洋琴抄
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「あなたが絶対的な美で在りたがってたから、絶対的な美で在ってほしかったんです」
「……」
「顔で困ってる人を助けてほしかったのも、正直言うと、顔で困ってる人の希望になるヴィルさんは、とってもとっても美しいだろうなって思ったからなんです」
「……」
「最期の瞬間まで、綺麗で在ってほしくて、こんなに頑張らせちゃって、ごめんなさい」
ルイはそう言って謝罪する。けれど。
「……アンタにはだいぶと醜態晒したと思うのだけれど」
「私はいいんですよ。私は、ヴィルさんがどんなことをしても、どんな形になっても、ずっと綺麗だって思えてたし、思えてるので」
「……」
そう言われてしまうと、そうなの、以外の返答ができない。
晒した醜態が、これ以上ないってものばっかりだから。
それを見ても綺麗って、なんとかは盲目ってやつみたいね。
知らないけれど。
「あなたはこれまでの人生、世界中の全ての人間からずっと1番美しいと思われていましたよ。そうでない瞬間はなかった」
「……アンタが言うなら、そうなんだわ」
1番汚いところを見せた相手である、確信があるから。
「本当に、お疲れ様でした」
「……ねえ、アタシが1番?」
「ええ、あなたが1番です」
「嘘。アンタが1番よ」
「世界にとっての1番はあなたです」
「ふふふ、ふふ」
勝手に世界を代表してくれちゃって。
でも、アンタに言われると、それが本当だとしか思えないのよ、もう。そこまで、信じちゃってるの。
信じるってのは、疑わないっていうのは心地いいわね。もう二度と、聞く必要がないって確信できる。
永遠にルイの中の1番はアタシ。
そう考えて、もう世界なんてどうでもよくなっちゃってるじゃないのと、少しだけ笑った。
だって、この世界なんかよりずっと、アンタが綺麗なんだもの。
それなら、アタシの世界がアンタだけって言ってもいいのかもね。
「世界で1番は、永遠にアタシね」
「はい。その通りです」
よかったわ、とアタシは静かに安堵した。ルイが一緒に死んでくれるって約束してくれて。アタシ以外をもう見ることがないって、約束してくれて。
なら逆に、アタシはもう死ぬ意味ないじゃない、と思って少しだけ笑った。ルイが微笑んでいたので、頬を両手で優しく揉んでやった。
でもそれ関係なく、死ぬ時にルイに一緒にいて貰いたいから、今日死んだ方がいいわ、と思った。
「……幸せ」
そう口から滑り落ちた。滑ったのは、本心だったから。
満たされている。全部が、今後の心配もない。
課題を全部やりきって寝るみたいな心地。実際、そうなんだろうけれど。
「もうねむいですか?」
「ええ。……頭を撫でて、手を握って」
「はい」
「……どうしようかしら、あなたのピアノも聴きたい」
「ふふふ、身体が足りない……」
そう言いつつ、ルイはマジカルペンをピアノに向けて振った。アタシの為の曲。その音が、指づかいの癖がルイで、少しだけ驚いた。
「録音失敗してた時用に、ピアノの打鍵を覚えさせていつでも再現できる魔法を作っておいたんです」
ルイはそう言って、頭を撫でてくれる。小さい頃、ダッドにそうしてもらったのを思い出すけれど、ダッドは時々アタシを置いていってしまったから、ルイとは違う。ルイはアタシを1人にしないでくれる。ずっと、いつも家に居てくれるから、どこへも行かないの。
「……好きよ」
「私も好きですよ」
ありがとう、今日の為に生まれてきたわ。
ルイのピアノの音が、あたたかい手が、安心できて心地よくて心地よくて、ぐっすり気持ち良く眠れそう。
アタシが眠りに就くまで、ルイはずっとそれを続けてくれていた。
だからきっと、万が一目覚めるようなことがあっても、その時はまた絶対にルイはそばに居てくれる。
永遠って、そういうことだものね。