籠球
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彼女と俺の目線は決して交わらない。
そう分かった時にはもう遅かった。
「黄瀬くん!頑張ってね!!」
「いつも応援してるからねっ!」
「はは‥どうもっス」
俺はいつも人に囲まれていた、大半は女子。
顔を赤らめて黄色い声で俺の応援をしてくれる。
嬉しいとは思う、けれどどこか煩わしくも思っていた。
生まれ持ったこの顔でモデルにスカウトされ、生まれ持った身体能力でバスケ部のレギュラーになり。
仲間にも恵まれてなにひとつ欠けていないはずだ。
けれど心の中に小さな穴があいたようにすきま風がたまに通るのだ。
『あっくん!』
「っ!!」
また来た、あの子だ。
紫原っちのことをあっくんと呼んでたまにバスケ部に顔を出す女子。
紫原っちの彼女か?と問うと彼はめんどくさそうに幼馴染だと答えた。
「なに~?」
『なに~、じゃない!今日、日直っだったでしょ!なに女の子に雑務押し付けてんのよ!』
「えーだって、」
『めんどくさい、なんて言ったらその顔面どつくからね』
「‥‥なんでもありません」
あの、紫原っちが押されているしかも女の子に。
その光景はあまりに異様だった。
いつもならあの独特のオーラを出して威嚇するのに、今目の前で行われていることはいつもの逆。
ひと回りもふた回りも小さな女子に紫原っちが怯えている‥‥?
彼女はパキパキと指を鳴らして満面の笑みを紫原っちに向けていた、確かにあれは怖い。
離れている俺ですら恐怖を感じる。
『今日は私が手伝ったんだから、明日の日直代わってよね』
「はーい」
分かっているんだかいないんだか、彼はめんどくさそうな返事をした。
彼女は呆れたようにため息をひとつついて赤司っちに謝ってそのままコートを去っていった。
「彼女が気になるんですか?」
誰もいないと思ったところから声がして思わず叫ぶが、それは彼だと分かって、今の言葉で心の中を見透かされたような気がして心臓がばくばくと鳴って煩い。
「な、なに言ってんスか黒子っち!俺があんな‥」
「あんな、なんですか?」
俺はそこまでしか言葉が出なかった、俺は彼女のことを何も知らないのだ。
紫原っちの幼馴染としかしらない。
いつも怒っているからその表情しかしらない。
そう、俺は彼女の名前すら知らないのだ。
それでも。
それでもいつも目で追ってしまう自分がいる。
廊下で、窓から、移動教室で、昇降口で、バスケ部のコートの中で。
いつも目に入っていた、逸らせなかった。
あの小さな女の子のことを、なんにも知らない女の子のことを。
「練習をはじめるぞ!」
赤司っちの言葉で我に返って声のした方へと走り出す、それは彼女から遠ざかるということ。
けれど目線はやはり彼女へと向かってしまうのだ。
俺が、この俺が見ているというのに彼女はそんなことも知らないで体育館から出て行った。
きっと彼女は俺のことなんか知らない、興味がないのだろう。
どうして俺はそれを寂しいなんて思ってしまうのだろう。
どうしていつもその小さな後ろ姿を目で追ってしまうのだろう。
どうして視界からそらせないのだろう、どうして彼女は俺の視線に気づかないのだろう。
この思いに名前がつくときがあるのだろうか。