お前、どうして俺を買った!
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ちょっとした好奇心からだった。確かにうちにも代々雇っている使用人の家はあるけど、別に他のところに就職したいとその人が希望を出せばその願いはすぐに叶えられる、そういうごく普通の一般的な雇用形態だったから、アジーム家とバイパー家の──良く言えば──密接な関係性が、ちょっと興味深く見えて。
へえ、現代にマジでまだそんなのあるんだ、ってちょっとびっくりした後、人間を──家ごと家族ごと──所有するっていうことに、仄暗い興味を覚えた。だって、家族を盾にとられていたら、何をしたって。そんなの。羨ましすぎる。
だから、ジャミルくんがカリムくんに対して文句を言っているのを聞いて、僕はすぐにそれを決めた。証拠と家と、あとはお金を出せば、すぐにどうにでもなった。契約は締結され、遅れてジャミルくんにも連絡が入るらしい。
いつ入るかなと寮のベッドで鼻歌を歌いながらネットサーフィンをしていると、思いの外早く、その時は訪れた。
勢い良く扉が開く。ノックしてよ、と少し思ったけど、ジャミルくんの焦り切った表情に思考を全部持って行かれた。
「お前、どうして俺を買った!」
つかつかとこちらへ歩いてきて、僕の胸ぐらを掴む彼。扉を開けた音に驚いて反射的に浮かべていた僕の笑みが、本物の笑みに変わっていくのがわかった。それと比例して、ジャミルくんの目の色が絶望の色に変わっていくので、僕は僕の胸ぐらを掴んでいる彼の手にそっと指を這わせた。びくりと彼の指が震えて、胸ぐらから離れる。その指をそっと取って、チョコレート色の、節くれ立った、仕事をしてきたとわかる手の甲にリップ音と共に唇を落とした。
「今日から僕を宜しくね、ジャミル〝バイパー〟くん」
「ッ……」
家名を強調してそう言ってやる。その時彼の浮かべた表情があんまりにも素敵だったから。
僕は彼を買ってよかったと、心からそう思ってしまった。
ジャミルくんはその後しばらく僕を警戒していたけれど、僕がスマホを弄るばかりで特段何かを無理矢理彼に強いたりする気は──少なくとも今は──ないと知ったようで、少し経つと僕の表情を伺いながら、躊躇いがちに会話を試みてくれるような雰囲気を出してきた。
買ってきたペットを最初から構いすぎるのは禁物なんて、飼い主の基本だしね。なんて。僕も実はかなり浮かれているんだけど。
「ハイネ、お前はどうして俺を買ったんだ。答えてくれ」
やっぱりそれが気になるらしい。僕はスマホから目線を外さない。
「カリムくんの下なのが嫌だって言ってたからだよ」
「それは……!なら何故、俺に一言相談をしなかった!」
「僕がきみに相談をしない方がいいと判断した理由なんて、きみは容易に想像がつくと思うけどな」
「……、!」
「ふふふ、もう全部遅いよ」
スマホの画面を切って、ベッドに寝転んでいる僕へ顔を向けているジャミルくんへ目を合わせると、少しだけ距離をとられる。くすくす笑うと、嫌そうな顔をされたので、少しだけ嗜虐心が湧く。
「ジャミルくん、僕にキスしてくれない?」
「……は、」
「嫌ならいいよ」
それだけ言って、またスマホの画面へ視線を戻す。彼が僕の真意を探っているのを感じる。
言葉以上の意味はないんだけどな。こんなことしといてなんだけど、僕、無理矢理されるのはともかくするのはそんなに好きじゃない。
そんなに、だけど。
「……俺が、断ったら?」
「ん?ちょっとさみしいな」
「……」
警戒しすぎだ。当たり前だけど。
かわいいなぁ、と思っていると彼がこちらに手を伸ばし、僕の頬の反対側に手を添えて頬にリップ音と共に唇を落としてきた。まさか本当にやってくれるなんてあんまり思ってなくてにまにましながらそっちを見ると、ジャミルくんが一瞬不安そうな顔をしていたのが見えた。
しかし僕がにまにましているのを見て、挑発するような笑顔を浮かべて。
「これでご満足か、ゴシュジンサマ」
「んふふ、満足だよ。すごい満足」
「変な奴……」
「ひどいなぁ」
自分が僕を煽っても怒らないのを見て、少し安心している彼が可愛くて抱き締めてあげたくなったけど。
まてまてまだ早いと、自分の欲求を押して潰して隅の方へ置いておいた。
アジーム家に代々仕えている家は、当然ながらバイパー家のみではない。代々従者の家だったら結構高いんだろうなと思っていたけれど、バイパー家そのものは従者の家ではなく、ただの使用人の家だった。ママに友人を助けたいとお小遣いを強請ることも考えていたけれど、熱砂の国──輝石の国より全体的に生活水準の低い国──の、従者でもない、ただの使用人の家なんて、残念ながら僕のポケットマネーで丸ごと買えてしまった。
「アジーム家現当主様は寛大なお方だった。ジャミルくんがカリムくんに仕えるのを嫌がっている音声と証拠と、買い取りたいって一連の書類と金額を提示したら、1も2もなくだったよ」
アジーム家とバイパー家は密接な関係だと思っていたけれど、真相は──バイパー家がアジーム家に依存している──そしてアジーム家に依存している家は他にも沢山存在する──という具合であったが故に、全く以て惜しくもないという様子ですぐに明け渡してくれた。むしろ、うちと友好的な関係を築きたいから無償でいいとすら言われて笑ってしまった。
僕が僕の家の交友関係を勝手に拡げることはできないから、申し訳ありません一応受け取っておいてください、しかしアジーム家現当主様の寛大なご配慮は両親に伝えておきますと言っておいたけれど。
それは半分建前で、お金で人間を買ったっていう方が興奮しそうだったから、なんだけど。
「カリムくんはなんて言ってた?」
「まだあいつは知らない。実家から俺に大慌てで連絡が来て、ここまで急いで飛んできたんだ」
「ふーん。やっぱり怒られちゃった?」
「は、……あんなにヒステリックになった自らの両親は初めて見たよ」
「大丈夫。バイパー家を所有する家が変わっただけで、ジャミルくんのご両親や妹さんにはこれまでと変わらない生活と支援を当主様と約束している」
「……それを聞いて少し安心したが」
本当に安心している様子のジャミルくんに視線をやる。
「当主様とその内容の約束をしてあげたのは、僕の厚意」
「……は」
「ジャミルくんのご家族が全員突然仕事にあぶれたら可哀想だなと思ったから、僕が厚意で約束をしてあげたの」
「……」
「何か言うことは?」
ジャミルくんが目を見開いて、少し顎を引く。
「あ、ありがとう……ございます、ハイネ様」
そう言うジャミルくんに、僕は思わずにっこりと微笑んだ。流石に使用人の立場が染み付いている。
「よかったね、僕が優しくて。主人の悪口を言う使用人の一家なんて、普通使い続けて貰えないのに」
「……はい。寛大な配慮、痛み入ります」
「ふふふ、かわいい」
よいしょ、と上体を起こしてジャミルくんに向かって腕を開いて伸ばす。一瞬ジャミルくんは目を見開いたが、僕の欲していることがわかったらしく、酷く緩慢な動きで恐る恐る、ゆっくりと、軽く、僕の身体に触れないように、僕の腕の中へ収まってきた。
ジャミルくんの後頭部に手をやり、背中に手を回し抱き締めると、ジャミルくんの身体が大きくびくんと震えた。僕は瞬きをして手をジャミルくんから離す。
「嫌だった?」
「ぁ……ぃ、いえ、そんな」
「今は個人として訊いているんだよ」
「……」
「本当のことを言うか隠すかはきみ次第だけど、今は僕、きみの主として訊いたつもりはなかったんだ」
「……」
「どうなの?嫌?」
「……別に、嫌と言うほど、嫌では、……ない」
個人としての主張だ、ということを強調する為にタメ口を使ってくるジャミルくんが可愛い。個人として訊いていたって主人として訊いていたって、僕の機嫌を損ねない方がいいことに変わりない、と思っているのだろうけど。
「それならよかった」
僕はそういってジャミルくんを再度抱き締める。文化も遺伝子も何もかも違うから、やっぱり服の匂いも髪の匂いも──体つきやどこに筋肉がついているかとかも、何もかも知っている誰とも違くて。
これが僕の物だと思うと、やっぱり買ってよかったと、そう思った。
へえ、現代にマジでまだそんなのあるんだ、ってちょっとびっくりした後、人間を──家ごと家族ごと──所有するっていうことに、仄暗い興味を覚えた。だって、家族を盾にとられていたら、何をしたって。そんなの。羨ましすぎる。
だから、ジャミルくんがカリムくんに対して文句を言っているのを聞いて、僕はすぐにそれを決めた。証拠と家と、あとはお金を出せば、すぐにどうにでもなった。契約は締結され、遅れてジャミルくんにも連絡が入るらしい。
いつ入るかなと寮のベッドで鼻歌を歌いながらネットサーフィンをしていると、思いの外早く、その時は訪れた。
勢い良く扉が開く。ノックしてよ、と少し思ったけど、ジャミルくんの焦り切った表情に思考を全部持って行かれた。
「お前、どうして俺を買った!」
つかつかとこちらへ歩いてきて、僕の胸ぐらを掴む彼。扉を開けた音に驚いて反射的に浮かべていた僕の笑みが、本物の笑みに変わっていくのがわかった。それと比例して、ジャミルくんの目の色が絶望の色に変わっていくので、僕は僕の胸ぐらを掴んでいる彼の手にそっと指を這わせた。びくりと彼の指が震えて、胸ぐらから離れる。その指をそっと取って、チョコレート色の、節くれ立った、仕事をしてきたとわかる手の甲にリップ音と共に唇を落とした。
「今日から僕を宜しくね、ジャミル〝バイパー〟くん」
「ッ……」
家名を強調してそう言ってやる。その時彼の浮かべた表情があんまりにも素敵だったから。
僕は彼を買ってよかったと、心からそう思ってしまった。
ジャミルくんはその後しばらく僕を警戒していたけれど、僕がスマホを弄るばかりで特段何かを無理矢理彼に強いたりする気は──少なくとも今は──ないと知ったようで、少し経つと僕の表情を伺いながら、躊躇いがちに会話を試みてくれるような雰囲気を出してきた。
買ってきたペットを最初から構いすぎるのは禁物なんて、飼い主の基本だしね。なんて。僕も実はかなり浮かれているんだけど。
「ハイネ、お前はどうして俺を買ったんだ。答えてくれ」
やっぱりそれが気になるらしい。僕はスマホから目線を外さない。
「カリムくんの下なのが嫌だって言ってたからだよ」
「それは……!なら何故、俺に一言相談をしなかった!」
「僕がきみに相談をしない方がいいと判断した理由なんて、きみは容易に想像がつくと思うけどな」
「……、!」
「ふふふ、もう全部遅いよ」
スマホの画面を切って、ベッドに寝転んでいる僕へ顔を向けているジャミルくんへ目を合わせると、少しだけ距離をとられる。くすくす笑うと、嫌そうな顔をされたので、少しだけ嗜虐心が湧く。
「ジャミルくん、僕にキスしてくれない?」
「……は、」
「嫌ならいいよ」
それだけ言って、またスマホの画面へ視線を戻す。彼が僕の真意を探っているのを感じる。
言葉以上の意味はないんだけどな。こんなことしといてなんだけど、僕、無理矢理されるのはともかくするのはそんなに好きじゃない。
そんなに、だけど。
「……俺が、断ったら?」
「ん?ちょっとさみしいな」
「……」
警戒しすぎだ。当たり前だけど。
かわいいなぁ、と思っていると彼がこちらに手を伸ばし、僕の頬の反対側に手を添えて頬にリップ音と共に唇を落としてきた。まさか本当にやってくれるなんてあんまり思ってなくてにまにましながらそっちを見ると、ジャミルくんが一瞬不安そうな顔をしていたのが見えた。
しかし僕がにまにましているのを見て、挑発するような笑顔を浮かべて。
「これでご満足か、ゴシュジンサマ」
「んふふ、満足だよ。すごい満足」
「変な奴……」
「ひどいなぁ」
自分が僕を煽っても怒らないのを見て、少し安心している彼が可愛くて抱き締めてあげたくなったけど。
まてまてまだ早いと、自分の欲求を押して潰して隅の方へ置いておいた。
アジーム家に代々仕えている家は、当然ながらバイパー家のみではない。代々従者の家だったら結構高いんだろうなと思っていたけれど、バイパー家そのものは従者の家ではなく、ただの使用人の家だった。ママに友人を助けたいとお小遣いを強請ることも考えていたけれど、熱砂の国──輝石の国より全体的に生活水準の低い国──の、従者でもない、ただの使用人の家なんて、残念ながら僕のポケットマネーで丸ごと買えてしまった。
「アジーム家現当主様は寛大なお方だった。ジャミルくんがカリムくんに仕えるのを嫌がっている音声と証拠と、買い取りたいって一連の書類と金額を提示したら、1も2もなくだったよ」
アジーム家とバイパー家は密接な関係だと思っていたけれど、真相は──バイパー家がアジーム家に依存している──そしてアジーム家に依存している家は他にも沢山存在する──という具合であったが故に、全く以て惜しくもないという様子ですぐに明け渡してくれた。むしろ、うちと友好的な関係を築きたいから無償でいいとすら言われて笑ってしまった。
僕が僕の家の交友関係を勝手に拡げることはできないから、申し訳ありません一応受け取っておいてください、しかしアジーム家現当主様の寛大なご配慮は両親に伝えておきますと言っておいたけれど。
それは半分建前で、お金で人間を買ったっていう方が興奮しそうだったから、なんだけど。
「カリムくんはなんて言ってた?」
「まだあいつは知らない。実家から俺に大慌てで連絡が来て、ここまで急いで飛んできたんだ」
「ふーん。やっぱり怒られちゃった?」
「は、……あんなにヒステリックになった自らの両親は初めて見たよ」
「大丈夫。バイパー家を所有する家が変わっただけで、ジャミルくんのご両親や妹さんにはこれまでと変わらない生活と支援を当主様と約束している」
「……それを聞いて少し安心したが」
本当に安心している様子のジャミルくんに視線をやる。
「当主様とその内容の約束をしてあげたのは、僕の厚意」
「……は」
「ジャミルくんのご家族が全員突然仕事にあぶれたら可哀想だなと思ったから、僕が厚意で約束をしてあげたの」
「……」
「何か言うことは?」
ジャミルくんが目を見開いて、少し顎を引く。
「あ、ありがとう……ございます、ハイネ様」
そう言うジャミルくんに、僕は思わずにっこりと微笑んだ。流石に使用人の立場が染み付いている。
「よかったね、僕が優しくて。主人の悪口を言う使用人の一家なんて、普通使い続けて貰えないのに」
「……はい。寛大な配慮、痛み入ります」
「ふふふ、かわいい」
よいしょ、と上体を起こしてジャミルくんに向かって腕を開いて伸ばす。一瞬ジャミルくんは目を見開いたが、僕の欲していることがわかったらしく、酷く緩慢な動きで恐る恐る、ゆっくりと、軽く、僕の身体に触れないように、僕の腕の中へ収まってきた。
ジャミルくんの後頭部に手をやり、背中に手を回し抱き締めると、ジャミルくんの身体が大きくびくんと震えた。僕は瞬きをして手をジャミルくんから離す。
「嫌だった?」
「ぁ……ぃ、いえ、そんな」
「今は個人として訊いているんだよ」
「……」
「本当のことを言うか隠すかはきみ次第だけど、今は僕、きみの主として訊いたつもりはなかったんだ」
「……」
「どうなの?嫌?」
「……別に、嫌と言うほど、嫌では、……ない」
個人としての主張だ、ということを強調する為にタメ口を使ってくるジャミルくんが可愛い。個人として訊いていたって主人として訊いていたって、僕の機嫌を損ねない方がいいことに変わりない、と思っているのだろうけど。
「それならよかった」
僕はそういってジャミルくんを再度抱き締める。文化も遺伝子も何もかも違うから、やっぱり服の匂いも髪の匂いも──体つきやどこに筋肉がついているかとかも、何もかも知っている誰とも違くて。
これが僕の物だと思うと、やっぱり買ってよかったと、そう思った。