それでもあなたの痛みが美味しい
〝何をすればおまえの一番から外れるのですか〟
〝あなたがぼくの愛を欲してくれなくなったらですかね〟
なんて。言える筈がない。言う筈がない。
最低な言葉だ。ぼくは、ぼくは無償の愛情にどぷどぷになる彼が見たかった。いや違う、彼は無償の愛情に飢えていた。努力をしていなかった頃の怠惰で醜い彼を、それでも愛おしいと抱擁する存在を、心のどこかで永遠に欲していた。
なら最初から、ぼくにとってそれは、きっと、義務でしかなかった。
気付いていてごめんなさい。あなたがぼくと話す機会を伺っていたこと、ぼくに受容、需要されることを求めていたこと。
一年生の最初からですよね。ぼくが錬金術の授業でイモリの使用を拒否した時からですよね。ぼくと話す機会を伺っていましたよね。気付いていましたよ。
あなたは、決してあなたのことを傷付けない人が欲しかったんですよね。過去ごと自分を抱きしめてほしくて、だからぼくの思想を知って接触して来たのですよね。わかっていましたよ。気付いていましたよ。
よわい生き物を大切にすることで迫害に似たようなものを受けているぼくに優しくして、ぼくにとって大切な存在になりたがっていましたよね。気付いていないふりをしていました。でも、ぼくは気付いていましたよ。
だから、気付いていますか?あなたの方が先にぼくのことを好きになっていたんですよ。
だからぼくはあなたに応えたんです。あなたがぼくにとっての唯一性を望んでいたから、一番になりたがっていたから、ぼくはあなたの足を食べて「美味しい」と言いました。ぼくが食べられる動物はこの先あなただけだと気付いて、あなたは嬉しかったのですよね。わかっていましたよ。その時からもうぼくのこと大好きでしたよね。
ぼくは、応えることしか出来ないから。そして、この先もずっと応え続ける。あなたが望む通りに。それは義務なんです。強迫ですらあります。
あなたへの愛は義務でしかありません。やらなければいけないから、やる以外の選択肢がないから、そうしないと落ち着かないから、やっているだけです。
でも、義務たり得ている愛は、きっと感情由来のものより、幾分かは、あなたの求める不動の、無償の愛に近いですよ。
それにあなたには、無償の愛にしか見えていないのでしょうしね。
ぼくの、ただ、そうしないと落ち着かないからやっているだけの──ただ純粋に、習慣という怪物に逆らわないことを選択する──酷く酷く怠惰な、自分を慰めているだけの行為が。
それならそれを、無償の愛と呼ぶことを、そう勘違いすることを、ぼくは許しますよ。