【DC】Con te
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◇◆◇
組織の幹部であるエルが護送される場所は警視庁内の取調室になる――
警察庁に到着した僕は庁内のロッカー室に置いてあったスーツに着替え警視庁へ向かうとロビーで風見が待機していた
僕が着くのを見越して待っていたのだろう
足早に庁内を歩き、エレベータに乗り込むと風見も一緒に乗り込み、風見が階層ボタンを押す
エレベータは古いため少し大きめな低いモータの唸り音と共に上っていく
「エルディアブロは?」
「取調室2です」
「ユダは?」
「管理官室です」
風見の言葉に先ほどの電話の時にも出てきた管理官が気に掛かった
「この話は管理官が絡んでいるのか?」
「…詳しくはユダとともに管理官室にいる諸伏に聞いてください」
何故そこでヒロの名前が出てくるのか
思いも寄らない名前が出てきたことに驚くが風見はそれ以上何も言わなかった
風見はあやのことは「あやさん」と呼ぶので「諸伏」と呼ぶのはヒロのことだ
何故ヒロが管理官室にいるのか…
口を開こうとした時、風見が指定した階に到着したエレベータが扉を開いた
目の前にはユダとヒロがいるであろう管理官室の扉があり、風見は僕の後ろに付き従うかのように立っている
コンコンコンと3度扉をノックすると「入れ」と中から管理官の声が聞こえ一呼吸置いてからドアを開けた
管理官室にいたのは管理官机に管理官、その前にある応接セットの2人掛けのソファにユダ…山田さん
1人掛けのソファにヒロが座っている
管理官とヒロはこちらに目を向けているが、山田さんは俯いたまま膝の上で両拳を握りしめていた
僕の推理で行きついた人物も山田さんだったのでユダが山田さんだということに特に驚きはしなかった
しかし、幼児化したヒロが何故ここにいるか分かりかねていた
「…まず座りたまえ」
立ち尽くしていた僕に管理官から声が掛かり、ふと我に返った
風見の方を見ると僕から表情を隠すかのように眼鏡のブリッジを上げる
僕がヒロの隣にある1人掛けのソファへ腰を下ろすと風見が僕の後ろに立った
「彼に聞きたいことがあるだろう、聞くといい」
管理官はそう言って椅子をクルリと反転させこちらに背を向ける
自分を気にせず話をしろということだ
管理官の意図を察した僕は背もたれに凭り掛かり大きく足を組み、威圧的に矯めつ眇めつ山田さんを見る
しかし山田さんの方からこちらに目を合わせる意思はないのか俯いたまま目が合うことは無かった
「…どういうつもりだ?」
しばしの沈黙の後、発した言葉は自分が想像していたより低かった
それだけユダであった山田さんに対しての怒りを抑えていたのだ
「…っ!」
「黙っていては分からない。全てありのままに話せ」
胸ぐらを掴みたい気持ちをグッと拳に握り込み、その拳を見られないよう腕を組み山田さんを睨み付ける
「じ…実は結婚を前提に付き合ってる人がいた…。息子とも仲が良くてよく出来た人だった
先日その人は俺の忘れものを届けに警察庁にきてロビーで俺に連絡したけど繋がらなかったらしい。どうしたらいいか…と彼女が困っていたところ、ちょうど現れた諸伏が彼女を面会室まで案内したそうだ
その時彼女は諸伏に一目惚れしてしまい、先日それを理由に俺はプロポーズを断られ、別れることになってしまった
…諸伏がいなければ、あそこで彼女が諸伏に会わなければ…今頃俺たちは結婚出来ていたはずなんだ…っ」
語りはじめた山田さんは気持ちが昂ぶったのか握りしめていた拳を自分の太ももに叩きつけた
そんなことの為に…僕はそう思うが彼にとってはそうではなかったのだろう
殴り掛かりたい気持ちを必死に押し殺すため組んだ腕の中で掌に爪が食い込むほど強く拳を握る
「特務作戦時に俺は偶然組織の人間であるエルディアブロと出くわした。過去に報告書で組織の幹部数名の写真を見ていたからすぐエルディアブロだと俺は分かったが、当然ながら向こうは俺の存在すら知らない
俺の人生を狂わせた諸伏に復讐するなら組織の人間を利用するのが一番だとその時、ふいに思いついた
だからNOCを教える代わりに組織に入りたいと俺からエルディアブロに声を掛けたんだ。俺が野心を覗かせるとエルディアブロから『利害一致ね。まずあなたが知ってるNOCの名前を教えて貰おうかしら?』と言われたので迷わず諸伏の名前を出した。諸伏がNOCだと確認が出来たら俺を組織に迎え入れ幹部にしてくれるとエルディアブロは言ったんだ。俺はもう年下の上司の下で仕事するのも嫌だったし警察に未練は無かったから一石二鳥だと思った
その時『もう1人のNOCを組織に迎え入れられた時に教えよう」と言ったらエルディアブロは面白そうな顔をして快諾した
…そして今日、俺が組織に迎え入れられる日…だったが、諸伏が居なくなった後の諸伏妹の動きに妙な胸騒ぎを感じたから手土産ついでに誘拐して組織に口を塞いで貰おうと思い病室に向かった結果…こうやってここにいる」
自棄になったのか最後は吐き捨てるように話した山田さん
山田さんの彼女は正直な人で自分の気持ちを偽ったまま、山田さんの心を騙したまま結婚出来ないと真摯に伝えたのだろう
しかしそれを山田さんは受け入れる事が出来なかった
受け入れられなかった気持ちが行き場を失い、ヒロの死を望むほど憎しみを抱いてしまう切欠になったのかもしれない
そしてその矛先は積年の不満であった一回り年下の上司の僕やヒロの家族であるあやにも向かってしまったのか…
管理官室が静まりかえる
声を上げる者がいないまま、時間が過ぎた
彼の所業は如何なる理由を持ってしても許されることではないし、許せるものではない
この人のせいでヒロは死線を彷徨い今では幼児化しているし、あやは酷い目に遭った
この場で山田さんを咎めたくとも大切な2人の人間を守ることが出来なかった僕に彼を非難する権利はあるのだろうか…
「…風見、後は頼む」
頭で分かっていても感情が付いて来ず山田さんを罵りそうになる口を唇を噛みしめることで噤み、こちらに背を向けている管理官へ一礼して退室した
唇の端に違和感を感じ親指で拭うと赤い…血だった
噛みしめすぎたせいで傷が付いたのだ
ペロリと舌で舐めると鉄の味がした
どこにも吐き出すことの出来ない感情を持て余しボンヤリしているわけにはいかない
こと組織の事案に関して言えば迅速に対応せねばならない
エルが連れ込まれている取調室へ足を向ける
刑事部のあるフロアには取調室がいくつもあるが、取調室2にエルがいると先ほど風見は言っていた
僕の身分は警視庁公安部の人間でも知っている人はほぼいないので現在取調を行っている取調室に直接入るわけにはいかず、隣にある面通室の扉を開いた
仄暗い室内に入ると透視鏡の向こうに太々しくそっぽを向いたエルが座っているのが見えた
エルの前に1人の刑事が座っており、その横に座っている刑事より若い刑事が1人立っている
証言記録係が少し離れた机でPCに向かい合っている
ここから取調室の声は聞こえないが刑事が何を言ってもエルがそっぽを向いたまま言葉を発していないのでわざわざ唇の動きを読む必要も無さそうだ
不意に組織用のスマホが震えベルモットからの着信を知らせる
エルを睨み付けながら電話に出ると「Hi.Bourbon」と妖艶で流暢な声がした
「何ですか、ベルモット?」
「エルが警察に捕まったらしいわ」
「エルが、ですか?」
「誰かにハメられたのかもしれないわね。彼女最近動きが大きくて目立ってたし」
「そうですか…」
「あなたも気をつけることね、バーボン」
「えぇ、ご忠告ありがとうございます」
いつもならここで一方的に電話を切られるところだ
終話音が聞こえるまで待っているが電話を切られる様子も無く、少しの沈黙の後ベルモットの声が続いた
「そういえば…」
「…何でしょう」
「エルが捕まったことを聞いたジンが彼女の関係した件の証拠隠滅に動いたわ」
「どういった件です?」
「彼女、どっかの大学教授と何か企んでいたみたいね」
ツーツーツー
言葉を発する前にベルモットからの通話が切れたことを知らせる電子音が聞こえる
エルが関わっていた件とはヴェレーノ教授のことだろう
そしてその証拠隠滅となれば、研究資料と地下研究室…か
そこではたと気づく
ヴェレーノ教授の研究資料はクスリが無い今、ヒロが元に戻るために不可欠なものだ
それを隠滅されるとなるとヒロが戻れる可能性が限りなく低くなってしまう
証拠隠滅される前に回収しなければ…!
事態の大きさに気が付いた僕は面通室の扉を勢いよく開き、自分の車へ向かって駆け出した
組織の幹部であるエルが護送される場所は警視庁内の取調室になる――
警察庁に到着した僕は庁内のロッカー室に置いてあったスーツに着替え警視庁へ向かうとロビーで風見が待機していた
僕が着くのを見越して待っていたのだろう
足早に庁内を歩き、エレベータに乗り込むと風見も一緒に乗り込み、風見が階層ボタンを押す
エレベータは古いため少し大きめな低いモータの唸り音と共に上っていく
「エルディアブロは?」
「取調室2です」
「ユダは?」
「管理官室です」
風見の言葉に先ほどの電話の時にも出てきた管理官が気に掛かった
「この話は管理官が絡んでいるのか?」
「…詳しくはユダとともに管理官室にいる諸伏に聞いてください」
何故そこでヒロの名前が出てくるのか
思いも寄らない名前が出てきたことに驚くが風見はそれ以上何も言わなかった
風見はあやのことは「あやさん」と呼ぶので「諸伏」と呼ぶのはヒロのことだ
何故ヒロが管理官室にいるのか…
口を開こうとした時、風見が指定した階に到着したエレベータが扉を開いた
目の前にはユダとヒロがいるであろう管理官室の扉があり、風見は僕の後ろに付き従うかのように立っている
コンコンコンと3度扉をノックすると「入れ」と中から管理官の声が聞こえ一呼吸置いてからドアを開けた
管理官室にいたのは管理官机に管理官、その前にある応接セットの2人掛けのソファにユダ…山田さん
1人掛けのソファにヒロが座っている
管理官とヒロはこちらに目を向けているが、山田さんは俯いたまま膝の上で両拳を握りしめていた
僕の推理で行きついた人物も山田さんだったのでユダが山田さんだということに特に驚きはしなかった
しかし、幼児化したヒロが何故ここにいるか分かりかねていた
「…まず座りたまえ」
立ち尽くしていた僕に管理官から声が掛かり、ふと我に返った
風見の方を見ると僕から表情を隠すかのように眼鏡のブリッジを上げる
僕がヒロの隣にある1人掛けのソファへ腰を下ろすと風見が僕の後ろに立った
「彼に聞きたいことがあるだろう、聞くといい」
管理官はそう言って椅子をクルリと反転させこちらに背を向ける
自分を気にせず話をしろということだ
管理官の意図を察した僕は背もたれに凭り掛かり大きく足を組み、威圧的に矯めつ眇めつ山田さんを見る
しかし山田さんの方からこちらに目を合わせる意思はないのか俯いたまま目が合うことは無かった
「…どういうつもりだ?」
しばしの沈黙の後、発した言葉は自分が想像していたより低かった
それだけユダであった山田さんに対しての怒りを抑えていたのだ
「…っ!」
「黙っていては分からない。全てありのままに話せ」
胸ぐらを掴みたい気持ちをグッと拳に握り込み、その拳を見られないよう腕を組み山田さんを睨み付ける
「じ…実は結婚を前提に付き合ってる人がいた…。息子とも仲が良くてよく出来た人だった
先日その人は俺の忘れものを届けに警察庁にきてロビーで俺に連絡したけど繋がらなかったらしい。どうしたらいいか…と彼女が困っていたところ、ちょうど現れた諸伏が彼女を面会室まで案内したそうだ
その時彼女は諸伏に一目惚れしてしまい、先日それを理由に俺はプロポーズを断られ、別れることになってしまった
…諸伏がいなければ、あそこで彼女が諸伏に会わなければ…今頃俺たちは結婚出来ていたはずなんだ…っ」
語りはじめた山田さんは気持ちが昂ぶったのか握りしめていた拳を自分の太ももに叩きつけた
そんなことの為に…僕はそう思うが彼にとってはそうではなかったのだろう
殴り掛かりたい気持ちを必死に押し殺すため組んだ腕の中で掌に爪が食い込むほど強く拳を握る
「特務作戦時に俺は偶然組織の人間であるエルディアブロと出くわした。過去に報告書で組織の幹部数名の写真を見ていたからすぐエルディアブロだと俺は分かったが、当然ながら向こうは俺の存在すら知らない
俺の人生を狂わせた諸伏に復讐するなら組織の人間を利用するのが一番だとその時、ふいに思いついた
だからNOCを教える代わりに組織に入りたいと俺からエルディアブロに声を掛けたんだ。俺が野心を覗かせるとエルディアブロから『利害一致ね。まずあなたが知ってるNOCの名前を教えて貰おうかしら?』と言われたので迷わず諸伏の名前を出した。諸伏がNOCだと確認が出来たら俺を組織に迎え入れ幹部にしてくれるとエルディアブロは言ったんだ。俺はもう年下の上司の下で仕事するのも嫌だったし警察に未練は無かったから一石二鳥だと思った
その時『もう1人のNOCを組織に迎え入れられた時に教えよう」と言ったらエルディアブロは面白そうな顔をして快諾した
…そして今日、俺が組織に迎え入れられる日…だったが、諸伏が居なくなった後の諸伏妹の動きに妙な胸騒ぎを感じたから手土産ついでに誘拐して組織に口を塞いで貰おうと思い病室に向かった結果…こうやってここにいる」
自棄になったのか最後は吐き捨てるように話した山田さん
山田さんの彼女は正直な人で自分の気持ちを偽ったまま、山田さんの心を騙したまま結婚出来ないと真摯に伝えたのだろう
しかしそれを山田さんは受け入れる事が出来なかった
受け入れられなかった気持ちが行き場を失い、ヒロの死を望むほど憎しみを抱いてしまう切欠になったのかもしれない
そしてその矛先は積年の不満であった一回り年下の上司の僕やヒロの家族であるあやにも向かってしまったのか…
管理官室が静まりかえる
声を上げる者がいないまま、時間が過ぎた
彼の所業は如何なる理由を持ってしても許されることではないし、許せるものではない
この人のせいでヒロは死線を彷徨い今では幼児化しているし、あやは酷い目に遭った
この場で山田さんを咎めたくとも大切な2人の人間を守ることが出来なかった僕に彼を非難する権利はあるのだろうか…
「…風見、後は頼む」
頭で分かっていても感情が付いて来ず山田さんを罵りそうになる口を唇を噛みしめることで噤み、こちらに背を向けている管理官へ一礼して退室した
唇の端に違和感を感じ親指で拭うと赤い…血だった
噛みしめすぎたせいで傷が付いたのだ
ペロリと舌で舐めると鉄の味がした
どこにも吐き出すことの出来ない感情を持て余しボンヤリしているわけにはいかない
こと組織の事案に関して言えば迅速に対応せねばならない
エルが連れ込まれている取調室へ足を向ける
刑事部のあるフロアには取調室がいくつもあるが、取調室2にエルがいると先ほど風見は言っていた
僕の身分は警視庁公安部の人間でも知っている人はほぼいないので現在取調を行っている取調室に直接入るわけにはいかず、隣にある面通室の扉を開いた
仄暗い室内に入ると透視鏡の向こうに太々しくそっぽを向いたエルが座っているのが見えた
エルの前に1人の刑事が座っており、その横に座っている刑事より若い刑事が1人立っている
証言記録係が少し離れた机でPCに向かい合っている
ここから取調室の声は聞こえないが刑事が何を言ってもエルがそっぽを向いたまま言葉を発していないのでわざわざ唇の動きを読む必要も無さそうだ
不意に組織用のスマホが震えベルモットからの着信を知らせる
エルを睨み付けながら電話に出ると「Hi.Bourbon」と妖艶で流暢な声がした
「何ですか、ベルモット?」
「エルが警察に捕まったらしいわ」
「エルが、ですか?」
「誰かにハメられたのかもしれないわね。彼女最近動きが大きくて目立ってたし」
「そうですか…」
「あなたも気をつけることね、バーボン」
「えぇ、ご忠告ありがとうございます」
いつもならここで一方的に電話を切られるところだ
終話音が聞こえるまで待っているが電話を切られる様子も無く、少しの沈黙の後ベルモットの声が続いた
「そういえば…」
「…何でしょう」
「エルが捕まったことを聞いたジンが彼女の関係した件の証拠隠滅に動いたわ」
「どういった件です?」
「彼女、どっかの大学教授と何か企んでいたみたいね」
ツーツーツー
言葉を発する前にベルモットからの通話が切れたことを知らせる電子音が聞こえる
エルが関わっていた件とはヴェレーノ教授のことだろう
そしてその証拠隠滅となれば、研究資料と地下研究室…か
そこではたと気づく
ヴェレーノ教授の研究資料はクスリが無い今、ヒロが元に戻るために不可欠なものだ
それを隠滅されるとなるとヒロが戻れる可能性が限りなく低くなってしまう
証拠隠滅される前に回収しなければ…!
事態の大きさに気が付いた僕は面通室の扉を勢いよく開き、自分の車へ向かって駆け出した