と言ったら。肩の凝りと言ったら。
どれだけ気を張っているのだろう。どれだけ怖いだろう。もっと頑張れなどと、言える訳がない。
けれど。
「……ええ、ええ。お母さまのような魔法医術士になれることを、期待していますよ、リドル」
「……っはい!お母様!ボクはもっと頑張ります!」
ねえ。やめてよ。
私が、もっと呪いを強めてしまった。
でも。
それをする他なかったのだ。
ひどい。
ひどい。
ひどい。
ごめんなさい。
変なことをしなければよかった。
「お母様、リドルはもっと頑張りますから」
私に抱き締められている、呪いで雁字搦めの彼の嬉しそうな声といったら!
最低の気分に吐き気がした。
私に抱き締められながら心なしか笑みを浮かべ気持ち良さそうに眠ってしまったリドルさんをそっとベッドに寝かせ、私は自分のマジカルペンの見たことのない黒さを見て笑った。
医術魔法にハーツラビュル内で比較的長けている私は、オーバーブロット後に昏睡状態に陥ったリドル寮長の容体を確認する係に、理事長から任命されていた。
──専門の人間を呼ぶと、オーバーブロットについて話さなければいけないからって!
私は苛々と足を組み替える。この学園の事なかれ主義さは嫌いではないけれど、人の命が関わっているのに──いや、ある程度容体が安定してから私に回ってきたのだから、殆ど心配はないのだろうけれど。おまけに私の方に生活指導の方で得点が入る約束をしたから、文句はないのだけれど──というか、私だってそれだから受けたのだけれど。その上でだって、違和感が残る対応であることは変わらないから。
未だブロットが身体中を巡っているのだろう、眠りながらも、酷く苦しげな様子でぜえぜえと息をしているリドル寮長の苦しみを少し拭ってやることは──恐らく、そんなに難しいことではない。
けれど。オーバーブロットについて解明されていないことが多いのも事実で。善意がどう裏目になるかも、わからないし。
万が一のことがあった際に責められたら──と考えると、伸ばしかけた手を自らの身体の方へ戻しそうになるが。
(……でも)
ハーツラビュルは、リドル寮長の親の話題で持ちきりになっていた。当然私も色々な噂を聞かされた。
〝とんでもねー毒親だよ、聞く限り〟
〝その親にして寮長ありって感じ〟
この年齢でこの性格となれば、人格形成にどれほど親が関わっているのだろうかと、前々から思っていたけれど。
話を聞く限り、実態は予想していたよりも酷くて。
母親に囚われている姿を、少しだけ、自分に重ね合わせてしまったのも事実で。
(……苦しそう)
時折零す涙はブロットに塗れ真っ黒だ。
(……多少は、助けになるだろうから)
私はリドル寮長の頬へ手を添え涙を親指で拭ってやってから立ち上がり、水差しに水を入れ、そこにマジカルペンを向けて魔法をかけてやる。
私のユニーク魔法だ。水はぽん、と軽快な音を立て、「多少は助けになると良い」という私の気持ちと魔力を込めた、薄紅色の液体へ変わる。
薄紅色に濁った水を水差しから吸飲みに移し、リドル寮長の頭を持ち上げ、口許に吸飲みを持っていってやる。
「リドル寮長……リドルさん、飲んでください。楽になりますよ」
身体の中に魔力を流し込めば、身体の中に存在するブロットの割合が減り楽になるし、排出もしやすくなる。
新しく魔力を作ることと、大量のブロットを排出することに大忙しなリドル寮長の身体の仕事の一つを、私が担ってあげられる。おまけに少しリドル寮長が安心できるように、と願いを込めているから、ブロットでの不安感も少しはマシになるだろうから。
頭を持ち上げられても冷や汗をかいて苦しそうにしているリドル寮長の口に吸飲みを当て、傾ける。本人に意識はないので、口の端からぼたぼたとそのまま溢れるがしかし、身体は必要なものがわかっていて。
ごくり、と一口飲んでからは速かった。
リドル寮長は虚な瞳を開け、ごくごくごくごくと喉を鳴らして必死に吸飲みから魔力を吸い取ろうとする。手まで上がってきて、私の吸飲みを支える手を掴んだ。
「リドルさん、ゆっくりで大丈夫ですよ。お代わりはいっぱいありますから」
あっという間に吸飲みを空にするリドル寮長を少しだけ可愛く思って、彼の口から吸飲みを外しお代わりを注いでやろうとすると、彼は抵抗をする。もう空なのに必死に吸おうとしているリドル寮長の仕草に笑い、離すのを待っていると。
私の腕を掴む手の握力が増し、ベッドに引き摺り込まれた。
引き摺り込んだ割に、リドル寮長は不思議そうに私の方を見て、何をどうしたらいいのかわかっていない様子で。
(ああ、今飲んだ魔力のにおいが私からするから……)
優秀な魔法士であるリドルさんだからこそそれに気付いて、もっと飲もうと近くに寄せたは良いものの、どう飲むのかがわからなくて困惑しているのだろう。
かわいらしくて、くすくす笑ってしまった。私は彼の頬へ手を添え唇を親指で割り先端を入れ、そこから続きを出してやる。リドルさんはすぐに私の手首を掴み、私の親指をちゅうちゅうと音を立てて吸って。
先ほどのように水で薄まっていないから、尚更美味しく感じるらしい。必死な様子がとってもかわいらしくて──普段とのギャップに、ぞくぞくしないかと言ったら、嘘になり。
「……っ、ふ、ぅ」
ブロットの排出の方に身体が専念できるようになったからだろう。瞳から垂れる黒い涙が量を増した。飲み込みきれなかった分の真っ赤な私の魔力がリドルさんの顎を伝い落ち、ベッドのシーツに染み込み、空中に溶けて無色透明になる。黒、黒、黒赤──ぽたぽたと。全部落ちては透明に。
私の指を音を立てて吸いながらぼたぼたと膝立ちで泣いているリドルさんの背にもう一方の手をやり、壁に背をつけさせてやる。
私の手を決して離すまいと必死に掴みながら私の魔力を舐めとっているリドルさんの手にそっと触れると──リドルさんの肩が、びくりと震えた。
「おかあさま、ごめんなさい」
魘されている最中にも断片的に似たようなことを言っていたけれど、直接それを突きつけられると。
「ご、ごめんなさい、ボクは、また、勝手に、タルトを」
ブロットは魔法士の心身を不安定にさせる。逆に言えば、魔力でブロットを薄めてやる行為は、人の心身を安定させる。
だから一般的に魔力を注ぎ込んだ食べ物の味は美味しく感じるし、水のように無味なものであれば本人が好きな食べ物の味に錯覚することがある。
だから寮長は、タルトを食べてしまったと錯覚したのだろう。
ふと、私は。
エレメンタリースクールの頃に、将来の夢を〝お母さん〟と書いたことを思い出した。
書いて、笑われて、書き直したことも思い出した。
だから、少しくらい。
遊んでも良いだろう。許されるはずだ。
彼の為にも、きっとなる。
「……良いんですよ、今日はあなたの誕生日ではないですか」
「え……?誕生日……」
「誕生日には好きなものを食べて自由にお喋りしてもいいのですから」
「そ、そうですね……!」
今も魔力を注ぎ込んであげているから私のことは味方にしか見えないだろうし、おまけに楽しい気持ちになっている。それ故になんの疑いもなく私を母親だと思い込み、今日が自分の誕生日だと信じ込んでいる。
リドルさんの身体の中に入っている私の魔力が、私の味方をしてくれている気配を感じる。イマジネーション頼りの原始的な魔法は、非常に自由度が高くて。
ああ──可哀想で、可愛い子。
「リドル、お母さまはね、リドルのお母さまになれたのが本当に嬉しいのよ」
それは、私のずっと言いたかった言葉だった。
リドルさんに対して言うとはまさか思っていなかったけれど、いつか我が子を胸に抱いてそれを言えたら、どれほど素敵だろうと思っていた。
「愛していますよ、リドル。生まれてきてくれて、本当にありがとう」
「……ぇぐ、お、お母さまぁ……」
「リドル、おいで」
腕を広げてやると、リドルさんは困惑した顔をするので。
私は泣きそうになりながら、その手でリドルさんを抱き締め、頭と背を撫でた。
リドルさんの身体は緊張していて硬かった。けれど、撫でていると、少しずつ力が抜けてくる。
愛おしい。小さくて、すっぽりで。
「リドル、今日は誕生日なのですから、思い切り甘えていいのですよ」
「お、おかあさま……」
「はい、リドル?」
「尊敬しています……!ボクも、お母様のような、立派な魔法医術士になりたいです!」
リドルさんの顔には、魔法医術士になりたいとは書いていなかった。
ただ、ただ、ただ、愛されたいとだけ、書かれていて。
愛される為ならなんでもすると、お母様に気に入られる為ならなんでもしますと、書かれていて。
ああ。
苦しい。
ごめんなさい。
私には何もしてやれない。
それでも、愛おしかった。
「……良い子ですね、リドル」
「お母様、ボク、この前のテストでも全ての教科で一番だったのです!……まあそれはお母さまの息子である以上当然ですが、それに加えハートの女王の法律を守らない輩には鉄槌を下していますし、誰よりも長い時間勉強していますし、この前だって、上級生にだって引けをとらないと、理事長先生が直々にボクに」
「……良い子ですね、リドルは」
「全てはお母さまのような、立派な魔法医術士になる為です!」
何も言えない。
「……お母様?あまり、お喜ばれになっていないのですか?」
その言葉に、さっと顔から血の気が引くのがわかる。
頭がまともに働いていなくたって、気になる相手の反応には敏感で居てしまうのが生き物だ。
「あの……魔法医術士を目指して頑張りなさいと、言われるに、ボクは値しないですか……?」
言える訳がない!
ああ、ああ、あれだけ頑張っている、この小さな背中の細い足の彼の、良い背筋と言ったら。肩の凝りと言ったら。
どれだけ気を張っているのだろう。どれだけ怖いだろう。もっと頑張れなどと、言える訳がない。
けれど。
「……ええ、ええ。お母さまのような魔法医術士になれることを、期待していますよ、リドル」
「……っはい!お母様!ボクはもっと頑張ります!」
ねえ。やめてよ。
私が、もっと呪いを強めてしまった。
でも。
それをする他なかったのだ。
ひどい。
ひどい。
ひどい。
ごめんなさい。
変なことをしなければよかった。
「お母様、リドルはもっと頑張りますから」
私に抱き締められている、呪いで雁字搦めの彼の嬉しそうな声といったら!
最低の気分に吐き気がした。
私に抱き締められながら心なしか笑みを浮かべ気持ち良さそうに眠ってしまったリドルさんをそっとベッドに寝かせ、私は自分のマジカルペンの見たことのない黒さを見て笑った。
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