【DC】Con te
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車に乗り込みヘッドセットを装着しながらエンジンをかける
「Hey buddy! 風見にコール!」
スマホが返事をし、コール音が鳴る
2度目のコール音の途中で電話は繋がり、風見の声がした
「風見!僕はこれから東都大学へ向かう!Hey buddy!終話!」
ステアリングを強く握りしめアクセルを深く踏み込む
エンジンが悲鳴のような音を上げ後輪が空転して劈くような音とともに車は急発進した
東都大学の近くへたどり着いた頃、周囲の状況がいつもより騒々しくなっていた
あと少しで東都大学というところで道路は渋滞し東都大学の方を見ている人や指さしてる人、スマホを向けている人が歩道に多数いる
車の前に大型トラックがいるので東都大学の方が車内からは見えず、目の前に見えていた小道へ車を無理矢理ねじ込み車外へ出ると焦げたような匂いがした
イヤな予感がする――
車はその場に止めたまま東都大学へ向かって駆けると黒く太い煙が空へ立ち上っている様子が目に入った
近づくにつれ風向きのせいか朦朦と煙が立ちこめ咳き込む人が増え、焦げた匂いが強く鼻につく
大学の正門近くは騒然としていたが消防車が到着しており物見高く集まった人々の整理に追われている人、消火活動を始めている人など忙しなくしていた
薬学部のある棟は今ある正門の反対側だ
そちらへ向かうため人の波に逆らい、掻い潜り薬学部のある棟の側にたどり着く
出火位置から近いせいだろう周囲の気温は正門付近よりも高く、物見高く集まった人々も火の元から流れてくる熱気のためか少し遠巻きにしていた
薬学部のあった棟は既に火の海で熱気と熱風で近寄ることもままならない
鎮火作業をしている消防員の「ガソリンらしきものをまかれてるのか全く鎮火の気配がない!」と叫んでいる声が遠くで聞こえる
俺はモンスターのように襲いかかる炎に陥落し、崩れ落ちていく校舎を呆然と眺めていた
一晩経ち消防員の人たちの努力のお陰で火は鎮火した
薬学部の棟があったそこは燻った瓦礫の山だけが残っている
辺りの温度はまだ高く、その場の匂いは今はもう鼻が麻痺して分からない
瓦礫をかき分けていた消防員が「焼死体だ!」と悲鳴のような声を上げ現場は騒然となっていた
その騒ぎに乗じて消防員や警察官の目を盗み、いまだ燻り温度の高い瓦礫へ足を踏み入れる
ヴェレーノ教授は大切な書類やデータは全て地下研究室で管理していた
治験の資料もその中に含まれていただろう
教授はいつも地下研究室にある書架に鍵を掛け、その鍵を首から提げていたのだ
組織の人間として関わっている間、教授は資料を取り出す時に首から提げていた鍵を使っていた――
地下研究室の入口であっただろう場所は瓦礫に埋もれている状態だった
少し掘り起こしてみるも火の元は地下研究室だったのだろう、少しの空間があるのは分かるが人が入れるようなスペースは無く、焼け焦げた中は完全に鎮火していないのか僕の居る場所よりも温度が高く中に入ることは出来そうも無い
火元はこの地下室だったのだろう、周りを見渡しても一際被害が酷く高温に晒されたこの場所に原形をとどめているものは目に見える範囲に何一つ無かった
「チィッ」
思わず舌打ちをする
この様相を見るにデータは炎によって消失してしまっただろう
為す術無く消防員や警察官が集まっているところまで戻ってきたが焼死体が見つかったようで雑然としており、僕に目をとめるものはいなかった
2カ所に人だかりがあり、その辺りで焼死体が見つかったのだろう
心ここにあらずのままぼんやりとその様子を眺めているといくつかの言葉が耳に入ってきた
「焼死体は2名。どちらも男性の模様…」
「1人は小柄、もう1人は中肉中背…」
「火の元に近かったせいか身元の特定には至りません…」
「監察医務院へ搬送を…」
所々拾い上げた言葉から見つかった焼死体は生前の身体的特徴からヴェレーノ教授とその助手だろうと推測する
恐らく小柄な人はヴェレーノ教授、中肉中背は助手だろう
あの棟は薬学部の棟と呼称していたが元々施設が老朽化して使用されていなかった棟をヴェレーノ教授が研究室として利用していた
組織の人間として何度も出入りをしたがヴェレーノ教授とその助手以外の大学の人間とは会うことがなかった
人払いをしていたのかは分からないが組織の人間として動いていた時は人目が無い方が都合良かったので特にその辺りを気にとめたことは無かったが
ヒロが元に戻るための手がかりになり得たヴェレーノ教授の研究資料はこの瓦礫とともに燃えてしまっただろう
ヒロに…あやに何と言えば良いんだ…
「…ゼロ」
どれだけの時間立ち尽くしていたのだろうか、不意に名前を呼ばれ振り返るとそこには風見とヒロがいた
周囲に集まっていた人垣もばらけてまばらになっており、火事の現場中継と思われるカメラマンやスタッフ、リポーターたちが2組おり、1組は中継中なのかリポーターらしき人がカメラに向かって話している
規制線を張った向こうでは現場検証中の消防員や警察官が瓦礫の中で作業をしていた
「ヒロ…、すまない。教授の研究資料は…」
僕は無力だ
何も出来なかった…!
ヒロの顔を見ることができず思わず俯いた
視線の先にヒロの小さな靴と風見の黒の内羽式ストレートチップの革靴
ふいに風見の靴が僕たちの側から静かに離れていく
「そんなことゼロが気にすることじゃない。ゼロが無事で良かった。ゼロ、俺のために頑張ってくれてありがとな」
「…」
「俺、今の姿気に入ってるんだ」
視線の先にあったヒロの靴が手を伸ばせば届くところまで近づいてくる
「大人の記憶を持ったまま子どもになるなんて人生イージーモードだろ?俺超天才児って呼ばれちゃうよ」
そう言いながらヒロは俯いていた僕の顔を覗き込んだ
あやと同じアーモンド型の目と視線が絡む
「なぁ、ゼロは何でも自分のせいにするけど俺がこうなったのはゼロのせいじゃないぞ」
「…!だけどっ!」
「聞いてくれ、ゼロ」
ヒロは僕の両腕を小さな手でガシリと抑えこんだ
その力はつい先日までのヒロとは違い弱く、簡単に振りほどける力であったがヒロからかすかな震えを感じて僕は振りほどくことが出来なかった
「正直クスリの効果はいつまで続くか分からない。こうして話している間に戻るかもしれないし、ずっと戻れないのかもしれない。もしかしたらこの先クスリの副作用で命を落とすかもしれない。それに…俺は今の状態でこのまま何事もなく再び成長出来るという保証もない。
俺は俺の命を自らの意思で捨てようとしたんだ。だから今後どんなバチが当たるかもしれない…
ゼロ…あやをを頼む。俺じゃ…この身体じゃあやのこと守れないから…。これはゼロにしか頼めないんだ!」
ヒロから感じるかすかな震えはいつしか僕の身体を震わすほど大きな震えになり、僕を食い入るように見るヒロに僕は言葉を失う
…やはりヒロは気が付いていたのだ
正体不明のクスリを取り込んだことにより自分の身に起きた事象はこのまま済まないかもしれないと…
それは僕が車の中でヒロの話を聞いた時に思ったことと同じだった
だから僕はヴェレーノ教授の研究資料を入手して1日も早くヒロが元の姿に戻れるようにしたいと思っていたのだ
「頼む、俺に何かがあったとしてもあやを…あやを1人にしないでくれ…。頼む…」
そう言って頭を下げるヒロ
ヒロの緩やかなカーブを描いた後頭部は僕の両腕を掴んでいる腕と同じく小さく震えている
「…分かった、約束する」
ヒロの真摯な覚悟を身に受け止めたことを伝えると僕の言葉に顔を上げたヒロの目は真っ赤だったがアーモンド型の目を細め満面の笑みを浮かべた
「頼むな、ゼロ」
◇◆◇
「Hey buddy! 風見にコール!」
スマホが返事をし、コール音が鳴る
2度目のコール音の途中で電話は繋がり、風見の声がした
「風見!僕はこれから東都大学へ向かう!Hey buddy!終話!」
ステアリングを強く握りしめアクセルを深く踏み込む
エンジンが悲鳴のような音を上げ後輪が空転して劈くような音とともに車は急発進した
東都大学の近くへたどり着いた頃、周囲の状況がいつもより騒々しくなっていた
あと少しで東都大学というところで道路は渋滞し東都大学の方を見ている人や指さしてる人、スマホを向けている人が歩道に多数いる
車の前に大型トラックがいるので東都大学の方が車内からは見えず、目の前に見えていた小道へ車を無理矢理ねじ込み車外へ出ると焦げたような匂いがした
イヤな予感がする――
車はその場に止めたまま東都大学へ向かって駆けると黒く太い煙が空へ立ち上っている様子が目に入った
近づくにつれ風向きのせいか朦朦と煙が立ちこめ咳き込む人が増え、焦げた匂いが強く鼻につく
大学の正門近くは騒然としていたが消防車が到着しており物見高く集まった人々の整理に追われている人、消火活動を始めている人など忙しなくしていた
薬学部のある棟は今ある正門の反対側だ
そちらへ向かうため人の波に逆らい、掻い潜り薬学部のある棟の側にたどり着く
出火位置から近いせいだろう周囲の気温は正門付近よりも高く、物見高く集まった人々も火の元から流れてくる熱気のためか少し遠巻きにしていた
薬学部のあった棟は既に火の海で熱気と熱風で近寄ることもままならない
鎮火作業をしている消防員の「ガソリンらしきものをまかれてるのか全く鎮火の気配がない!」と叫んでいる声が遠くで聞こえる
俺はモンスターのように襲いかかる炎に陥落し、崩れ落ちていく校舎を呆然と眺めていた
一晩経ち消防員の人たちの努力のお陰で火は鎮火した
薬学部の棟があったそこは燻った瓦礫の山だけが残っている
辺りの温度はまだ高く、その場の匂いは今はもう鼻が麻痺して分からない
瓦礫をかき分けていた消防員が「焼死体だ!」と悲鳴のような声を上げ現場は騒然となっていた
その騒ぎに乗じて消防員や警察官の目を盗み、いまだ燻り温度の高い瓦礫へ足を踏み入れる
ヴェレーノ教授は大切な書類やデータは全て地下研究室で管理していた
治験の資料もその中に含まれていただろう
教授はいつも地下研究室にある書架に鍵を掛け、その鍵を首から提げていたのだ
組織の人間として関わっている間、教授は資料を取り出す時に首から提げていた鍵を使っていた――
地下研究室の入口であっただろう場所は瓦礫に埋もれている状態だった
少し掘り起こしてみるも火の元は地下研究室だったのだろう、少しの空間があるのは分かるが人が入れるようなスペースは無く、焼け焦げた中は完全に鎮火していないのか僕の居る場所よりも温度が高く中に入ることは出来そうも無い
火元はこの地下室だったのだろう、周りを見渡しても一際被害が酷く高温に晒されたこの場所に原形をとどめているものは目に見える範囲に何一つ無かった
「チィッ」
思わず舌打ちをする
この様相を見るにデータは炎によって消失してしまっただろう
為す術無く消防員や警察官が集まっているところまで戻ってきたが焼死体が見つかったようで雑然としており、僕に目をとめるものはいなかった
2カ所に人だかりがあり、その辺りで焼死体が見つかったのだろう
心ここにあらずのままぼんやりとその様子を眺めているといくつかの言葉が耳に入ってきた
「焼死体は2名。どちらも男性の模様…」
「1人は小柄、もう1人は中肉中背…」
「火の元に近かったせいか身元の特定には至りません…」
「監察医務院へ搬送を…」
所々拾い上げた言葉から見つかった焼死体は生前の身体的特徴からヴェレーノ教授とその助手だろうと推測する
恐らく小柄な人はヴェレーノ教授、中肉中背は助手だろう
あの棟は薬学部の棟と呼称していたが元々施設が老朽化して使用されていなかった棟をヴェレーノ教授が研究室として利用していた
組織の人間として何度も出入りをしたがヴェレーノ教授とその助手以外の大学の人間とは会うことがなかった
人払いをしていたのかは分からないが組織の人間として動いていた時は人目が無い方が都合良かったので特にその辺りを気にとめたことは無かったが
ヒロが元に戻るための手がかりになり得たヴェレーノ教授の研究資料はこの瓦礫とともに燃えてしまっただろう
ヒロに…あやに何と言えば良いんだ…
「…ゼロ」
どれだけの時間立ち尽くしていたのだろうか、不意に名前を呼ばれ振り返るとそこには風見とヒロがいた
周囲に集まっていた人垣もばらけてまばらになっており、火事の現場中継と思われるカメラマンやスタッフ、リポーターたちが2組おり、1組は中継中なのかリポーターらしき人がカメラに向かって話している
規制線を張った向こうでは現場検証中の消防員や警察官が瓦礫の中で作業をしていた
「ヒロ…、すまない。教授の研究資料は…」
僕は無力だ
何も出来なかった…!
ヒロの顔を見ることができず思わず俯いた
視線の先にヒロの小さな靴と風見の黒の内羽式ストレートチップの革靴
ふいに風見の靴が僕たちの側から静かに離れていく
「そんなことゼロが気にすることじゃない。ゼロが無事で良かった。ゼロ、俺のために頑張ってくれてありがとな」
「…」
「俺、今の姿気に入ってるんだ」
視線の先にあったヒロの靴が手を伸ばせば届くところまで近づいてくる
「大人の記憶を持ったまま子どもになるなんて人生イージーモードだろ?俺超天才児って呼ばれちゃうよ」
そう言いながらヒロは俯いていた僕の顔を覗き込んだ
あやと同じアーモンド型の目と視線が絡む
「なぁ、ゼロは何でも自分のせいにするけど俺がこうなったのはゼロのせいじゃないぞ」
「…!だけどっ!」
「聞いてくれ、ゼロ」
ヒロは僕の両腕を小さな手でガシリと抑えこんだ
その力はつい先日までのヒロとは違い弱く、簡単に振りほどける力であったがヒロからかすかな震えを感じて僕は振りほどくことが出来なかった
「正直クスリの効果はいつまで続くか分からない。こうして話している間に戻るかもしれないし、ずっと戻れないのかもしれない。もしかしたらこの先クスリの副作用で命を落とすかもしれない。それに…俺は今の状態でこのまま何事もなく再び成長出来るという保証もない。
俺は俺の命を自らの意思で捨てようとしたんだ。だから今後どんなバチが当たるかもしれない…
ゼロ…あやをを頼む。俺じゃ…この身体じゃあやのこと守れないから…。これはゼロにしか頼めないんだ!」
ヒロから感じるかすかな震えはいつしか僕の身体を震わすほど大きな震えになり、僕を食い入るように見るヒロに僕は言葉を失う
…やはりヒロは気が付いていたのだ
正体不明のクスリを取り込んだことにより自分の身に起きた事象はこのまま済まないかもしれないと…
それは僕が車の中でヒロの話を聞いた時に思ったことと同じだった
だから僕はヴェレーノ教授の研究資料を入手して1日も早くヒロが元の姿に戻れるようにしたいと思っていたのだ
「頼む、俺に何かがあったとしてもあやを…あやを1人にしないでくれ…。頼む…」
そう言って頭を下げるヒロ
ヒロの緩やかなカーブを描いた後頭部は僕の両腕を掴んでいる腕と同じく小さく震えている
「…分かった、約束する」
ヒロの真摯な覚悟を身に受け止めたことを伝えると僕の言葉に顔を上げたヒロの目は真っ赤だったがアーモンド型の目を細め満面の笑みを浮かべた
「頼むな、ゼロ」
◇◆◇