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記憶の彼方のカケラ

「よぉ」

 黒と赤が続くような地の獄で、男は少女に話しかけた。飄々として掴み所のなさそうな男の顔に、少女は密かに眉をしかめた。

「何?」

 少しだけ、虫が目の前に飛び出した後のような心地で、少女は男に返した。

「俺はミツバ。あんたは?」
「クイナ」
「おー、クイナよぉ、あんたのようないい人そうな奴がここに来るのは本当に珍しいからな。つい話しかけちまったよ」
「そっか」

 黒い空、赤い霧、そして灰色の大地の先にぽつりぽつりと人がいる。
 ここはあの世の果て、地獄だった。

「いくつで死んだ?俺20ぐらい!」
「私、18」
「あー、残念だったなぁお互い、早死にとはよぉ」
「…」

 少しだけずれた話題でなおも二人は話し続けた。

「でもよぉ、お前なんでここに来たんだ?いじめでもした?」
「違う」
「じゃあ、強盗?」
「違う」
「誘拐か?」
「違うよ」
「殺人だな!?」
「うん、そう」
「じゃあ…え、マジ?」
「うん」

 ミツバはあーとかうーとか唸って、頭を前後にゆらゆら揺らすと、じっとクイナを見つめた。

「どうして殺人なんかしたよ、憎いやつでもいた?」
「ううん、友達」
「は?友達」
「そう、頼まれたからした」
「おいおい、マジかよ…」

 ミツバには予想外の答えだったらしい。

「友達、親友。もう生きたくなっていって、殺してって言ってた。だからした」
「…」

 とうとうミツバは黙り込んで、そのミツバを隣において、クイナはぼんやり頭の中を語り始めた。

「親友、一番の仲良しだったのに、怖いやつらが何時も家に来て、怖いやつらは全員違って、それで、怖いやつらに死んでも嫌なことされそうになって、死にたくなった。
 だからした。あんな目に合うなら死んだ方がマシ。
 だから殺して、そしたら私を食べて、ずっと一緒にいようって」

「…そ、れで…食ったのか?」
「食べた。全部ミキサーで砕いてハンバーグにした。

 …友達は美味しかった。

 そして今も一緒にいる」
「…そっか」

 そのミツバの言葉を最後に暫くの間沈黙が辺りを支配して、暫くしたころクイナがミツバに話しかけた。

「あなたはなんで?」
「ん?ん~??…あ、ああ!俺はな、ここに住んでるわけじゃあないぜ!ただ勤め先がここなだけで」
「じゃあ、鬼なの?」
「うーんとな、俺は生まれてからずっと病院から出られずにいてよ、それで死んだあと天国いって、まああれだ。
 ただ暮らすよりなんかやってみたかったんだよ。
 その結果がこれだな」
「…楽しい?」
「楽しいかどうかはさておき、結構やりがいがあるとは思うぜ。
 俺の生前はさっき話したろ?多分それも絡んでると思うが」
「そっか」

 赤い霧が揺らめいて黒い空を泳ぎ、黒い空の彼方をもっと赤い霧が漂っていた。
 バンと音を出し膝を叩くとミツバは立ち上がって、クイナに手を差し出した。

「ま、これから長い付き合いになるだろ?お前はここでずっと責め苦を受け続けるが、まあ、それはしょうがないよな」

 クイナはミツバの手を取り立ち上がり、一つ答えた。

「うん」

 そして二人は灰色の大地と黒い空の境界線に消えた。
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