「ハビエル・ミレイ！？ワシはあんな毛唐は認めん！その上毛唐ならぬ外道じゃ！」
祖父の島田辞次がネットニュースを見、いつものように絶叫した。バブル期は企業戦士であったものの、定年退職した現在は年金生活である。元AV女優の母と、父の和美の稼ぎが無ければ、路頭に迷っていただろう。当然の事ながら、頭髪も薄くなり、プラチナブロンドに近い白髪である。孫の島田凮月が、軽く呆れたような表情で突っ込みを入れる。
凮月はやや赤みと黄みのかったアイボリーのような銀髪で、髪は肩甲骨まで伸びている。
「おじいちゃんやめて！そもそもミレイって歌手じゃないの？」
「ワシは年寄りなのでその歌手は知らんけ！画像見たけどイタリア系の白人だろう！よって毛唐じゃ！」
「またそんな事言ってたら、おじいちゃんがキャンセルされるよ！」
孫と祖父が言い争う中、父親の島田和美が苦笑いしながら横入りする。茶色いパンチパーマが特徴的な中年男性である。この掛け合いは、言葉にすると激しく思えるが、現代のアメリカの民主党支持者と共和党支持者のように、分断されている訳ではなく、至ってコントのように楽しげですらある。
「凮月、俺はキャンセル文化は知らない。ギャンブルはやらんが、見てて面白いな。ところで、俺のノイズキャンセリングイヤホンなら3週間6日前に無くしたが」

「知らねー！！」
これが、賑やかな微笑ましい島田家の日常風景である。