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それでもあなたの痛みが美味しい

肉、魚、卵、乳製品、蜂蜜を食べなくなってから一年と半年が経過した。昔から自然に肉と魚を食べる習慣がなかったせいで、食べないように気をつけるのはあんまり苦じゃなかった。

身体に不調はない。いや、食べなくなる前から不調だらけで、変わってないって言った方が正しいかもしれない。

習慣はいつだって怪物だ。ぼくの舌は流暢に「アレルギーが多くて、肉、魚、乳製品と卵は無理で」と形作る。それに対する反応ももう半ば分かりきっていて、まるで儀式みたいだ。


「ふむ……アレルギーのお客様用のメニューを、モストロ・ラウンジで開発してみるのも宜しいかもしれませんね」

「……もすとろらうんじ?」

「ああ……学園内に新しく建てさせていただきました、カフェです。宜しければご利用ください。悩みや欲しい物の相談も受け付けていますよ」

「なやみ……」

「おや?何かありますか?お悩みが」


錬金術の授業の最中にペアになったアズール・アッシェングロットさんの口元のかわいいほくろを眺めていると、気まずい空気に耐えられなくなったのか、アズールさんが「昼食は何を?」と聞いてきたので、「何も食べていないです」と正直に返すと「お体に障りますよ」と在り来たりな返答が返ってきたから、今日の朝寝坊をしたことと、食堂で何も食べられなかった理由とを話すと、なんだかおかしな話の流れになってしまう。


「僕ならきっと、あなたを助けてあげられますよ」

「……」

「今日の夜九時に、どうぞいらっしゃってください」

「……はい」


これも何かの縁だと、そう思って、ぼくは彼に微笑みを向けた。いや、ぼくの破滅願望が頭を擡げてしまった。

助けてあげると言われ、そのまま突き落とされて大怪我をするとしたら、それは少しだけ楽しそうだった。それに、本当に助けてくれる気があるのだとすればそれはとてもありがたいことだし、どっちに転んでもぼくの利益になる気がした。
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