【JuJu】Short stories
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何で…何でこんなことになっちゃったんだろう…
見慣れた女性を見たことの無い視点から抱きかかえたまま見下ろし思っていた
今日は高専1年たちの引率で、通常の任務とは違い最前線から一歩下がったところからの後方支援が任務だった
当初引率者は私だけの予定だったけど直前で都合が付いた五条先生も合流した
現場の洞窟に着き1年たちと任務内容を確認の後、任務に当たらせた五条先生は同伴しようとしていた私を押し止め、洞窟の外での待機を言い渡される
しかしそれでは職務放棄になるんじゃないかと私は抗議していた
「これじゃ引率にならないんじゃないですか?」
「ん~、2級程度の呪霊だし今の悠仁たちなら大丈夫だよ。落ち着いて待ってようよ」
「…でもっ!」
ちょっと強めな言い方になってしまった私とは対照的に座るのにちょうど良い感じの大きな岩の上に腰掛けた五条先生は「どうどう」と両手の平を下に向け柔く上下させ馬を鎮めるかのようなかけ声を私に掛けのんびりとしている
私は馬じゃ無いんですけど…っ!
でも彼らの担任である五条先生がそう言うなら待つべきなのだろう
悠長な態度の五条先生にモヤモヤは晴れないけど仕方ない、五条先生から数歩離れたところにある岩場に腰を下ろし、いつでも突入できるよう洞窟の入口の方へ注意を向けた
落ち着かずソワソワしていたら洞窟内から1年たちの大きな声が聞こえ、考えるより先にガバッと勢いよく立ち上がり洞窟の方へ駆ける私に「あ!待てって」と五条先生
私の半分ほどの歩数であっという間に私に追いついた五条先生に背中からふわりと抱きかかえられたことで自由を奪われ、洞窟から数歩足を踏み入れたところで宙に浮いて立ち往生してしまった
「ちょっ、五条先生!離してください!」
「待ってって言ってるでしょ、あや先生」
「待てないです!彼らに何かあったらどうするんですかっ?!」
自分の視線より上にある五条先生を振り返り見上げながらバタバタと暴れるけど一向に拘束は緩むこと無くむしろ更にガッチリと拘束が強まっているのを感じて焦る私
「あや先生たち危ないっ!」
虎杖くんの叫び声が聞こえた直後、バリバリバリッと全身に強い電流を流されたかのような激しい衝撃を受け、一瞬目の前がブラックアウトした
衝撃で反射的に強く閉じていた目を開くけど何やら顔回りに違和感があり目を開けたにもかかわらず何も見えないし、腕には確かな重みがあり、それを抱えている様子
左手で顔回りの違和感に触ると布?に触れガバッと頭から引き抜くと視界が一気に明るくなる
一瞬真っ白になった視界に目を細め、徐々に目が慣れてきた私は腕の中の重みに目を向けると喫驚して目を見開きこちらを見上げている、私……?
頭を殴られたようなショックが全身を貫き驚倒しそうになった私は思わず腕を緩めフラリと蹌踉めくと私の視線より随分と低い私に支えられる
私の方が重いせいで揃ってフラつくが何とか倒れずに済んだ
「行け!玉犬!」
「芻霊呪法、簪!」
「逕庭拳!」
遠くで1年たちの声が聞こえる
断末魔と共に呪霊は無事祓われたようだったけど、眼下にいる私は幻でも何でも無いようで消えることは無いし向こうは既に現状を把握しているのだろう、ニヤニヤと自分でも見たことの無い面白くて仕方がないという様子の表情を浮かべている
やだ、私ってこんな下卑た顔も出来るのね…なんて現実逃避するかのようにドン引きしてしまったけど、この様子を見るに私の中にいるのは十中八九五条先生なんだろう
「あや先生たち無事か?」
駆け寄ってきた虎杖くんたちに「お疲れサマンサ!」と手を上げて挨拶している私(中は五条先生)を見た虎杖くんはポカンとした顔をし、釘崎さんは眉間に深いシワを寄せ、伏黒くんは何とも言えない微妙な顔をしてこちらを見上げる
普段なら私の方が伏黒くんを見上げる立場で、見上げてくる伏黒くんとの視線差に、やはり自分は今五条先生の中にいるんだと実感させられた
居心地悪く彼の視線を避けるため左手に持っていた黒い目隠しに視線を落とす
「何か…あや先生変じゃね?どったの?」
「そうね、あの馬鹿みたい」
「いや、五条先生も明らかに変だろ」
3人がゴニョゴニョと鼎談している様子をニヤニヤと近くの岩に座って眺めている私(分かりにくいので暫定で五条先生と言わせて欲しい)はガバッと股を開いて座っていて
「五条先生、今日はスカートなので…。股開いて座らないでください」
思わず進言すると「あぁ、ごめんごめん」と羽毛より軽い受け答えで股を閉じた五条先生に、3人なりに現状を呑込んでくれたようだった
「あ~…とりあえず高専に帰って家入先生に診て貰いましょう」
伏黒くんの一声に皆一様に頷いた
車内で五条先生が連絡してくれたので高専に着いてからの話は早かった
私の前を歩く五条先生の2歩分が今の私にとっての1歩分で、ちょこまか忙しなく足を動かしている五条先生にリーチの差というものをまざまざと見せつけられ(見せつけてるとも言う)彼はいつもこの視点でちょろちょろしてる私を見ていたのか…と思っている間に医務室に着く
「おい、硝子」
ガラッとノックもせず医務室の扉を開く五条先生にヒヤリとするのは見た目が私だからかもしれない
普段の私は必ずノックをして返事を待ってから入室しているのだから
私の姿での非常識な行動は、出来れば慎んで頂きたいところ
「あぁ、話には聞いていたが面白いことになったね」
ふわりとコーヒーの香りが充満する医務室のデスクから顔を上げた家入先生は、ドカッと大股開きで椅子に腰を下ろした五条先生に「五条先生、足!」と私が注意している様子を面白そうに見ている
「五条…の方があや先生ね。んであや先生の中が五条のクズ…」
「硝子言い方酷くない?」
「家入先生、元に戻る方法は無いんでしょうか?」
「原因の呪霊は祓われてるんだよね?」
「そうですね」
「一応連絡貰ってから同じような案件が過去になかったか調べてみたらね、1件だけ該当したよ」
立ち上がりコーヒーメーカーで予め淹れてくれていたコーヒーをカップに注いで五条先生と私に出しながらそう言う家入先生の言葉に希望を抱いた私
そんな私を余所にちょっと面白く無さそうな顔した五条先生はザラザラザラッとコーヒーの入ったカップに茶色の砂糖を大量に流し入れていた
甘い物が苦手な私から見たら胸焼けしそうなほどの量を無表情で入れてる五条先生にそんなに入れて溶けるんですか?と突っ込みたいけど、解決策を知っていそうな家入先生の話の聞きたい私は話が逸れることを恐れ五条先生からあえて目を逸らし、受け取ったカップを口に付けた
ニッガ!
なに、この苦い泥水のような液体!
ゴフッと反射的に咽せてしまった
時折家入先生とここで雑談をしながらコーヒーを頂くことがあるけどいつもブラックだったし、家入先生はそれを知っているので五条先生の前にコーヒーシュガーを置いたけど私にはカップだけを渡してくれたので何の疑問も無く受け取ったのだけど…
いつも香り高く美味しいコーヒーを家入先生は淹れてくれるので私はここで飲むコーヒーが好きだった
なのに何故?!
今日に限って美味しくないって感じるのは何で?
何、この苦い飲み物…
舌が痺れる感じすらする…
カップの中の黒々とした液体をジッと見つめているとゴフッと五条先生の方からも聞こえて視線を向けると手の甲で口元を拭って顔を歪める五条先生がいた
「心が入れ替わっても身体の味覚は変わらないだろうから、まぁそうなるんだろうね」
家入先生に言われ、もうこれ以上飲むことは適わないであろうと判断した私はカップをテーブルに置き、家入先生に先ほどの話の続きを促した
「あー…それはね…。その前に1つ聞きたいんだけど、入れ替わってからお互いの術式はどうなった?」
「全く発動させられないね」
私は自分の身に降りかかった突然の出来事にあたふたしていて試してなかったけど五条先生は私の身体で自分の術式を発動させようとしていたようだ
術式は試してないけど私も六眼持ちではないので目隠しを外してないと何も見えない
五条先生は目隠し越しでもモノが見えてるけどそれは六眼のお陰らしいし…と思いながら2人のやりとりを見守る
「そりゃそうだろうね。術式は身体に刻まれてるものだから元の身体で使えてた術式は使えないだろうね」
「知ってたような口ぶりだね、硝子」
「まぁね。さっき言ったけど1件だけ該当した同じような案件、まぁほぼ同じなんだけどその報告書にそう書かれてたから。知識として知ってても一応確認しときたいでしょ、やっぱ。目の前に貴重なサンプルたちがいるんだし」
「サンプル…ははっ」
ドライな家入先生の言葉に独りごちるように言葉を発すると家入先生がこちらを見上げていった
「五条が目隠しやサングラスを掛けてないのは何か気持ち悪いな。昔から五条の裸眼ほぼ見たこと無かったし」
確かに、私も五条先生が目隠しかサングラスをしている状態でしか会ったことが無い
いつも彼の瞳は何らかで遮られているのだ
今、私は五条先生の中にいるのでご尊顔を見ることは無かったけど、他の人からしたら異様な光景なのかもしれない
「…ところで戻り方は書いてあったの?」
こちらをチラリと一瞥した五条先生が確信に触れると家入先生はカップを動かし、中のコーヒーをグルグルと回しながら事も無げに言った
「心が入れ替わったもの同士でキスしたら戻ったそうだよ。無事戻れたら報告書上げなきゃだから試したら教えろよ」
「人目もあるし、ここを提供するからするならサッサとしてくれ」
そう言って医務室から退室した家入先生に縋りたい気持ちを辛うじて抑えた私は、30センチほど下から上目遣いで私を見上げて迫ってくる五条先生に狼狽えていた
五条先生と私は職場の同僚ではあるけど、私は今年京都高から赴任したばかりの2年副担任で学年違いから接点は少なく、任務の方はと言うと特級と1級なのでそれぞれ単独任務が多く実は他の教員たちより接点はあまり無かったように思う
時折教務室で話をしたり任務で全国各地を渡り歩いている五条先生から名物のお土産を頂いたりする程度で個人的な話をすることもほとんど無かった
五条先生はちょっと変わった人…というかノリが良く適当なことを言って周囲を振り回す人というのがパッとした印象だけど、時折見せる生徒思いのところなどを見ると存外掴み所の無い人というのが私の正直な五条先生の印象だ
見た目は高身長だしスタイル抜群だし目隠ししてても分かる端整な顔立ちに柔らかい言葉遣い、落ち着いた艶やかな声で女性からの印象は素晴らしく良いことだろう
呪術界の超有名人なので彼の浮世離れした容姿などは知っていたけど初対面時、噂以上だった五条先生にどぎまぎして挙動不審になったりもしたっけ…
慣れた今は普通にお話出来るようになったけど人との距離感覚がかなり近い…というかパーソナルスペースが極狭の五条先生が不意打ち的にそばにいたりすると驚くこともままあったりする
…とまぁ五条先生と私はそんな感じなのだ
なのでキスするような関係性では当然無いし、2人きりになることも今日の任務の時まで一度も無かった
そんな五条先生とキスをするなんて…
五条先生にとっては何てこと無い挨拶程度のモノかもしれないけど私にとって難易度がエベレストより高くそびえ立っているし、中身が五条先生だとしても見た目は私なワケで…
「見上げてキスするなんて僕初めてかもしれないな~」
クスクスと目を細めうっとりするような微笑を浮かべる私の顔をした五条先生にドキドキが止まらず、思わずフイと目を逸らしてしまう…
そんな私の頬を両手で自分の方に引き寄せる五条先生の強くない力…なのに全く逆らえず五条先生の方へ視線を引き戻され、かなり頑張って背伸びをしているであろう五条先生に唇を塞がれた
突然の事に驚き目を瞠って五条先生を見つめるけど彼は目を閉じているし頬に添えられている手の力は緩まず、更に引き寄せられる
ただ降ろしていた私の手は空を彷徨うけど五条先生の背に回すことが出来ずにいた
思わず目を閉じてしまったけど思っているよりも遙かに長い時間キスされていた私は息が苦しくなり、閉じていた口を開くとぬるりとした小さなものが口の中に入ってきて口内を撫で回され逃げるように喉の方へ巻き込んだ舌の裏を撫でられる
ゾクゾクと背筋を這う感覚に耐えられず舌の力を緩めると絡められ、酸素を求め呼吸をするも全て飲み下される
身体の力が抜け、気持ちよさに全身の肌が粟立った
ようやく離れた唇を少しだけ寂しく思いながらも目を開けるとそこにはセルリアンブルーの瞳が扇情的な色を乗せこちらを見下ろしていて…
恥ずかしくて、顔を見られたくなくて、思わずギュッと彼の胸元に顔を埋めてしまうと「あや先生、もう1度…」と今まで聞いたことのないくらい甘く蕩けたような声と共に顎に手を当てられクィっと五条先生の方を向かされる
「ちょっ…!ちょっと待ってください!また入れ替わったらどうするんですか?!」
五条先生のガッチリとした胸に両手を突っ張り、必死で彼から逃げようとするけどビクともしない
無事元に戻ることが出来たのは良いけどその日から五条先生に追いかけ回されることになるとはこの時の私はまだ知る由も無かった
見慣れた女性を見たことの無い視点から抱きかかえたまま見下ろし思っていた
今日は高専1年たちの引率で、通常の任務とは違い最前線から一歩下がったところからの後方支援が任務だった
当初引率者は私だけの予定だったけど直前で都合が付いた五条先生も合流した
現場の洞窟に着き1年たちと任務内容を確認の後、任務に当たらせた五条先生は同伴しようとしていた私を押し止め、洞窟の外での待機を言い渡される
しかしそれでは職務放棄になるんじゃないかと私は抗議していた
「これじゃ引率にならないんじゃないですか?」
「ん~、2級程度の呪霊だし今の悠仁たちなら大丈夫だよ。落ち着いて待ってようよ」
「…でもっ!」
ちょっと強めな言い方になってしまった私とは対照的に座るのにちょうど良い感じの大きな岩の上に腰掛けた五条先生は「どうどう」と両手の平を下に向け柔く上下させ馬を鎮めるかのようなかけ声を私に掛けのんびりとしている
私は馬じゃ無いんですけど…っ!
でも彼らの担任である五条先生がそう言うなら待つべきなのだろう
悠長な態度の五条先生にモヤモヤは晴れないけど仕方ない、五条先生から数歩離れたところにある岩場に腰を下ろし、いつでも突入できるよう洞窟の入口の方へ注意を向けた
落ち着かずソワソワしていたら洞窟内から1年たちの大きな声が聞こえ、考えるより先にガバッと勢いよく立ち上がり洞窟の方へ駆ける私に「あ!待てって」と五条先生
私の半分ほどの歩数であっという間に私に追いついた五条先生に背中からふわりと抱きかかえられたことで自由を奪われ、洞窟から数歩足を踏み入れたところで宙に浮いて立ち往生してしまった
「ちょっ、五条先生!離してください!」
「待ってって言ってるでしょ、あや先生」
「待てないです!彼らに何かあったらどうするんですかっ?!」
自分の視線より上にある五条先生を振り返り見上げながらバタバタと暴れるけど一向に拘束は緩むこと無くむしろ更にガッチリと拘束が強まっているのを感じて焦る私
「あや先生たち危ないっ!」
虎杖くんの叫び声が聞こえた直後、バリバリバリッと全身に強い電流を流されたかのような激しい衝撃を受け、一瞬目の前がブラックアウトした
衝撃で反射的に強く閉じていた目を開くけど何やら顔回りに違和感があり目を開けたにもかかわらず何も見えないし、腕には確かな重みがあり、それを抱えている様子
左手で顔回りの違和感に触ると布?に触れガバッと頭から引き抜くと視界が一気に明るくなる
一瞬真っ白になった視界に目を細め、徐々に目が慣れてきた私は腕の中の重みに目を向けると喫驚して目を見開きこちらを見上げている、私……?
頭を殴られたようなショックが全身を貫き驚倒しそうになった私は思わず腕を緩めフラリと蹌踉めくと私の視線より随分と低い私に支えられる
私の方が重いせいで揃ってフラつくが何とか倒れずに済んだ
「行け!玉犬!」
「芻霊呪法、簪!」
「逕庭拳!」
遠くで1年たちの声が聞こえる
断末魔と共に呪霊は無事祓われたようだったけど、眼下にいる私は幻でも何でも無いようで消えることは無いし向こうは既に現状を把握しているのだろう、ニヤニヤと自分でも見たことの無い面白くて仕方がないという様子の表情を浮かべている
やだ、私ってこんな下卑た顔も出来るのね…なんて現実逃避するかのようにドン引きしてしまったけど、この様子を見るに私の中にいるのは十中八九五条先生なんだろう
「あや先生たち無事か?」
駆け寄ってきた虎杖くんたちに「お疲れサマンサ!」と手を上げて挨拶している私(中は五条先生)を見た虎杖くんはポカンとした顔をし、釘崎さんは眉間に深いシワを寄せ、伏黒くんは何とも言えない微妙な顔をしてこちらを見上げる
普段なら私の方が伏黒くんを見上げる立場で、見上げてくる伏黒くんとの視線差に、やはり自分は今五条先生の中にいるんだと実感させられた
居心地悪く彼の視線を避けるため左手に持っていた黒い目隠しに視線を落とす
「何か…あや先生変じゃね?どったの?」
「そうね、あの馬鹿みたい」
「いや、五条先生も明らかに変だろ」
3人がゴニョゴニョと鼎談している様子をニヤニヤと近くの岩に座って眺めている私(分かりにくいので暫定で五条先生と言わせて欲しい)はガバッと股を開いて座っていて
「五条先生、今日はスカートなので…。股開いて座らないでください」
思わず進言すると「あぁ、ごめんごめん」と羽毛より軽い受け答えで股を閉じた五条先生に、3人なりに現状を呑込んでくれたようだった
「あ~…とりあえず高専に帰って家入先生に診て貰いましょう」
伏黒くんの一声に皆一様に頷いた
車内で五条先生が連絡してくれたので高専に着いてからの話は早かった
私の前を歩く五条先生の2歩分が今の私にとっての1歩分で、ちょこまか忙しなく足を動かしている五条先生にリーチの差というものをまざまざと見せつけられ(見せつけてるとも言う)彼はいつもこの視点でちょろちょろしてる私を見ていたのか…と思っている間に医務室に着く
「おい、硝子」
ガラッとノックもせず医務室の扉を開く五条先生にヒヤリとするのは見た目が私だからかもしれない
普段の私は必ずノックをして返事を待ってから入室しているのだから
私の姿での非常識な行動は、出来れば慎んで頂きたいところ
「あぁ、話には聞いていたが面白いことになったね」
ふわりとコーヒーの香りが充満する医務室のデスクから顔を上げた家入先生は、ドカッと大股開きで椅子に腰を下ろした五条先生に「五条先生、足!」と私が注意している様子を面白そうに見ている
「五条…の方があや先生ね。んであや先生の中が五条のクズ…」
「硝子言い方酷くない?」
「家入先生、元に戻る方法は無いんでしょうか?」
「原因の呪霊は祓われてるんだよね?」
「そうですね」
「一応連絡貰ってから同じような案件が過去になかったか調べてみたらね、1件だけ該当したよ」
立ち上がりコーヒーメーカーで予め淹れてくれていたコーヒーをカップに注いで五条先生と私に出しながらそう言う家入先生の言葉に希望を抱いた私
そんな私を余所にちょっと面白く無さそうな顔した五条先生はザラザラザラッとコーヒーの入ったカップに茶色の砂糖を大量に流し入れていた
甘い物が苦手な私から見たら胸焼けしそうなほどの量を無表情で入れてる五条先生にそんなに入れて溶けるんですか?と突っ込みたいけど、解決策を知っていそうな家入先生の話の聞きたい私は話が逸れることを恐れ五条先生からあえて目を逸らし、受け取ったカップを口に付けた
ニッガ!
なに、この苦い泥水のような液体!
ゴフッと反射的に咽せてしまった
時折家入先生とここで雑談をしながらコーヒーを頂くことがあるけどいつもブラックだったし、家入先生はそれを知っているので五条先生の前にコーヒーシュガーを置いたけど私にはカップだけを渡してくれたので何の疑問も無く受け取ったのだけど…
いつも香り高く美味しいコーヒーを家入先生は淹れてくれるので私はここで飲むコーヒーが好きだった
なのに何故?!
今日に限って美味しくないって感じるのは何で?
何、この苦い飲み物…
舌が痺れる感じすらする…
カップの中の黒々とした液体をジッと見つめているとゴフッと五条先生の方からも聞こえて視線を向けると手の甲で口元を拭って顔を歪める五条先生がいた
「心が入れ替わっても身体の味覚は変わらないだろうから、まぁそうなるんだろうね」
家入先生に言われ、もうこれ以上飲むことは適わないであろうと判断した私はカップをテーブルに置き、家入先生に先ほどの話の続きを促した
「あー…それはね…。その前に1つ聞きたいんだけど、入れ替わってからお互いの術式はどうなった?」
「全く発動させられないね」
私は自分の身に降りかかった突然の出来事にあたふたしていて試してなかったけど五条先生は私の身体で自分の術式を発動させようとしていたようだ
術式は試してないけど私も六眼持ちではないので目隠しを外してないと何も見えない
五条先生は目隠し越しでもモノが見えてるけどそれは六眼のお陰らしいし…と思いながら2人のやりとりを見守る
「そりゃそうだろうね。術式は身体に刻まれてるものだから元の身体で使えてた術式は使えないだろうね」
「知ってたような口ぶりだね、硝子」
「まぁね。さっき言ったけど1件だけ該当した同じような案件、まぁほぼ同じなんだけどその報告書にそう書かれてたから。知識として知ってても一応確認しときたいでしょ、やっぱ。目の前に貴重なサンプルたちがいるんだし」
「サンプル…ははっ」
ドライな家入先生の言葉に独りごちるように言葉を発すると家入先生がこちらを見上げていった
「五条が目隠しやサングラスを掛けてないのは何か気持ち悪いな。昔から五条の裸眼ほぼ見たこと無かったし」
確かに、私も五条先生が目隠しかサングラスをしている状態でしか会ったことが無い
いつも彼の瞳は何らかで遮られているのだ
今、私は五条先生の中にいるのでご尊顔を見ることは無かったけど、他の人からしたら異様な光景なのかもしれない
「…ところで戻り方は書いてあったの?」
こちらをチラリと一瞥した五条先生が確信に触れると家入先生はカップを動かし、中のコーヒーをグルグルと回しながら事も無げに言った
「心が入れ替わったもの同士でキスしたら戻ったそうだよ。無事戻れたら報告書上げなきゃだから試したら教えろよ」
「人目もあるし、ここを提供するからするならサッサとしてくれ」
そう言って医務室から退室した家入先生に縋りたい気持ちを辛うじて抑えた私は、30センチほど下から上目遣いで私を見上げて迫ってくる五条先生に狼狽えていた
五条先生と私は職場の同僚ではあるけど、私は今年京都高から赴任したばかりの2年副担任で学年違いから接点は少なく、任務の方はと言うと特級と1級なのでそれぞれ単独任務が多く実は他の教員たちより接点はあまり無かったように思う
時折教務室で話をしたり任務で全国各地を渡り歩いている五条先生から名物のお土産を頂いたりする程度で個人的な話をすることもほとんど無かった
五条先生はちょっと変わった人…というかノリが良く適当なことを言って周囲を振り回す人というのがパッとした印象だけど、時折見せる生徒思いのところなどを見ると存外掴み所の無い人というのが私の正直な五条先生の印象だ
見た目は高身長だしスタイル抜群だし目隠ししてても分かる端整な顔立ちに柔らかい言葉遣い、落ち着いた艶やかな声で女性からの印象は素晴らしく良いことだろう
呪術界の超有名人なので彼の浮世離れした容姿などは知っていたけど初対面時、噂以上だった五条先生にどぎまぎして挙動不審になったりもしたっけ…
慣れた今は普通にお話出来るようになったけど人との距離感覚がかなり近い…というかパーソナルスペースが極狭の五条先生が不意打ち的にそばにいたりすると驚くこともままあったりする
…とまぁ五条先生と私はそんな感じなのだ
なのでキスするような関係性では当然無いし、2人きりになることも今日の任務の時まで一度も無かった
そんな五条先生とキスをするなんて…
五条先生にとっては何てこと無い挨拶程度のモノかもしれないけど私にとって難易度がエベレストより高くそびえ立っているし、中身が五条先生だとしても見た目は私なワケで…
「見上げてキスするなんて僕初めてかもしれないな~」
クスクスと目を細めうっとりするような微笑を浮かべる私の顔をした五条先生にドキドキが止まらず、思わずフイと目を逸らしてしまう…
そんな私の頬を両手で自分の方に引き寄せる五条先生の強くない力…なのに全く逆らえず五条先生の方へ視線を引き戻され、かなり頑張って背伸びをしているであろう五条先生に唇を塞がれた
突然の事に驚き目を瞠って五条先生を見つめるけど彼は目を閉じているし頬に添えられている手の力は緩まず、更に引き寄せられる
ただ降ろしていた私の手は空を彷徨うけど五条先生の背に回すことが出来ずにいた
思わず目を閉じてしまったけど思っているよりも遙かに長い時間キスされていた私は息が苦しくなり、閉じていた口を開くとぬるりとした小さなものが口の中に入ってきて口内を撫で回され逃げるように喉の方へ巻き込んだ舌の裏を撫でられる
ゾクゾクと背筋を這う感覚に耐えられず舌の力を緩めると絡められ、酸素を求め呼吸をするも全て飲み下される
身体の力が抜け、気持ちよさに全身の肌が粟立った
ようやく離れた唇を少しだけ寂しく思いながらも目を開けるとそこにはセルリアンブルーの瞳が扇情的な色を乗せこちらを見下ろしていて…
恥ずかしくて、顔を見られたくなくて、思わずギュッと彼の胸元に顔を埋めてしまうと「あや先生、もう1度…」と今まで聞いたことのないくらい甘く蕩けたような声と共に顎に手を当てられクィっと五条先生の方を向かされる
「ちょっ…!ちょっと待ってください!また入れ替わったらどうするんですか?!」
五条先生のガッチリとした胸に両手を突っ張り、必死で彼から逃げようとするけどビクともしない
無事元に戻ることが出来たのは良いけどその日から五条先生に追いかけ回されることになるとはこの時の私はまだ知る由も無かった