ルクイーサ神話
命は生まれ、そして死ぬ。
多くの屍の上に生きる生き物たちは、特別な命を除き須らくその掟に従った。
死を迎えるまでに、自分と異なるものと番い、2つよりも多くの命を己の身の内から切り出す事で、全ての命は繁栄を迎えようとしてきた。
ユユミウの生み出した人も、例外はなくその掟に従い、数を増やし続け、沢山の人が地上に現れた。
現れてしまった。
長くを生きることが出来ない人は短い期間で生と死の螺旋を繰り返し、やがては己の種族の誕生の秘密すら忘れ、やがて傲慢になっていった。
あらゆる命の数に勝り、あらゆる命の知に勝るため、傲慢にもこの星の全てが1種族の為だけに用意されたと勘違いした。
人の為だけに多くの森が消え、海が汚れ、命の姿が消えていった。
そして、この行いに特別な命たちやその一族は、人を星を壊すものとして思い始めていた。
ユユミウは絶望した。
己の遊び相手として生み出したものが、このような存在になるなどと、知っていれば生み出すことなどしなかったのに。
絶望したユユミウは己の生み出した命たちに、人に見つからないようにとだけ言い残し、星のどこかへ消えていった。
初めに、木が実りを付けなくなった。
あらゆる木が果実はおろか、木の葉すら付けずに、残った森は皆枯れたように見えた。
道辺に生える小さな花すら、全ての花びらを落とし地に首を付けた。
次いで、森の命がどこかへ消えた。
夜更けになると騒がしくなるはずの森は、いつまでたっても静かなままだった。
人の立ち入る音以外には何も聞こえず、森を忙しなく飛び交う小さな羽虫はおろか、4つ足で群れて森を走る命すら掻き消えた。
ツハパとジシデイカが、ユユミウの言葉に従い子供たちを隠したのだ。
地上に命の気配が消えると、海の命も消えていった。
ギルレガーは海に生きる命達を人の立ち入れない場所に隠した。
どうしても長く海に潜れないものは、ルフルエナが作った秘密の場所に隠した。
海からも陸からも命が消えると、等々空すら常に灰に曇ったようになった。
オルゾナとエザウが力を合わせて、雲という雲を作り出し、青い空をすっかり覆い隠してしまったのだ。
2つはその雲の群れのどこかに隠れ、星の光も陽の光も地上に届くことは無かった。
ユユミウの絶望を知り、そのために人に怒ったビヴルーグムとエーバーは、人を滅することを決めた。
灼熱が多くを焼き殺し、氷雪が多くを凍死させた。
人達は命の消えた星に戸惑い、その時間を与えることを許されないように訪れる天災に強く恐怖を感じた。
星を支配せんとばかりに膨れ上がった人は、大多数が怒りに飲まれ消えてゆき、残った憐れな生き残りは這う這うの体で怒りを逃れ明日を願うしかなかった。
天災の訪れから3年もの時がたった頃、等々残った最後の生き残りの群れを、ビヴルーグムとエーバーが抹殺しようとしていた。
しかし、大きく咆哮した2つに震える人の群れの中から、小さな人が飛び出した。
小さな人は言った。
偉大な者達よ、特別な命よ、我々は嘗て愚かであり、今も愚かな命です。
しかし、祖先たちはそのことを頑なに認めようとせず、結果として貴方方の強い怒りを呼び覚ましてしまった。
我々の罪は、傲慢に堕ちたこと。
謙虚であることを忘れ、罪を重ね続けたこと。
ついにはその罪にすら目を逸らそうとしたこと。
ですが、おお始祖なるものよ、我らはすでに十分罰を受けました。
我らは思い知ったのです、誓いましょう。
我らは2度と傲慢であらず、2度と謙虚であることを忘れず、2度と命に刻まれた罪を忘れず、決し貴方方方の怒りを買いません。
どうか、我らがこれからも生きることをお許しくだされ。
小さな人の懇願が終わっても、2つはなおも怒りに満ちていた。
この星に害を与える者どもを、直ぐにでも抹消しなければならないという使命に駆られていた。
とうとう2つは小さな人の言葉に決して心動かされず、ついに消し去ろうとした。
するとその時、姿を隠したユユミウが再び姿を現した。
姿を現したユユミウは言った。
私は失望した。
お前たちに失望したのだ。
一度失望してしまったからには、もうどれほどの努力を重ねようと、2度とお前たちを信じることが出来ないのだ。
しかし、小さいお前の言葉には嘘を感じない。
なので特別に、今回だけは間を取り持ってやろう。
ただし2度目は無く、同じことがまた再び繰り返されたその時は、今度こそお前たちは罪の清算の為に、正しい罰を受けるのだ。
ユユミウはそこまで言うと、ビヴルーグムとエーバーを引き連れ、何処かへと消えていった。
すると、直後空が晴れ、久々に青空が広がった。
森は再び実りを取り戻し、森に住む命も戻ってきた。
海は再び賑やかさを取り戻し、海中も海上も命で溢れた。
しかし、命が戻ってきてもなお、特別な命が姿を見せることは、もうなかった。
そう、2度と。
