お前、どうして俺を買った!
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ホリデー、僕の家の方へ連れて来たジャミルくんを、パパとママは──予想通り──すごく歓迎してくれた。ジャミルくんはずっと猫被りして可愛い顔をしていて面白かったけど、見せつける為に僕に対していつもより過剰にスキンシップをしてきて、僕が恥ずかしくなって顔を背けると僕にだけ見える角度で嗜虐的な顔をするのが堪らなかった。
ママともパパともジャミルくんが短時間ですごく仲良くなっているのを見て、流石だな、と思った。話題の引き出しが多いのは勿論、聞き上手で尚且つ褒め上手。使用人の方々と一緒に料理を作って振る舞ってくれて、一緒に食べた。すごい美味しかった。
そして彼は何より会話が上手だった。会話が上手すぎて、親がジャミルくんにいい歳して気分良くさせられているのを見て、ちょっと嫌な気分になってしまったほどだった。
「元々ハイネの選んだ人だったから心配なんてしていなかったけれど、予想以上に良いのを掴んで来て驚いたよ」
「いえいえ、俺はまだまだです。従者としての経験が役立てば良いのですが……」
「ハイネも器用だからね、そのハイネが器用だって言うからどれくらいなのかと思ったら本当に色々手慣れててすごいね!これなら安心して老後が任せられる」
「ははは、一層努力します」
ジャミルくんもうちの親に気分良くさせられてるんじゃないよ、と思うけれど、仲が良くなってくれるのはいいことなのでまあいいか、と溜め息を吐いた。
「……本当に俺でいいのか?」
ジャミルくんがそんな弱気なことを呟いたのは、何もかも終わった後、寝室でのことだった。
「もうきみがダメだって言っても戻れないよ」
「はは、わかっているよ」
「きみ、僕と結婚したら何がしたい?」
「ん?……、旅、は前に言ったか」
「うん」
いいよ、行っておいで、って僕は言った。定期的に連絡してくれたら嬉しいけど、それもしなくていいよ。色々見てきて、やりたいことを探しておいで、って言った。
僕も連れてって、って、ちょっと冗談めかしてだったら──言っても許されるかなと思ったけど、僕は言わなかった。ジャミルくんのことが好きだから、もし一緒に行ったら世話焼きな彼が僕のことを気遣ってしまうのが──十分に楽しめないのがわかるから。
本当は彼は結構ノリがいいのに、誰か知り合いが居たらセーブする側に回らないといけなくなってしまうのを、知っているから。
どれだけの期間帰ってこなくたって──僕は寂しいけど──いいよ。帰ってきてからまた行ってもいいし、きみはもう完全に自由なんだよ、って言ってあげたら、見たこともないくらい目をきらきら輝かせていて、本当にいいのかと何度も聞いてきて、僕は泣きそうになった。
彼の性格上、1年やそこらで帰ってくることを予測しているけれど。
帰って来なくたっていいよって言って、帰ってくるよ、と返してくれなかったのが悲しくて。
でも、絶対に彼をこれ以上縛りたくなかった。一つで十分だ。ジャミルくんの家がここってだけで、十分だ。ジャミルくんに好きなことをしてほしかった。ジャミルくんが好きだから。
「NRC卒業したらすぐ行きたい?それでもいいけど」
「っ……い、いいのか……!?そんなに……はやく……」
「いや、早い方がいいでしょ?色々見てやりたいこと見つけるにはさ」
「……ありがとう」
そんな素直にお礼を言わないでほしい。僕が肩を竦めて微笑むと、ジャミルくんも肩を竦めて笑ってくれた。
それで十分だ、と、僕は置いていかないでほしいと叫ぶ僕を黙れと引っ叩いた。
ジャミルくんが今までどれだけ束縛されて生きてきたと思ってるんだ。僕以上に彼の幸せを望んで、それを叶えてやれる奴が居るものか!僕がそれをやらなかったら誰がやるんだ!と胸倉を掴んで揺さぶると、うるさいうるさい!でも寂しいだろ!心の中で言うくらい好きにさせろ!と喚くので、僕は僕を叩いてごめんねと胸倉を離した。それで困るのは僕だけだし、心の中で言うくらいならいいよって。
「……本当に君は良い奴だな」
上機嫌そうなジャミルくんに頭を撫でられる。そうだよ。良い奴になろうとして頑張ってるんだもん。
何も言わずにぶすくれていると、ジャミルくんが頭を抱き締めてきた。
「けなげな奴。……ちゃんと君の元へ戻ってくるから大丈夫さ」
「っ……!……自由にしていい、から」
「はは、はははは。……わかってるさ」
どきどきと胸が高鳴る。好きだよ。好き。わかってくれててよかった。好きだよ。堪らず彼の袖を掴むと、手櫛で髪を撫でられる。その手つきが優しくて、うっとりしてしまった。
帰ってくる場所であるならそれでいいよと、置いていかないでと喚いていた僕も静かになってくれて、代わりにジャミルくんが自分から君の元へ戻るって表現してくれた!と喜ぶ僕が騒ぎ出して、ジャミルくんに出会ってから本当にいつも心がうるさいなと、煩わしく、しかし確かに、愛おしく思った。