お前、どうして俺を買った!
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できる限り髪を下ろしたまま──それか軽く結ぶだけか──で居てほしいとお願いすると、呆れた顔をされた。
砂が絡まって難しいかな、と問い掛けると、スカラビアでカリムの世話にそこまで追われることがもうないから大丈夫だが……と言われたので、じゃあ出来るだけお願いしたいなと言っておいた。
あと、全然いつでもお風呂入りに来ていいし、肩凝ったらいつでもマッサージするからね、とも。スカラビアにも浸かれるバスタブ自体はあるだろうけど、ポムフィオーレのあの大きいお風呂の使用権は──入学時にママが、お風呂は大きい方がいいよねと、僕の知らない間に買ってくれていたものだったから。
──数日後、僕はジャミルくんへ。朝一番に、教室で出会った時。
「はい、これプレゼント」
用意していたプラスチックの小さな手提げバッグを渡すと、ジャミルくんは僕の顔色を伺いながら訝しげに受け取って中の小箱を開ける。青い宝石とチェーンが入っているはずだ。
「……何だこれは」
「装着者に対する精神作用のある魔法を妨害する魔法を込めた宝石。とあと……あー、金属アレルギー怖かったから医療用ステンレスで頼んどいたから、水とかに濡れても大丈夫だからね。宝石入れられるペンダント。……とりあえず楽だからペンダントにしたけど、なんか他に気に入ってるアクセサリーの形態とかあったら教えてほしいかも」
一応、許可なくユニーク魔法を掛けようとしたお詫びの印に、と。ちょっと知り合いの金物屋さんにお願いして作ってもらった。
「元々イヤリングだったのをせっかくだから作り直してもらったんだ。見てこれ、同じ宝石。僕指輪」
「……お前、唐突に洗脳魔法を掛けようとする癖に、そういったところは」
「迷惑かけないならバレなければ何してもいいけどバレたら謝罪して相応に誠実な対応を取らなきゃなの!」
「君、なんというか潔いというか……あー、俺もすまなかったな。何かさせてくれ」
「いや……うん、僕も本当にごめんね。ちゃんとお話しようね」
「ああ……もう懲り懲りだ」
ジャミルくんはそう言ってペンダントに宝石を嵌めて首に掛けてくれる。青い宝石は胸元によく映えていい感じだ。
「……今日の放課後何か予定あるか」
「ん!無いよ。明日は部活があるけど」
「丁度いい、何か作りに行ってやるから腹を空かせておいてくれ」
「やったー!すごい嬉しい」
「はは、君は時折子どものような言動をする」
僕の言動が何かしらのツボに入ったらしいジャミルくんが笑っているのが可愛くて。ジャミルくんの足元に視線をやる。
「……ごめんね、ジャミルくん。僕、きみのことが知りたくて先走っちゃっただけで、きみに危害を加えようとしたわけじゃなくて……嫌いにならないでほしいな」
改めてもう一度謝罪すると、溜め息を吐かれた。
「……先の件はどっちもどっちというか……いや、それ以外に表現する言葉がないだろう」
「いや、そうなんだけどさ、それはそれとして、その上で、僕はジャミルくんに嫌われたくないから」
また溜め息を吐かれた。眉を顰めるのもついてきた。
「……嫌っていないよ」
「よかった。……じゃあ、今日楽しみにしてるね」
「ああ」
席へそのまま移動する。ジャミルくんは僕の頼んだ通り髪をそのまま垂らしていて、艶やかな髪にきらきら照明が反射して、すごく綺麗だ。
〝どうせなら泊まらない?〟
〝明日学校だし眠れないなら遠慮するけど〟
ジャミルくんとべたべたしたくて、そうメッセージを送った。見ている限り、彼は僕とそういうことをするのは嫌ではないみたいだし。
あとは──髪型を変えたこととかに対するカリムくんの反応とかも、彼とキスをしながらゆっくり聞きたかった。性格悪いかな。悪いな。でも、絶対気持ちいい。
〝ゆっくりでかい風呂に入りたい〟
程なくして来た返信がかわいすぎて、頭が熱くなるのを空気を吸ってどうにかした。自分が、本格的にジャミルくんを好きになってきているのがわかる。いつもだったらここのちょっと手前でストッパーが働いて止まってるから、初めての感覚に──なんだか恐怖心もある。でも、それ以上に、彼が僕のものであると認識する度に幸せで幸せで堪らなくて。
どう返答すればいいのかわからなくなって頭を抱える。すごい。恋ってすごい。すごい!はやくキスがしたい。はやく彼の身体に触れたい。それしか考えられない。丸めていた背中を背もたれへやり、仰け反って身体の──頭の、顔の熱さをどうにかしようとしたけれど、少ししか意味がなかった。
結局僕は──散々考えた挙句、OK!とスマイルするうさぎのスタンプを返すことしかできなかった。
先生がホームルームで伝達事項を話す。ホームルームが終わり、部活へ行く生徒が着替えはじめ、部活のない生徒は各々寮に帰るかその場で駄弁るかしはじめて。
僕が彼の机へ近寄ると、教科書を整えながらジャミルくんが僕の方へ瞳を向けた。
「一回スカラビア行って材料取ってこなきゃかな?」
「ああ。すぐ取ってくるよ」
「うん、わかった。部屋で待ってるね。材料はそのまま冷蔵庫で大丈夫。うち治安いいから誰も勝手に食べないし」
「へえ……うちの連中にも見習ってほしいものだな」
なんとか平静な顔を作って、いつものように微笑みを置いて、言葉通り自分の部屋へ戻り私服に着替えてベッドへ仰向けに倒れ込む。
何故か今更どこかで緊張している僕が面白い。心臓がどきどきしている。
目を瞑って自分の心臓の音を聞いていると、こんこんこん、とノックをされた。
「ハイネ?開けていいか?」
「いいよー」
「失礼する……なんだ、随分だらけているな」
ジャミルくんが仰向けにベッドへ倒れ込んでいる僕を見て片眉を上げるので、ん、と彼へ向かって両手を伸ばした。
「……」
ジャミルくんは一瞬頬を染めて目を逸らして、しかし溜め息を吐いてバッグを僕の机の上に置いて。
そっと僕の頭の横に肘をついて僕の手の中に収まって来てくれるものだから。
ジャミルくんの、ベッドについている方とは逆の肘を掴んでぐいと押し、体制をひっくり返す。目を見開くジャミルくん。かわいくて堪らない。唇にちゅ、ちゅ、と音を立てて幾度かキスを落とした。
彼の胸元へ顔を埋める。彼のにおいで、纏う空気で体温で、くぐもった声が出た。
「……、はは、欲求不満か?」
すごい。恋愛ってすごい。脳味噌が蕩けているのがわかる。ぐう、と喉が鳴った。頭を胸から上げて、ジャミルくんの顎へ手を添え唇の表面を舐める。でもジャミルくんは首を振って。
「ん、んむ、おい……!」
「黙って」
顎をぐいっと上に押して口を閉じさせると、ジャミルくんはこちらを睨んでから目を瞑って、僕の背中に片手を回して口を開いてくれるものだから。
思わずジャミルくんの、ベッドに置いてあった手の手首を握る。強く握らないと頭がおかしくなりそうだった。ジャミルくんは強く握られすぎて顔を顰めるけれど、目を瞑ったまま受け入れてくれていて。
顎から首の後ろへ手を回して、ジャミルくんの耳朶へ舌を這わせた。ジャミルくんの身体がびくりと震える。首を振って抵抗しようとするので、髪の毛を根本から掴んだ。
「お、おまっ……ッ!〜〜!ッ!!」
耳朶だけじゃなくて、耳の入り口をぺろぺろ舐めてあげると、ジャミルくんが声にならない声を上げて、首を振って身体を起こそうと──どうにか逃げようとするけど、根本から髪の毛を掴んでいるし、上は取っているし、手首は掴んでいるし無駄だ。
せめてもの抵抗なのか、僕の背中に回っているジャミルくんの手が僕の服の首元を後ろへか弱く引っ張って離そうとしているのがかわいい。ジャミルくんが暴れるのを押さえつけて尚もぺろぺろと舐め続けると、その手はベッドに落ちて、震えながら僕の手首を握ってきた。かわいい。
ひとしきり舐めたところで少し満足して、最後に耳朶にリップ音を落として彼の側頭部から顔を上げ彼の顔を見ると──目の焦点は合っていないし、髪は乱れて、息は弾んで、先ほど僕が開けた唇はまだ緩んでいるし、頬はほんのりと赤く染まっていて。
僕が顔を上げたことに気付いて小さく吐息を吐き、視線の焦点をなんとか僕に合わせようとしてくるものだから、僕は彼の手首を掴んでいた手を離し、人差し指と中指を彼の口の中へ突っ込んだ。
ふぐ、と彼が呻き、一瞬焦点が震えながらも戻ってきそうになるが──上顎と、舌の横を指の側面で、舌の先端は指の先端で刺激してあげるとすぐに目がとろんとして視線が上に放られた。
すぐに唾液で指がベトベトになる。刺激しているせいで指から唾液が滴るほどになってしまったので、ジャミルくんの耳元へまた口を近付けて。
「指、綺麗にして」
「……、」
「自分の唾液、舐めとって」
ジャミルくんは僕の手首を両手で握ると、素直にちろちろと舌を出して僕の指についている自らの唾液を舐めとる。
あまりにもその仕草が可愛くて、ぞくぞくして、ジャミルくんの上顎を再度──綺麗にしてくれている方とは逆の指で擦ってあげる。びくっと背が震え、また唾液が僕の指へついた。ジャミルくんはどこもかしこも敏感でかわいい。
ジャミルくんが逆の指を口に含むので、また今度は逆の指で反応のいい部分を弄ってあげ続ける。すると、ジャミルくんが頑張って舐めとっている方の指から少なくとも唾液が滴らなくなる頃には──また違う方の指から唾液が滴る様になってしまうので、また舐め取らせ飲み込ませて、それをずっと。
延々と繰り返していると、ジャミルくんが助けを求める様な視線でこちらを見て来たので、僕はジャミルくんの口からゆっくり指を抜いてあげた。
結局糸が引いていて、それを追うようにジャミルくんの唇へ唇を落とし舌を入れてキスをする。指が入っていたせいでちょっとぬるい。ジャミルくんの疲れ切った舌は自分から動こうとしないけれど、好きな部分を刺激してあげるとぴくぴくと痙攣するのが素直でかわいい。ジャミルくんが媚びるように鳴いて首を振るが、まだ許してあげない。舌を吸って引き摺り出して、甘噛みして、舌の側面を擦り合って。
僕が完全に満足した頃には、ジャミルくんはもうベッドに横たわって、どこを見ているのかわからない視線を空へ放って、時折息を弾ませたり小さく喘いだり、ぴくりと身体を跳ねさせるだけになってしまっていた。
「カリムくんに、ジャミルくんは耳と、舌の横と上顎を舐められるのが好きなんだよって、教えてあげようかな」
僕がくすくすと笑いながらそう言うと、ジャミルくんは緩く首を横に振って顔を顰めた。
部屋に響く彼の呼吸の音が愛おしくて、彼の横へごろんと身体を倒し、ぎゅううと強く搔き抱いた。胸を押したせいか咽せてしまっているジャミルくんを気にしてあげずに彼のこめかみに頬擦りすると、咳き込みながら笑われて。
なんでか、少しだけ泣きそうになった。
彼が愛おしくて胸がぎゅうぎゅうする。息が弾む。好き。好き。すき。
好きになってもいいのって、こんなに素敵なことなんだ。嬉しい。体温が、においが、全部愛しい。
「お前のせいで舌が疲れた」
ジャミルくんは本当に少し疲れた様子でそう言う。手を彼の首に回して、手のひらで優しく首を、僕の方へ引き寄せる。ジャミルくんの手が僕の手の甲へ重なった。
部屋の温度は少しずつ下がって、正常な温度へ戻っていく。
「……くるし」
そう言ったのは首に手を回されているジャミルくんの方じゃない。絞めてないし力も入れていない。ただ彼が逃げないように添えているだけだから、苦しくはないはずだ。
僕はなんでかすごく胸が苦しいけど。
「……大丈夫か?」
僕が苦しいと言ったのに気遣ってくれるジャミルくんがまた苦しい。愛おしい。苦しい。
「……、てんりょう、してよ」
「……は?」
「……」
ずっと。ずっと思っていたけれど、言わないようにしていた言葉が口から漏れた。どうしよう、頭がぐるぐるしている。ダメだ。恋愛は、人間の頭が良すぎるせいでなかなか番えないのを解消する為、一時的に人間の頭をバカにしちゃう状態異常なんだよ、って誰かが言ってたのを思い出す。その通り、これは確かに状態異常だ。状態異常でしかない。
混乱していることがわかる。自分がいつもの状態じゃないのがわかる。でも、それが気持ちいいから。それのせいで、この腕の中のジャミルくんがこんなにも大切で大切で宝物で、そんな存在になってくれてるから、それを手放すことなんか考えられない。
すごい。今ジャミルくんが、僕の持っている何もかもより価値のある存在に感じる。すごい。恋愛、すごい。これに危機感を覚えて、今までストッパーをかけていてくれたネガティブな僕に心から感謝する。こんな感情を抱いて裏切られたら、生きてなんかいけない。
「……僕、……多分、きみのことを、好き勝手利用しているだけなんだ」
「……」
「ごめんね、きっと、僕、誰でもよかったんだろうな。……何やってるんだろうね、ほんと。やろうとしてした恋愛をはじめて、1人でこんなに盛り上がって、1人で苦しくなって」
「……」
「お人形遊びしてるだけなんだ。そんなこと、最初から気付いてたけど」
安心してお人形遊びしたかった。だから僕はジャミルくんを選んだ。
「……誰でもよかったなら、尚更何故俺を」
「きみは対価さえ払えば僕のお人形に甘んじてくれそうだったから……というか、そうするしかない状況にしないと、僕が安心してこういうことできない性分だったから」
「……それでも、俺である理由にはなっていないが」
「……ジャミルくんは、生まれつきのお人形だったでしょ?流石に僕も、そこら辺の普通に生きてた人を連れてきて、僕のお人形にして心が痛まない人間じゃないから」
「……、」
「カリムくんのとこでお人形で居るよりは、幸せにしてあげるからって言い訳して」
「……はははは!はは、君……なるほど、そういうことか……!」
彼を選んだ理由を説明してあげると、ジャミルくんは笑う。笑ってほしかったので、笑ってくれて嬉しかった。
こんなのもう笑うしかないんだから。
「君……はは、なんて自己保身的な快楽主義者だ……!」
「もっと罵っておくれ……」
「となると、その言葉も保身から出たんだな?罪悪感から逃れようとしながら、自分はそれを悪い行いだと思っていると俺にアピール……なるほど、筋金入りだ」
「ありがとう……」
彼を更に抱き締め直す。好きだ。彼が好きだ。ジャミルくんが好きだ。好きになっても自分が傷付かない相手だから好きになった。ばかみたいに薄っぺらいのに、何故こんなに重いんだろう。嫌だ。こんなに薄っぺらいのに、重すぎてそれをどけられない自分が、その重みが心地いい自分が嫌だ。
嫌だって思ってる自分が気持ち良くて、嫌だって思わない自分が気持ち悪いから、嫌だって思ってるだけなんだろうなと──どこかで気付いてるのも嫌だ。ばかみたいで気持ちいいけどさ。
ばかみたいっていうか、僕はジャミルくんの言った通り、薄っぺらで自己保身的な馬鹿そのものなんだけど。
「きみが愛おしい」
「は、なんて底の浅い言葉だ」
「本当に、浅くて、薄っぺらで何の意味もないって、自分でもわかってるんだけど、でも、本当だから」
「……」
「ここまで来ちゃったら止められない。止められる所は、もう過ぎちゃった」
「……ああ、君は愚かで薄っぺらだが賢いな。今までセーブしていなければ大変なことになっていただろう。それを予見してセーブしていた……自己保身の為に」
「その通り」
「はははは、なんってくだらない奴!くだらない、くだらない……!君は本当にくだらない……浅い人間だな!」
その通りだ。もっと笑ってほしい。そんなことを言われてもジャミルくんに対する気持ちが全く動かないのが悲しくて嬉しくて悔しくて馬鹿みたいで幸せだ。
「ジャミルくん、大好き」
「ああ、しかしまあ、なんだかせいせいしたよ。……一応約束だから料理は作ってやるが……髪のケアが面倒だから何か拘りがあるなら君がやってくれ。あと腕が疲れているからどうにかしてくれ」
「うん、うん、ありがとう」
「いいさ。ここまで浅い人間だと……体よく利用されているとわかると、俺もお前を利用するにあたり呵責がなくなるからな」
「ありがとう……」
「……これは君を慰めようとしている訳ではなくて、本音だからな?」
「それでも、ありがとう」
「……、はぁ……」
ジャミルくんは呆れたように溜め息を吐いた。その溜め息に、僕が彼を選んだ理由が知れたことへの安心と、嘲りと、そして確かに──喜色が混ざっているのに気付いたけれど。
それを指摘するのはまた今度でいいかな。