お前、どうして俺を買った!
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本当に、よかったのにな。
「……なんで生きてんの、僕」
やっと頭の少しまともに動くようになった僕がそう言うと、ジャミルくんは大層怒った。なんでそんなに怒ってるのかわからないくらい怒っていた。
「あそこで死ねたら、綺麗だったのに」
二度とそんなことを言うな、と胸倉を掴まれた。本当に、なんでそんなに怒っているんだろう。
「……今からでも、殺してほしい、くらいなんだけど」
すごく悲しそうな顔をされたので、ごめんねと頭を撫でてあげた。今まであった生への執着が、まだ何かできることが、やることが、見つけていないだけであるだろうという希望が、ジャミルくんが咄嗟にカリムくんを庇った瞬間、すとん、と消えた。そりゃあそうだよね、と、腑に落ちた感じがして、なるほど僕の人生って結局こういう感じなんだ、と合点が行ったから。
ジャミルくんが僕の側に居るのは、落ち着かなかった。カリムくんも時々来たけれど、彼と一緒に帰っては行かなくて、帰ってほしいな、とずっと思っていた。
カリムくんが毒の鑑定をしたから助かったらしいという話を聞いて、こいつはどこまで僕の邪魔をするんだと思ってしまった。
「もう、もういいんだよ、ジャミルくん」
ありがとう、とお礼を言っても彼は辛そうな顔をするだけで。彼が僕に何を求めているのかがわからなくて。
「……あと、何をすればいいの」
生きてほしい、と絞り出すように言われた。なんで生きなくちゃいけないんだろうか。もういいのに。何をすることがあるんだって言うんだろう。
いっぱい迷惑かけてごめんね。付き合ってくれてありがとう。残せるものは全部ジャミルくんにあげるから、好きに使ってね。好きなところに行ってね。きみはもう自由なんだよ。
それ以外、もう彼に言うことはなかったのに、僕が何回それを言っても、ジャミルくんは僕の側を離れようとしなかった。
やっぱり矢には死ぬような毒が塗られていたらしくて、僕はしばらく病院から出られそうにないと聞かされた。常に身体中が怠いのは、毒のせいにしていいんだろうか。
ジャミルくんはなんだか泣き虫になってしまっていて、なんの前触れもなく泣き出すことが増えてきた。
どこでついた癖なのかはわからないけど、泣いている人を見ると手が勝手にどこかしらを撫でて摩る。ジャミルくんは僕がそうすると、もっと酷く泣く。でも別にどうでもいい。撫でられるのが嫌なら僕から離れればいいし。
気付けばジャミルくんが僕にキスをしている。口の中を舐められるのは別に嫌でもないから好きにさせてあげていた。僕の腰に乗っかって強く抱きしめて、尚も口の中を舐められる。僕は別にいいんだけどジャミルくん病院のひとに見つかったら恥ずかしいのに、と思った。
頭を優しく撫でられる。それはちょっと気持ちよくて、目を瞑った。胸に抱かれて撫でられるのは、あたたかくて。
「ハイネ、好きだ」
久しぶりに言葉が脳味噌の中を通った気がした。理解できないけど。いや、意味はわかるけど。
「好きだ、好きだよ」
そういえばずっとベッドの横で似たようなことを言っていた気がする。何を言ってんのかよくわかんなかったけど、今やっとわかった。なんでそんなことを言っているのかはわからないまま、意味だけは、意図だけは理解できる。
泣きそうになった。ジャミルくんが可哀想で。
「なんで?」
僕がそう問い掛けると、ジャミルくんは目を見開いて頬を染めた。ジャミルくんが可哀想で、ちょっと悲しい声が出て、僕がそんな声を出すのは久しぶりだったからかもしれない。
「すまん、すまない、俺は、俺はちゃんとお前を守るべきだった」
「いいんだよ、いいんだ」
「そんなつもりじゃ、そんなつもりじゃなかったんだ」
ジャミルくんが泣いているのが可哀想で背中を撫でてあげると、涙の勢いが増してしまった。
「君が好きだ。一緒に生きてくれ」
可哀想で可哀想で仕方がない。ジャミルくんが何日も何日も僕の隣に居てずっと好きだ好きだすまない悪かったそんなつもりじゃなかったと言っていたのが、今になってやっと耳から脳へ送られてきた。
でも、わかっている。
「きみが好きなのは、きみに必死に好かれようとしてた僕でしょ」
それが居なくなるのが惜しくてこんなに必死になって、可哀想に。僕がジャミルくんのことを好きになって、少しでも好きになってもらえるように、必死に。
「きみに都合のいい言葉を吐いて、きみの今までの努力を、苦しみを、痛みを、ちゃんとそのまま受け取ろうと必死になってた僕は可愛かったでしょ?」
「そりゃあそうだよ。僕はきみの全てを肯定する為に、きみの全てを肯定する僕の全てを肯定する為に、きみを好きになったんだから」
「なんなのさ、これは。何?本当にこれ。僕はきみを好きな自分に酔ってるだけだし、きみはきみを好きな僕を見て自分に酔ってるだけだ。つまんないね。なんてつまんないんだろ。くだらないな。浅いな。最悪だよ」
涙が溢れる。それも気持ちが悪い。嫌だな、嫌だよ。だって利己的に身体ができてるんだもん。そうにしかなれない。綺麗になりたい。綺麗になりたかった。純粋にただジャミルくんを好きなだけで在りたかった。
ジャミルくんがカリムくんの方を庇った時、驚くほど彼への感情が冷めた自分を観測して、心の底から、生まれて来なければよかったと思った。
「僕はね、きみに絶望してるんじゃないんだよ。僕に絶望してるんだ」
「きみが、さっきお前を守ればよかったって言ったのにも嫌悪感を覚えてるけどね。両方助ければよかったって言わなかったところが、僕に好かれようと必死で気持ち悪い。そんなに自分のこと好き?」
「ああ、消えちゃいたいな。消えちゃいたい。お互い相手使って自分慰めて、もう、いいよ。くだらないし、やめよ?これ以上続けても、ただただただ気持ちが悪いだけだよ」
「お前、どうして俺を買った!」
その言葉には、聞き覚えがあった。
胸倉を掴まれて揺さぶられる。ジャミルくんの顔は怒りに染まって、でも目尻から涙が溢れて。
だから、ああ、思い出してしまった。
「……、きみを、愛したかったからだよ」
ジャミルくんは僕の胸倉から手を離して、僕に縋り付くように。
「それで、もう、それだけでいい、余計なことを考えるな。それだけでいいから」
俺の側に居てくれ、と必死なジャミルくんの声。必死で笑える。ばかみたい。なんの回答にもなってないし。結局僕ら自分が大好きってことで終わりじゃん。
「お前は俺を買ったんだから、他の奴じゃない、俺を選んだんだ。愛したかったんだろ?そうすればいい。裏切られたくないって、大丈夫だ。俺は、本当にあの時お前の方に咄嗟に手が出なかったのを恨んでいる。でも、カリムの方に手が出たのは感情じゃない。ただの習慣だったんだ。裏切った訳じゃない!」
「そんなこと、わかってるよ」
僕がどこにいるかわからなくて、自分の掴んでいるのは──咄嗟に掴んだのはカリムくんで、でも僕が狙われているのかカリムくんが狙われているのかわからなかったから、名前を呼ぶのは躊躇われて、暗闇の中僕が居たあたりに目を向けて焦った顔をしていたのを見た。その顔は、まだ脳裏に焼き付いている。ただの習慣だ。何年も、十数年もそうしてきたから、そうしてしまっただけ。
それがわかっていてジャミルくんに冷めた僕に──僕は絶望したんだから。
「もう、もういいから、全部いいから、一緒にいてくれ」
「……、」
「買ったんだから、捨てないでくれ」
そんな、そんな。
そんな言い方は、ひどい。ずるい。
「お前しか居ないんだ」
僕もきみしか居なかったのにね。
くだらない言葉。くだらないってわかってるのに、揺さぶられる心。軽っぽしい心。
軽っぽしい心なんてさ。
「……、僕のマジカルペン、どこ?」
「……なにを、するんだ」
ジャミルくんの言葉に、僕は微笑みを返して、ジャミルくんの──僕のプレゼントした──ネックレスを外し、自分の嵌めていた青い宝石の指輪を指から抜いて、ベッドサイドの棚の上に置いた。
僕の意図を察したらしいジャミルくんは、苦々しげな表情をして、それでも素直に僕にマジカルペンを取ってきて渡して。
お互いにマジカルペンを向けた。
やっぱり僕たち、呆れ返るほど似た者同士だったね。
「……なんで生きてんの、僕」
やっと頭の少しまともに動くようになった僕がそう言うと、ジャミルくんは大層怒った。なんでそんなに怒ってるのかわからないくらい怒っていた。
「あそこで死ねたら、綺麗だったのに」
二度とそんなことを言うな、と胸倉を掴まれた。本当に、なんでそんなに怒っているんだろう。
「……今からでも、殺してほしい、くらいなんだけど」
すごく悲しそうな顔をされたので、ごめんねと頭を撫でてあげた。今まであった生への執着が、まだ何かできることが、やることが、見つけていないだけであるだろうという希望が、ジャミルくんが咄嗟にカリムくんを庇った瞬間、すとん、と消えた。そりゃあそうだよね、と、腑に落ちた感じがして、なるほど僕の人生って結局こういう感じなんだ、と合点が行ったから。
ジャミルくんが僕の側に居るのは、落ち着かなかった。カリムくんも時々来たけれど、彼と一緒に帰っては行かなくて、帰ってほしいな、とずっと思っていた。
カリムくんが毒の鑑定をしたから助かったらしいという話を聞いて、こいつはどこまで僕の邪魔をするんだと思ってしまった。
「もう、もういいんだよ、ジャミルくん」
ありがとう、とお礼を言っても彼は辛そうな顔をするだけで。彼が僕に何を求めているのかがわからなくて。
「……あと、何をすればいいの」
生きてほしい、と絞り出すように言われた。なんで生きなくちゃいけないんだろうか。もういいのに。何をすることがあるんだって言うんだろう。
いっぱい迷惑かけてごめんね。付き合ってくれてありがとう。残せるものは全部ジャミルくんにあげるから、好きに使ってね。好きなところに行ってね。きみはもう自由なんだよ。
それ以外、もう彼に言うことはなかったのに、僕が何回それを言っても、ジャミルくんは僕の側を離れようとしなかった。
やっぱり矢には死ぬような毒が塗られていたらしくて、僕はしばらく病院から出られそうにないと聞かされた。常に身体中が怠いのは、毒のせいにしていいんだろうか。
ジャミルくんはなんだか泣き虫になってしまっていて、なんの前触れもなく泣き出すことが増えてきた。
どこでついた癖なのかはわからないけど、泣いている人を見ると手が勝手にどこかしらを撫でて摩る。ジャミルくんは僕がそうすると、もっと酷く泣く。でも別にどうでもいい。撫でられるのが嫌なら僕から離れればいいし。
気付けばジャミルくんが僕にキスをしている。口の中を舐められるのは別に嫌でもないから好きにさせてあげていた。僕の腰に乗っかって強く抱きしめて、尚も口の中を舐められる。僕は別にいいんだけどジャミルくん病院のひとに見つかったら恥ずかしいのに、と思った。
頭を優しく撫でられる。それはちょっと気持ちよくて、目を瞑った。胸に抱かれて撫でられるのは、あたたかくて。
「ハイネ、好きだ」
久しぶりに言葉が脳味噌の中を通った気がした。理解できないけど。いや、意味はわかるけど。
「好きだ、好きだよ」
そういえばずっとベッドの横で似たようなことを言っていた気がする。何を言ってんのかよくわかんなかったけど、今やっとわかった。なんでそんなことを言っているのかはわからないまま、意味だけは、意図だけは理解できる。
泣きそうになった。ジャミルくんが可哀想で。
「なんで?」
僕がそう問い掛けると、ジャミルくんは目を見開いて頬を染めた。ジャミルくんが可哀想で、ちょっと悲しい声が出て、僕がそんな声を出すのは久しぶりだったからかもしれない。
「すまん、すまない、俺は、俺はちゃんとお前を守るべきだった」
「いいんだよ、いいんだ」
「そんなつもりじゃ、そんなつもりじゃなかったんだ」
ジャミルくんが泣いているのが可哀想で背中を撫でてあげると、涙の勢いが増してしまった。
「君が好きだ。一緒に生きてくれ」
可哀想で可哀想で仕方がない。ジャミルくんが何日も何日も僕の隣に居てずっと好きだ好きだすまない悪かったそんなつもりじゃなかったと言っていたのが、今になってやっと耳から脳へ送られてきた。
でも、わかっている。
「きみが好きなのは、きみに必死に好かれようとしてた僕でしょ」
それが居なくなるのが惜しくてこんなに必死になって、可哀想に。僕がジャミルくんのことを好きになって、少しでも好きになってもらえるように、必死に。
「きみに都合のいい言葉を吐いて、きみの今までの努力を、苦しみを、痛みを、ちゃんとそのまま受け取ろうと必死になってた僕は可愛かったでしょ?」
「そりゃあそうだよ。僕はきみの全てを肯定する為に、きみの全てを肯定する僕の全てを肯定する為に、きみを好きになったんだから」
「なんなのさ、これは。何?本当にこれ。僕はきみを好きな自分に酔ってるだけだし、きみはきみを好きな僕を見て自分に酔ってるだけだ。つまんないね。なんてつまんないんだろ。くだらないな。浅いな。最悪だよ」
涙が溢れる。それも気持ちが悪い。嫌だな、嫌だよ。だって利己的に身体ができてるんだもん。そうにしかなれない。綺麗になりたい。綺麗になりたかった。純粋にただジャミルくんを好きなだけで在りたかった。
ジャミルくんがカリムくんの方を庇った時、驚くほど彼への感情が冷めた自分を観測して、心の底から、生まれて来なければよかったと思った。
「僕はね、きみに絶望してるんじゃないんだよ。僕に絶望してるんだ」
「きみが、さっきお前を守ればよかったって言ったのにも嫌悪感を覚えてるけどね。両方助ければよかったって言わなかったところが、僕に好かれようと必死で気持ち悪い。そんなに自分のこと好き?」
「ああ、消えちゃいたいな。消えちゃいたい。お互い相手使って自分慰めて、もう、いいよ。くだらないし、やめよ?これ以上続けても、ただただただ気持ちが悪いだけだよ」
「お前、どうして俺を買った!」
その言葉には、聞き覚えがあった。
胸倉を掴まれて揺さぶられる。ジャミルくんの顔は怒りに染まって、でも目尻から涙が溢れて。
だから、ああ、思い出してしまった。
「……、きみを、愛したかったからだよ」
ジャミルくんは僕の胸倉から手を離して、僕に縋り付くように。
「それで、もう、それだけでいい、余計なことを考えるな。それだけでいいから」
俺の側に居てくれ、と必死なジャミルくんの声。必死で笑える。ばかみたい。なんの回答にもなってないし。結局僕ら自分が大好きってことで終わりじゃん。
「お前は俺を買ったんだから、他の奴じゃない、俺を選んだんだ。愛したかったんだろ?そうすればいい。裏切られたくないって、大丈夫だ。俺は、本当にあの時お前の方に咄嗟に手が出なかったのを恨んでいる。でも、カリムの方に手が出たのは感情じゃない。ただの習慣だったんだ。裏切った訳じゃない!」
「そんなこと、わかってるよ」
僕がどこにいるかわからなくて、自分の掴んでいるのは──咄嗟に掴んだのはカリムくんで、でも僕が狙われているのかカリムくんが狙われているのかわからなかったから、名前を呼ぶのは躊躇われて、暗闇の中僕が居たあたりに目を向けて焦った顔をしていたのを見た。その顔は、まだ脳裏に焼き付いている。ただの習慣だ。何年も、十数年もそうしてきたから、そうしてしまっただけ。
それがわかっていてジャミルくんに冷めた僕に──僕は絶望したんだから。
「もう、もういいから、全部いいから、一緒にいてくれ」
「……、」
「買ったんだから、捨てないでくれ」
そんな、そんな。
そんな言い方は、ひどい。ずるい。
「お前しか居ないんだ」
僕もきみしか居なかったのにね。
くだらない言葉。くだらないってわかってるのに、揺さぶられる心。軽っぽしい心。
軽っぽしい心なんてさ。
「……、僕のマジカルペン、どこ?」
「……なにを、するんだ」
ジャミルくんの言葉に、僕は微笑みを返して、ジャミルくんの──僕のプレゼントした──ネックレスを外し、自分の嵌めていた青い宝石の指輪を指から抜いて、ベッドサイドの棚の上に置いた。
僕の意図を察したらしいジャミルくんは、苦々しげな表情をして、それでも素直に僕にマジカルペンを取ってきて渡して。
お互いにマジカルペンを向けた。
やっぱり僕たち、呆れ返るほど似た者同士だったね。