お前、どうして俺を買った!
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「でさ、ジャミルくんはどんな子がタイプなの?」
「……特にないが、生まれながらの権力者だけは好かないな」
「うわ!酷!」
「はは、当然だろう?自分のだけでなく、自らの家族の命をも握っている……そんな相手をどうやって好けと言うんだ」
揶揄ってもらえるのが嬉しくてにこにこしてしまう。僕の部屋の椅子へ座っているジャミルくんの胸に、伸ばした人差し指をとん、と置いた。
「その通り。きみときみの家族の命は、僕の手の中にあると言っても過言じゃない」
「……は、ほらな?」
「でも、その上で……そんな存在を好き勝手できるとしたら、すごく楽しそうだよね?」
「……」
ジャミルくんが目を細めて笑うのを見る。凄くいい表情だ。ぞくぞくしてしまう。
「なんとなく気付いていると思うけれど、僕はきみの家族をどうにかしたりなんかしないよ」
「……」
「僕だってある程度立場のある人間なんだ。それに……きみの国ではそうではないかもしれないけれど、うちの国は上の立場の人間へ、常に倫理的な、人道的な振る舞いを求める。きみの家庭を壊せば、うちの家ですら大きく没落しかねない。そもそも、人の不幸を楽しむ趣味も僕にはない」
「……何故それを俺に?」
「そもそもそんなことは……いや、僕の中での常識でしかなかったんだけど、……わかっている前提で考えてしまっていたから」
僕はジャミルくんの手をとって両手で包み込む。
「ねえ、僕が優しい人だって、信じて」
ジャミルくんは一つ溜め息を吐き、眉を上げた。
「……それは置いておくとして、人道的ではない振る舞いをすることがハイリスクなのは理解した」
「うん、よかった。じゃあその上で聞いてほしいんだけど」
僕は彼へ微笑みかける。
「僕の家が全力で隠蔽工作に走れば、きみの家族をどれだけ苦しめて消したところで、大衆にはバレない可能性の方が圧倒的に高い」
「……は、……は」
ジャミルくんは口に恐怖か何か由来の不明な笑みを浮かべながら、瞳孔を揺らして、息を弾ませる。かわいい。
「一部には当然バレるだろうけど、そこは、9割以上の確率で口止めできるんじゃないかな。利益がないにも関わらず家が没落する可能性のある行為を選択することなんて、やっぱり確実に有り得ないと言えるけれど、……〝できる〟ことには変わりがない」
「……、」
「僕の言いたいこと、わかったかな」
「……」
「わかって貰えると嬉しいんだけど」
「……何がしたい」
ジャミルくんの手が手汗でぬるぬるしてきた。触り心地が面白くて指を絡めた。
彼の息は震えている。
「僕が怖いよね?逆らえないよね?」
「……ふ、」
「きみは、僕が命令をすれば僕に従う他ない。ずっと。だって僕はいつだって……〝できる〟んだから」
絡んでいる指から心拍がはかれる程に彼の心臓が大きく拍動しているのがわかる。
「……僕にキスして?」
彼の瞳が僅かに開き、すぐに唇に唇が重ねられる。すぐに離れていった彼の唇が思いの外熱かったので、絡ませている指を引っ張って尚も唇をつけた。
唇の表面を舐めて侵入の許可を得ていると、彼は背を震わせながら口を開けてそれを許可してくれた。口の中がびっくりするほど熱くて、興奮する。鼻の側面が擦れるのも、興奮の材料になる。
ふう、と溜め息と共に唇を離してジャミルくんの顔を見ると──頬は真っ赤で、瞳孔は驚くほど縮んで、でも瞳にはどこか熱があって、唇はとろとろに無防備で。
ぞくぞくぞく!と背筋に興奮が走る。僕の方も息が上がってきて、その勢いのまま欲求のまま手を引いて再度キスを落とす。啄むみたいに、ちゅ、ちゅ、と甘えて音を出して。ジャミルくんが首を僕の動きに合わせ動かして応えてくれるのが堪らない。
「……っ、は、最高……」
「は、っ……頭が、変に」
「一緒に変になって」
「っ……う」
「これは命令だよ」
彼の、顎と首の間の薄い皮膚に吸い付いて舐めるのを繰り返す。握っている彼の腕にはもう力が入っていなくて落ちてしまっているが、手のひらは懸命に僕の手を掴んで離さない。
「気持ちいいね?」
「ぅ、うぁ……っ」
「良い子」
ジャミルくんの後頭部を撫でる。半分だけコーンロウにしているのはおしゃれだし砂とか絡みにくくて良さそうだし楽そうだけれど、僕のものになったからにはそういう部分まで僕の好きなようにさせて貰いたい。
マジカルペンを胸元から取り出し、ジャミルくんの髪をそっと解いていく。解く度に髪飾りがひとつひとつしゃらんしゃらんと音を立てて床に落ちていくのが、僕のものになっていくのを表しているみたいで、彼の首筋を舐める作業にも自然と熱が入るというものだ。
「や、……嫌だ、」
「ご主人様に可愛がって貰ってるんだから、ありがとうございます、でしょ?」
「ぁ、ぁあ、だめだ、だめ、やめてくれ」
ジャミルくんがふるふると首を振って、僕と繋いでいる手を、絡ませている指を振って落とそうとするけれどそんなことは許さない。話を聞いていないみたいだから、先ほどまでやさしく丹念に舐めていた首筋にぐっと噛み付いた。ジャミルくんはびくっと大げさに身体を跳ねさせて歯から反射的に身体を離そうとしたけど、僕が顎の力を緩めないので無駄だ。
ジャミルくんはすぐに背を丸めて、顎を僕の肩へ置く形で大人しくなった。歯をゆっくりと離してあげる。それだけの感覚にもびくついているので、可愛くて仕方がない。
鬱血痕になってしまったそこを労るように優しく舌の先端でちろちろと舐めると、ジャミルくんが繋いでいる手をぐうううと強く握って首を振って、何かを必死に耐えるみたいに。
「ぅううう、〜!ぅ、う」
僕の肩口で叫ぶように呻いているジャミルくんはすごいかわいい。さっきまで僕を揶揄っていたのに、これだけでこんなに気持ちよくなって僕に身を委ねるしかなくて、可哀想で、可愛くて。
ふと見ると、椅子の下のジャミルくんの足はガクガク震えている。本当に可哀想なくらいぐちゃぐちゃになってしまっているのは、きっと、僕がこれまでのご主人様と全く違うタイプだからだ。
ありがとう、ありがとうカリムくん。きみ自身は彼と自分を対等だと思ってくれててありがとう。ジャミルくんは周囲から、常に従者として、目下の人間としての正しさのようなものを求められていたと又聞きしたけど、当の本人のカリムくんがそうじゃないから動きづらかっただろうな。
僕はそうはしない。ジャミルくんは僕のものだ。逃がさないし、家族を人質にとるし、自由にもしてあげない。
でも、幸せにだけはしてあげる。僕の出来る限り全力で。やくそく。
「きもちいいね?」
「ふ、……ぅうう、う」
返事をしてくれないので、肩口へ勢いよく噛み付いた。
「あ゛、ま、まってくれ、まって」
「……ねえ下僕、気持ち良いって声に出せって言ってるでしょ?家族、砂漠に捨てちゃうよ?」
耳元で囁いて脅すと、尚も呼吸が跳ねて、掠れた声で。
「……き、気持ちぃ、です……きもち、ぁああ!」
よしよし良い子良い子と噛み付いた部分を優しく舐めて、解き切ったぼさぼさの髪を根元から押しつぶしていくみたいに彼の後頭部を撫でる。彼はずっとぴくぴく身体を揺らしていた。
軽く手櫛を使って、少しだけ髪を整える。噛み付いた部分を一通り舐め終わったから、ジャミルくんの肩から顔を上げて頬を擦り顎を引いて、視線でキスの許可をとる。
ジャミルくんは上の方に向いていた視線を僕の方へぎこちなく動かして、こくこくと頷いた。僕はジャミルくんの首へ、手を繋いでいる方とは逆の腕を回し、彼の首に自らの胸を押し付け、上から抑えつけるようにキスをした。良い子良い子と頭を撫でるのも忘れない。
彼の喉仏が上下しているのを胸で感じる。口の中ぜんぶをくまなく舐め続ける僕に、抵抗すら許されないままただ時折身体をぴくぴくさせるだけのジャミルくんの虚な目には、わかりやすく快楽が浮かんでいて、ちゃんと幸せそうで、僕は安心した。
「ジャミルくん、嫌じゃなかった?」
キスを終わらせた後、ジャミルくんが落ち着くまで、髪を手櫛でうすく梳かして頭を撫でるのを繰り返していた。
触れ合っている部分が熱いことには変わりないけど、ジャミルくんの呼吸のリズムは正常に戻っている。
「これからも僕ジャミルくんとこういうことしたいから、嫌じゃないって言ってくれると嬉しいんだけど」
「……、」
何が彼の心に引っ掛かっているのだろう。ジャミルくんは僕と繋いでいる手を少しだけ引いて、何かを言いたげにしているので待ってあげる。
「……本当に、何故俺なのかだけが、わからないんだ」
「……」
「君を拒む……拒める人間なんて殆ど……いや、特例を除いてまず居ないだろう。俺に好意を求めているのは本気らしいが、なら何故最初からある程度好意があると確認できていた方へ行かず、俺を選んだ?」
「……」
「何か、普通の人間にはできないおかしなことをしたがっているのかと思ったが、それも違う。……まあ、他人の従者を奪っている時点でそれは十分おかしなことだが、趣味でそれをやったようにも思えない」
「……」
「何故俺を選んだ」
「それを知る必要があるの?きみはどうせ一生僕のものなのに」
「君の底を知りたい……いや、俺は君に興味がある、と言った方が君は喜ぶんだろうな」
こちらを揶揄ってくるジャミルくんに、思わず顔だけで笑ってしまう。
「きみ、さっきまでキスだけであんなに気持ちよさそうな顔してた癖、よくそんなこと言えるね」
「……、……」
「演技だとでも言うの?……まあ、演技する意味とか無いし、演技だった場合単純に僕を喜ばせたかっただけで……演技じゃなかった場合は、本当に気持ち良くてどろどろになってたんだね。……どっちがいい?いいよ?選んで」
「黙れ」
「ふふ、怒らないで。ごめんね」
繋いでいる手に力を入れられる。怒りの感情の表明だろうが、かわいいだけだよ。機嫌をとる為に額にキスを落とした。
「そうだね。……どうしようかな、いつかは言おうと思ってるんだけど、もうちょっと仲良くなってからの方がいい気がするんだ」
「……何の必要が」
「まだ内緒。……ジャミルくん、僕のことちゃんと見て」
彼と繋いでいた手を離して、両手でジャミルくんの頬を掬い上げ視線を合わせる。後ろで縛っていた髪の毛を解き軽く頭を振って、彼の顔と僕の顔の間を髪でカーテンみたいに覆ってしまう。
彼が目を見開いて瞳孔を震わせるのを見ていた。
「綺麗でしょ?」
「……、」
「僕ね、誰からだって愛されるんだよ。多分、神様にも愛されてる」
「……」
「でも、僕は他の人じゃなくて、きみを選んだ」
「……は、」
「僕はね、もしもきみが僕のことを好きになってくれたら、きみを僕の家に迎え入れてあげたいと思ってる」
「……ッは!?」
嘲るような表情を一瞬で驚愕の一色に塗り替えた彼の頭を撫でて、彼の震える眼孔の外を頬に添えた手の親指で撫でて。
僕の心にはストッパーがある。相手がどんなに好ましい行動をしていても、僕のことが好きだと言ってくれていても、いつか僕の元から去ってしまう可能性が潰せていない時点で心から恋愛に没頭するってことができない。できなかった。ずっとそうだった。
いつも馬鹿みたいに冷静でネガティブな僕が、心のどこかで最悪の事態を想定し続ける。それはきっと、上に立つ人間の性質としてはいいことなんだろうと思う。でも、僕は誰かを心から、心の底から愛したかった。
今ジャミルくんに対して、それが許されているのを感じる。いつもネガティブで冷笑ばかりしている僕が、口をむにっと突き出して頬を染めて、困ったように、どうしよう、ジャミルくんが居なくなる未来が見えない。もしも彼が全力で逃げたとしても、どう計算しても簡単にまた捕まえることができちゃう!って考えてる。そいつのそんな顔、見たことなかった。嬉しい。嬉しい。嬉しくてジャミルくんの額と頬へキスをした。
「僕に選ばれたことの重みを、ちゃんと理解して」
「……」
「もうどうしたって無駄だから、諦めて楽しんで」
とんでもない奴に捕まってしまった、という顔をしているジャミルくんは、しかしどこか複雑そうで、溜め息に諦めはあるけど、悲しみはなくて。
「幸運だった、嬉しい、って思ってよ」
「……傲慢な奴」
「客観的に、こんな幸運今までの人生であった?」
僕がにこにことそうジャミルくんに嫌みったらしく問い掛けると。
「……ないな」
とそうジャミルくんがあまりにも軽く──軽いからこそそう本当に思っていることが理解ってしまって──言うので、僕は思わず目を見開いて、ジャミルくんを力の限り抱き締めた。
ジャミルくんが溜め息を吐いて、額に手を当てて首を振るので、再度唇を食んでやると、今度はジャミルくんも僕の腰へ手を回して受け入れる体勢を取ってくれるので──興奮してしまって息が弾む。顔を顰めるとジャミルくんが鼻で笑うので少しだけ腹が立ったが、それすらも愛おしさでしかなかった。