今日は晴れの日。
私は新しい制服を着て、新しい学び舎へと足を勧めた。
自分のクラスを確認して、お決まりの校長先生の有り難くも長ーいお話しをみな退屈そうに聞いていた。

私がこの町に来たのは、つい先週のこと。
父の仕事の関係で引っ越してきたのだ。
なので、この地に私は友達どころか知り合いもいない。
それが唯一の不安だった、きっと同じ小学校出身とかでグループできるんだろうなと思っていた。
そして、私の予想通りクラスに入ると、もうすでにグループがいくつか出来上がっていた。
みんなの適応力の高さに若干引きつつ私は指定された席に座った。
……ようにみせているが、内心は心臓バクバク頭は真っ白。
どうしよう、どうしようと焦っていた。
だって、１年生ででこの有様だと、ボッチ確定じゃないですか！？
そんな私の心の内なんて知らない人たちは担任が入って来たことで静かになった。
担任の先生は、入学おめでとうとなんとも面白みのない話しをして最後にこれから使う教科書類を配り「楽しい１年にするぞー」と言って出て行った。
…先生すいません、もう楽しくないです。一ミリもないです。
あるのは１００パーセントの不安だけです。
ま、まあこれから馴染んでいけばいいし！と自分に活を入れて新しい教科書をこれまた真新しいスクールバッグに詰め込んだ。
ふっと教室が静かだなと思って顔を上げるとほとんどの生徒が帰っていた。
あぁ、きっとついさっき出来た友達グループと遊びに行くんだろうなと少し遠い目で校舎から出て楽しそうにお喋りしている女の子たちを眺めていた。

『はぁーーあ。
初日から前途多難だね』

誰に言うでもなく小さくつぶやいた。
こうなったら気分を入れ替えて新しい町の探索をしようと思い私も教室を出た。
教科書を入れた重い重ーいスクールバックを肩にかけてバランスをとりながら下駄箱へ向かう。
その途中少しバランスを崩しふらついてしまい誰かに当たってしまった。
軽い武器を当ててしまったことを詫びようと慌てて、相手の顔を見ずに何度も謝った。
ここ一連の流れで分かるか知らないが、私は少し……いや、かなりのチキンです。

『あああ、あの本当にすいません！わざとでは、わざとでは決してないんです！！』

ペコペコと謝罪の意を込めて何度も頭を下げた。
相手は怒っているのか、私の謝罪に引いているのじゃ分からず無言を貫き通している。
あー、こんなに謝ってるのになにも言わないってことは相当起こってらっしゃるのかなぁ？？
そんなことを思いながら最終手段の土下座までしなくてはならぬのかと思いかけたそのとき。


「名前？」
『え？』


急に本当に急に名前をしかも下の名前を呼ばれたのでびっくりした。この地には私の名前を知っている人はいないはずだ。

「キミ、ちょっと顔上げて」
『え、え…あ、あ、あの、、、はい』



その声は有無を言わさぬ圧を感じたので素直に従うことにした。
ど、どどどどうしよう！
私このまま殴られるのか！？
相手は声的に男の子っぽいんだけど、男女平等の精神持ってたら殴られる可能性もある。
ゆっくりと顔を上げると、そこにはとても端正な顔立ちの男の子がいた。
………ってあれ、学ラン？
この学校ってブラザーじゃなかったっけ？
色んな情報が入ってきて私は頭から煙が出そうだった。


「やっと、やっとか。
遅いよ、名前」
『へ、あの。
私たち初めましてでは？』


そういったら目の前の男のは、きれいな顔をして微笑んでいた。
でも、その瞳の奥には少しばかりの寂しさも見えた気がした。

『え、って。
なんで私の名前知って』
「キミのことは知ってるよ。
待ってたよ、名前」
『？』


そんなことこの端正な顔立ちの男の子に言われて、もう頭の中はパニック状態。だって言っている意味が分からなかったのだ。
こんな端正な顔の男の子と知り合いだったら絶対忘れない自信がある。

「委員長、そろそろ会議の時間です」
「あぁ、もうそんな時間か。
名前これからの学校生活覚悟しといてね」
『はい…え、覚悟！？』

楽しんでとかではなく、覚悟とは？
委員長と呼ばれたその人は満足そうな顔をして学ランを翻して颯爽と歩いて行った。
残された私は訳が分からずしばらくその場で立ち尽くし。
先生に声をかけられるまで思考が停止してしまっていた。

なんかよくわからないんだけど。
なんで私の名前知ってんの？とかあの瞳の奥の寂しさの理由とか。
いろいろあるけど一番気になったのは去り際に言った【覚悟】という２文字であった。

うーん、よく分からないことばかりの入学式だったけど。
濃厚な入学式だった。


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