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【DC】Con te

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「どうして俺はこの姿に?」

鏡で確認を終え、女に鏡を返しつつライに問うとライが話し始めた

「スコッチがクスリを飲んでスマホを撃ち抜いた後、俺はそれをスコッチの胸ポケットに収め偽装を施した。その後すぐ確認に来たのはバーボンだった」

ライから出たバーボンの名前に一瞬反応しそうになるが辛うじて堪える

「おまえ、バーボンと個人的付き合いでもあるのか?」
「…いや、バーボンとは組織に入ってからの付き合いだ」
「本当か?この件で共犯である俺に今更隠す必要は無いだろう?」
「………」

一瞬でも躊躇ってしまったことでバーボンことゼロとは個人的に繋がりがあると聡いライなら気が付いただろう
ゼロが俺との関係を気づかれるような失態を犯すとは思えなかったが、ライは鋭いので組んで仕事をしていた時からもしかしたら何らかの疑惑を持っていたのかもしれない
ライが俺の言葉を黙って待っている
FBIと思われる2人は数歩下がり、俺らのやりとりを黙って見守っている

「…すまない、まだ言えない」

俺の口から出た言葉は個人的繋がりがあると断定するに容易いものだった
ライは軽く溜息を吐き答える

「分かった。おまえが話してくれるのを待とう」
「…ありがとう」
「バーボンがおまえのスマホを持ち去ったが、データは大丈夫か?」
「あぁ、記憶チップを撃ち抜いた筈だから復元は不可能だろう」
「…そうか」

データは相手がゼロだから実際は何の問題無いが、まだ関係性を言えない以上復元は不可能と伝える
実際その通りであるのだ、関係性を伏せてる今の回答として問題無いだろう

そこまで話してライは懐からタバコを取り出し火を付け紫煙を吐き出す
子どもの姿になった俺の方に紫煙が流れないように気を遣っている様子が見受けられライは思っていた以上に良いヤツだと感じられた
俺はライに続きを促す

「ところでライ、俺はどうしてこの姿になったんだ?」
「…クスリの効果が切れる予定の15分が経過した頃にスコッチが苦しみだしてな。効果が切れたのだろうと目を覚まさせようと近寄ると蒸気のようなものがスコッチの身体から出てみるみる間に縮んで今の姿になった」

ライの後ろで男の方はぽかんと口を開けていたが、女の方は瞠目して「そんな、まさか…!あり得ない…」と独り言のように呟いた
俺も女と同意見でそう思うが、実際俺の身体はこの状態だ
あり得ないと言いたいのは俺の方である
俺はオカルトの類いは一切信じていない

「お陰でここまで連れてくるのも容易かった。あのまま意識が戻らず大人のままの姿だったら運ぶのは少し骨が折れるところだった」
「………」

本気とも冗談とも付かぬ台詞を事も無げに言った後、タバコを口にして紫煙を吐き出すライの話はにわかには信じがたい話だった
急に縮んだ俺に対してさして驚いた様子の話もなく、淡々と話すライは過去に同じ経験をした人に会ったことがあるのだろうか?
あまりの冷静さに少しの違和感を感じるが、それを今ライに問いただしたところで答えてはくれないだろう

それよりも俺自身は小さくなっていてライに経緯も聞いたのにサッパリ実感を持てず、言葉も発せない
纏まらない気持ちと感情を紛らわすため、所在なくだるんだるんになった服の袖と裾を折りたたむ

今まで普通に着ていた服がとても大きく感じる
自分が小さくなったとは未だ分かっていても頭は理解していないようで服が巨大化したかのような錯覚を覚えた

服の袖と裾を折りたたみ両手足の自由が利くようになったので立ち上がってみると今の俺に大きい服が重かった



「これからどうする」

タバコを消したライは乱闘時に落として壊れてしまっていた組織用のスマホを回収してくれていたらしく俺に差し出しながら問う
それを黙って受け取り、電源を入れてみたが画面表示されることは無かった
使い物にならないスマホをだぶだぶの上着のポケットへ無造作に突っ込む

「本来ならFBIを介してアメリカの証人保護プログラムを受けてもらう予定ではあったのだがこうなってしまっては…」

俺のことを上から下まで見るライの視線が痛い

大人の俺ならば組織に対する証言も信頼性はあったかもしれない
しかし今ここにいる俺の見た目は子どもであり、クスリで幼児退行してしまったという話がまず信じて貰えない可能性が高く、いくら保護するために設けられた制度だと言っても今の俺には適用するのは困難だということなんだろう

少し思案しているとクスリを飲む前にライが言った「おまえの本来の職場の中に情報を流しているヤツがいると睨んでいる」という言葉と「組織外からでも裏切り者を探したり大切な人を守ることは出来るだろう」という言葉を思い出した
これらの言葉で俺は心を固めてクスリを飲んだのである
表面上俺は死人であっても構わないから組織に潜入してるゼロを、妹のあやを、遠く離れた兄を守ろうと決意したのだ

それらは自分にあり得ないことが起きていたので一時的に頭から抜けていた言葉や決意たちだった

「ライ、俺は自分の命に代えても守りたい人たちがいる」

ライを真正面から見つめ、俺の思っていることを口にした

正直このクスリの効果はいつまで続くか分からない
こうして話している間に戻れるかもしれないし、しばらく戻れないのかもしれない
もしかしたらこのクスリの副作用で命を落とすかもしれない
しかし、この姿である間は姿を隠すこと無く行動出来ることもあるだろう
まさか組織も始末したはずの俺が幼児退行して生きてるとは思うまい

「戻って情報を流した人物…ユダを特定することに尽力したい」

ユダとはイエス・キリストの12人目の弟子の名前で新約聖書によればイエスを裏切って彼を祭司長たちに引き渡したと言われている人物で裏切り者の代名詞となっている名前である

あえてそう呼称し言い切った俺の目をライは鶸萌黄色の目で真意を確かめるかのように見つめる
俺はそれに対するかのようにライの目の奥を覗き込んだ

「分かった、スコッチ言うとおりにしよう。何かしらの策があるんだろう?」
「あぁ、それなりに伝手はある」
「それではそっちの件は君に任せるとしよう」

俺たちの間で話がついたことを察した男と女は申し合わせたようにホッと息を吐いた



この場所は日本に数カ所あるFBIのセーフハウスのひとつで、現在はライと男の方がキャメル捜査官、女の方がスターリング捜査官、この3人が主に利用しているそうだ
今その2人は俺の服を調達しに行ってくれていて俺はライと2人で部屋にいた

「ライ、あのクスリはもう無いのか?」
「あれは明美がシェリーに処分してくれと頼まれたものだ。何かに使えるかもしれんと俺が預かったのはあれだけだった。もうないだろうが一応聞いてみよう」

ライが明美と呼ぶ女性は組織にいるライの恋人だ
シェリーは明美の妹で組織が独自に開発している毒薬の開発に携わる科学者だと聞いている
俺やゼロはコードネーム持ちだが、組織中枢近くにいるシェリーとはまだ会ったことはなかった
ライはその科学者から処分しろと言われた試薬を俺に飲ませたのか…と少々呆れるが、あの時点で処分しろと言われた試薬だったと知ったら俺は飲み下すことは出来なかったかもしれない

試薬と言えど効果から鑑みるに毒薬を作っていた副産物で出来たクスリだったのだろう
ライもそう言っていたように思う

「せめてもう1錠あれば成分分析して解毒薬を作れる可能性もあったんだろうけどなぁ」

俺は折りたたんでもなおダブダブの服から出した腕を頭の後ろで組みながらボヤく
ライは少し思案する様子を見せた後、マッチを擦りタバコに火を付けた


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