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「ちょっとギリギリになっちゃったかな」
独りごちて成田国際空港に入るとちょうど空港アナウンスで彼女の搭乗便が到着したことを知る
どうやら間に合ったようだ
到着便の案内掲示板を見上げ、彼女の出てくる出口前の大きな柱に寄りかかった
飛行機から降りた人たちが続々手荷物引渡場に姿を見せる
その中に2年ぶりの彼女の姿を認めたが、彼女はこちらに気がつかないまま動き始めたコンベアの前で自分の手荷物を待っているようだ
その様子をじっと見つめていたが彼女はやはりこちらには気づかない
それはそうだろう
僕は彼女を迎えに行くなんて話してないし彼女は誰かが迎えが来るとは思いも寄らないないだろうから
赤のタグを付けたグレーの大きなスーツケースを手に取り、スマホを操作しながら手荷物引渡場を出た彼女の前に僕は近寄ると彼女はふいに顔を上げた
「歩きスマホは危険ですよ」
そう話しかけた僕を見て驚きを隠せない彼女の顔を見て嬉しくなった
◇◆◇
「サプライズお迎えにあがりました」
そう言いながら私の従兄であるであるタケ兄ちゃんは驚く私の手からスーツケースをスマートに取り上げ「あちらにお車をご用意してます」とおどけた様子で私をエスコートする
オーダーメイドスーツをスマートに着こなすタケ兄ちゃんの半歩後ろからついて行く
駐車場に停まっていたタケ兄ちゃんの愛車であるGT-Rの助手席の扉を開け乗るように促すのでおとなしく乗り込んだ
私が乗り込んだ後、トランクにスーツケースを入れたタケ兄ちゃんが運転席に乗り込む
グィッと運転席側に重心が傾き、ドアが閉まると同時に重心は元に戻る
何度も揺れたりしないこのGT-Rの足回りはしっかりしているし、マメに手入れされているのだろう
「さーて、あやちゃん。ロングフライトで疲れてるだろうから自宅まで送ろうか」
エンジンを掛けてこちらをチラッと見るタケ兄ちゃんに
「お迎えありがとう。タケ兄ちゃんに迎えに来て貰えて嬉しい」
とタケ兄ちゃんに促されるまま今までほとんど声を発してなかった私は今更ながらペコリと頭を下げる
「新一くんと連絡取れてるの?」
ステアリングを切りながらタケ兄ちゃんは米花町に車を走らせる
2年ぶりの日本の風景を懐かしみつつタケ兄ちゃんに言われてふと気がついた
いくら身内と言えどタケ兄ちゃんに知られてはならない、今の新一のこと…
タケ兄ちゃんは父方の従兄にあたる人で、幼少の頃から実の妹の様にかわいがって貰っていたし、当然新一のことも知っている
「すいません、新一には今日帰るとは伝えてないの…。なので家の隣の阿笠さんというお宅までお願いできる?新一が自宅の鍵預けてるって以前言ってたから」
「オーケー。じゃ、着くまでゆっくりしてて?」
そう言ったタケ兄ちゃんはカーオーディオを操作し、ジャズを流し始めた
今まで車のエンジン音しかしなかった中にピアノやバイオリン等の音が緩やかに流れる
本当は色々話したいところではあるが、長旅で疲れていてあまり話す気持ちになれなかったし、新一の事を聞かれたら…と不安だった
一旦は終わらせたとはいえ、彼の現状をきちんと把握できない今の私はまた新一の話をされてもやっかいだなと思う
狭い車内での大きめなボリュームの音楽に話をせず寛げというタケ兄ちゃんの言葉ではない優しさを感じた
珍しい家屋の形の阿笠邸に到着し、タケ兄ちゃんに迎えに来てもらったことを丁重にお礼して見送った
タケ兄ちゃんは窓から右手を出し、振りながら黒のGT-Rはおなかに響くエキゾースト音を残して走り去る
確か我が家には弟が住んでいない代わりに居候がいると聞いているので突然帰るのは問題があるかもしれない
まずは新一に互いを紹介してもらわなきゃ…
阿笠邸の横に建つ自分の家を見つつスマホをバッグから取り出し家族タブから新一の名前をタップすると呼び出し音が聞こえたのでスマホを耳に当てる
3コール目の途中で電話が繋がった
「あやねえちゃん?こっちに着いたの?」
私の知ってる弟の声よりはるかに幼く、懐かしい声に両親から聞かされた弟の境遇を思い出す
「新一?」
「あやねえちゃん今どこ?」
弟の後ろでは子供たちが騒いでいる声が聞こえる
「今はね、博士の家の前」
「分かった、博士の家で待っててくれ、急いで向かうから」
子供たちの声が聞こえなくなった、切れたようだ
どうやら弟はこれからこちらに来てくれるらしい
スーツケースをゴロゴロして阿笠邸のドアベルを鳴らした
博士に部屋に通され一通りの挨拶を済ましお土産を渡すと博士はたいそう喜んでくれたけど…そのお腹、2年前に見た時より育ってます、お土産お菓子じゃない方が良かったかもしれない…
そんな事を思いつつ博士の入れてくれたお茶を頂く
博士はテレビの横にある作業台で何やら作業をしながら鼻歌を歌っている
変わらないその様子にフッと口元が緩んだ
カチャ カチャ キュッ
博士の作業音と共に時差ぼけもありぼんやりとしつつ湯飲みから立ち上る湯気を見ていたら
「ねえちゃん!」
大きな声と共にランドセルを背負って顔に似合わない位大きなめがねをかけて赤い蝶ネクタイをした男の子が飛び込んでくる
「しんいちぃ~」
懐かしくも可愛い弟の姿を認め、思わず抱きしめた
「感動の再会ね」
しっかり落ち着いた女性の声に新一を抱きしめながら目をやると明るい髪色でボブケアの可愛い女の子がランドセルを背負い腕組みをして壁にもたれかかっていた
もしかして新一の彼女?…ううん、新一には蘭ちゃんがいたよね?
驚きのあまり弟を抱きしめる腕に力が入ってしまったみたいで
「ねえちゃん、苦しいんだけど」
抱きしめていた腕をタップし弟から文句が出て名残惜しいけど新一を腕の中から解放する
私に抱きしめられて乱れた服や髪を手で整えながら新一が一つ息をつく
「俺の姉のあや、工藤あや」
壁にもたれかかっていた女の子を見やり新一が私を紹介し
「ねえちゃん、こいつ俺と同じ境遇の灰原哀ってんだ」
と今度はこちらを向いて親指で女の子を指す
新一と同じ境遇という事は、クスリで肉体が退行してるという事
この子も例の組織に関係がある子なのか…と少しだけ注意深く灰原さんを見つめると彼女からも見つめ返されていた
なるほど、確かに小学生の雰囲気ではない
軽く息を吐き、紹介された灰原さんへ握手を求め右手を差し出した
「新一の姉の工藤あやです よろしく、灰原さん」
握手を求められた事に彼女は少し驚いた顔を見せた…がすぐ元の無表情に戻り握手を返してくれ
「灰原哀、哀でいいわ」
と答えてくれた
それから新一の身辺の話を聞かされた
・新一の名前は江戸川コナンと名乗っていること(肉体退行していることは両親から聞いて知っていたけど名前までは聞いてなかった)
・新一は現在蘭ちゃんのお宅でお世話になってること(これは両親から聞いていた)
・私はこれから新一と呼ぶのではなく、あくまで親戚のコナンとして扱うこと
・新一の携帯は現在2台あり1台は新一のもの、もう1台はコナンのものと使い分けていること
・お隣に住んでる人は住んでたアパートが火事で焼けてしまったので一時的に住んでもらってる大学院生だということ
・私が家から職場に通勤する旨はその大学院生には話を通してるということ
「取り急ぎ口裏合わせをしなければならないのはこのくらいか…」
話をしている間に哀ちゃんによって用意されたお茶をコナンくんは飲んでふぅと息をつく
本当は私は居候がいると聞いていたので実家から通う予定では無かったのだが新一が住んで管理できない現状、私が住んで管理するよう両親より言われている
子供や家をほっぽって海外で生活していると思われがちな両親だけど、とてもたくさんの愛情を私や弟は向けてくれているのは自覚しているので実家に住む件についても了承したんだけど、まさか同居人となる人が男性だとは思わなかった…
「し…コナンくん、居候さんって男性…なんだよね?」
一応の再確認…と思い、コナンくんに聞くと
「そうだよ?沖矢昴さんって人だよ」
ニッコリ返された
弟よ、いくら広い屋敷と言えど若い男女が一つ屋根の下っていうのはどうなんだ?
ジトリとした目で睨み付けるとようやく彼も気がついたようで慌てて言う
「あ、昴さんなら大丈夫だよ?そういう心配いらないから」
どんだけ信頼されてるの、沖矢さん
「父さん母さんも太鼓判の人だよ」
どういう意味の太鼓判なの
呆れてものが言えない
25歳の私と、大学院生という男性
一つ屋根の下なんて何かあったらどうするつもり、我が家族よ…
イヤイヤながらもコナンくんに連れられるまま、スーツケースをゴロゴロ転がして2年ぶりの我が家の門をくぐったのである
「今日はあやねえちゃんといっぱいお話したいから僕泊まってもいい?」
沖矢さんに聞いたコナンくんの言葉に救われた気持ちになる
帰国した初日から知らない人と二人きりになるのはいやだったので二つ返事で了承した
まずはこれから過ごせるように部屋を掃除しなければと1階の一番奥にある私の部屋にコナンくんと共に移動する
部屋は鍵を掛けていたせいもあるけど誰も入った形跡は無く、出て行く前と変わりなかった
本当に何一つ変わりは無く、いなかった2年間の埃はあったので窓を開け新鮮な空気を取り込み、コナンくんに手伝ってもらい部屋中を一通り掃除をする
ベッドカバーを外し、シーツや布団カバーをしてすぐにでも寝られるようにベッドメイキングも済ます
一段落し、コナンくんがファンシーな二人がけソファ(決して私の趣味では無く、母の趣味)に腰を下ろしたので私も彼の横に腰を下ろした
「ねえちゃん」
そう言いながらコナンくんは私の太ももを枕にコテンと横になる
所謂膝枕というものだ
最後に彼を膝枕した時より遙かに軽く小さくなった頭を撫でながら私は目を細めた
新一は昔からそうだった
シスコンと周りから言われても彼は気にとめてないようで、私に全力で甘える弟だったし、スキンシップもよくしてくる子だった
蘭ちゃんがいるのに彼女より私を優先する場合もあったりした程で、姉としてはずいぶん心配したものだった
2年離れていたのと今は蘭ちゃんと暮らしていると聞いているので少しはシスコン卒業しているかと思ったらそんな事無い様子
「コナンくん、今日ここに泊まるのは蘭ちゃんにはお話したの?」
コナンくんの私より少し高い体温を太ももに感じながらゆっくり頭を撫でるとコクンとうなずく
「ちゃんと話してきたよ」
今までの少し甘えた話し方から落ち着いた話し方になったコナンくん
膝枕から起き上がり、私の胸に飛び込んできた
「おかえり、ねえちゃん」
「…ただいま、新一」
何やら事件に首を突っ込んだせいでこうなったと聞いてはいるが、こんな小さくなって心細かっただろう
私がいつか彼を元の姿に戻してあげたい、けど新一は自分でなんとかしようとするんだろう
1度目の抱擁時は新一のかわいさに心奪われていたけど今、こうして彼をゆったりと抱きしめて後頭部を優しく撫でていたら不意に涙が出て彼の頭頂部にぽたりと落ちる
その滴を感じた新一は一瞬身を強ばらせたけどすぐ力を抜いた
お互いに言葉を発すること無くそのまましばらく過ごした
◇◆◇
「あやねえちゃん、お仕事いつからなの?」
「明日から出勤だから今日中に蘭ちゃんのお宅へ行って蘭ちゃんや小五郎のおじさんにもご挨拶してこなきゃ」
「おや、お仕事明日からなんですね」
朝食後のコーヒーを飲みつつタブレットでニュースを読んでいるあやと俺の会話に朝食後の片付けが終わったらしい昴さんがマグカップを手に入ってくる
朝起きると朝食は昴さんによって準備されておりあやは恐縮していたが、俺が頂こうと言えばあやも困ったような笑顔を作って3人で朝食をとった
その後、後片付けをするというあやを昴さんが押しとどめ、既に淹れてあったコーヒーをサッと嫌み無く振る舞われ何も言えなくなった様子
俺にもオレンジジュースが出されたのであやの膝の上で一緒になってタブレットを覗き込んでいた
「すみません、忙しい職場なのでそこまでお休みが頂けないんです」
見ていたタブレットをテーブルに置き、俺をソファの隣へ抱き上げ移動させ飲み終わったのだろう、昨日出された来客用のコーヒーセットとは違い、あや用のマグカップを手にあやが立ち上がった
俺も慌てて残っていたオレンジジュースを煽り、氷の残ったグラスを手にあやの後ろについてキッチンへ行き、自分のマグカップと俺の手渡したグラスを洗うあやを見ていた
◇◆◇
黒のパンツスーツに身を包んだあやが警察庁の庁舎へ入っていく
受付で
「工藤と申しますが警察庁長官官房付神戸尊さんをお願いします」
とお願いすると受付の人が電話し、神戸とのアポイントメントを確認
来庁者名簿に住所氏名要件等の記載を促されたあやはそれらを記入し、入庁証を受け取り荷物検査をくぐり抜けエレベータに乗り指定された部屋へ
ノックすると返事があったのでゆっくり扉を開いた
「やぁ、あやちゃんおはよう」
そこには神戸がおり片手を軽く上げ、挨拶されたのであやも挨拶を返す
「入って」
あやは神戸に促されるままに部屋にある応接セットに着席した
神戸先輩は自分のデスクの電話からどこかに電話をかけて紅茶と炭酸を頼んでいる
先輩は相変わらず炭酸水が好きなようで変わらない先輩が嬉しく思った
「あやちゃんはコーヒーより紅茶派だったよね?」
電話を切った後にそんなことを言いながら私の前のソファに腰を下ろす先輩に私は頷く
覚えていてくれた事が嬉しく、先日迎えに来てくれた時にも感じたことだけど先輩のフェミニストなところもやっぱり相変わらずなんだなと顔をほころばせた
ノックが聞こえ、入ってきた女性が炭酸水と紅茶を置いて下がる
パタン
扉が閉まるのを目で確認した先輩はこちらに視線を向け、持ってきてもらった紅茶を勧められたのでカップを口元へ持って行くとアールグレイの良い香りが鼻を抜けた
一口頂くと口の中にもふんわりと香りが広がる
この先輩は私の好きな銘柄までしっかり覚えていてくれたようだ
「おいしいです」
カップをソーサーに戻し、にこりと先輩に微笑むと、先輩も持ってきてもらった炭酸水をゴクリと飲んでグラスをコースターに戻すと膝の上に肘をつき、私の方へ前のめりの体勢になり、二人しかいないのに少し小声で話し始めた
「あのね、あやちゃん。実はね、今日から僕の下に配属予定だったけど別のところが人手不足で困ってるから優秀で信頼できる女性をしばらく貸して欲しいって大河内監察官に言われててね…」
キリッとした眉を困ったように下げてこちらを見る
日本に戻って来てまた先輩の下で働けると思ってなかった私は瞠目した
大河内監察官は今目の前にいる先輩とは違い、いつも難しい顔をして眉間にしわを寄せてる人だ
神戸先輩は私をとてもかってくれていて、私が今回アメリカに行くことが出来たのもこの先輩のお陰だった
アメリカに行く前も先輩の元で一緒に仕事をし、とあるシステム構築も共に行っていた
アメリカに行ってからも先輩とは頻繁にやりとりをしていたので色々あった末そのシステムが使えなくなった事も聞いている
その関連で色々あった結果、今のポストに就いた事も聞いていた
「あやちゃんの人柄や今回アメリカで学んできたこと、それら全てを考慮されてね。一応あやちゃんの意思確認をしたくて…。僕としてはあやちゃんをこれ以上手放すのは惜しいんだけど」
ここで一度言葉を切った先輩は炭酸水を一口飲んで一つ息を吐いた
大河内監察官は先輩と旧知の仲で二人で飲みに行ったり、剣道で勝負をしている事もある仲である
私も飲みに連れて行って貰ったり、先輩ほど傍目にも分かりやすくは無いけどかわいがって貰っている
その監察官からのご指名なのだ
受けないわけにはいかない
そう思い返事をしようと一呼吸入れて先輩の目を見ると私の返事はもう分かっているようだった
「承知しました」
その言葉に先輩は大きく肩を動かして息を吐いた
一瞬何かを考える素振りを見せ、私の目を覗き込む
その目をそらせず、私も見つめ返していると先輩は観念したように口を開いた
「まだ部署も話してないけどね、君ならそういうと思ってたよ。それじゃお隣の大河内監察官をここに呼んでいいかな?」
お隣とは警視庁のことである
本当なら立場は私の方が下なので私から大河内監察官のところへ行くべきであろう
そう思い
「いえ、こちらから監察官のところへ…」
言いながらソファから立ち上がると先輩は私の左腕を引っ張り私を自分の方へ引き寄せ私の耳元でぼそりと一言告げた
その言葉に私の身体は電気が走ったようにビクリとする
――「あやちゃんの配属予定のところなら例の手がかりきっと見つかるんじゃないかな?」
ああ、先輩は過去に話した私の話を覚えていてくれたんだ…
言おうと思っていた言葉を思わずグッと飲み込んでしまった
ほんの先ほど言うか言わないか先輩が躊躇したのはきっとこのことだろう
一度立ち上がった私は力が抜けてしまいぺたりとソファに腰を下ろし、先輩を見上げる
先輩はスマホを耳に当て私に向かってウインクしながら私との話が付いたことを報告していた
多分大河内監察官だろう
電話が終わると今度は自分のデスクから別のところに電話をして今度は日本茶を3つ頼んでいる
本当に気の利く先輩だと思う
その先輩の言葉で出して貰っていた紅茶の存在を思い出し、すっかり冷めてしまった紅茶を頂いた
◇◆◇
ここの家主の娘さんが日本に帰国してこれから一緒に住むことになるとは聞いおり、到着は今日だとも聞いていたので到着を待っていた
ドアベルが鳴ったので部屋に招き入れリビングのソファを…と薦め、紅茶を3人分用意して2人に出し、最後に自分の前にも置きボウヤと女性の前に座る
目の前でニコニコしているボウヤとは対照的に家主の奥さんによく似たしっかりした目鼻立ちの女性が少々胡乱げな顔でボウヤの紹介に対しこちらに頭をペコリと下げた
どうやら本人的には不本意の様だ
そりゃそうだろう、自宅なのに家族以外の人間と同居しろと言われているのだから
少しでも警戒心を解いてもらわなければ…
「沖矢昴です」
いつもより優しめの声で自己紹介した
あやとボウヤが毛利家へ挨拶に行くと出て行った
俺は喉元にある変声機の電源を切り、スマホを取り上げコールする
工藤あやの声は聞き覚えがあり、その確認の為の電話だ
「…赤井です。すみませんが工藤あやという女性は前にうちにいなかったでしょうか」
通話相手からの返答に全てを理解した俺はお礼を言って電話を切る
工藤あやとは会ったことはないが本国の方からこちらをサポートしてくれていたメンバーの一人だったようだ
計らずも奇縁で繋がっているようだ
有希子さんと一度話さねばならないかもしれないな
そう思いながら変声機の電源を改めて入れ直した
◇◆◇
『不足人員補充の連絡がありましたので関連書類をお送りします』
タブレットに届いた風見からのメールの添付ファイルの展開をしながらコーヒーを一口くちに含む
今日の予定は午後からポアロでアルバイト、夜はベルモットと待ち合わせだ
フリーの午前中は庁舎の方へ出勤しようと思っていたところだった
少しのタイムラグの後、展開されたファイルは警察庁の職員個人データをPDF化したものだ
『工藤あや(25) 父:工藤優作 母:工藤(旧姓:藤峰)有希子 弟:工藤新一』
工藤新一…?
最近表舞台から姿を消した有名な高校生探偵の姉なのか…
彼については色々知りたいことがあるが一般人であるので調べておらず、まさか彼の身内が同じ警察庁内にいるとは思わなかった
なかなか面白い人員が配置されるようだ
早速スーツに着替えようと届いたメールと添付ファイルを削除しタブレットをソファに放り投げた
◇◆◇
大河内監察官から配置部署についての説明を受けてきちんと話を聞かないで了承した少し前の自分を殴ってやりたいと思いながら頭を抱える私
それを少し困ったような顔してこちらを見ている先輩と、眉間にしわを寄せたまま一切表情が変わらない大河内監察官を交互に見やり、ぐぅっと息をのむ
――警察庁警備局警備企画課、通称公安
これが私がこれからお世話になる部署名だった――
大河内監察官が公安についての説明を淡々としながら書類をテーブルの上に置いていく
何セットもある書類全てに目を通し署名捺印をしなくてはならないらしい
普通に仕事をすると思っていたのにこんな事になろうとは…
説明が一通り終わり退席される監察官を見送った後、応接セットに置かれている大量の書類を目にして情けない顔をしているであろう私は自分より背の高い先輩を見上げると先輩も困った顔して肩をすくめ、胸ポケットからボールペンを取り出し私に渡しながら言った
「とりあえず、書類に目通してみたら?」
「はい…」
それから1時間、書類に目を通し必要なものに署名捺印をし、大河内監察官に後ほど会う予定があるという先輩に書類を預けるとソファから立ち上がった
「公安はこのフロアの4階下だよ、僕が送ろうか?」
と場を和ませようとおどけたように話す先輩にお断りとお礼を言い、退室しようと扉の前で回れ右、失礼しましたと頭を下げると
「あやちゃんの帰るところはここにあるからね、行っておいで」
「ありがとう、タケ兄ちゃん。行ってきます」
眉尻を下げて少し寂しそうに先輩は見送ってくれた
――――――――――――
このお話はここで終わりです
文章は当時のまま、加筆修正はしていません
この作品について
この作品は当時純黒の悪夢を見た後、DC夢(恋愛はほぼなし)を書きたいなと思い考えたお話になります
今から5年前に書いたものなのですが、作品の作り方自体は今もほぼ変わっていません
私の作品の作り方はお話の大筋となるプロットを書き出し(4~10行くらい)その後盛り込みたい事柄を箇条書きにしていき、それらを肉付けした後、推敲(という名の更に大量の肉付け)作業を何度かした後に公開となります(推敲回数が少ないと後から読み返した時、ジタバタしたりします)
この作品はプロットから少し肉付けした段階(箇条書きの次の工程)なので視点がポンポン飛びますし、誰の視点かも分かりにくくなっています
いつもならこの内容から数度の推敲を経てモリモリさせてから公開となりますが、当時はサイトもありませんでしたし、友人の本へ寄稿をしている間にそのまま放置となってしまったものです
あやさんは有希子さんのお姉さんの娘設定
なので本来ならば工藤家とは親戚関係になります(新一くんは従弟)
母(有希子さんの姉)の名前は流水子、父の名前は和史
神戸さんとの関係は、神戸さんは父方の従兄でプライベートでは「タケ兄ちゃん」と呼んでるけど職場では「先輩」と呼んでおり、地の文も同様に合わせている(コナンくんも同様に地の文を合わせています)
あやさんは小学生になる前(幼稚園の年長さんくらい)にお父さんとお母さんが帰ってきたので戯れにクローゼットに隠れて脅かそうとするも誰かが入ってきて両親が殺されるところを目の当たりにする
犯人の顔は見てないけど身体的特徴(手の甲にサソリの尻尾の入れ墨)は覚えている
事件後、ショックから記憶喪失になり工藤家に引き取られる
新一くんが生まれた後も変わらず可愛がられているので自分は工藤家の娘だと思い込んでいた
しかし中学生になったある日、高熱を出したことで幼少期の出来事を思い出し、犯人を捜して逮捕しようと決意、警察を志す
自立できる年齢になったら即自立しようと思い、工藤家の人々と少しずつ距離を開けようとするけど聡い工藤家の人々はあやさんと距離を開けさせない
公安に行くことになったあやさんは公安が追っていた犯罪組織のマークがサソリの尻尾で身体のどこかに入れ墨として入れていることを知る
その中に両親を殺した相手がいると確信し、単独で追おうとするけど沖矢さんに邪魔をされ(夢主は赤井さんと沖矢さんが同一人物だとは気が付いていない)買い物に強制連行される
そこを安室さんに目撃され、沖矢(赤井)さんの彼女と勘違いした安室さんから安室透の彼女役になれと業務命令される(情報を吐かせるためで恋愛感情はない)
情報のやりとりなどのため、安室透の彼女として何度もポアロに足を運ぶことになったある日「オレンジジュースでいいかい?」と言いながらアイスコーヒーを安室さんから出される
コースターにサソリの尻尾マークの犯罪組織の情報が記載されている(ポアロは盗聴されているとの記載あり)
気が急いたあやさんはポアロを出た後、犯罪組織を単独で追い、両親の敵を追い詰めるも後ろから銃撃されピンチに
そこにコナンくんと赤井さんが駆けつけ犯罪組織を壊滅させることに成功
怪我して歩けないあやさんを抱き上げた赤井さんは遅れて駆けつけた降谷さんへあやさんを託す
入院しているあやさんの元に現れたコナンくん
目標を失いすっかり心ここにあらずとなってしまったあやさんはコナンくんに工藤家への気持ちを吐露すると「ねえちゃんは俺のねえちゃんでそれは死ぬまでずっと変わらない」と言われ目が覚める
要約するとこんな感じのお話を考えていたようです
もちろんクロスオーバーなので神戸さんたち相棒の面々もあちこちで絡んでくる予定でした
書きたかったテーマはあやさんの家族に対する思いでした
この作品は恋愛系の夢小説として書いていたわけでは無いので特定のキャラや人物との恋愛は想定しておりません
『F oriented』の『F』はここまででお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが『Family』の意味で最後はこの言葉に着地する予定でした
今これを作品として仕上げるのは正直難しいです
あやさんの設定の中に諸伏景光さんと同一の設定が出てきてしまうので(偶然なのですが)その点を変更することがお話の展開上難しいです
当時と今では作品内のテンションが違いますし、当時考えていた細かい設定(書きとめていない部分)を覚えていないこともあります
なので中途半端(推敲してない)ですがこちらに格納しておきます
そんな作品でありますが、読んでくださってありがとうございました
独りごちて成田国際空港に入るとちょうど空港アナウンスで彼女の搭乗便が到着したことを知る
どうやら間に合ったようだ
到着便の案内掲示板を見上げ、彼女の出てくる出口前の大きな柱に寄りかかった
飛行機から降りた人たちが続々手荷物引渡場に姿を見せる
その中に2年ぶりの彼女の姿を認めたが、彼女はこちらに気がつかないまま動き始めたコンベアの前で自分の手荷物を待っているようだ
その様子をじっと見つめていたが彼女はやはりこちらには気づかない
それはそうだろう
僕は彼女を迎えに行くなんて話してないし彼女は誰かが迎えが来るとは思いも寄らないないだろうから
赤のタグを付けたグレーの大きなスーツケースを手に取り、スマホを操作しながら手荷物引渡場を出た彼女の前に僕は近寄ると彼女はふいに顔を上げた
「歩きスマホは危険ですよ」
そう話しかけた僕を見て驚きを隠せない彼女の顔を見て嬉しくなった
◇◆◇
「サプライズお迎えにあがりました」
そう言いながら私の従兄であるであるタケ兄ちゃんは驚く私の手からスーツケースをスマートに取り上げ「あちらにお車をご用意してます」とおどけた様子で私をエスコートする
オーダーメイドスーツをスマートに着こなすタケ兄ちゃんの半歩後ろからついて行く
駐車場に停まっていたタケ兄ちゃんの愛車であるGT-Rの助手席の扉を開け乗るように促すのでおとなしく乗り込んだ
私が乗り込んだ後、トランクにスーツケースを入れたタケ兄ちゃんが運転席に乗り込む
グィッと運転席側に重心が傾き、ドアが閉まると同時に重心は元に戻る
何度も揺れたりしないこのGT-Rの足回りはしっかりしているし、マメに手入れされているのだろう
「さーて、あやちゃん。ロングフライトで疲れてるだろうから自宅まで送ろうか」
エンジンを掛けてこちらをチラッと見るタケ兄ちゃんに
「お迎えありがとう。タケ兄ちゃんに迎えに来て貰えて嬉しい」
とタケ兄ちゃんに促されるまま今までほとんど声を発してなかった私は今更ながらペコリと頭を下げる
「新一くんと連絡取れてるの?」
ステアリングを切りながらタケ兄ちゃんは米花町に車を走らせる
2年ぶりの日本の風景を懐かしみつつタケ兄ちゃんに言われてふと気がついた
いくら身内と言えどタケ兄ちゃんに知られてはならない、今の新一のこと…
タケ兄ちゃんは父方の従兄にあたる人で、幼少の頃から実の妹の様にかわいがって貰っていたし、当然新一のことも知っている
「すいません、新一には今日帰るとは伝えてないの…。なので家の隣の阿笠さんというお宅までお願いできる?新一が自宅の鍵預けてるって以前言ってたから」
「オーケー。じゃ、着くまでゆっくりしてて?」
そう言ったタケ兄ちゃんはカーオーディオを操作し、ジャズを流し始めた
今まで車のエンジン音しかしなかった中にピアノやバイオリン等の音が緩やかに流れる
本当は色々話したいところではあるが、長旅で疲れていてあまり話す気持ちになれなかったし、新一の事を聞かれたら…と不安だった
一旦は終わらせたとはいえ、彼の現状をきちんと把握できない今の私はまた新一の話をされてもやっかいだなと思う
狭い車内での大きめなボリュームの音楽に話をせず寛げというタケ兄ちゃんの言葉ではない優しさを感じた
珍しい家屋の形の阿笠邸に到着し、タケ兄ちゃんに迎えに来てもらったことを丁重にお礼して見送った
タケ兄ちゃんは窓から右手を出し、振りながら黒のGT-Rはおなかに響くエキゾースト音を残して走り去る
確か我が家には弟が住んでいない代わりに居候がいると聞いているので突然帰るのは問題があるかもしれない
まずは新一に互いを紹介してもらわなきゃ…
阿笠邸の横に建つ自分の家を見つつスマホをバッグから取り出し家族タブから新一の名前をタップすると呼び出し音が聞こえたのでスマホを耳に当てる
3コール目の途中で電話が繋がった
「あやねえちゃん?こっちに着いたの?」
私の知ってる弟の声よりはるかに幼く、懐かしい声に両親から聞かされた弟の境遇を思い出す
「新一?」
「あやねえちゃん今どこ?」
弟の後ろでは子供たちが騒いでいる声が聞こえる
「今はね、博士の家の前」
「分かった、博士の家で待っててくれ、急いで向かうから」
子供たちの声が聞こえなくなった、切れたようだ
どうやら弟はこれからこちらに来てくれるらしい
スーツケースをゴロゴロして阿笠邸のドアベルを鳴らした
博士に部屋に通され一通りの挨拶を済ましお土産を渡すと博士はたいそう喜んでくれたけど…そのお腹、2年前に見た時より育ってます、お土産お菓子じゃない方が良かったかもしれない…
そんな事を思いつつ博士の入れてくれたお茶を頂く
博士はテレビの横にある作業台で何やら作業をしながら鼻歌を歌っている
変わらないその様子にフッと口元が緩んだ
カチャ カチャ キュッ
博士の作業音と共に時差ぼけもありぼんやりとしつつ湯飲みから立ち上る湯気を見ていたら
「ねえちゃん!」
大きな声と共にランドセルを背負って顔に似合わない位大きなめがねをかけて赤い蝶ネクタイをした男の子が飛び込んでくる
「しんいちぃ~」
懐かしくも可愛い弟の姿を認め、思わず抱きしめた
「感動の再会ね」
しっかり落ち着いた女性の声に新一を抱きしめながら目をやると明るい髪色でボブケアの可愛い女の子がランドセルを背負い腕組みをして壁にもたれかかっていた
もしかして新一の彼女?…ううん、新一には蘭ちゃんがいたよね?
驚きのあまり弟を抱きしめる腕に力が入ってしまったみたいで
「ねえちゃん、苦しいんだけど」
抱きしめていた腕をタップし弟から文句が出て名残惜しいけど新一を腕の中から解放する
私に抱きしめられて乱れた服や髪を手で整えながら新一が一つ息をつく
「俺の姉のあや、工藤あや」
壁にもたれかかっていた女の子を見やり新一が私を紹介し
「ねえちゃん、こいつ俺と同じ境遇の灰原哀ってんだ」
と今度はこちらを向いて親指で女の子を指す
新一と同じ境遇という事は、クスリで肉体が退行してるという事
この子も例の組織に関係がある子なのか…と少しだけ注意深く灰原さんを見つめると彼女からも見つめ返されていた
なるほど、確かに小学生の雰囲気ではない
軽く息を吐き、紹介された灰原さんへ握手を求め右手を差し出した
「新一の姉の工藤あやです よろしく、灰原さん」
握手を求められた事に彼女は少し驚いた顔を見せた…がすぐ元の無表情に戻り握手を返してくれ
「灰原哀、哀でいいわ」
と答えてくれた
それから新一の身辺の話を聞かされた
・新一の名前は江戸川コナンと名乗っていること(肉体退行していることは両親から聞いて知っていたけど名前までは聞いてなかった)
・新一は現在蘭ちゃんのお宅でお世話になってること(これは両親から聞いていた)
・私はこれから新一と呼ぶのではなく、あくまで親戚のコナンとして扱うこと
・新一の携帯は現在2台あり1台は新一のもの、もう1台はコナンのものと使い分けていること
・お隣に住んでる人は住んでたアパートが火事で焼けてしまったので一時的に住んでもらってる大学院生だということ
・私が家から職場に通勤する旨はその大学院生には話を通してるということ
「取り急ぎ口裏合わせをしなければならないのはこのくらいか…」
話をしている間に哀ちゃんによって用意されたお茶をコナンくんは飲んでふぅと息をつく
本当は私は居候がいると聞いていたので実家から通う予定では無かったのだが新一が住んで管理できない現状、私が住んで管理するよう両親より言われている
子供や家をほっぽって海外で生活していると思われがちな両親だけど、とてもたくさんの愛情を私や弟は向けてくれているのは自覚しているので実家に住む件についても了承したんだけど、まさか同居人となる人が男性だとは思わなかった…
「し…コナンくん、居候さんって男性…なんだよね?」
一応の再確認…と思い、コナンくんに聞くと
「そうだよ?沖矢昴さんって人だよ」
ニッコリ返された
弟よ、いくら広い屋敷と言えど若い男女が一つ屋根の下っていうのはどうなんだ?
ジトリとした目で睨み付けるとようやく彼も気がついたようで慌てて言う
「あ、昴さんなら大丈夫だよ?そういう心配いらないから」
どんだけ信頼されてるの、沖矢さん
「父さん母さんも太鼓判の人だよ」
どういう意味の太鼓判なの
呆れてものが言えない
25歳の私と、大学院生という男性
一つ屋根の下なんて何かあったらどうするつもり、我が家族よ…
イヤイヤながらもコナンくんに連れられるまま、スーツケースをゴロゴロ転がして2年ぶりの我が家の門をくぐったのである
「今日はあやねえちゃんといっぱいお話したいから僕泊まってもいい?」
沖矢さんに聞いたコナンくんの言葉に救われた気持ちになる
帰国した初日から知らない人と二人きりになるのはいやだったので二つ返事で了承した
まずはこれから過ごせるように部屋を掃除しなければと1階の一番奥にある私の部屋にコナンくんと共に移動する
部屋は鍵を掛けていたせいもあるけど誰も入った形跡は無く、出て行く前と変わりなかった
本当に何一つ変わりは無く、いなかった2年間の埃はあったので窓を開け新鮮な空気を取り込み、コナンくんに手伝ってもらい部屋中を一通り掃除をする
ベッドカバーを外し、シーツや布団カバーをしてすぐにでも寝られるようにベッドメイキングも済ます
一段落し、コナンくんがファンシーな二人がけソファ(決して私の趣味では無く、母の趣味)に腰を下ろしたので私も彼の横に腰を下ろした
「ねえちゃん」
そう言いながらコナンくんは私の太ももを枕にコテンと横になる
所謂膝枕というものだ
最後に彼を膝枕した時より遙かに軽く小さくなった頭を撫でながら私は目を細めた
新一は昔からそうだった
シスコンと周りから言われても彼は気にとめてないようで、私に全力で甘える弟だったし、スキンシップもよくしてくる子だった
蘭ちゃんがいるのに彼女より私を優先する場合もあったりした程で、姉としてはずいぶん心配したものだった
2年離れていたのと今は蘭ちゃんと暮らしていると聞いているので少しはシスコン卒業しているかと思ったらそんな事無い様子
「コナンくん、今日ここに泊まるのは蘭ちゃんにはお話したの?」
コナンくんの私より少し高い体温を太ももに感じながらゆっくり頭を撫でるとコクンとうなずく
「ちゃんと話してきたよ」
今までの少し甘えた話し方から落ち着いた話し方になったコナンくん
膝枕から起き上がり、私の胸に飛び込んできた
「おかえり、ねえちゃん」
「…ただいま、新一」
何やら事件に首を突っ込んだせいでこうなったと聞いてはいるが、こんな小さくなって心細かっただろう
私がいつか彼を元の姿に戻してあげたい、けど新一は自分でなんとかしようとするんだろう
1度目の抱擁時は新一のかわいさに心奪われていたけど今、こうして彼をゆったりと抱きしめて後頭部を優しく撫でていたら不意に涙が出て彼の頭頂部にぽたりと落ちる
その滴を感じた新一は一瞬身を強ばらせたけどすぐ力を抜いた
お互いに言葉を発すること無くそのまましばらく過ごした
◇◆◇
「あやねえちゃん、お仕事いつからなの?」
「明日から出勤だから今日中に蘭ちゃんのお宅へ行って蘭ちゃんや小五郎のおじさんにもご挨拶してこなきゃ」
「おや、お仕事明日からなんですね」
朝食後のコーヒーを飲みつつタブレットでニュースを読んでいるあやと俺の会話に朝食後の片付けが終わったらしい昴さんがマグカップを手に入ってくる
朝起きると朝食は昴さんによって準備されておりあやは恐縮していたが、俺が頂こうと言えばあやも困ったような笑顔を作って3人で朝食をとった
その後、後片付けをするというあやを昴さんが押しとどめ、既に淹れてあったコーヒーをサッと嫌み無く振る舞われ何も言えなくなった様子
俺にもオレンジジュースが出されたのであやの膝の上で一緒になってタブレットを覗き込んでいた
「すみません、忙しい職場なのでそこまでお休みが頂けないんです」
見ていたタブレットをテーブルに置き、俺をソファの隣へ抱き上げ移動させ飲み終わったのだろう、昨日出された来客用のコーヒーセットとは違い、あや用のマグカップを手にあやが立ち上がった
俺も慌てて残っていたオレンジジュースを煽り、氷の残ったグラスを手にあやの後ろについてキッチンへ行き、自分のマグカップと俺の手渡したグラスを洗うあやを見ていた
◇◆◇
黒のパンツスーツに身を包んだあやが警察庁の庁舎へ入っていく
受付で
「工藤と申しますが警察庁長官官房付神戸尊さんをお願いします」
とお願いすると受付の人が電話し、神戸とのアポイントメントを確認
来庁者名簿に住所氏名要件等の記載を促されたあやはそれらを記入し、入庁証を受け取り荷物検査をくぐり抜けエレベータに乗り指定された部屋へ
ノックすると返事があったのでゆっくり扉を開いた
「やぁ、あやちゃんおはよう」
そこには神戸がおり片手を軽く上げ、挨拶されたのであやも挨拶を返す
「入って」
あやは神戸に促されるままに部屋にある応接セットに着席した
神戸先輩は自分のデスクの電話からどこかに電話をかけて紅茶と炭酸を頼んでいる
先輩は相変わらず炭酸水が好きなようで変わらない先輩が嬉しく思った
「あやちゃんはコーヒーより紅茶派だったよね?」
電話を切った後にそんなことを言いながら私の前のソファに腰を下ろす先輩に私は頷く
覚えていてくれた事が嬉しく、先日迎えに来てくれた時にも感じたことだけど先輩のフェミニストなところもやっぱり相変わらずなんだなと顔をほころばせた
ノックが聞こえ、入ってきた女性が炭酸水と紅茶を置いて下がる
パタン
扉が閉まるのを目で確認した先輩はこちらに視線を向け、持ってきてもらった紅茶を勧められたのでカップを口元へ持って行くとアールグレイの良い香りが鼻を抜けた
一口頂くと口の中にもふんわりと香りが広がる
この先輩は私の好きな銘柄までしっかり覚えていてくれたようだ
「おいしいです」
カップをソーサーに戻し、にこりと先輩に微笑むと、先輩も持ってきてもらった炭酸水をゴクリと飲んでグラスをコースターに戻すと膝の上に肘をつき、私の方へ前のめりの体勢になり、二人しかいないのに少し小声で話し始めた
「あのね、あやちゃん。実はね、今日から僕の下に配属予定だったけど別のところが人手不足で困ってるから優秀で信頼できる女性をしばらく貸して欲しいって大河内監察官に言われててね…」
キリッとした眉を困ったように下げてこちらを見る
日本に戻って来てまた先輩の下で働けると思ってなかった私は瞠目した
大河内監察官は今目の前にいる先輩とは違い、いつも難しい顔をして眉間にしわを寄せてる人だ
神戸先輩は私をとてもかってくれていて、私が今回アメリカに行くことが出来たのもこの先輩のお陰だった
アメリカに行く前も先輩の元で一緒に仕事をし、とあるシステム構築も共に行っていた
アメリカに行ってからも先輩とは頻繁にやりとりをしていたので色々あった末そのシステムが使えなくなった事も聞いている
その関連で色々あった結果、今のポストに就いた事も聞いていた
「あやちゃんの人柄や今回アメリカで学んできたこと、それら全てを考慮されてね。一応あやちゃんの意思確認をしたくて…。僕としてはあやちゃんをこれ以上手放すのは惜しいんだけど」
ここで一度言葉を切った先輩は炭酸水を一口飲んで一つ息を吐いた
大河内監察官は先輩と旧知の仲で二人で飲みに行ったり、剣道で勝負をしている事もある仲である
私も飲みに連れて行って貰ったり、先輩ほど傍目にも分かりやすくは無いけどかわいがって貰っている
その監察官からのご指名なのだ
受けないわけにはいかない
そう思い返事をしようと一呼吸入れて先輩の目を見ると私の返事はもう分かっているようだった
「承知しました」
その言葉に先輩は大きく肩を動かして息を吐いた
一瞬何かを考える素振りを見せ、私の目を覗き込む
その目をそらせず、私も見つめ返していると先輩は観念したように口を開いた
「まだ部署も話してないけどね、君ならそういうと思ってたよ。それじゃお隣の大河内監察官をここに呼んでいいかな?」
お隣とは警視庁のことである
本当なら立場は私の方が下なので私から大河内監察官のところへ行くべきであろう
そう思い
「いえ、こちらから監察官のところへ…」
言いながらソファから立ち上がると先輩は私の左腕を引っ張り私を自分の方へ引き寄せ私の耳元でぼそりと一言告げた
その言葉に私の身体は電気が走ったようにビクリとする
――「あやちゃんの配属予定のところなら例の手がかりきっと見つかるんじゃないかな?」
ああ、先輩は過去に話した私の話を覚えていてくれたんだ…
言おうと思っていた言葉を思わずグッと飲み込んでしまった
ほんの先ほど言うか言わないか先輩が躊躇したのはきっとこのことだろう
一度立ち上がった私は力が抜けてしまいぺたりとソファに腰を下ろし、先輩を見上げる
先輩はスマホを耳に当て私に向かってウインクしながら私との話が付いたことを報告していた
多分大河内監察官だろう
電話が終わると今度は自分のデスクから別のところに電話をして今度は日本茶を3つ頼んでいる
本当に気の利く先輩だと思う
その先輩の言葉で出して貰っていた紅茶の存在を思い出し、すっかり冷めてしまった紅茶を頂いた
◇◆◇
ここの家主の娘さんが日本に帰国してこれから一緒に住むことになるとは聞いおり、到着は今日だとも聞いていたので到着を待っていた
ドアベルが鳴ったので部屋に招き入れリビングのソファを…と薦め、紅茶を3人分用意して2人に出し、最後に自分の前にも置きボウヤと女性の前に座る
目の前でニコニコしているボウヤとは対照的に家主の奥さんによく似たしっかりした目鼻立ちの女性が少々胡乱げな顔でボウヤの紹介に対しこちらに頭をペコリと下げた
どうやら本人的には不本意の様だ
そりゃそうだろう、自宅なのに家族以外の人間と同居しろと言われているのだから
少しでも警戒心を解いてもらわなければ…
「沖矢昴です」
いつもより優しめの声で自己紹介した
あやとボウヤが毛利家へ挨拶に行くと出て行った
俺は喉元にある変声機の電源を切り、スマホを取り上げコールする
工藤あやの声は聞き覚えがあり、その確認の為の電話だ
「…赤井です。すみませんが工藤あやという女性は前にうちにいなかったでしょうか」
通話相手からの返答に全てを理解した俺はお礼を言って電話を切る
工藤あやとは会ったことはないが本国の方からこちらをサポートしてくれていたメンバーの一人だったようだ
計らずも奇縁で繋がっているようだ
有希子さんと一度話さねばならないかもしれないな
そう思いながら変声機の電源を改めて入れ直した
◇◆◇
『不足人員補充の連絡がありましたので関連書類をお送りします』
タブレットに届いた風見からのメールの添付ファイルの展開をしながらコーヒーを一口くちに含む
今日の予定は午後からポアロでアルバイト、夜はベルモットと待ち合わせだ
フリーの午前中は庁舎の方へ出勤しようと思っていたところだった
少しのタイムラグの後、展開されたファイルは警察庁の職員個人データをPDF化したものだ
『工藤あや(25) 父:工藤優作 母:工藤(旧姓:藤峰)有希子 弟:工藤新一』
工藤新一…?
最近表舞台から姿を消した有名な高校生探偵の姉なのか…
彼については色々知りたいことがあるが一般人であるので調べておらず、まさか彼の身内が同じ警察庁内にいるとは思わなかった
なかなか面白い人員が配置されるようだ
早速スーツに着替えようと届いたメールと添付ファイルを削除しタブレットをソファに放り投げた
◇◆◇
大河内監察官から配置部署についての説明を受けてきちんと話を聞かないで了承した少し前の自分を殴ってやりたいと思いながら頭を抱える私
それを少し困ったような顔してこちらを見ている先輩と、眉間にしわを寄せたまま一切表情が変わらない大河内監察官を交互に見やり、ぐぅっと息をのむ
――警察庁警備局警備企画課、通称公安
これが私がこれからお世話になる部署名だった――
大河内監察官が公安についての説明を淡々としながら書類をテーブルの上に置いていく
何セットもある書類全てに目を通し署名捺印をしなくてはならないらしい
普通に仕事をすると思っていたのにこんな事になろうとは…
説明が一通り終わり退席される監察官を見送った後、応接セットに置かれている大量の書類を目にして情けない顔をしているであろう私は自分より背の高い先輩を見上げると先輩も困った顔して肩をすくめ、胸ポケットからボールペンを取り出し私に渡しながら言った
「とりあえず、書類に目通してみたら?」
「はい…」
それから1時間、書類に目を通し必要なものに署名捺印をし、大河内監察官に後ほど会う予定があるという先輩に書類を預けるとソファから立ち上がった
「公安はこのフロアの4階下だよ、僕が送ろうか?」
と場を和ませようとおどけたように話す先輩にお断りとお礼を言い、退室しようと扉の前で回れ右、失礼しましたと頭を下げると
「あやちゃんの帰るところはここにあるからね、行っておいで」
「ありがとう、タケ兄ちゃん。行ってきます」
眉尻を下げて少し寂しそうに先輩は見送ってくれた
――――――――――――
このお話はここで終わりです
文章は当時のまま、加筆修正はしていません
この作品について
この作品は当時純黒の悪夢を見た後、DC夢(恋愛はほぼなし)を書きたいなと思い考えたお話になります
今から5年前に書いたものなのですが、作品の作り方自体は今もほぼ変わっていません
私の作品の作り方はお話の大筋となるプロットを書き出し(4~10行くらい)その後盛り込みたい事柄を箇条書きにしていき、それらを肉付けした後、推敲(という名の更に大量の肉付け)作業を何度かした後に公開となります(推敲回数が少ないと後から読み返した時、ジタバタしたりします)
この作品はプロットから少し肉付けした段階(箇条書きの次の工程)なので視点がポンポン飛びますし、誰の視点かも分かりにくくなっています
いつもならこの内容から数度の推敲を経てモリモリさせてから公開となりますが、当時はサイトもありませんでしたし、友人の本へ寄稿をしている間にそのまま放置となってしまったものです
あやさんは有希子さんのお姉さんの娘設定
なので本来ならば工藤家とは親戚関係になります(新一くんは従弟)
母(有希子さんの姉)の名前は流水子、父の名前は和史
神戸さんとの関係は、神戸さんは父方の従兄でプライベートでは「タケ兄ちゃん」と呼んでるけど職場では「先輩」と呼んでおり、地の文も同様に合わせている(コナンくんも同様に地の文を合わせています)
あやさんは小学生になる前(幼稚園の年長さんくらい)にお父さんとお母さんが帰ってきたので戯れにクローゼットに隠れて脅かそうとするも誰かが入ってきて両親が殺されるところを目の当たりにする
犯人の顔は見てないけど身体的特徴(手の甲にサソリの尻尾の入れ墨)は覚えている
事件後、ショックから記憶喪失になり工藤家に引き取られる
新一くんが生まれた後も変わらず可愛がられているので自分は工藤家の娘だと思い込んでいた
しかし中学生になったある日、高熱を出したことで幼少期の出来事を思い出し、犯人を捜して逮捕しようと決意、警察を志す
自立できる年齢になったら即自立しようと思い、工藤家の人々と少しずつ距離を開けようとするけど聡い工藤家の人々はあやさんと距離を開けさせない
公安に行くことになったあやさんは公安が追っていた犯罪組織のマークがサソリの尻尾で身体のどこかに入れ墨として入れていることを知る
その中に両親を殺した相手がいると確信し、単独で追おうとするけど沖矢さんに邪魔をされ(夢主は赤井さんと沖矢さんが同一人物だとは気が付いていない)買い物に強制連行される
そこを安室さんに目撃され、沖矢(赤井)さんの彼女と勘違いした安室さんから安室透の彼女役になれと業務命令される(情報を吐かせるためで恋愛感情はない)
情報のやりとりなどのため、安室透の彼女として何度もポアロに足を運ぶことになったある日「オレンジジュースでいいかい?」と言いながらアイスコーヒーを安室さんから出される
コースターにサソリの尻尾マークの犯罪組織の情報が記載されている(ポアロは盗聴されているとの記載あり)
気が急いたあやさんはポアロを出た後、犯罪組織を単独で追い、両親の敵を追い詰めるも後ろから銃撃されピンチに
そこにコナンくんと赤井さんが駆けつけ犯罪組織を壊滅させることに成功
怪我して歩けないあやさんを抱き上げた赤井さんは遅れて駆けつけた降谷さんへあやさんを託す
入院しているあやさんの元に現れたコナンくん
目標を失いすっかり心ここにあらずとなってしまったあやさんはコナンくんに工藤家への気持ちを吐露すると「ねえちゃんは俺のねえちゃんでそれは死ぬまでずっと変わらない」と言われ目が覚める
要約するとこんな感じのお話を考えていたようです
もちろんクロスオーバーなので神戸さんたち相棒の面々もあちこちで絡んでくる予定でした
書きたかったテーマはあやさんの家族に対する思いでした
この作品は恋愛系の夢小説として書いていたわけでは無いので特定のキャラや人物との恋愛は想定しておりません
『F oriented』の『F』はここまででお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが『Family』の意味で最後はこの言葉に着地する予定でした
今これを作品として仕上げるのは正直難しいです
あやさんの設定の中に諸伏景光さんと同一の設定が出てきてしまうので(偶然なのですが)その点を変更することがお話の展開上難しいです
当時と今では作品内のテンションが違いますし、当時考えていた細かい設定(書きとめていない部分)を覚えていないこともあります
なので中途半端(推敲してない)ですがこちらに格納しておきます
そんな作品でありますが、読んでくださってありがとうございました
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