記憶の彼方のカケラ


 昔々、ある山で、おじいさんが山菜取りに来ていました。

 すると、山道を外れたところから、ピィピィと何かの鳴き声が聞こえました。

 気になって近寄ってみると、一羽の山ウサギが罠にかかっていて大変苦しそうでした。

 おじいさんは可哀想だと思い罠を外してやり、逃がして上げました。

 その日の夜遅く、おじいさんの家に狩人が訪ねてきて言いました。

「獲物を罠から逃がしたのはあんたか。俺たちだって食うためにやってんのに、勝手なことしやがって」

 おじいさんはむかつき言い返しました。

「私は助けてやっただけだ。どのみち、こんな小さな獣一匹しとめたって、汁が三杯もつくものか」

 おじいさんがそういうと、狩人は怒り気味に怒鳴りました。

「こっちは態々山の神さんに、伺い立てて許可貰ったんだぞ。お前はただ、横から入り込んで荒らしただけに過ぎんのだ」

 そして二人は夜にも関わらず散々文句を言いあい、喧嘩に決着はつかずに、さらに夜が更けたころ

「謝るんなら許してやろうと思ったが、お前のような強情なじじいは、山の神さんにも嫌われるだろうさ」

 と煽り文句を残して去っていきました。


 次の日、昨日と同じように山に山菜取りに来たおじいさんですが、今度は後ろから声を掛けられました。

「昨日罠から兎を逃した老人はあんたか」

 振り返るとそこには、小さな女の子がたっていました。おじいさんが
「そうだ」
と肯定すると、女の子はにやにやして言いました。

「ここには肉を食らう獣が少ない。
 だからどうしても狩人が必要になる。
 勿論、狩りすぎは良くないが、この山には狩人が必要なのだ」

 おじいさんは何故だか、冬でもないのに、身体が震えて溜まりません。

 ぶるぶる震えながら女の子に尋ねました。

「そ…それがどうしたんだ?」

 女の子は言い返しました。

「この山には狩人達が必要、と言っている」

 女の子が微笑みながらおじいさんの手を握り、続けて言いました。

「お前は私に伺いすら立てず、勝手に山を毟ってばかり。
 そんなお前はこっちに来て、老いた兎になるがいい」

 それ以来、おじいさんは家に帰ることはなかったそうな。


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