鳴海弦
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カチャカチャとコントローラーの操作音をBGMにお気に入りの小説に目を落としながら、そう言えばと声をかける。
「明後日って久しぶりに非番が一緒だよね?前に言ってたカフェに行きたいんだけど…行けそう?」
今の所長谷川副隊長から予定があるとは聞かされていない、急な討伐要請がなければ非番なのは確定だ。一応本人にも再度了承を得ようと訊ねてみればこちらをちらりと見て「…あぁ」と短く返される。内心よかった、と胸を撫で下ろしつつ
「ん、なら10時にはここを出たいから準備しておいてね」
ゲーム中にそっけないのはいつもの事なので気にならない。聞いてるかな?とは思はなくもないが、あまり話しかけて邪魔をするのもな、と読みかけていた小説に意識を向けた。
________当日は何を着ていこうかと思いを馳せながら。
「おそい…」
ちらりと時計を見やれば10時半を過ぎたところ。
待ち合わせの時間から30分も過ぎていた。
まさか、急用でも入った?とメッセージアプリを起動するも新着通知は0件。
もしや…と一抹の不安を抱えつつ、どうか杞憂でありますように。と、隊長室へと向かうのだった。
コンコンとノックをし、そろりと様子を伺えば、控えめなゲーム音と共にこんもりとした布団が目に入る。あぁ、やっぱりか…と、頭の芯がすっと冷える感覚がした。
「失礼します…」
咳払いをしつつ隊長室へと入れば、「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!ついに!!!ついに!!!ランクアップ!!!!ボクにできないことはない…!!!」とガバリと布団の住人は勢いそのままにガッツポーツを決めていた。勝利の雄叫びとはこのことか。
「…鳴海隊長」
努めて、普段と変わりない声音で話しかければキラキラとした赤い瞳は私を捉える。
「なまえ!!!!!ついに!ついに!!!やったぞ!!!!!待ちに待ったランクアップ!!!夜通しやった甲斐があった!…ん?そんなことより、こんな時間にどうしたんだ……あっ…」
言い終わるや否や、ハッとした表情からいっぺんわなわなと青ざめていく。
しかし、心まで冷えてしまった私には、ランクアップを喜ぶことも気づいて焦る鳴海の心情に寄り添う言葉をかけることもできなかった。
「随分とお楽しみだったご様子で。どうぞ、そのまま続けてください」
にっこりと笑みを貼り付け身を翻せば、慌てた様子で布団から抜け出し駆け寄ろうする鳴海が視界の端でYAMAZONの箱に足を取られダンボールの山へと突っ込むのだった。
無情にもバタンと扉は閉まる。
カフェにも自室に戻る気にもなれず、ふらりと立ち寄ったのは副隊長室。
ノックをし入室すれば驚いた表情の長谷川副隊長にどうしたのかと問われ、ここに至るまでを吐露すればため息混じりにそうかと腕を組み何かを思案しているようだった。
「…とうぶん、鳴海隊長と会いたくないです」
子供じみた考えを口にすれば、長谷川副隊長はふむ、と頷きある提案を持ちかけた。
「立川に欠員が出たらしくてな、2週間ほど行ってくれるか?」
物理的に合わない距離に行けるのなら、と願っても無い提案に二つ返事で引き受けた。
善は急げ、その足で立川へと向かうのだった。
さて、立川基地でのやることと言えば新人隊員の育成サポートや副隊長、小隊長の補佐、関われる分の書類の整理などいつもよりもやや軽めの業務だった。
新人隊員たちは切磋琢磨しつつも和気あいあいとした雰囲気があり、吸収しようとする意欲に身も引き締まる思いだ。
なにより、純粋に慕われるのもこそばゆいなぁ、なんて
ぐっと伸びをして資料室から出る。
頼まれた書類を亜白隊長の元へ届ければ、今日の業務は終わりだ。
隊長室へと続く廊下を進めば、見覚えのある人影が近づいてくる。保科副隊長だ。
どうやら彼も亜白隊長に用があるらしい。
「お疲れ様、苗字ちゃんここでの生活も慣れた?無理してへん?」
「お疲れ様です。保科副隊長、おかげさまでだいぶ慣れました。みなさん優しいので、無理もしてないです。ただ、慣れた頃に帰るのはちょっと寂しいですね」
「もう、ここの子になったらええんちゃう?」
苗字ちゃんがいてくれると僕らも助かるし、なんてくすくすと笑いながら話す保科副隊長に苦笑いしながら隊長室への扉をノックした。
書類を確認してもらっている間、ソファに腰掛け今頃鳴海はどうしてるのか、私がいなくても変わりなく過ごしているんだろうか…と、会いたくないと思いながら来たものの、会わなければそれはそれで気になる自分に、自嘲ぎみな笑みが漏れた。
「そういえば、なまえはここに来ても大丈夫だったの?」
ミナの言葉にきょとりと見やればなおも言葉は続く。
あの人がなまえと離れるなんて考えられない、と
「んー、だまって来たからね。スマホも見てないし…」
その言葉に今度はミナと保科副隊長がきょとんとする。
「スマホ見てないって、ケンカでもしたの?」
ミナは心底不思議そうに問う。
「ケンカってほどじゃないよ、ただ、あの時はどうしたらいいか分からなくて、冷静に慣れなかったからなぁ…顔見なくて済むって思ったらなんでもよかったの」
他部隊の、しかも隊長と副隊長に話してもいいものかと思いながらざっくりと説明する。
なんだかんだ、仲良くさせてもらってる2人だ、少しでも気持ちが整理できるならありがたい。
ミナは明らかにムッとした表情でアイツ…と呟いているし、保科副隊長もそれは流石に…と、呆れたいるようだ。
「怪獣を倒すことしか取り柄がないと思っていたけど…本当にそれ以外はポンコツなんだな…」
ミナのポンコツ発言に思わず笑みが漏れる、保科副隊長もツボに入ったらしくお腹を抱えてソファに蹲ってしまった。
「…どんな顔して戻ったらいいのか…日が経つにつれて余計に気まずくなってきちゃって、だからスマホも見てないの」
ツボにハマってた保科副隊長がむくりと起き上がる。どうやら、復活したらしい。
「はー、おもろかった。そんなら直接話したほうがええんちゃう?さっき、門前に来てたで」
「…へ?」
ピリリリリリ、とタイミングよく電話がなる。
ミナは凜とした声で内線に出た。
「はい。…あぁ、わかった。通してくれ」
通してくれ?通してくれってことは誰か来るの?誰が?この流れで行くと…混乱する頭で状況整理しようと思考を巡らせれば、ぽんっと肩が叩かれる。
「あの人もアホちゃうから、大丈夫。いつでも話聞いたるから安心してな」なんて、微笑みながらそろそろ、戻りますわなんて隊長室から出ていってしまった。こんなことなら、私の話よりも先に鳴海がきてることを教えて欲しかったな、保科副隊長おもしろがったな、とぼんやりと考えていた。
「保科もああ言ったけど、ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ。ただでさえポンコツなんだから。ちょうどいい、迎えが来てるならもう戻りな。こっちはなんとかする」
ミナにそう言われてしまえば、返す言葉もない。
どんな顔して会えばいいかな、鳴海は怒ってないかな…呆れてたらどうしよう…。
ガチャリと扉が開いた。
久しぶりに見た鳴海はなんだかいつもより覇気がない。クマ酷くなった?急にいなくなってびっくりした?謝ったら許してくれるかな、なんて声かけようかなと、あぐねているうちにそっと手を掴まれた。
「ボクの目の前からいなくなることを許可した覚えはない…それに、なんで返事をしないんだ」
あまりにも、弱々しく言うものだから手のひらに力が入ってしまった。そのまま引かれ立ち上がる。
「亜白、代わりの部下を手配したから、苗字は連れてくぞ」
「あぁ、助かる。なまえ、立川に来てくれて本当に助かったよ。また、お茶でもしよう。鳴海、私の大事な数少ない友人だ、泣かせるなよ」
歩き出す鳴海に足がもつれそうになりながら着いていく。
「…ミナ、またね、期限までいれなくてごめんね。ありがとう」
ミナは軽く手を振ると書類へと目を通すのだった。
基地を出ると、鳴海はぽつりぽつりと話しだす。
私がいなくなってからというものゲームに身がはいらず、ランクが上がっても嬉しくなかったと。
あの日、ゲームをしてたのは久しぶりのデートに緊張やらなんやらで眠れず、それを紛らわせるために始めたら思いの外いいとこまで行き、やめるにやめられなくってしまったそうだ。
「ゲームでは満たされなかった、このまま、戻ってこなかったらと不安だった。なまえそばにいてくれ、すまなかった…」
「んーん、私もごめんね。あの日すごく楽しみだったの。一緒に入れればそれでよかったのに、だから余計に冷静になれなかった。顔合わせちゃったら思ってもないこと言っちゃいそうで、長谷川副隊長の命でも何も言わずに出てっちゃっ…」
言い終わる前に、引き寄せられる。
あぁ、久しぶりのぬくもりだな落ち着くな…。会いたかったな。ゆるりと背中に手を回せばぴくりと肩が揺れる。
思わず、ふふッと笑みが漏れた。
「ねぇ、このままケーキ、食べに行かない?もう少し弦と一緒にいたい」
そう言ってまた歩き出す。
繋がれた手はとても温かかった。
「明後日って久しぶりに非番が一緒だよね?前に言ってたカフェに行きたいんだけど…行けそう?」
今の所長谷川副隊長から予定があるとは聞かされていない、急な討伐要請がなければ非番なのは確定だ。一応本人にも再度了承を得ようと訊ねてみればこちらをちらりと見て「…あぁ」と短く返される。内心よかった、と胸を撫で下ろしつつ
「ん、なら10時にはここを出たいから準備しておいてね」
ゲーム中にそっけないのはいつもの事なので気にならない。聞いてるかな?とは思はなくもないが、あまり話しかけて邪魔をするのもな、と読みかけていた小説に意識を向けた。
________当日は何を着ていこうかと思いを馳せながら。
「おそい…」
ちらりと時計を見やれば10時半を過ぎたところ。
待ち合わせの時間から30分も過ぎていた。
まさか、急用でも入った?とメッセージアプリを起動するも新着通知は0件。
もしや…と一抹の不安を抱えつつ、どうか杞憂でありますように。と、隊長室へと向かうのだった。
コンコンとノックをし、そろりと様子を伺えば、控えめなゲーム音と共にこんもりとした布団が目に入る。あぁ、やっぱりか…と、頭の芯がすっと冷える感覚がした。
「失礼します…」
咳払いをしつつ隊長室へと入れば、「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!ついに!!!ついに!!!ランクアップ!!!!ボクにできないことはない…!!!」とガバリと布団の住人は勢いそのままにガッツポーツを決めていた。勝利の雄叫びとはこのことか。
「…鳴海隊長」
努めて、普段と変わりない声音で話しかければキラキラとした赤い瞳は私を捉える。
「なまえ!!!!!ついに!ついに!!!やったぞ!!!!!待ちに待ったランクアップ!!!夜通しやった甲斐があった!…ん?そんなことより、こんな時間にどうしたんだ……あっ…」
言い終わるや否や、ハッとした表情からいっぺんわなわなと青ざめていく。
しかし、心まで冷えてしまった私には、ランクアップを喜ぶことも気づいて焦る鳴海の心情に寄り添う言葉をかけることもできなかった。
「随分とお楽しみだったご様子で。どうぞ、そのまま続けてください」
にっこりと笑みを貼り付け身を翻せば、慌てた様子で布団から抜け出し駆け寄ろうする鳴海が視界の端でYAMAZONの箱に足を取られダンボールの山へと突っ込むのだった。
無情にもバタンと扉は閉まる。
カフェにも自室に戻る気にもなれず、ふらりと立ち寄ったのは副隊長室。
ノックをし入室すれば驚いた表情の長谷川副隊長にどうしたのかと問われ、ここに至るまでを吐露すればため息混じりにそうかと腕を組み何かを思案しているようだった。
「…とうぶん、鳴海隊長と会いたくないです」
子供じみた考えを口にすれば、長谷川副隊長はふむ、と頷きある提案を持ちかけた。
「立川に欠員が出たらしくてな、2週間ほど行ってくれるか?」
物理的に合わない距離に行けるのなら、と願っても無い提案に二つ返事で引き受けた。
善は急げ、その足で立川へと向かうのだった。
さて、立川基地でのやることと言えば新人隊員の育成サポートや副隊長、小隊長の補佐、関われる分の書類の整理などいつもよりもやや軽めの業務だった。
新人隊員たちは切磋琢磨しつつも和気あいあいとした雰囲気があり、吸収しようとする意欲に身も引き締まる思いだ。
なにより、純粋に慕われるのもこそばゆいなぁ、なんて
ぐっと伸びをして資料室から出る。
頼まれた書類を亜白隊長の元へ届ければ、今日の業務は終わりだ。
隊長室へと続く廊下を進めば、見覚えのある人影が近づいてくる。保科副隊長だ。
どうやら彼も亜白隊長に用があるらしい。
「お疲れ様、苗字ちゃんここでの生活も慣れた?無理してへん?」
「お疲れ様です。保科副隊長、おかげさまでだいぶ慣れました。みなさん優しいので、無理もしてないです。ただ、慣れた頃に帰るのはちょっと寂しいですね」
「もう、ここの子になったらええんちゃう?」
苗字ちゃんがいてくれると僕らも助かるし、なんてくすくすと笑いながら話す保科副隊長に苦笑いしながら隊長室への扉をノックした。
書類を確認してもらっている間、ソファに腰掛け今頃鳴海はどうしてるのか、私がいなくても変わりなく過ごしているんだろうか…と、会いたくないと思いながら来たものの、会わなければそれはそれで気になる自分に、自嘲ぎみな笑みが漏れた。
「そういえば、なまえはここに来ても大丈夫だったの?」
ミナの言葉にきょとりと見やればなおも言葉は続く。
あの人がなまえと離れるなんて考えられない、と
「んー、だまって来たからね。スマホも見てないし…」
その言葉に今度はミナと保科副隊長がきょとんとする。
「スマホ見てないって、ケンカでもしたの?」
ミナは心底不思議そうに問う。
「ケンカってほどじゃないよ、ただ、あの時はどうしたらいいか分からなくて、冷静に慣れなかったからなぁ…顔見なくて済むって思ったらなんでもよかったの」
他部隊の、しかも隊長と副隊長に話してもいいものかと思いながらざっくりと説明する。
なんだかんだ、仲良くさせてもらってる2人だ、少しでも気持ちが整理できるならありがたい。
ミナは明らかにムッとした表情でアイツ…と呟いているし、保科副隊長もそれは流石に…と、呆れたいるようだ。
「怪獣を倒すことしか取り柄がないと思っていたけど…本当にそれ以外はポンコツなんだな…」
ミナのポンコツ発言に思わず笑みが漏れる、保科副隊長もツボに入ったらしくお腹を抱えてソファに蹲ってしまった。
「…どんな顔して戻ったらいいのか…日が経つにつれて余計に気まずくなってきちゃって、だからスマホも見てないの」
ツボにハマってた保科副隊長がむくりと起き上がる。どうやら、復活したらしい。
「はー、おもろかった。そんなら直接話したほうがええんちゃう?さっき、門前に来てたで」
「…へ?」
ピリリリリリ、とタイミングよく電話がなる。
ミナは凜とした声で内線に出た。
「はい。…あぁ、わかった。通してくれ」
通してくれ?通してくれってことは誰か来るの?誰が?この流れで行くと…混乱する頭で状況整理しようと思考を巡らせれば、ぽんっと肩が叩かれる。
「あの人もアホちゃうから、大丈夫。いつでも話聞いたるから安心してな」なんて、微笑みながらそろそろ、戻りますわなんて隊長室から出ていってしまった。こんなことなら、私の話よりも先に鳴海がきてることを教えて欲しかったな、保科副隊長おもしろがったな、とぼんやりと考えていた。
「保科もああ言ったけど、ちゃんと言葉にしないと伝わらないよ。ただでさえポンコツなんだから。ちょうどいい、迎えが来てるならもう戻りな。こっちはなんとかする」
ミナにそう言われてしまえば、返す言葉もない。
どんな顔して会えばいいかな、鳴海は怒ってないかな…呆れてたらどうしよう…。
ガチャリと扉が開いた。
久しぶりに見た鳴海はなんだかいつもより覇気がない。クマ酷くなった?急にいなくなってびっくりした?謝ったら許してくれるかな、なんて声かけようかなと、あぐねているうちにそっと手を掴まれた。
「ボクの目の前からいなくなることを許可した覚えはない…それに、なんで返事をしないんだ」
あまりにも、弱々しく言うものだから手のひらに力が入ってしまった。そのまま引かれ立ち上がる。
「亜白、代わりの部下を手配したから、苗字は連れてくぞ」
「あぁ、助かる。なまえ、立川に来てくれて本当に助かったよ。また、お茶でもしよう。鳴海、私の大事な数少ない友人だ、泣かせるなよ」
歩き出す鳴海に足がもつれそうになりながら着いていく。
「…ミナ、またね、期限までいれなくてごめんね。ありがとう」
ミナは軽く手を振ると書類へと目を通すのだった。
基地を出ると、鳴海はぽつりぽつりと話しだす。
私がいなくなってからというものゲームに身がはいらず、ランクが上がっても嬉しくなかったと。
あの日、ゲームをしてたのは久しぶりのデートに緊張やらなんやらで眠れず、それを紛らわせるために始めたら思いの外いいとこまで行き、やめるにやめられなくってしまったそうだ。
「ゲームでは満たされなかった、このまま、戻ってこなかったらと不安だった。なまえそばにいてくれ、すまなかった…」
「んーん、私もごめんね。あの日すごく楽しみだったの。一緒に入れればそれでよかったのに、だから余計に冷静になれなかった。顔合わせちゃったら思ってもないこと言っちゃいそうで、長谷川副隊長の命でも何も言わずに出てっちゃっ…」
言い終わる前に、引き寄せられる。
あぁ、久しぶりのぬくもりだな落ち着くな…。会いたかったな。ゆるりと背中に手を回せばぴくりと肩が揺れる。
思わず、ふふッと笑みが漏れた。
「ねぇ、このままケーキ、食べに行かない?もう少し弦と一緒にいたい」
そう言ってまた歩き出す。
繋がれた手はとても温かかった。