鳴海弦
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コンコン——— 隊長室と書かれた扉をノックし入室すれば、目の前に広がるのはため息をつきたくなるような汚部屋。 支給された部屋をこれでもかと私物化している人物は鳴海隊長以外にいないだろう。 ラックがあるものの、そこには到底入りきらないであろうフィギュアやプラモデルがそこかしこに置かれている。 これでもまだ、YAMAZONのダンボールがないだけマシだが…
「4日前にも綺麗にしたはずなのに…もうこんなに…」
部屋の主が居ないのをいいことに、盛大なため息をつく。 気合いを入れるために袖を捲った。
さて、空のペットボトルや缶、お菓子のゴミを袋へとまとめれば幾分か片付いたようにも思える。 晩年寝床も日光干しのおかげでふかふかになった。 あとリモコンやコントローラをまとめれば区切りがつく、と言ったところだ。
「プラモとかは直おきのままっていうのもな、仕方ない…ラック買いたそう」
慣れた手つきで端末を操作し現在使っているラックと似たタイプを注文する。 長谷川副隊長にも好きにしていいと了承を得ているので迷いはない。 今はこれが私の任務だ。 数週間前の討伐の際に避難に遅れる子どもを庇い足に怪我を負ってしまったのだ。 自分への不甲斐なさはあったものの、子どもには一切の怪我もなく親元に届けることができたからよかったのだと思う。 今までは長谷川副隊長とその他の隊員で片付けていたこの部屋を怪我の静養期間を使って私が行うことになったのだ。
「っと、そろそろ鳴海隊長も帰ってくる頃だからおいとましよ」
鳴海隊長に顔を合わせるのはなんだか気が引けてしまい、怪我をしてからというもの会わないように過ごしているのだ。
扉に手をかけようとしたところでガチャリ、とドアノブが逃げて行く。 しまった、遅かったか…引き攣りそうな顔を引き締め敬礼をした。
「お疲れ様です、鳴海隊長」
「…キミはここで何をしている?」
「長谷川副隊長に代わって掃除、ですかね。もう終わったところなので失礼します。」
敬語もそこそこに話せるのも鳴海隊長が、礼儀や身なり、勤勉さなどを求めず実力を示せば大抵のことを許しているからだ。 まぁ、それだけではなく一応は”彼女”と言うポジションにいる事が大きいかもしれない。
「この数週間討伐から帰還するたびに部屋は整っているのに、どこにもキミがいなかったのには何か理由があるのか?」
鳴海隊長が部屋へ入ると同時に退室しようと思っていたが、手を引かれ晩年寝床へと腰を下ろした鳴海隊長につられるように座る。 そのまま問いかけられればなんと返答しようかと苦笑いが漏れた。
「返答次第では、離してやらんぞ」
そう言うと繋がれた手に力が入った。
「うーん、不甲斐なかった…から、かな?」
前髪に隠れた瞳から逸らすようにそう答えれば繋がれた手がかすかに揺れた。
「そんなことの理由で、ボクを避けていたと?」
「だって、子供を庇ったからって怪我して、討伐に出られないなんて、小隊長として…不甲斐ないって言うか、恥ずかしいというか…呆れられたらって思ったらなんだか怖くなっちゃって…」
そこまで言うと、繋がれた手を引き寄せられ抱き止められた。
「確かに、怪我をしたことは油断があったかもしれない。だが、討伐よりも市民の安全を優先する事がボクたちの責務だろう。キミがしたことになんの問題もないと思うが。まぁ、ボクから逃げ回っていたのは許してやれんがな」
そう言った鳴海隊長にゆるゆると背中を撫でられると、堪えていた涙がぱたりぱたりと伝い、布団に跡を残す。
「そう、だね…」
「キミは分かっていない。ボクがどれだけ心配したのか…キミ本人からではなく隊員から聞かされたボクの気持ちがわかるか?」
撫でられていた手は止まり、ぎゅっと両の腕に力が入る。隙間なく抱きしめられれば心臓の音が聞こえてしまいそうだ。
「…避けるようなことしてごめん。これからは、どんな事があってもここにくるから」
「あぁ、キミがボクの前からいなくなることも、ボク以外に傷つけられるのも許さない」
すっと、頬を撫でられ前髪に隠れた赤い瞳を見れば、泣いてしまいそうに揺らいでいた。 そっと重なる唇に目を閉じ、避けるようなことしてごめんね、と大好きな背中に手を回した。
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