お前、どうして俺を買った!
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3年生になってすぐの、彼を買ってから半年と少しが経過した頃。丁度良く訪れた彼の誕生日に、数個の服やら日用品やらの贈り物と一緒に、僕は彼に木製の箱に入ったナイフを渡した。
僕を一刺しで、簡単に殺せるナイフを。
「ママもパパも、おめでとうって大喜びしてくれてた。受け取ってもらえるといいねって」
「受け取り拒否ができる類のものなのか、これは?」
「できると思うよ。するメリット、相手のことがすごく嫌いだから受け取りたくないって場合以外であんまり思い付かないけど」
「いや、受け取るさ。……そんなに不安げな顔をするな」
ジャミルくんはそう言って受け取ってくれる。頭を撫でてほしくてお腹へ頬擦りすると、優しく撫でてもらえて嬉しい。
「……髪が伸びたな」
「気に入った?」
「触り心地がいい」
嬉しい。嬉しくてジャミルくんの手首をぎゅっと掴んだ。嬉しいな。好きだよ。きみのために伸ばしたんだ。ケアもちゃんとしてる。
「……そういえば、最近知ったんだけど」
「ああ」
「カリムくんがカレー嫌いなのって、ジャミルくんが毒見役でカレー食べて、毒にあたっちゃったからなんだってね」
「……」
ジャミルくんが溜め息を吐く。これは嫉妬から出た言葉じゃないのに。
「いいこだね」
「……良い奴ではあるよ」
「最近きみのご両親と遠隔で話したんだけど、……言っちゃ悪いんだけど、すごく気分の悪い感じで」
「……ああ」
粗雑な対応を受けた訳じゃない。寧ろその逆だ。まるで家に指名手配中の殺人鬼でも来たかのように扱われた。
いや、命を握っていると言う意味では、同じなのだろうし、その対応は正しいのだろうけれど。
「……ジャミルくんのこと、すごく悪く言ってた」
うちのバカ息子が大変にご迷惑をお掛けして、とか、ハイネ様と違いなんにもできない奴で、とかって言われて。
「それが礼儀なんだ。気を悪くするな」
「するよ。させて。……別に、きみの両親に対して気を悪くしてる訳じゃない。そんなのを礼儀にしちゃった先人に怒ってるんだ」
それに、とんでもない話も聞いてしまった。背筋がゾッとした。泣きそうになった。
ジャミルくんは僕の言葉に笑っているが、僕はそんな気分じゃなかった。
「……君も大概良い奴だよ」
「良い奴なのはジャミルくんだ」
「……何故だ?」
「折檻なんて、全然現役なんじゃないか。きみも何回も、鞭を打たれたことがあるって」
何か粗相をしたら遠慮なくやってやってください、って鞭を見せられてそう言われて、なんでそんな、そんなの古いんじゃなかったのと──以前折檻の話をした時の、彼の表情を思い返してみると。
あの時の僕だったからわからなかった。今の僕だから、わかってしまった。彼の表情が、〝折檻なんて流石にもう古い〟と口に出した彼の表情が、こちらを心配して何かを隠す時の彼の表情で。
吐きそうになった。
「大好きだよ、ジャミルくん」
「……うるさい」
「咄嗟に鞭送ってもらうの断っちゃったけど、送ってほしいって頼んでみるから、今度僕にやってよ」
「……」
「お願い、お願いだから」
彼の痛みを知らない、知らずに生きて来れた自分が許せなくて。
大好きだから。
「……俺のことが好きなら、そんなことを頼むな」
「だって許せないだろ。許せないよ。きみにして貰わなきゃ自分を許せない」
「対等を求めすぎるのも如何なものかと、生まれてはじめて思ったな」
それが嫌だったからこそ、僕からそれを隠したんだから。遠ざけたんだから。許せないよって。
「……いい、俺が許す。だから君も自分を許してくれ」
……そう、言われたら。
「率直に言ってやりたくないしな」
「……やりたくなったら言って」
「ああ、ああ、わかったよ。ははは」
けらけらと楽しそうに笑う彼が僕の頭を撫でてくれて、最近彼は無邪気な顔を見せてくれることが増えたな、とふと思う。
代わりに僕は泣いてたり、泣きそうになってることが増えたけど。
「……いちばんすきだよ」
「やれやれ、俺も君が一番好きだよ。……はぁ」
何回も何回も言わされて飽き飽きだ、という雰囲気を出しながら、それでも言ってくれるジャミルくんが好きだ。
「……近々、スカラビア一緒に来てよ」
「……突然だな。何故だ?」
「カリムくんが、ジャミルくんの誕生日パーティーやりたいって言ってて、でも当日は僕を優先してくれるって言ってくれて」
「お前、だから突然カリムが良い奴だと……」
「うん。……いい?」
「ああ。勿論いいさ。……新しい従者の働きぶりを見てやる」
「ふふふ、怖いなぁ」
ジャミルくんが、好きだ。心の底から。
そう思えることが、なにより嬉しかった。