【DC】FELICITE
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この週末は蘭が空手の合宿でおらず小五郎のおっちゃんと2人の朝
「おい、コナン。朝飯食いに行くぞ」
おっちゃんより早く目の覚めていた俺は宿題を済ませ、昨日買った推理小説を読んでいたところだった
起き抜けのままの姿のおっちゃんは無精ヒゲを生やし、少し草臥れた服装のまま財布を手にしながら俺に声を掛けてきた
その状態のまま行くと言うことは朝ご飯は階下のポアロなのだろう
「はぁい」
読んでいた本に栞を挟んで閉じ、おっちゃんの背中を追った
カランコロン
階段の最下段に差し掛かった時にポアロのドアベルが鳴る
ポアロのドアが開いたのだろう
「それじゃ、梓さんごちそうさまでした。またね」
!!
この声はっ
最下段に飛び降りて右側にあるポアロのドアへ勢いよく目をやるとやっぱりそこにいたのはあやお姉さんで俺の突然の登場に一瞬驚いたようだったがすぐいつもの笑顔を浮かべ声を掛けてくれる
「コナンくんおはよう。これからポアロかな?」
「おはよう、あやお姉さん。ポアロで朝ごはんなんだ」
「今日のモーニングはミルクトマト煮よ」
「これはこれはあやさん!おはようございます」
「おはようございます」
俺とおっちゃんが一緒に居たからだろうか、おっちゃんが草臥れた格好をしていたからだろうか、俺たちの目的がポアロのモーニングと推理したらしいあやお姉さんは、パチンとウインクしながら俺に目線を合わせるために少し屈んでくれたが、おっちゃんが目を輝かせて俺とあやお姉さんの間に入り込み、あやお姉さんの手を取った
「毛利さん、モーニングもう少しで終わってしまいますよ?」
眉尻を下げて少し困った顔したあやお姉さんが店内に目をやった
俺も釣られるように店内に目を向けるとトレンチを胸元に抱えた梓さんがこちらの様子を伺っている
そんなあやお姉さんの様子に構わず(気づかず?)「いや~あやさん今日もお美しい~」とデレているおっちゃんの服の裾を引っ張って助け船を出すことにした
「おじさん、僕お腹すいた」
「あ…あぁ」
「それでは失礼しますね。毛利さん、コナンくん、良い1日を」
あやお姉さんから手を離したおっちゃん
その隙に柔らかな笑みを見せ立ち去るあやお姉さん
あやお姉さんはこれから仕事なのだろうか?それともオフなのだろうか?
どちらか分からないけどポアロの常連のお姉さんと言えど会いたい時に会える人ではないし、安室さんがいない今なら話をするチャンスだ
あやお姉さんも何気に秘密主義だと先日真田さんと一緒に居た時に感じたが、そこは気にしないでおこう
一応聞いたことに関しては隠されることがあっても嘘は無いと話していて感じるから
「あ!僕、博士のとこに行く約束してたんだった!いってきますっ」
「おっおい!コナン!」
おっちゃんに向かってそう言い捨て、返事を待たずそのままあやお姉さんが向かった方向に掛け出した
あやお姉さんとの距離はさほど開いておらず、少し先の信号で追いつき俺は歩を緩めた
足音で誰か来たのに気が付いたのかあやお姉さんが振り返る
「あら、コナンくん。毛利さんと朝ごはん食べるんじゃなかったの?」
「僕はもう食べたんだ~。おじさんについてきただけ」
「そっか、これから遊びに行くのかしら?」
「腹ごなしの散歩に行こうかなって。あやお姉さんはどこに行くの?」
「これから仕事なの」
「ね、それ僕もついていっていい?」
母さん譲りの演技力を発揮して小学校1年生らしい受け答えをした俺に一瞬目を眇めた後、ゆるりとした笑顔を見せたあやお姉さん
この感じは今までの経験だとやんわり拒絶されるパターンだ
そりゃそうだ、自分の子どもでもない子どもに仕事について行って良いかと聞かれて簡単にOKを出す大人はそうそういないだろう
ちょっと性急すぎたか…
「ぼく、社会見学…したいなって。ははっ」
両手を頭の後ろで組み、慌てて取り繕ってみたがあやお姉さんの表情は変わらず何を考えているか分からない
カッコーカッコー
あやお姉さんの進行方向側の信号が変わる
俺とあやお姉さん以外の信号待ちの人たちがぞろそろと信号を渡っていく
取り残された2人、向こう側からこちらに向かってきた人たちが俺たちを避けるように通り過ぎる
歩行者信号がパカパカと点滅するまでたっぷり1分ほどあやお姉さんと見つめ合っていたが何ら反応を示さないあやお姉さんにやっぱダメかと諦めようと視線を下げた…その時
「ちょっと待ってね。プロデューサーに聞いてみるから」
「…えっ?!」
「コナンくん社会見学したいんでしょ?プロデューサがOKしてくれたらいいよ」
思わぬ答えに言い出した俺の方が驚き思わず目を見開いた
そんな俺に構わずあやお姉さんはバッグからスマホを取り出し架電し始めた
ピヨッピヨッ
垂直方向側の信号が変わり人の波が動き出す
歩道の車道近くにいた俺たちは信号を渡る人たちにとって少し邪魔だったかもしれない
あやお姉さんはスマホを耳に当てて話しながら俺の背中をそっと押して歩道の奥へ誘導してくれたので素直に従い歩道の奥、歩行者の邪魔にならない位置へ移動しあやお姉さんを見上げた
「…そうです。私の知り合いの小学生1人、職場見学させたいのですが…。…えぇ、そうです。……そうですね、今日は生ですが、皆さんの邪魔などしないよう言い含めご迷惑をお掛けしないようにしますので…。」
電話なので相手にあやお姉さんの様子は見えないのに俺のためにペコペコ頭を下げてくれている
その様子を見て自分のことしか考えてなかった発言を今更ながらに申し訳ないという気持ちがわき上がり、クィとあやお姉さんのジャケットの裾を引っ張るとあやお姉さんはこちらに視線を送ってパチンとウインクしてきた
…あれ?迷惑じゃないのか?
毒気を抜かれ思わずキョトンとするとふんわりと微笑んだあやお姉さんに頭を柔々と撫でられた
「はい、分かりました。ありがとうございます。では後ほど。失礼します」
耳に当ててたスマホを離し、画面をタップして終話したようだ
「コナンくん、OK出たよ」
「…えっ?」
「一緒にスタジオ行こうか~」
俺に向かって柔らかく微笑み手を差し伸べるあやお姉さん
手をつなごうということだろう
俺は少し躊躇いながらも細くしなやかなあやお姉さんの手に自分の手を預けるとキュッと握り返してくれる
「…いいの?」
「うん、プロデューサーにOK貰ったからいいよ。ただ、今日は生放送でゲストに沖野ヨーコちゃんが来てくれるから静かにしてくれるかな?」
「うっ…うん!」
カッコーカッコー
進行方向側の信号が変わる
あやお姉さんに手を引かれ、連れられるままスタジオに向かった
「米花221のお時間です。今日は月に1回の生放送の日です。皆さん最後までお付き合いくださいね。
今日の生放送は沖野ヨーコちゃんが遊びに来てくれました。皆さんお待ちかねですよね?早速お呼びします。沖野ヨーコちゃんどうぞ~」
「は~い、沖野ヨーコです。よろしくお願いします」
「ようこそいらっしゃいませ~。ヨーコちゃんは先日も番組に遊びに来てくれたけど、また遊びに来てくれたんですよね」
「そうなんです。夕衣さんとお話したくてまた来ちゃいました」
ガラスを隔てた向こう側にあるオンエアスタジオは8畳ほどの広さで中には大きな一枚板のテーブルがある
テーブルの上には1台の小さめなノートパソコンがあやお姉さんの前にあり、20インチほどのモニターと時計はあやお姉さんとヨーコさんの双方から見られる位置に置かれている
マイクスタンドは位置調整可能なシザーアームタイプで4台あり、マイクのオンオフを切り替えるボタンが各マイクスタンドの側に設置されている
ミキサールーム側の2台のマイクの前にあやお姉さんとヨーコさんは向かい合わせで座っていた
俺はガラスを隔てたミキサールームの端にパイプ椅子を用意され、そこから2人を見守っていた
スタジオ内は静かな空間だが、ミキサールームは数人の大人が常に話をしておりそれなりに騒がしい空間だった
ミキサールームはスタジオ内の音声は全てスピーカーを通して聞こえてくるがそれがスタジオに聞こえている様子は無いしこちらの声はあやお姉さんとヨーコちゃんがしているヘッドフォンにしか流れてないので目の前のガラスはしっかりとした防音ガラスなんだろう
大きなヘッドフォンをした2人の女性がガラスを隔てた向こう側にあるスタジオで向かい合って和やかに談笑しており、その声はミキサールームの上にあるスピーカーから聞こえてきている
今日は夕衣さんの番組にヨーコちゃんが出てるからおっちゃんが聞いてたら鼻の下を長ーく伸ばしだらしない顔で聞いていることだろう
「ヨーコちゃん、今晩日売テレビの特別ドラマに出演されるんですよね?」
「そうなんです。恋愛ドラマなんですが、すれ違いがテーマなので…最後の最後まで目が離せない内容です」
「あらすじとかお話頂けますか?」
「はい、地方の高校で出会った2人はお互い思い合っていたけど彼の夢のために別れます。彼はその後プロバスケットボール選手になるために渡米、彼女は東京で看護師になるというお話で、数年の後にプロバスケットボール選手になった彼が日本のBリーグに戻ってくる…という内容です」
「それはまたキュンキュンしちゃいそうなお話ですね」
「そうですね、キュンキュンしちゃってください。すれ違いがメインテーマなのでその辺りも楽しんで頂けたらと思います」
『20秒後CM入りまーす』
「それではCMを挟みましてお待ちかねの沖野ヨーコちゃんへの質問コーナです。ヨーコちゃんにはまだまだ番組にお付き合い頂きますのでお楽しみに~」
「お楽しみに~」
『………3、2、1』
ミキサールームにいるタイムキーパーさんからCMの指示があやお姉さんのヘッドフォンに入ったのだろう、あやお姉さんが次のコーナーの案内をしてCMに入った
CMに入るとあやお姉さんとヨーコちゃんはマイクをオフにして互いに顔を見合わせると、ヨーコちゃんがあやお姉さんに何やら提案している様子で話しかけ、あやお姉さんが原稿をめくって確認したのか困った顔してミキサールームにいるスタッフの方へ目を向ける
そのあやお姉さんに対してヨーコちゃんが何やら必死に説得をしているようであやお姉さんはとうとう折れたのか頷き、それを見たヨーコちゃんが胸をなで下ろす
マイクがオフになっているのでスタジオ内でどのような話をしているか分からなかった
あやお姉さんはまだ困惑した様子を覗かせたまま俺の方を見て手を振ってくれたので俺も顔の横に手を上げて小さく振り返すとヨーコちゃんもこちらを振り返りビックリしたような顔をしてあやお姉さんに話しかけていて、あやお姉さんがそれに答えている
ヨーコちゃんは控室からそのままスタジオに入ったので今の今まで俺がここに居ることに気が付いてなかったのだろう
話に一区切り付いたのかヨーコちゃんがこちらに振り向いて俺に手を振ってくれたので再び小さく手を振り返した
ミキサールームの人たちは俺のことをあまり気にしてない様子だったのでオンエアスタジオの2人がこちらを気にしてくれるのは少し気恥ずかしい
『30秒後、CM明けまーす』
タイムキーパーさんからの指示があやお姉さんのヘッドフォンに入ったのだろう、スタジオ内の時計を確認しながらあやお姉さんがマイクのオンオフスイッチに指を乗せるとそれを見たヨーコちゃんもマイクのオンオフスイッチに指を掛けた
『3、2、1』
「それでは、次のコーナーは沖野ヨーコちゃんへの質問コーナー。題してヨーコちゃんへ聞いてみた~いのコーナーです」
「みた~い」の部分で両拳を握り、小さくフルフルっと振るあやお姉さん
リスナーには見えないのだから本来ならしなくても良いのだが、多分あやお姉さんの一癖なのだろう、ミキサールームからもヨーコちゃんからも見慣れているのか特段反応は無かった
しかし俺的には年上の女性に対してこういうのも何だが可愛い…と思ってしまったのはここだけの話としたい
貴重なあやお姉さんを見ることができたが安室さんはあやお姉さんのこういうところも知ってるのだろうか?
あの人が知らないわけは無さそうだが、俺的にはあやお姉さんの新たな一面を知れて得した気分だ
リスナーから届いたヨーコちゃんへの質問をあやお姉さんは聞きやすく耳当たりの良い声で読み上げ、ヨーコちゃんへ話を振って受け答え、次の質問へと滑らかに進行させる
いつもラジオで聞いているが、実際目の当たりにするとやはりプロだなと感じる
ガラス越しで見ていた俺はヨーコちゃんそっちのけであやお姉さんに見入ってしまっていた
「それでは次の質問メールです。…今回の特別ドラマはヨーコちゃんにとって久々の恋愛ドラマですが、そんなヨーコちゃんは今まで何人の人とお付き合いしてきましたか?」
それまであやお姉さんの声に聞き入っていた俺は驚いて目を見開き、そのままガラスの向こうにいるあやお姉さんを凝視してしまう
何故ならアイドルに恋愛関連の質問は業界的にタブーとされており通常ならばこのような質問はスルーするものだからだ
ミキサールームにいるスタッフたちは「ヤバい」「CM入れられるか」「何であんな内容のメールがスタジオに行ったんだ!確認してなかったのか?」と慌ただしく声を掛け合っており、ヨーコちゃんのマネージャーさんが腕組みをして何も言わず難しい顔で仁王立ちしている
あやお姉さんのヘッドフォンに
『これからCM入れるから』
とスタッフさんが声を掛けるとあやお姉さんとヨーコちゃんが2人揃ってミキサールームの方を向いてかぶりを振る
更にあやお姉さんが指でOKマークを出しているので腰が浮きかけていたスタッフさんたちが皆着席して様子を見守る
予定外のCMを入れるのは一旦差し止めたみたいだった
プロデューサーと思しき人が慌てたようにヨーコちゃんのマネージャーさんの方へ行きペコペコ頭を下げているがマネージャーさんはそれを制して「ヨーコから聞いてますから。見守りましょう」と答えていた
どうやらヨーコちゃんには思惑がある様子
先ほどCM中にあやお姉さんが困った顔をしていたのはこのことだったのだろう
生放送だと編集できないからここで話をぶった切ってしまうとリスナーから抗議のメールや電話が来るだろうことは容易に想像が付く
なぜヨーコちゃんがこのような行動を起こしたのだろうか?
思い当たることと言えば多分先日あったヨーコちゃんとビッグ大阪の比護選手との熱愛報道についてだろう
灰原や毛利のおっちゃんが茫然自失となった報道で、それに関連した殺人事件が起きたので世間的に熱愛報道より有名人2人が巻き込まれた殺人事件の方に注目がいってしまったが2人の熱狂的ファンの間では今でも根強く燻っている話だった
「私が今までお付き合いした人はいません」
「意外ですね。ヨーコちゃんが同じクラスにいたらクラスのマドンナだったんじゃないですか?」
「実は私、学生の頃は引っ込み思案で男子とお話したことほとんどなかったんですよ」
「そうなんですか?ヨーコちゃん人気ありそうなのに」
「そんなことないですよ。私の親友が比護さんの幼馴染みで親友がよく比護さんの部活が終わるのを待って一緒に帰ったりしたんですが、そんな比護さんともほどんど話したこと無かったくらいなんですよ~」
「比護選手と仲良かったのはヨーコちゃんの親友さんだったんですね?」
「そうなんです。親友は今も地元にいて、上京した先輩後輩として先日比護さんと恩師へのプレゼントを買いに行ったらスクープされちゃって…」
あぁ、やっぱりそうなんだ
説明する機会が無くなってしまったからこの場を借りて話をしてしまおうということだったのか
ヨーコちゃんは控室から直接スタジオ入りしてるのでこのメールを紛れ込ませることが出来たのはヨーコちゃんのマネージャーさんしかいない
そう考えるとこれはヨーコちゃんの提案ではなく事務所の意向ということになるだろう
あやお姉さんはヨーコちゃんが話しやすいように話を持っていき、ヨーコちゃんがそれに答える形でこの話は終わった
話が終わった時、ミキサールームの皆は一斉に大きな溜息を吐く
皆一様に同じ気持ちだったのだろう、鬼が出るか蛇が出るか…な緊迫した空気だったが続々と届くメールは好意的な内容が多かったようだ
「そういえば夕衣さんは?」
「…えっ?」
次のメールを読もうとしていたあやお姉さんがヨーコちゃんからの振りに素に戻り、一瞬言葉に詰まる
「夕衣さんの恋愛のお話も聞いてみたいです」
「えっ?私にその話振ります?」
「振ります、振ります。だって聞きたいですもん、私」
フワッと微笑んだヨーコちゃんに対し、素に戻ってオタオタするあやお姉さんは助けを求めるようにミキサールームの方を見るがプロデューサーは人差し指をあやお姉さんに向けて指し「夕衣ちゃんGO!」と呑気に言っている
個人事務所の弱みなのかプロデューサーには逆らえないのか…
防音ガラスの向こうにいるあやお姉さんはプロデューサーの意向を理解して目を泳がせ口を一文字に結ぶ
「そうですね…。私には良く出来た兄と幼馴染みがいまして…」
「ほうほう?」
「若かったせいかお付き合いしてもその2人と無意識で比べちゃうと言いますか…」
「ふむふむ?」
「おかげさまでお付き合いが長続きしたこと無いんです」
苦笑しながら言うあやお姉さん
お兄さんは真田さんのことだろうし、幼馴染みは安室さんのことだろう
安室さんと幼馴染みで結婚しているあやお姉さんが安室さん以外の人と付き合ったことがあったという過去に素直に驚いた
あの2人が常に側に居るあやお姉さんは端から見たら羨ましい環境かもしれないけど別の意味では不幸なのかもしれないなと聞きながらぼんやり思う
その後、質問コーナーは終わり、生放送は恙なく終わりを迎える
「今日のゲストは沖野ヨーコちゃんでした。また遊びに来てくださいね」
「ありがとうございました。また遊びに来ますね」
「ゲストの沖野ヨーコちゃん主演の特別ドラマは今晩21時、日売テレビの放送です」
「皆さん見てくださいね」
「それでは、良い週末を」
「良い週末を」
マイクのスイッチに手を掛けていたあやお姉さんとヨーコちゃんが揃ってスイッチを切る
ミキサールームのスピーカーからはエンディングテーマが流れていた
ヘッドホンを外したあやお姉さんとヨーコちゃんは揃ってミキサールームへ出てきて「すみません、勝手なことをして…」と揃って頭を下げる
「マネージャーさんも承知の上のことだったし、こういうことなら協力するから前もって話してくれたら良かったのに」
プロデューサーさんがそう言うとヨーコちゃんが「すみません」と再び頭を下げる
あやお姉さんも声には出さないけどヨーコちゃんの謝罪の言葉と共に頭を再び下げる
ひとしきり話が終わった後、あやお姉さんは俺の方へ来て申し訳なさそうに言う
「ごめんね。社会見学の時に変なとこ見られちゃったね」
「大人って…大変なんだね」
母さん譲りの演技力を発揮して小学校1年生らしい受け答えをした俺に目を丸くしたあやお姉さんはへらりと笑って俺に向かって手を差し伸べた
「おい、コナン。朝飯食いに行くぞ」
おっちゃんより早く目の覚めていた俺は宿題を済ませ、昨日買った推理小説を読んでいたところだった
起き抜けのままの姿のおっちゃんは無精ヒゲを生やし、少し草臥れた服装のまま財布を手にしながら俺に声を掛けてきた
その状態のまま行くと言うことは朝ご飯は階下のポアロなのだろう
「はぁい」
読んでいた本に栞を挟んで閉じ、おっちゃんの背中を追った
カランコロン
階段の最下段に差し掛かった時にポアロのドアベルが鳴る
ポアロのドアが開いたのだろう
「それじゃ、梓さんごちそうさまでした。またね」
!!
この声はっ
最下段に飛び降りて右側にあるポアロのドアへ勢いよく目をやるとやっぱりそこにいたのはあやお姉さんで俺の突然の登場に一瞬驚いたようだったがすぐいつもの笑顔を浮かべ声を掛けてくれる
「コナンくんおはよう。これからポアロかな?」
「おはよう、あやお姉さん。ポアロで朝ごはんなんだ」
「今日のモーニングはミルクトマト煮よ」
「これはこれはあやさん!おはようございます」
「おはようございます」
俺とおっちゃんが一緒に居たからだろうか、おっちゃんが草臥れた格好をしていたからだろうか、俺たちの目的がポアロのモーニングと推理したらしいあやお姉さんは、パチンとウインクしながら俺に目線を合わせるために少し屈んでくれたが、おっちゃんが目を輝かせて俺とあやお姉さんの間に入り込み、あやお姉さんの手を取った
「毛利さん、モーニングもう少しで終わってしまいますよ?」
眉尻を下げて少し困った顔したあやお姉さんが店内に目をやった
俺も釣られるように店内に目を向けるとトレンチを胸元に抱えた梓さんがこちらの様子を伺っている
そんなあやお姉さんの様子に構わず(気づかず?)「いや~あやさん今日もお美しい~」とデレているおっちゃんの服の裾を引っ張って助け船を出すことにした
「おじさん、僕お腹すいた」
「あ…あぁ」
「それでは失礼しますね。毛利さん、コナンくん、良い1日を」
あやお姉さんから手を離したおっちゃん
その隙に柔らかな笑みを見せ立ち去るあやお姉さん
あやお姉さんはこれから仕事なのだろうか?それともオフなのだろうか?
どちらか分からないけどポアロの常連のお姉さんと言えど会いたい時に会える人ではないし、安室さんがいない今なら話をするチャンスだ
あやお姉さんも何気に秘密主義だと先日真田さんと一緒に居た時に感じたが、そこは気にしないでおこう
一応聞いたことに関しては隠されることがあっても嘘は無いと話していて感じるから
「あ!僕、博士のとこに行く約束してたんだった!いってきますっ」
「おっおい!コナン!」
おっちゃんに向かってそう言い捨て、返事を待たずそのままあやお姉さんが向かった方向に掛け出した
あやお姉さんとの距離はさほど開いておらず、少し先の信号で追いつき俺は歩を緩めた
足音で誰か来たのに気が付いたのかあやお姉さんが振り返る
「あら、コナンくん。毛利さんと朝ごはん食べるんじゃなかったの?」
「僕はもう食べたんだ~。おじさんについてきただけ」
「そっか、これから遊びに行くのかしら?」
「腹ごなしの散歩に行こうかなって。あやお姉さんはどこに行くの?」
「これから仕事なの」
「ね、それ僕もついていっていい?」
母さん譲りの演技力を発揮して小学校1年生らしい受け答えをした俺に一瞬目を眇めた後、ゆるりとした笑顔を見せたあやお姉さん
この感じは今までの経験だとやんわり拒絶されるパターンだ
そりゃそうだ、自分の子どもでもない子どもに仕事について行って良いかと聞かれて簡単にOKを出す大人はそうそういないだろう
ちょっと性急すぎたか…
「ぼく、社会見学…したいなって。ははっ」
両手を頭の後ろで組み、慌てて取り繕ってみたがあやお姉さんの表情は変わらず何を考えているか分からない
カッコーカッコー
あやお姉さんの進行方向側の信号が変わる
俺とあやお姉さん以外の信号待ちの人たちがぞろそろと信号を渡っていく
取り残された2人、向こう側からこちらに向かってきた人たちが俺たちを避けるように通り過ぎる
歩行者信号がパカパカと点滅するまでたっぷり1分ほどあやお姉さんと見つめ合っていたが何ら反応を示さないあやお姉さんにやっぱダメかと諦めようと視線を下げた…その時
「ちょっと待ってね。プロデューサーに聞いてみるから」
「…えっ?!」
「コナンくん社会見学したいんでしょ?プロデューサがOKしてくれたらいいよ」
思わぬ答えに言い出した俺の方が驚き思わず目を見開いた
そんな俺に構わずあやお姉さんはバッグからスマホを取り出し架電し始めた
ピヨッピヨッ
垂直方向側の信号が変わり人の波が動き出す
歩道の車道近くにいた俺たちは信号を渡る人たちにとって少し邪魔だったかもしれない
あやお姉さんはスマホを耳に当てて話しながら俺の背中をそっと押して歩道の奥へ誘導してくれたので素直に従い歩道の奥、歩行者の邪魔にならない位置へ移動しあやお姉さんを見上げた
「…そうです。私の知り合いの小学生1人、職場見学させたいのですが…。…えぇ、そうです。……そうですね、今日は生ですが、皆さんの邪魔などしないよう言い含めご迷惑をお掛けしないようにしますので…。」
電話なので相手にあやお姉さんの様子は見えないのに俺のためにペコペコ頭を下げてくれている
その様子を見て自分のことしか考えてなかった発言を今更ながらに申し訳ないという気持ちがわき上がり、クィとあやお姉さんのジャケットの裾を引っ張るとあやお姉さんはこちらに視線を送ってパチンとウインクしてきた
…あれ?迷惑じゃないのか?
毒気を抜かれ思わずキョトンとするとふんわりと微笑んだあやお姉さんに頭を柔々と撫でられた
「はい、分かりました。ありがとうございます。では後ほど。失礼します」
耳に当ててたスマホを離し、画面をタップして終話したようだ
「コナンくん、OK出たよ」
「…えっ?」
「一緒にスタジオ行こうか~」
俺に向かって柔らかく微笑み手を差し伸べるあやお姉さん
手をつなごうということだろう
俺は少し躊躇いながらも細くしなやかなあやお姉さんの手に自分の手を預けるとキュッと握り返してくれる
「…いいの?」
「うん、プロデューサーにOK貰ったからいいよ。ただ、今日は生放送でゲストに沖野ヨーコちゃんが来てくれるから静かにしてくれるかな?」
「うっ…うん!」
カッコーカッコー
進行方向側の信号が変わる
あやお姉さんに手を引かれ、連れられるままスタジオに向かった
「米花221のお時間です。今日は月に1回の生放送の日です。皆さん最後までお付き合いくださいね。
今日の生放送は沖野ヨーコちゃんが遊びに来てくれました。皆さんお待ちかねですよね?早速お呼びします。沖野ヨーコちゃんどうぞ~」
「は~い、沖野ヨーコです。よろしくお願いします」
「ようこそいらっしゃいませ~。ヨーコちゃんは先日も番組に遊びに来てくれたけど、また遊びに来てくれたんですよね」
「そうなんです。夕衣さんとお話したくてまた来ちゃいました」
ガラスを隔てた向こう側にあるオンエアスタジオは8畳ほどの広さで中には大きな一枚板のテーブルがある
テーブルの上には1台の小さめなノートパソコンがあやお姉さんの前にあり、20インチほどのモニターと時計はあやお姉さんとヨーコさんの双方から見られる位置に置かれている
マイクスタンドは位置調整可能なシザーアームタイプで4台あり、マイクのオンオフを切り替えるボタンが各マイクスタンドの側に設置されている
ミキサールーム側の2台のマイクの前にあやお姉さんとヨーコさんは向かい合わせで座っていた
俺はガラスを隔てたミキサールームの端にパイプ椅子を用意され、そこから2人を見守っていた
スタジオ内は静かな空間だが、ミキサールームは数人の大人が常に話をしておりそれなりに騒がしい空間だった
ミキサールームはスタジオ内の音声は全てスピーカーを通して聞こえてくるがそれがスタジオに聞こえている様子は無いしこちらの声はあやお姉さんとヨーコちゃんがしているヘッドフォンにしか流れてないので目の前のガラスはしっかりとした防音ガラスなんだろう
大きなヘッドフォンをした2人の女性がガラスを隔てた向こう側にあるスタジオで向かい合って和やかに談笑しており、その声はミキサールームの上にあるスピーカーから聞こえてきている
今日は夕衣さんの番組にヨーコちゃんが出てるからおっちゃんが聞いてたら鼻の下を長ーく伸ばしだらしない顔で聞いていることだろう
「ヨーコちゃん、今晩日売テレビの特別ドラマに出演されるんですよね?」
「そうなんです。恋愛ドラマなんですが、すれ違いがテーマなので…最後の最後まで目が離せない内容です」
「あらすじとかお話頂けますか?」
「はい、地方の高校で出会った2人はお互い思い合っていたけど彼の夢のために別れます。彼はその後プロバスケットボール選手になるために渡米、彼女は東京で看護師になるというお話で、数年の後にプロバスケットボール選手になった彼が日本のBリーグに戻ってくる…という内容です」
「それはまたキュンキュンしちゃいそうなお話ですね」
「そうですね、キュンキュンしちゃってください。すれ違いがメインテーマなのでその辺りも楽しんで頂けたらと思います」
『20秒後CM入りまーす』
「それではCMを挟みましてお待ちかねの沖野ヨーコちゃんへの質問コーナです。ヨーコちゃんにはまだまだ番組にお付き合い頂きますのでお楽しみに~」
「お楽しみに~」
『………3、2、1』
ミキサールームにいるタイムキーパーさんからCMの指示があやお姉さんのヘッドフォンに入ったのだろう、あやお姉さんが次のコーナーの案内をしてCMに入った
CMに入るとあやお姉さんとヨーコちゃんはマイクをオフにして互いに顔を見合わせると、ヨーコちゃんがあやお姉さんに何やら提案している様子で話しかけ、あやお姉さんが原稿をめくって確認したのか困った顔してミキサールームにいるスタッフの方へ目を向ける
そのあやお姉さんに対してヨーコちゃんが何やら必死に説得をしているようであやお姉さんはとうとう折れたのか頷き、それを見たヨーコちゃんが胸をなで下ろす
マイクがオフになっているのでスタジオ内でどのような話をしているか分からなかった
あやお姉さんはまだ困惑した様子を覗かせたまま俺の方を見て手を振ってくれたので俺も顔の横に手を上げて小さく振り返すとヨーコちゃんもこちらを振り返りビックリしたような顔をしてあやお姉さんに話しかけていて、あやお姉さんがそれに答えている
ヨーコちゃんは控室からそのままスタジオに入ったので今の今まで俺がここに居ることに気が付いてなかったのだろう
話に一区切り付いたのかヨーコちゃんがこちらに振り向いて俺に手を振ってくれたので再び小さく手を振り返した
ミキサールームの人たちは俺のことをあまり気にしてない様子だったのでオンエアスタジオの2人がこちらを気にしてくれるのは少し気恥ずかしい
『30秒後、CM明けまーす』
タイムキーパーさんからの指示があやお姉さんのヘッドフォンに入ったのだろう、スタジオ内の時計を確認しながらあやお姉さんがマイクのオンオフスイッチに指を乗せるとそれを見たヨーコちゃんもマイクのオンオフスイッチに指を掛けた
『3、2、1』
「それでは、次のコーナーは沖野ヨーコちゃんへの質問コーナー。題してヨーコちゃんへ聞いてみた~いのコーナーです」
「みた~い」の部分で両拳を握り、小さくフルフルっと振るあやお姉さん
リスナーには見えないのだから本来ならしなくても良いのだが、多分あやお姉さんの一癖なのだろう、ミキサールームからもヨーコちゃんからも見慣れているのか特段反応は無かった
しかし俺的には年上の女性に対してこういうのも何だが可愛い…と思ってしまったのはここだけの話としたい
貴重なあやお姉さんを見ることができたが安室さんはあやお姉さんのこういうところも知ってるのだろうか?
あの人が知らないわけは無さそうだが、俺的にはあやお姉さんの新たな一面を知れて得した気分だ
リスナーから届いたヨーコちゃんへの質問をあやお姉さんは聞きやすく耳当たりの良い声で読み上げ、ヨーコちゃんへ話を振って受け答え、次の質問へと滑らかに進行させる
いつもラジオで聞いているが、実際目の当たりにするとやはりプロだなと感じる
ガラス越しで見ていた俺はヨーコちゃんそっちのけであやお姉さんに見入ってしまっていた
「それでは次の質問メールです。…今回の特別ドラマはヨーコちゃんにとって久々の恋愛ドラマですが、そんなヨーコちゃんは今まで何人の人とお付き合いしてきましたか?」
それまであやお姉さんの声に聞き入っていた俺は驚いて目を見開き、そのままガラスの向こうにいるあやお姉さんを凝視してしまう
何故ならアイドルに恋愛関連の質問は業界的にタブーとされており通常ならばこのような質問はスルーするものだからだ
ミキサールームにいるスタッフたちは「ヤバい」「CM入れられるか」「何であんな内容のメールがスタジオに行ったんだ!確認してなかったのか?」と慌ただしく声を掛け合っており、ヨーコちゃんのマネージャーさんが腕組みをして何も言わず難しい顔で仁王立ちしている
あやお姉さんのヘッドフォンに
『これからCM入れるから』
とスタッフさんが声を掛けるとあやお姉さんとヨーコちゃんが2人揃ってミキサールームの方を向いてかぶりを振る
更にあやお姉さんが指でOKマークを出しているので腰が浮きかけていたスタッフさんたちが皆着席して様子を見守る
予定外のCMを入れるのは一旦差し止めたみたいだった
プロデューサーと思しき人が慌てたようにヨーコちゃんのマネージャーさんの方へ行きペコペコ頭を下げているがマネージャーさんはそれを制して「ヨーコから聞いてますから。見守りましょう」と答えていた
どうやらヨーコちゃんには思惑がある様子
先ほどCM中にあやお姉さんが困った顔をしていたのはこのことだったのだろう
生放送だと編集できないからここで話をぶった切ってしまうとリスナーから抗議のメールや電話が来るだろうことは容易に想像が付く
なぜヨーコちゃんがこのような行動を起こしたのだろうか?
思い当たることと言えば多分先日あったヨーコちゃんとビッグ大阪の比護選手との熱愛報道についてだろう
灰原や毛利のおっちゃんが茫然自失となった報道で、それに関連した殺人事件が起きたので世間的に熱愛報道より有名人2人が巻き込まれた殺人事件の方に注目がいってしまったが2人の熱狂的ファンの間では今でも根強く燻っている話だった
「私が今までお付き合いした人はいません」
「意外ですね。ヨーコちゃんが同じクラスにいたらクラスのマドンナだったんじゃないですか?」
「実は私、学生の頃は引っ込み思案で男子とお話したことほとんどなかったんですよ」
「そうなんですか?ヨーコちゃん人気ありそうなのに」
「そんなことないですよ。私の親友が比護さんの幼馴染みで親友がよく比護さんの部活が終わるのを待って一緒に帰ったりしたんですが、そんな比護さんともほどんど話したこと無かったくらいなんですよ~」
「比護選手と仲良かったのはヨーコちゃんの親友さんだったんですね?」
「そうなんです。親友は今も地元にいて、上京した先輩後輩として先日比護さんと恩師へのプレゼントを買いに行ったらスクープされちゃって…」
あぁ、やっぱりそうなんだ
説明する機会が無くなってしまったからこの場を借りて話をしてしまおうということだったのか
ヨーコちゃんは控室から直接スタジオ入りしてるのでこのメールを紛れ込ませることが出来たのはヨーコちゃんのマネージャーさんしかいない
そう考えるとこれはヨーコちゃんの提案ではなく事務所の意向ということになるだろう
あやお姉さんはヨーコちゃんが話しやすいように話を持っていき、ヨーコちゃんがそれに答える形でこの話は終わった
話が終わった時、ミキサールームの皆は一斉に大きな溜息を吐く
皆一様に同じ気持ちだったのだろう、鬼が出るか蛇が出るか…な緊迫した空気だったが続々と届くメールは好意的な内容が多かったようだ
「そういえば夕衣さんは?」
「…えっ?」
次のメールを読もうとしていたあやお姉さんがヨーコちゃんからの振りに素に戻り、一瞬言葉に詰まる
「夕衣さんの恋愛のお話も聞いてみたいです」
「えっ?私にその話振ります?」
「振ります、振ります。だって聞きたいですもん、私」
フワッと微笑んだヨーコちゃんに対し、素に戻ってオタオタするあやお姉さんは助けを求めるようにミキサールームの方を見るがプロデューサーは人差し指をあやお姉さんに向けて指し「夕衣ちゃんGO!」と呑気に言っている
個人事務所の弱みなのかプロデューサーには逆らえないのか…
防音ガラスの向こうにいるあやお姉さんはプロデューサーの意向を理解して目を泳がせ口を一文字に結ぶ
「そうですね…。私には良く出来た兄と幼馴染みがいまして…」
「ほうほう?」
「若かったせいかお付き合いしてもその2人と無意識で比べちゃうと言いますか…」
「ふむふむ?」
「おかげさまでお付き合いが長続きしたこと無いんです」
苦笑しながら言うあやお姉さん
お兄さんは真田さんのことだろうし、幼馴染みは安室さんのことだろう
安室さんと幼馴染みで結婚しているあやお姉さんが安室さん以外の人と付き合ったことがあったという過去に素直に驚いた
あの2人が常に側に居るあやお姉さんは端から見たら羨ましい環境かもしれないけど別の意味では不幸なのかもしれないなと聞きながらぼんやり思う
その後、質問コーナーは終わり、生放送は恙なく終わりを迎える
「今日のゲストは沖野ヨーコちゃんでした。また遊びに来てくださいね」
「ありがとうございました。また遊びに来ますね」
「ゲストの沖野ヨーコちゃん主演の特別ドラマは今晩21時、日売テレビの放送です」
「皆さん見てくださいね」
「それでは、良い週末を」
「良い週末を」
マイクのスイッチに手を掛けていたあやお姉さんとヨーコちゃんが揃ってスイッチを切る
ミキサールームのスピーカーからはエンディングテーマが流れていた
ヘッドホンを外したあやお姉さんとヨーコちゃんは揃ってミキサールームへ出てきて「すみません、勝手なことをして…」と揃って頭を下げる
「マネージャーさんも承知の上のことだったし、こういうことなら協力するから前もって話してくれたら良かったのに」
プロデューサーさんがそう言うとヨーコちゃんが「すみません」と再び頭を下げる
あやお姉さんも声には出さないけどヨーコちゃんの謝罪の言葉と共に頭を再び下げる
ひとしきり話が終わった後、あやお姉さんは俺の方へ来て申し訳なさそうに言う
「ごめんね。社会見学の時に変なとこ見られちゃったね」
「大人って…大変なんだね」
母さん譲りの演技力を発揮して小学校1年生らしい受け答えをした俺に目を丸くしたあやお姉さんはへらりと笑って俺に向かって手を差し伸べた