お前、どうして俺を買った!
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「カリムが、退院祝いの宴はいつが良いかと」
「……うーん、ジャミルくんの方が忙しいだろうから、僕の部活無くてそっちの都合つく日だったらいつでも」
「わかった」
ジャミルくんに頭を撫でて貰える。気持ちがいい。甘えて、彼の髪の毛をひとふさ指で持ち上げて、僕の髪の毛ふたふさと三つ編みにしてしまう。
襲撃は、僕の愛人になっておいてその言質をとっておいて、カリムくんと僕を殺害したのをジャミルくんのせいにして、両方の家から利益を搾り取ろうとしたのが目的だったらしい。
スカラビアの談話室の砂漠の奥の結界が、魔法を使えない人たちに対してすごく弱くしか働かない──校舎から遠すぎる立地的にそうならざるを得ない──って後から聞かされて、だからジャミルくんはいつもあんなに警戒していたのかと合点が行った。
「……髪が伸びたな」
「うん。綺麗?」
「綺麗だ。素直にそう思える」
額に唇を落とされた。嬉しい。嬉しくて口許が緩む。
ジャミルくんからもナイフを貰って、これで僕たち家族になれたねって、嬉しかった。
ナイフは僕のとジャミルくんの、2本揃えて物置の隅っこに置いてある。
うちのこれは素敵な文化だけど、僕たちには要らなかったかもしれない。だって僕たちには、マジカルペンとユニーク魔法があってしまうから。
「そういえばカリムくんがさ、指輪の宝石の色変わったなって言ってて。ジャミルのも変わってたから変えたのか?って。意外と見てるんだね」
「そうだな。意外と見ているよ、あいつは」
洗脳妨害魔法の込められた宝石から、宝石へ込めた魔法を長期間に引き延ばす効果を持つ宝石へ変えたので、僕の指輪と彼のネックレスの色は同時に変わっている。
「……、ごめん、またやっていい?」
「……いいよ」
お互いにお互いの目を見て、宝石へマジカルペンを向けて、自分のことを好きで在れと魔法を掛け合う。朝やったばっかりだけど、午後になったからもう一回やりたくなっちゃった。
この作業には中毒性があった。魔法を掛けた後、途端に彼が愛おしくなって、彼も僕が愛おしくなって、触れずにはいられなくて、搔き抱いてキスを落として、愛している、愛していると。
心の底から、愛していると。
「……、」
彼のことが好きだと思う。多分魔法のせいだけど。彼も、僕のことが好きだと思う。魔法のせいで。
幸せだ。率直にそう思う。ジャミルくんも幸せそうだ。大丈夫。魔法を掛けようと提案するのは、交互に、というのが暗黙のルール。
魔法を掛ける頻度は1週間に1回から少しずつ増え、今はほぼ毎日、日に2回する日もある。
これからもっと増えていくんだろうか。
「……好きだよ、好き」
彼の背中に爪を立てて掻き毟る。好きだよ。本当だ。魔法のせいなんかじゃない。心の底から好き。なのに。
「……俺も好きだよ」
そう返してくるジャミルくんの言葉が、魔法から出た言葉にしか聞こえなくて。
どうしてこうなっちゃったんだろう。
すぐにでもまた魔法を掛け合いたくなってしまうけど、次はジャミルくんの番だから我慢しなくちゃいけない。
そう、思っていたけれど。ジャミルくんが、ブロットのくすむマジカルペンを僕の指輪に向け、僕の肩へ額を擦り付けて、ぐすりと鼻を鳴らして、彼から誘ってくれるので。
彼がかわいくて笑った。
「旅、今でも行きたいと思ってる?」
なんの希望も混じらない、純粋な質問だった。彼のことを愛しているから、僕は彼の為に我慢できる。それは変わらない。
変わらなかったのに、ジャミルくんは、僕の膝の傷跡を撫でながら。
「お前が心配だから離れたくない」
「なら一緒に行く?」
「……いい」
僕は思わず鼻で笑った。悲しくて。
「……お前に旅の許可を貰った時から、お前の気に入るような場所を先に見つけて、連れていってやろうと思ってたさ。
むしろ、一人旅をしたかった主要な理由の一つが、それだったんだ」
絶句した。
脳味噌の芯が痺れていて、自分が今どんな感情だかわからない。
結婚してやりたいことが旅って、そっか。一人旅じゃなかったんだ。そういうことだったの?後から連れてってくれる、つもりだったの。
むしろ、一人旅は、下見の、つもりだったの。
「でも、いい。それより今はお前を失うのが怖い。お前も、狙われるだろう」
そっか。
そっか。きみ、本当にショックだったんだね。トラウマになっちゃったんだ。僕が死にかけたの。
僕を守れる自信がなくなっちゃったんだ。
なんでか小さく笑いが溢れた。なんでだろう。わかんない。けどどうでもいい。ジャミルくんが撫でてくれてるから。
「……やりたいこと、探すのは」
「お前の側に居るだけでいいよ」
「……」
「何もしなくたって、生きていけるだろ。この家なら」
「……そうだね」
一生、何もしなくたって、絶対生きていけるよ。大丈夫。
嬉しい。嬉しい。嬉しいと、思う。本心から。
嬉しいはずなのに、悲しくて涙が止まらない。
「……俺も悲しくなるから、泣かないでくれ」
そう言って僕の涙を拭ってくる手が、優しい声が、少しだけ震えていて、でもあたたかくて、優しくて。
「……愛してるよ」
「俺も、愛してるよ」
そう言い合って、キスをした。
部屋の温度は変わらなかった。