鳴海弦
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家路に着く途中、コンビニの前を通るとパタパタとはためくソレが目に入った。
でかでかとポップな字体で書かれた“いちごフェア”の文字。赤々としたいちごのイラストに腹の虫が反応する。
あぁ、これはもう苺を食べないと気が済まないな。そう思い店内へと誘われるように歩みを進めた。
いちごのミルフィーユに艶やかないちごの乗ったショートケーキ、大福も美味しそう。いちごソースのかかったプリンもいいなぁ…
やっぱりいちごのショートケーキにしようかな、最後の1つだし。そう思い手を伸ばせば横から伸びた手にショートケーキは持っていかれる。
「あっ…」
追うように目線を動かせばラフな格好の男の人がかさり、とケーキをかごの中に入れる。
かごの中には炭酸やエナジードリンクのほかにもスナック菓子が入っていた。
「…なんだ、これはボクが先に取ったんだ。ボクのものだぞ」
“誠意”と書かれたTシャツを着た男の人は前髪が下ろされていて表情は見えなかったが、ふんっと鼻を鳴らすとそのままレジへと向かって行った。
誠意のかけらもない行動に呆気にとられてその背中を見送る。
________それからというもの
誠意さんとはコンビニでよく出くわすようになった。
入れ違いにコンビニに入ることもあれば、雑誌を立ち読みしていたり。会計列で前後に並ぶこともあったりし勝手に顔見知りな気がしている。
何かの雑誌で見かけた気もするけど、どの雑誌で見かけたのかも覚えていないので誠意さんと勝手に呼んでいる。
呼びかけることもないし不都合はない。
いつものようにコンビニに寄れば誠意さんは電話で話しているようだった。
「…だから!ボクは参加しないと言っているだろ!それぐらいのことならボクがいなくてもどうにでもなるだろ!…………わかった、すぐにいく」
そう言って誠意さんは電話を切ると乱暴な仕草でスマホをポケットにねじ込む。
トラブルでもあったのだろうか、どんな仕事をしているのか分からないが大変そうだなと思っていると目が合ってしまった。
ここで逸らすのも怪しまれてしまいそうだ。
「なんだ、ボクに何かようか?」
「あ、いえ。お仕事大変そうだなって思いまして、お疲れ様です」
「ふん、大変だろうとやることは変わりない。それにしてもよく会うな。キミはボクのファンなのか?」
突然のことにきょとんとしてしまう。
ファン?何かアイドル活動でもしているのだろうか…あいにくテレビは見ないのでわからない。
前髪から覗く瞳は赤く確かに顔立ちは整っていそうだ。
「ファン、ですか?ごめんなさい。整った顔立ちだなとは思いますが…誠意さんが誰なのかはちょっと知らないです」
あ、やってしまった。勝手につけたあだ名で呼んでしまった。聞き逃して欲しいと願いつつ誠意さんの顔を見れば鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
しかも小声で誠意…て呟いてる。
「あー…お名前が分からずその、Tシャツの文字で誠意さんって言っちゃいました」
「キミはボクを見かけるたびそう思っていたと?」
「そうなりますね。呼ぶつもりもなかったので…」
「…鳴海弦」
「え?」
「ボクの名前だ!“誠意さん”じゃない。もう暗くなる。気をつけて帰れよ」
そう言うと誠意さん改め鳴海さんは去っていった。
初めて会話した気がする。
しかも失礼なことをしてしまったのに最後は私の心配までしてくれていた。
鳴海さんは案外優しい人なのかもしれない。それにあの防衛隊第一部隊の隊長様と同じ名前なんだな、と思いながら晩酌用のお酒を買うと帰路につくことにした。
いつもよりも遅くなってしまった帰り道、へとへとの体を引きづりながらあることに気づく。
一定の距離を保った足音がずっと付いてくるのだ。
気のせいかと遠回りをしてみるものの足音が消えることはない。
違和感は確信へと変わり、このまま帰るわけにも行かず、いつものコンビニへと足を向ければ足音は変わらず付いてくるのだった。
明るい店内に少しだけ胸を撫で下ろす。
雑誌コーナーで立ち読みをするフリをして外を見れば見慣れない男性がこちらの様子を伺っている。幸い私が見たことには気が付いていないようだ。
どうしたものか…
雑誌を閉じて外からは見えないドリンクコーナーへと移動しどう切り抜けるか考えていたところに隣に気配を感じ思わず身構える。
そろりとと見れば思わず安堵の息が漏れた。
「…鳴海さん、こんばんは」
「あぁ、キミか。こんな遅くまで仕事か?」
「そんなところです。鳴海さんはお出かけ帰りですか?」
見ればいつもの格好ではなくシンプルなパーカーにパンツスタイルだった。
かっこいい人はなにを着ても似合うんだな。場違いなことをぼんやりとした頭で考える。
「そんなところだ。なんだ、ボクの顔に何かついてるか?」
「いえ、えっと、鳴海さん、このあとお時間ありますか?」
自分でも場違いなことを言った自覚はある。案の定鳴海さんは怪訝そうな表情を浮かべている。
コンビニで数回会った程度の私が突然この後の予定を聞いたのだ。怪しいにも程がある。
あいにく頼れる人は今目の前にいる鳴海さんしかいない。一か八かと思い言葉を続けた。
「後を付けられているんです。気のせいかと思いここに来るまでも道を変えたりしたんですが…」
「知り合いなのか?」
「いえ、知らない人です。お店の中までは入ってこないみたいで…まだ外にいたら嫌だなって思いまして、こんなこと頼むのは申し訳ないのですが…家まで一緒に帰っていただけませんか?」
言いにくいお願いをしてしまい視線を上げられずにいると、鳴海さんはどこかへ行ってしまう。
引かれちゃったかな、仕方ない。
商品を見て回るフリをしてまだいるか確認しよう。居なかったらさっさと帰ればなんとかなる。重い足取りで移動しようと思えば、鳴海さんがスマホを片手に戻ってきた。
「こいつか?」
そう言いわれ画面を見ればそこには、確かに私の後をつけていた人物の姿が映し出されている。
「あ、その人です…まだ、居たんですね」
淡い期待は無くなってしまった。鳴海さんが戻ってきてくれたと言うことは、一緒に帰ってくれるのだろうか。
「見捨てていくほどボクは薄情者じゃないからな」
鳴海さんはかごを持つと飲み物やスイーツを適当に放り込む。
「ほら、キミも何か欲しいものないのか?…名前はなんだ?」
そう言えば名乗っていないことに気づき慌てる。
「あ、なまえです。苗字 なまえ。あの、ありがとうございます!」
「なまえ、か…。なまえ礼はいらん。まずは家に帰ることだけを考えろ」
「あ、はい…」
いつのまにかかごの中身はパンパンになっていた。
ほとんど鳴海さんが入れたものである。
「鳴海さん、支払いは私がします!」
かごを奪うようにレジで会計を済ませれば鳴海さんは少しだけ不満げな顔をしていた。
お詫びの品としても安いぐらいだ。そう思っていると袋は鳴海さんに取られる。どうやら持ってくれるらしい。そのまま私の手を取り歩き始めたため、慌てて見上げれば鳴海さんは少しだけ口角を上げている。
「変な奴がいるんだろ?付き合ってることにした方が好都合だろ」
「なるほど。その考えには至りませんでした。それなら、こうしましょう」
指を絡めるように繋げば鳴海さんはぴくりと肩を揺らす。あ、耳が少し赤い。
思わず笑みが漏れる。自分から恋人のふりをすると言ったのに手を絡めただけで赤くなるなんて。可愛らしいところもあるんだな、そう思いながらコンビニから出れば見知らぬ男と目が合う。
繋がれた手に思わず力を込めれば、安心させるかのように握り返された。
鳴海さんを見上げれば想像していたよりも優しげな表情でなまえ、と私の名を呼ぶ。恋人のふりなのに勘違いしてしまいそうなほどに甘い声に思わず顔が熱くなる。
なにか、何か言わなければと考えあぐねるうちに不意に頬を撫でなれ顔が近づく。
触れるギリギリのところで止まり離れていった。
「…行ったか」
鳴海さんの声で我に返る。
一瞬がとても長く感じ息を止めていたことに気づいた。
見知らぬ男は私と鳴海さんがキスをしたと思っただろうか。
鳴り止まない鼓動を落ち着けるように息をつけば見知らぬ男の姿はどこにもなかった。
「変に刺激するよりも良いだろう…なんだ、本当にして欲しかったのか?」
鳴海さんの意地悪な笑みに思わず声が上擦る。
あの優しげな表情はどこに行ったのだ。
「ちっがいますよ!びっくりしたんです!教えてくれれば、こんな…もう!」
いまだにくつくつと笑う鳴海さんの手を引いて歩き出す。不安や恐怖はどこかに吹き飛んでしまった。繋がれたままの手は温かく離すタイミングを逃したままだ。
街灯に照らされた道を進めばいつの間にかマンションへと着いた。
「あ、つきました。ここです。今日は本当にありがとうございました。鳴海さんがいなかったら私、きっとまだコンビニにいました。また改めてお礼させてください」
「礼はいらないと言った。…なまえ。少しあがらせろ。このあいだ、ケーキ食べたかったんだろ?いちごのじゃないが入れてある」
「あ、はい…!ど、どうぞ…!」
どうやらまだ鳴海さんと一緒にいれるらしい。
部屋散らかってなかったっけ?と今朝の記憶を呼び起こしつつエントランスホールを抜け部屋へと続く廊下を進む。
いちごのケーキのこと覚えてたんだな。
家まで来て欲しいとお願いしたがまさか上がることになるなんて。先ほどとは違うどきどきが気づかれていませんようにと玄関の鍵を開けた。
防衛隊第一部隊隊長の鳴海弦だと気付いたのはその後のことで、呆れたように笑われた。
合間を縫っては弦は私を家へと送ってくれるようになり、恋人のふりじゃなくなったのはまた別の話。
でかでかとポップな字体で書かれた“いちごフェア”の文字。赤々としたいちごのイラストに腹の虫が反応する。
あぁ、これはもう苺を食べないと気が済まないな。そう思い店内へと誘われるように歩みを進めた。
いちごのミルフィーユに艶やかないちごの乗ったショートケーキ、大福も美味しそう。いちごソースのかかったプリンもいいなぁ…
やっぱりいちごのショートケーキにしようかな、最後の1つだし。そう思い手を伸ばせば横から伸びた手にショートケーキは持っていかれる。
「あっ…」
追うように目線を動かせばラフな格好の男の人がかさり、とケーキをかごの中に入れる。
かごの中には炭酸やエナジードリンクのほかにもスナック菓子が入っていた。
「…なんだ、これはボクが先に取ったんだ。ボクのものだぞ」
“誠意”と書かれたTシャツを着た男の人は前髪が下ろされていて表情は見えなかったが、ふんっと鼻を鳴らすとそのままレジへと向かって行った。
誠意のかけらもない行動に呆気にとられてその背中を見送る。
________それからというもの
誠意さんとはコンビニでよく出くわすようになった。
入れ違いにコンビニに入ることもあれば、雑誌を立ち読みしていたり。会計列で前後に並ぶこともあったりし勝手に顔見知りな気がしている。
何かの雑誌で見かけた気もするけど、どの雑誌で見かけたのかも覚えていないので誠意さんと勝手に呼んでいる。
呼びかけることもないし不都合はない。
いつものようにコンビニに寄れば誠意さんは電話で話しているようだった。
「…だから!ボクは参加しないと言っているだろ!それぐらいのことならボクがいなくてもどうにでもなるだろ!…………わかった、すぐにいく」
そう言って誠意さんは電話を切ると乱暴な仕草でスマホをポケットにねじ込む。
トラブルでもあったのだろうか、どんな仕事をしているのか分からないが大変そうだなと思っていると目が合ってしまった。
ここで逸らすのも怪しまれてしまいそうだ。
「なんだ、ボクに何かようか?」
「あ、いえ。お仕事大変そうだなって思いまして、お疲れ様です」
「ふん、大変だろうとやることは変わりない。それにしてもよく会うな。キミはボクのファンなのか?」
突然のことにきょとんとしてしまう。
ファン?何かアイドル活動でもしているのだろうか…あいにくテレビは見ないのでわからない。
前髪から覗く瞳は赤く確かに顔立ちは整っていそうだ。
「ファン、ですか?ごめんなさい。整った顔立ちだなとは思いますが…誠意さんが誰なのかはちょっと知らないです」
あ、やってしまった。勝手につけたあだ名で呼んでしまった。聞き逃して欲しいと願いつつ誠意さんの顔を見れば鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。
しかも小声で誠意…て呟いてる。
「あー…お名前が分からずその、Tシャツの文字で誠意さんって言っちゃいました」
「キミはボクを見かけるたびそう思っていたと?」
「そうなりますね。呼ぶつもりもなかったので…」
「…鳴海弦」
「え?」
「ボクの名前だ!“誠意さん”じゃない。もう暗くなる。気をつけて帰れよ」
そう言うと誠意さん改め鳴海さんは去っていった。
初めて会話した気がする。
しかも失礼なことをしてしまったのに最後は私の心配までしてくれていた。
鳴海さんは案外優しい人なのかもしれない。それにあの防衛隊第一部隊の隊長様と同じ名前なんだな、と思いながら晩酌用のお酒を買うと帰路につくことにした。
いつもよりも遅くなってしまった帰り道、へとへとの体を引きづりながらあることに気づく。
一定の距離を保った足音がずっと付いてくるのだ。
気のせいかと遠回りをしてみるものの足音が消えることはない。
違和感は確信へと変わり、このまま帰るわけにも行かず、いつものコンビニへと足を向ければ足音は変わらず付いてくるのだった。
明るい店内に少しだけ胸を撫で下ろす。
雑誌コーナーで立ち読みをするフリをして外を見れば見慣れない男性がこちらの様子を伺っている。幸い私が見たことには気が付いていないようだ。
どうしたものか…
雑誌を閉じて外からは見えないドリンクコーナーへと移動しどう切り抜けるか考えていたところに隣に気配を感じ思わず身構える。
そろりとと見れば思わず安堵の息が漏れた。
「…鳴海さん、こんばんは」
「あぁ、キミか。こんな遅くまで仕事か?」
「そんなところです。鳴海さんはお出かけ帰りですか?」
見ればいつもの格好ではなくシンプルなパーカーにパンツスタイルだった。
かっこいい人はなにを着ても似合うんだな。場違いなことをぼんやりとした頭で考える。
「そんなところだ。なんだ、ボクの顔に何かついてるか?」
「いえ、えっと、鳴海さん、このあとお時間ありますか?」
自分でも場違いなことを言った自覚はある。案の定鳴海さんは怪訝そうな表情を浮かべている。
コンビニで数回会った程度の私が突然この後の予定を聞いたのだ。怪しいにも程がある。
あいにく頼れる人は今目の前にいる鳴海さんしかいない。一か八かと思い言葉を続けた。
「後を付けられているんです。気のせいかと思いここに来るまでも道を変えたりしたんですが…」
「知り合いなのか?」
「いえ、知らない人です。お店の中までは入ってこないみたいで…まだ外にいたら嫌だなって思いまして、こんなこと頼むのは申し訳ないのですが…家まで一緒に帰っていただけませんか?」
言いにくいお願いをしてしまい視線を上げられずにいると、鳴海さんはどこかへ行ってしまう。
引かれちゃったかな、仕方ない。
商品を見て回るフリをしてまだいるか確認しよう。居なかったらさっさと帰ればなんとかなる。重い足取りで移動しようと思えば、鳴海さんがスマホを片手に戻ってきた。
「こいつか?」
そう言いわれ画面を見ればそこには、確かに私の後をつけていた人物の姿が映し出されている。
「あ、その人です…まだ、居たんですね」
淡い期待は無くなってしまった。鳴海さんが戻ってきてくれたと言うことは、一緒に帰ってくれるのだろうか。
「見捨てていくほどボクは薄情者じゃないからな」
鳴海さんはかごを持つと飲み物やスイーツを適当に放り込む。
「ほら、キミも何か欲しいものないのか?…名前はなんだ?」
そう言えば名乗っていないことに気づき慌てる。
「あ、なまえです。苗字 なまえ。あの、ありがとうございます!」
「なまえ、か…。なまえ礼はいらん。まずは家に帰ることだけを考えろ」
「あ、はい…」
いつのまにかかごの中身はパンパンになっていた。
ほとんど鳴海さんが入れたものである。
「鳴海さん、支払いは私がします!」
かごを奪うようにレジで会計を済ませれば鳴海さんは少しだけ不満げな顔をしていた。
お詫びの品としても安いぐらいだ。そう思っていると袋は鳴海さんに取られる。どうやら持ってくれるらしい。そのまま私の手を取り歩き始めたため、慌てて見上げれば鳴海さんは少しだけ口角を上げている。
「変な奴がいるんだろ?付き合ってることにした方が好都合だろ」
「なるほど。その考えには至りませんでした。それなら、こうしましょう」
指を絡めるように繋げば鳴海さんはぴくりと肩を揺らす。あ、耳が少し赤い。
思わず笑みが漏れる。自分から恋人のふりをすると言ったのに手を絡めただけで赤くなるなんて。可愛らしいところもあるんだな、そう思いながらコンビニから出れば見知らぬ男と目が合う。
繋がれた手に思わず力を込めれば、安心させるかのように握り返された。
鳴海さんを見上げれば想像していたよりも優しげな表情でなまえ、と私の名を呼ぶ。恋人のふりなのに勘違いしてしまいそうなほどに甘い声に思わず顔が熱くなる。
なにか、何か言わなければと考えあぐねるうちに不意に頬を撫でなれ顔が近づく。
触れるギリギリのところで止まり離れていった。
「…行ったか」
鳴海さんの声で我に返る。
一瞬がとても長く感じ息を止めていたことに気づいた。
見知らぬ男は私と鳴海さんがキスをしたと思っただろうか。
鳴り止まない鼓動を落ち着けるように息をつけば見知らぬ男の姿はどこにもなかった。
「変に刺激するよりも良いだろう…なんだ、本当にして欲しかったのか?」
鳴海さんの意地悪な笑みに思わず声が上擦る。
あの優しげな表情はどこに行ったのだ。
「ちっがいますよ!びっくりしたんです!教えてくれれば、こんな…もう!」
いまだにくつくつと笑う鳴海さんの手を引いて歩き出す。不安や恐怖はどこかに吹き飛んでしまった。繋がれたままの手は温かく離すタイミングを逃したままだ。
街灯に照らされた道を進めばいつの間にかマンションへと着いた。
「あ、つきました。ここです。今日は本当にありがとうございました。鳴海さんがいなかったら私、きっとまだコンビニにいました。また改めてお礼させてください」
「礼はいらないと言った。…なまえ。少しあがらせろ。このあいだ、ケーキ食べたかったんだろ?いちごのじゃないが入れてある」
「あ、はい…!ど、どうぞ…!」
どうやらまだ鳴海さんと一緒にいれるらしい。
部屋散らかってなかったっけ?と今朝の記憶を呼び起こしつつエントランスホールを抜け部屋へと続く廊下を進む。
いちごのケーキのこと覚えてたんだな。
家まで来て欲しいとお願いしたがまさか上がることになるなんて。先ほどとは違うどきどきが気づかれていませんようにと玄関の鍵を開けた。
防衛隊第一部隊隊長の鳴海弦だと気付いたのはその後のことで、呆れたように笑われた。
合間を縫っては弦は私を家へと送ってくれるようになり、恋人のふりじゃなくなったのはまた別の話。