籠球
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気になる子がいた。
話が合う子がいた。
笑顔がとても輝いている子がいた。
傍にいたいと思った子がいた。
守りたいと思った子がいた。
好きだと思った子がいた。
大好きだと言える子がいた。
愛していると思える子がいた。
「テーツー?」
「青峰くん、すいません」
「まだ何も言ってねぇじゃねぇか」
「分かっているので、お断りします」
というより、その手に抱えているもので分かる。丸いフォルムに使いこなされたその質感、触っていなくても分かる。
何年も手にしていたもの、追いかけ続けたもの、触り続けたもの。
バスケットボール。
青春全てを捧げたバスケットと言う競技。
青春が終わっても続いていくものだと思っていた。
「ったく、高校卒業したらバスケもやめやがって。バスケ馬鹿だったのによ」
「すいません」
馬鹿テツ、と頭を軽く叩かれて青峰くんは去っていった。
きっとみんなのいる所へ行ったんだろう。
ボクもいたはずの場所へ。
ボクは青春、ボクの全てを捧げたバスケットをボクは高校卒業と同時にやめた。
ボールを置き、コートを去った。
キセキのみんな、誠凛のみんな、きっとそう遠くない未来、疎遠になってしまうだろう。
そのことに寂しさを覚えてどこまでも広がる青い空を仰いだ。
広く遠く自分が飲み込まれそうで怖くなって瞳を閉じる。
嗚呼、ボクの瞳の色が青空みたいで綺麗だねと言ってくれたのはいつだったんだろう?
『黒子、くん‥?』
「っ!?」
聞き覚えのある声に振り返るとボクが知っている姿よりもっとずっと大人びていて一瞬違う人なのかとも思った。
彼女だ、名前が目の前にいる。
彼女自身声をかけたことに吃驚したのか口を押さえボクを一瞥してそのまま去っていた。
追いかけはしない、ボクにはその資格がないからだ。
守りたい、と思っていたのに誰よりも傷つけていた。
笑顔が好きだったのにその笑顔を曇らせていたのはボク自身だった。
願うことが許されるのなら彼女に幸せを。
それくらい大切だった、自分のことよりも大切な存在だった。
けれど、高校卒業が近づいたある日彼女に呼び出され別れを告げられた。
どうしてなのか詰め寄ると彼女は“本当に分からないの?”と泣き出した。
そして冷たい視線をボクに向けて口を開いた。
呪いの言葉を僕に投げかけて、彼女は走って去っていった。
「ボクには資格がないんです。
バスケをやる資格も君を追いかける資格も」
手で顔を覆いその場にしゃがみこんだ。
『黒子くんにはバスケしかないの、私がいないんだよ』
大好きな人は愛しい人は最後に呪いの言葉をかけて去っていった。
気になる子がいた。
話が合う子がいた。
笑顔がとても輝いている子がいた。
傍にいたいと思った子がいた。
守りたいと思った子がいた。
好きだと思った子がいた。
大好きだと言える子がいた。
愛していると思える子がいた。
呪いの言葉をかけていった子がいた。
嗚呼、その言葉を使わせてしまったのは誰でもないボク自身だろうに。
どうして胸が痛むのだろう。
この呪いはきっと生涯溶けることはないのだろう。
それでいい、そうでなくてはいけないのだ。
これは報いだ、と誰かが言った気がした。