【DC】FELICITE
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「なぁ風見、ロッカーの扉開けたらそこが自宅にならないか?」
「は?」
「ロッカーじゃなくてもいい、とにかく扉を開けたら自宅であやが待ってるのがいい…」
上司が突然変なことを言い出したので作業していた手を止めて自分より1つ年下の上司を見やる
上司の目の下にはクマが出来ており、いつもなら奥さんによってきちんとお手入れされてピシッとしているスーツも少しよれ、腕まくりしているカッターシャツの襟元はネクタイと共に緩められ、少々草臥れた様に見える
いつもなら実年齢よりかなり下に見られる容姿だが、今ならいくつか実年齢に近く見えるだろう
上司の後ろにある窓から見える外の景色は暗いがまだまだ帰れそうにもない
いつもは警視庁の方で仕事をしている自分が隣(警察庁)にいることは珍しいことではあるが、潜入捜査中である年下の上司が登庁している時は上司のいる事務室にて仕事をしていることもある
現在潜入捜査中の上司が登庁する日数は多くなく、登庁時は徹夜になることも少なくない
現時点で自分は2徹目だがこの上司は3徹目だ
「誰かドラ○もんを探して連れてきてくれないか。そしてここから自宅に帰れるようにして貰ってくれ」
書類から目を上げず、ボヤくように言う上司が3徹中に取った仮眠はわずか2時間ほどである
これでは仕事も捗らないし訳の分からないことを言い出しているし、上司の身体も心配なので同じ降谷班の山田さんに目配せして困ったことを言い出した上司を任せ、自分は喫煙室の隣にある面談室へ足を運び扉を閉めた
この上司は部下が休んで欲しいと言っても言うことを聞いてくれることがほとんどない
反対にこちらに休めと言われてしまい話がそこで終わってしまう
ふぅ…と1つため息を吐き、スマホから上司の奥さんの番号を呼び出しコールすると3コール目の途中でコール音が途切れ女性の声が労いの挨拶と共に自分の名前を呼ぶ
「お疲れさまです、風見さん」
「あやさんすみません、今お忙しいですか?」
「いえ…。もしかして降谷に何かありましたか?」
控えめで言葉は少なくあるが奥さんの声からは上司を心配する気持ちが伝わってくる
「降谷さんに何かがあると言うわけではありませんが、良かったら顔を見せて頂けないかなと思いまして…お時間がありましたら警察庁まで登庁願えますか?」
「実はこれから伺おうと思ってました。降谷へ着替えとお弁当を届けようかと思っていたので」
「それはちょうど良かったです。降谷さんに仮眠を取るよう何度も進言したのですが全く仮眠を取ってくれないので…。すみませんがこちらにいらして降谷さんに休むよう話して欲しいです」
「また…ですか…」
「また…です」
「分かりました。降谷がご心配をおかけしてすみません」
「それではこちらから迎えに伺います」
「…っ、それは大丈夫です。降谷の車があるので車でそちらに伺いますから」
奥さんが慌てて断りを入れてくるが、いくらこちらに来る予定だったと言っても自分が今現在登庁依頼をしていることには変わりなく、奥さんの言うとおりご自身で来て貰ったことがバレると上司から何を言われるか分からない
上司の為とは言え、奥さんに勝手に電話して登庁依頼をしているのでどちらにせよそれだけでも上司にバレたら大目玉だろう
「これからお迎えに上がってよろしいですか?」
「……分かりました。準備は出来ておりますのでいつでもお願いします」
少し強引に奥さんに問うとこちらの状況を察してくれたらしく渋々と言った感じだったが了承してくれたのですぐ伺う旨を再度伝え電話を切る
一旦事務室に戻り、山田さんに外出すると伝えるとホッとしたように官用車の鍵を渡してくれた
「スカイラインの鍵です、お願いします」
「ありがとうございます」
その鍵を受け取り、上司をチラリと見るとエネルギー補給のゼリー飲料をクチにしつつ先程とは違う書類の精査をしている様である
上司に声を掛けてから奥さんを連れてくると面倒なことになるのでそのままソッと事務室を出て地下にある駐車場へ向かった
奥さんを迎えに行くと自宅マンションのエントランスで少し大きめの紙袋を2つとショルダーバッグを持って待っていたので車から降り紙袋を受け取って助手席へエスコートする
車内で奥さんから紙袋の1つが事務室にいる職員たちへの差し入れだと聞き、ありがたく皆で頂くとお礼を伝えた
警察庁の地下駐車場に着いて再び紙袋を2つ持とうとすると奥さんに優しく制され、職員たちへの差し入れだと思われる方のみを渡された
中には重箱がちら見えしている
上司の荷物は奥さんが持つようで、手を出しても声を掛けても先ほどとは違いこちらに預けて貰えなかったので諦めた
流石あの上司の奥さんだ、なかなかに頑固である
夜間と言えど、庁内に警備員はいるので入館申請をして貰い金属探知機を通り抜け上司が仕事をしているフロアへ誘導する
事務室に奥さんを入れると3徹目の上司がどのように暴走するか分からないので上司の威厳を損ねたりせぬ様、奥さんを自販機の前にある休憩スペースへ案内し長椅子が3台横並びに並んでいる場所で待っていて貰うことにした
上司は奥さんがいると同じ人か疑問に感じるくらい奥さんしか見えなくなるのだ
まだ上司のその姿を見たことのない職員もいるので出来れば見せずにおきたい部下心である
自販機の横には仮眠室があり、簡易ベッドと2人掛けソファとテーブルとシャワー室しかない狭く簡素な1室は病院の個室の様であり、実質上司専用の仮眠室となっている
仮眠時はそちらの仮眠室を使って欲しいと奥さんに伝えると了承してくれた
潜入捜査中の上司はあまり登庁しないが、登庁時はほぼほぼ徹夜で仕事をこなすため、仮眠時はゆっくり出来るように…と皆が遠慮と配慮をした結果そうなったのである
皆は上司が登庁している時はこちらのフロアの逆側にもう1室ある4つの簡易ベットと2つのシャワー室がある大きめの仮眠室を利用している
事務室に戻り扉を開けて上司の様子を確認すると上司はPCに向かって仕事をしており、他の職員たちは各々の仕事をこなしていた
奥さんからの差し入れの紙袋を通りすがりの自分の机に置き上司の前に立つと、こちらに目もくれない上司が
「休憩でもしていたのか?」
と問うて来たがそれには答えず、上司にしか聞こえないくらいのボリュームで用件を伝える
「長く席を外してすみません。少しお時間頂けませんか」
「…どうした?」
時間を欲しいと伝えると上司は仕事をしていた手を止め、こちらに目を向けた
先ほどより疲れの色が濃くなったように見える…気がする
早々に休んで貰いたいし、上司が休んでくれないと自分も含め他の部下も休みにくい
いくら上司に休めと言われていたとしても部下は上司の目があると休みにくいものなのだ
上司は普段なら言わないであろう変なことを言い出しているのでまだ仕事は残っているが身体の考えると何なら自宅へ帰って貰っても良いと思っている
上司の質問に答えないまま無言で自分が廊下へ向かうと上司も一つ息を吐き席を立つ気配がしたので振り返ることなくそのまま休憩スペースへ足を向けた
廊下の角を曲がり、休憩スペースが見えてくると上司が立ち止まったのが分かったのでそこで振り返る
「風見、疲れてるのかあやの幻が見える…」
「…幻ではありません、あやさんがいらしてます」
「………は……っ…?」
目を見開いて自分と自分の後ろにある休憩スペースを見る上司
そしてこちらのやりとりに気がつき自分の後ろにある休憩スペースで待っていた奥さんが立ち上がったのだろう、衣擦れの音がした
自分はもうここから先に進むつもりはないのでそのまま上司の様子を見守っていると素早い動きで自分の横を過ぎ去り奥さんの元へ
「あや…っ」
「ちょっ!苦しいよ、れーくんっ」
上司のプライベートを覗くようで申し訳ないが一応上司がどうしているのかを振り返って確認すると奥さんの首元に自分の顔を埋めて奥さんを端から見ても分かる位強く抱きしめていた
奥さんは苦しそうに上司の背をタップしているが力は緩んでいない様子で中てられてる感が凄く直視するのは憚られるので自分は俯くことで目をそらす
もしかしたら上司は既に自分の存在を忘れているかもしれない
後のことは奥さんに任せてこのまま仕事に戻ろうと事務室に向かって歩き出した
事務室に戻り、奥さんの差し入れを皆で休憩を兼ねて頂いた
公安の人間は他人の作ったものを食べることは基本的に御法度であるが上司の奥さんであるなら話は別であるし、奥さんの差し入れはとても美味しく職員から評判が良い
上司がいないことで張り詰めていた空気は和やかなものになっており各々事務室で休憩や仮眠を取ったりしていたが、空気を読んだのか何故か誰一人休憩スペースへ行くことなく時間は過ぎた
上司が奥さんと会ってから3時間程経ち日付も変わり、自分と山田さん以外の職員は皆帰宅していた…が上司はまだ戻ってこない
お邪魔になってしまうかもしれないが日付が変わっているのでそろそろ様子を見に行くべきか
ちょうど仕事が一段落し、上司の確認と押印を貰えれば今日の業務は終わりなので日付は変わったが、どうにか家に帰ることが出来そうだ
上司も自分たちと同じく帰宅を選択するなら奥さんと一緒に帰宅することが出来るだろう
山田さんにそう話すと彼も同じ考えであったようで様子を見てきて欲しいと言われ、仕方なしに休憩スペースへ足を向けると休憩スペースに人の気配がする
角を曲がる前に顔だけ出して様子を見ると上司の姿は見えないが奥さんはうつむいてじっとしている様子が見えた
ゴクリと唾を飲み込み、意を決して歩を進めると全体像が見えてくる
長椅子に座る奥さんの腰に腕を回し、奥さんのお腹に顔を埋めて長椅子で横になっている上司と膝枕して上司の頭に手を置いたままうつむいて目を閉じている奥さん
奥さんの横には持ってきた紙袋がそのまま置いてあり手を付けていない事が容易に推測出来たので思わず歩みを止めてしまった
こ…声を掛けにくい…っ!
再びゴクリと唾を飲み込み、声を掛けようと一歩近寄ると自分の気配を感じたのかガバッと上司が起き上がり、寝起きにも関わらず視線だけで人を殺せそうな勢いでこちらを睨み付けてきた
その上司の勢いで奥さんも目を覚ます
睨み付けられた自分はその迫力に萎縮する
まさに蛇に睨まれた蛙のようだ
「お…っ、お休み中すみませんっ。降谷班仕事終了しましたので確認お願いします」
思わず声が裏返ってしまったが直立不動で話すと、こちらに対して恥ずかしそうな顔をした奥さんと状況を把握したのか視線を緩め寝起きの気怠げな顔した上司の視線が交わった
「あぁ、すまない、今戻る」
「こちらこそお休みのところすみません」
「大丈夫だ…。あやもう少しで帰れそうだから待っててくれ」
上司が奥さんの頬に顔を寄せるとチュッというリップ音がして思わず眉を寄せ目を閉じてしまう自分
そういうことは人目を忍んでお2人だけの時にしてくださいっ!
上司の手前、大っぴらにため息を吐くことが出来ない自分は心の中でそっとため息を吐き出した
「は?」
「ロッカーじゃなくてもいい、とにかく扉を開けたら自宅であやが待ってるのがいい…」
上司が突然変なことを言い出したので作業していた手を止めて自分より1つ年下の上司を見やる
上司の目の下にはクマが出来ており、いつもなら奥さんによってきちんとお手入れされてピシッとしているスーツも少しよれ、腕まくりしているカッターシャツの襟元はネクタイと共に緩められ、少々草臥れた様に見える
いつもなら実年齢よりかなり下に見られる容姿だが、今ならいくつか実年齢に近く見えるだろう
上司の後ろにある窓から見える外の景色は暗いがまだまだ帰れそうにもない
いつもは警視庁の方で仕事をしている自分が隣(警察庁)にいることは珍しいことではあるが、潜入捜査中である年下の上司が登庁している時は上司のいる事務室にて仕事をしていることもある
現在潜入捜査中の上司が登庁する日数は多くなく、登庁時は徹夜になることも少なくない
現時点で自分は2徹目だがこの上司は3徹目だ
「誰かドラ○もんを探して連れてきてくれないか。そしてここから自宅に帰れるようにして貰ってくれ」
書類から目を上げず、ボヤくように言う上司が3徹中に取った仮眠はわずか2時間ほどである
これでは仕事も捗らないし訳の分からないことを言い出しているし、上司の身体も心配なので同じ降谷班の山田さんに目配せして困ったことを言い出した上司を任せ、自分は喫煙室の隣にある面談室へ足を運び扉を閉めた
この上司は部下が休んで欲しいと言っても言うことを聞いてくれることがほとんどない
反対にこちらに休めと言われてしまい話がそこで終わってしまう
ふぅ…と1つため息を吐き、スマホから上司の奥さんの番号を呼び出しコールすると3コール目の途中でコール音が途切れ女性の声が労いの挨拶と共に自分の名前を呼ぶ
「お疲れさまです、風見さん」
「あやさんすみません、今お忙しいですか?」
「いえ…。もしかして降谷に何かありましたか?」
控えめで言葉は少なくあるが奥さんの声からは上司を心配する気持ちが伝わってくる
「降谷さんに何かがあると言うわけではありませんが、良かったら顔を見せて頂けないかなと思いまして…お時間がありましたら警察庁まで登庁願えますか?」
「実はこれから伺おうと思ってました。降谷へ着替えとお弁当を届けようかと思っていたので」
「それはちょうど良かったです。降谷さんに仮眠を取るよう何度も進言したのですが全く仮眠を取ってくれないので…。すみませんがこちらにいらして降谷さんに休むよう話して欲しいです」
「また…ですか…」
「また…です」
「分かりました。降谷がご心配をおかけしてすみません」
「それではこちらから迎えに伺います」
「…っ、それは大丈夫です。降谷の車があるので車でそちらに伺いますから」
奥さんが慌てて断りを入れてくるが、いくらこちらに来る予定だったと言っても自分が今現在登庁依頼をしていることには変わりなく、奥さんの言うとおりご自身で来て貰ったことがバレると上司から何を言われるか分からない
上司の為とは言え、奥さんに勝手に電話して登庁依頼をしているのでどちらにせよそれだけでも上司にバレたら大目玉だろう
「これからお迎えに上がってよろしいですか?」
「……分かりました。準備は出来ておりますのでいつでもお願いします」
少し強引に奥さんに問うとこちらの状況を察してくれたらしく渋々と言った感じだったが了承してくれたのですぐ伺う旨を再度伝え電話を切る
一旦事務室に戻り、山田さんに外出すると伝えるとホッとしたように官用車の鍵を渡してくれた
「スカイラインの鍵です、お願いします」
「ありがとうございます」
その鍵を受け取り、上司をチラリと見るとエネルギー補給のゼリー飲料をクチにしつつ先程とは違う書類の精査をしている様である
上司に声を掛けてから奥さんを連れてくると面倒なことになるのでそのままソッと事務室を出て地下にある駐車場へ向かった
奥さんを迎えに行くと自宅マンションのエントランスで少し大きめの紙袋を2つとショルダーバッグを持って待っていたので車から降り紙袋を受け取って助手席へエスコートする
車内で奥さんから紙袋の1つが事務室にいる職員たちへの差し入れだと聞き、ありがたく皆で頂くとお礼を伝えた
警察庁の地下駐車場に着いて再び紙袋を2つ持とうとすると奥さんに優しく制され、職員たちへの差し入れだと思われる方のみを渡された
中には重箱がちら見えしている
上司の荷物は奥さんが持つようで、手を出しても声を掛けても先ほどとは違いこちらに預けて貰えなかったので諦めた
流石あの上司の奥さんだ、なかなかに頑固である
夜間と言えど、庁内に警備員はいるので入館申請をして貰い金属探知機を通り抜け上司が仕事をしているフロアへ誘導する
事務室に奥さんを入れると3徹目の上司がどのように暴走するか分からないので上司の威厳を損ねたりせぬ様、奥さんを自販機の前にある休憩スペースへ案内し長椅子が3台横並びに並んでいる場所で待っていて貰うことにした
上司は奥さんがいると同じ人か疑問に感じるくらい奥さんしか見えなくなるのだ
まだ上司のその姿を見たことのない職員もいるので出来れば見せずにおきたい部下心である
自販機の横には仮眠室があり、簡易ベッドと2人掛けソファとテーブルとシャワー室しかない狭く簡素な1室は病院の個室の様であり、実質上司専用の仮眠室となっている
仮眠時はそちらの仮眠室を使って欲しいと奥さんに伝えると了承してくれた
潜入捜査中の上司はあまり登庁しないが、登庁時はほぼほぼ徹夜で仕事をこなすため、仮眠時はゆっくり出来るように…と皆が遠慮と配慮をした結果そうなったのである
皆は上司が登庁している時はこちらのフロアの逆側にもう1室ある4つの簡易ベットと2つのシャワー室がある大きめの仮眠室を利用している
事務室に戻り扉を開けて上司の様子を確認すると上司はPCに向かって仕事をしており、他の職員たちは各々の仕事をこなしていた
奥さんからの差し入れの紙袋を通りすがりの自分の机に置き上司の前に立つと、こちらに目もくれない上司が
「休憩でもしていたのか?」
と問うて来たがそれには答えず、上司にしか聞こえないくらいのボリュームで用件を伝える
「長く席を外してすみません。少しお時間頂けませんか」
「…どうした?」
時間を欲しいと伝えると上司は仕事をしていた手を止め、こちらに目を向けた
先ほどより疲れの色が濃くなったように見える…気がする
早々に休んで貰いたいし、上司が休んでくれないと自分も含め他の部下も休みにくい
いくら上司に休めと言われていたとしても部下は上司の目があると休みにくいものなのだ
上司は普段なら言わないであろう変なことを言い出しているのでまだ仕事は残っているが身体の考えると何なら自宅へ帰って貰っても良いと思っている
上司の質問に答えないまま無言で自分が廊下へ向かうと上司も一つ息を吐き席を立つ気配がしたので振り返ることなくそのまま休憩スペースへ足を向けた
廊下の角を曲がり、休憩スペースが見えてくると上司が立ち止まったのが分かったのでそこで振り返る
「風見、疲れてるのかあやの幻が見える…」
「…幻ではありません、あやさんがいらしてます」
「………は……っ…?」
目を見開いて自分と自分の後ろにある休憩スペースを見る上司
そしてこちらのやりとりに気がつき自分の後ろにある休憩スペースで待っていた奥さんが立ち上がったのだろう、衣擦れの音がした
自分はもうここから先に進むつもりはないのでそのまま上司の様子を見守っていると素早い動きで自分の横を過ぎ去り奥さんの元へ
「あや…っ」
「ちょっ!苦しいよ、れーくんっ」
上司のプライベートを覗くようで申し訳ないが一応上司がどうしているのかを振り返って確認すると奥さんの首元に自分の顔を埋めて奥さんを端から見ても分かる位強く抱きしめていた
奥さんは苦しそうに上司の背をタップしているが力は緩んでいない様子で中てられてる感が凄く直視するのは憚られるので自分は俯くことで目をそらす
もしかしたら上司は既に自分の存在を忘れているかもしれない
後のことは奥さんに任せてこのまま仕事に戻ろうと事務室に向かって歩き出した
事務室に戻り、奥さんの差し入れを皆で休憩を兼ねて頂いた
公安の人間は他人の作ったものを食べることは基本的に御法度であるが上司の奥さんであるなら話は別であるし、奥さんの差し入れはとても美味しく職員から評判が良い
上司がいないことで張り詰めていた空気は和やかなものになっており各々事務室で休憩や仮眠を取ったりしていたが、空気を読んだのか何故か誰一人休憩スペースへ行くことなく時間は過ぎた
上司が奥さんと会ってから3時間程経ち日付も変わり、自分と山田さん以外の職員は皆帰宅していた…が上司はまだ戻ってこない
お邪魔になってしまうかもしれないが日付が変わっているのでそろそろ様子を見に行くべきか
ちょうど仕事が一段落し、上司の確認と押印を貰えれば今日の業務は終わりなので日付は変わったが、どうにか家に帰ることが出来そうだ
上司も自分たちと同じく帰宅を選択するなら奥さんと一緒に帰宅することが出来るだろう
山田さんにそう話すと彼も同じ考えであったようで様子を見てきて欲しいと言われ、仕方なしに休憩スペースへ足を向けると休憩スペースに人の気配がする
角を曲がる前に顔だけ出して様子を見ると上司の姿は見えないが奥さんはうつむいてじっとしている様子が見えた
ゴクリと唾を飲み込み、意を決して歩を進めると全体像が見えてくる
長椅子に座る奥さんの腰に腕を回し、奥さんのお腹に顔を埋めて長椅子で横になっている上司と膝枕して上司の頭に手を置いたままうつむいて目を閉じている奥さん
奥さんの横には持ってきた紙袋がそのまま置いてあり手を付けていない事が容易に推測出来たので思わず歩みを止めてしまった
こ…声を掛けにくい…っ!
再びゴクリと唾を飲み込み、声を掛けようと一歩近寄ると自分の気配を感じたのかガバッと上司が起き上がり、寝起きにも関わらず視線だけで人を殺せそうな勢いでこちらを睨み付けてきた
その上司の勢いで奥さんも目を覚ます
睨み付けられた自分はその迫力に萎縮する
まさに蛇に睨まれた蛙のようだ
「お…っ、お休み中すみませんっ。降谷班仕事終了しましたので確認お願いします」
思わず声が裏返ってしまったが直立不動で話すと、こちらに対して恥ずかしそうな顔をした奥さんと状況を把握したのか視線を緩め寝起きの気怠げな顔した上司の視線が交わった
「あぁ、すまない、今戻る」
「こちらこそお休みのところすみません」
「大丈夫だ…。あやもう少しで帰れそうだから待っててくれ」
上司が奥さんの頬に顔を寄せるとチュッというリップ音がして思わず眉を寄せ目を閉じてしまう自分
そういうことは人目を忍んでお2人だけの時にしてくださいっ!
上司の手前、大っぴらにため息を吐くことが出来ない自分は心の中でそっとため息を吐き出した